祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第3章 夢よもういちど

3-25.魔窟と巣窟 鈴成 凛悟

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 大丈夫だ、きっとうまくいく。
 非常階段を駆け上がりながら凛悟は思案する。

 作戦の全ては藤堂に伝えた、このまま上層階にたどり着き蜜子にを告げる。
 これで作戦は成功するはずだ。
 あわよくば余裕を手に入れたエゴルトが当初の策に賛同してくれるのが望ましいのだが……。

「ま、そんな都合よくはいかないよな」

 非常口を開け、上層フロアに立ち入った時、凛悟はそうつぶやく。
 視線の先にはひとりの女性。
 あの時、山中で逃げる際に見たブロンド美女。

「あなたに紹介状を出した憶えはありませんが。Mrミスター凛悟」
「関係者だ、通してくれ。ええと……」
「レイニィです。CEOの特別秘書を務めています」
「レイニィさん。ここを通して頂けませんか?」
「ダメです」

 上品な絨毯が敷かれた廊下でふたりは対峙する。
 レイニィの後方には螺旋階段。
 おそらくあそこがレセプションルームへの道。

「なら、避けて通るまでです!」

 凛悟とレイニィとの距離は約10メートル、この距離で加速すれば、たとえ道を塞がれても振りほどいて突破できる。
 体格差を考えると、凛悟の判断は間違っていなかった。
 相手を見誤っていただけだった。
 レイニィの横を通り抜ける瞬間、手首を掴まれたかと思うと、それをグイッっと引っ張られバランスを崩した所に足払いが入る。
 バランスはもう戻らない、そのまま床に倒され腕をめられる。

「鍛えてはいるようですが、武術の心得はないようですね」
「この国では逃げ足だけあれば十分だからな。大切な人を抱えて逃げる程度にしか鍛えてないのさ」

 自分の下で語る凛悟の姿に、レイニィは蜜子が話をした出逢いのエピソードを思い出した。

「なるほど、恋人を抱えて逃げる気でしたか。いい判断です。ご褒美にわたくしの椅子してあげましょう。なに、10分もすれば解放してあげます。その頃にはあのビッチもおとなしくなっているでしょうから」
「そのビッチというのは逸果いつかみのりのことか?」
「蜜子さんはそう呼ぶにはピュア過ぎるというのがわたくしの見立てですが、間違いとでも?」
「いや、合ってる。蜜子はこの”祝福ゲーム”に向いていない。まだ未成年だしな」

 凛悟は載っているレイニィごとググッと身体を持ち上げようとするが、レイニィは重心をコントロールしてそれを許さない。

「貴方はこうおっっしゃりたいので、だから貴方が行って正しいように”祝福”を使と」

 少し侮蔑を込めてレイニィは言い放つ。
 女を利用するつもりなのでしょうと。

「違う。蜜子は確かに思慮が足りないし、楽観的な所もある。だが俺は、彼女の願いこそがこの状況を救うことになると信じている。それを伝えるためにここに来た」
「それはエゴルト様やわたくしも救われることになると?」
「今ならギリギリ間に合う」

 レイニィはほんの少し凛悟の言葉に興味を持った。
 この”祝福ゲーム”が始まってから、いや始まる前から自分は罪を犯してきた。
 時にエゴルトの命で、時に自分の判断で。
 後悔はしていない、因果応報が世のことわりならば罰を受けるのは必定。
 だが、現実はそれとは違うことも知っていたし、知っているからこそ凛悟の言葉にかれた。
 そこが隙となった。

「レイニィ! ユルサナイ!」

 片言の日本語の叫びと共にひとりの男がタックルを仕掛ける。
 レイニィはその衝撃を緩和させるように後方へと跳ぶが、それでもその威力は防ぎきれなかった。
 その身体は吹き飛ばされ、ズサーと絨毯に線を引きながらレイニィは何とかバランスを保つ。

「イケ! リンゴ! ハナシはわからなかった!」

 束縛から解放された凛悟はレセプションルームへと続く螺旋階段へ走り出す。
 そうはさせまいと螺旋階段へと続くレイニィの前にひとりの男が立ちふさがる。

「あらお久しぶり。裏切り者さん」
「ウラギッタのはそっちのほうだ」
 
 階段を駆け上がりながら凛悟は突然の闖入者ちんにゅうしゃに向かって声をかける。

「サンキュー! 来てくれると信じていた! グッドマン!!」

 グッドマンはサムズアップでそれに応えた。
 
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