ホラースポットはきみと

シン

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山中の廃屋

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「げっ、藤原」

 さすがにこんなにすぐ遭遇するとは思わず、俺はあわてふためく。
 こっちに来るなよ、という思いとは裏腹に藤原は真っ直ぐ俺の方に向かってきて、バツが悪くなった俺は立ち止まって地面に目を泳がせた。

「嫌なもの見た、みたいな反応しないでくださいよ。恩人に対して失礼な人だな」
「恩人?」

 ふと藤原の方に目を戻すと、藤原は「これ」と言って胸の前に下げたボディバッグから小型のカメラを取り出した。

「あっ、俺のカメラ!」

 風呂場で落としたままだと思っていたが、もしかして車の中に忘れていただけだったのだろうか。いや、風呂場で取り落としたのは間違いなくて、俺は拾った覚えがないし俺を背負っていた藤原には拾うことができなかったはずだ。
 踵を返して校門を出て行こうとする藤原を慌てて追いかけ、俺はその腕を掴んで引き留めた。

「ちょっと待って、これ、俺あの風呂場に落としてきちゃったと思ったんだけど」
「そうですよ。せっかくの録画データを現場に忘れて帰ってくるようじゃ何しに行ったんだか」
「取りに行ってくれたの?」
「あんた免許持ってないんだから俺が行くしかないでしょ」

 肩をすくめた藤原がこともなげにそう言った。
 しかし、この時間に大学に来ていることを考えると、わざわざ朝から行ってくれたということになる。昨日の今日で疲れているだろうに、往復3時間かけて?

「そのデータが無いとみんな困りますし」
「そ、そうだよな! ありがとう……その、ごめん……」
「じゃあ、俺はこれで」

 そう言って、藤原はすっと俺の前を抜けて歩き出した。

「あ、ありがとう! 助かった、本当に……」

 歩き去ろうとする背中に向けて声をかけると、藤原は足を止め、少しだけこちらを振り返った。

「別に、あんたのためじゃないんで」

 藤原はそっぽを向いたまま、それだけを吐き捨てるように言った。
 またすぐに立ち去ろうとすると思ったのに、なぜか彼はその場に留まったまま、どこかばつの悪そうな表情を見せていた。
 ――もしかして、昨日の罪滅ぼしだったりするのだろうか?
 昨日の出来事を藤原がどれくらい気にしているのか分からないが、このまま関係がこじれてはサークル活動にも支障をきたしそうだし、昨日の一件はこれで清算しておきたいという気持ちが湧いてきた。

「あ、あのさ、昨日はごめん。その、急にことに及ぼうとするのはどうかと思うけど、俺も態度悪かったかなと……」

 口に出してから、言わなければよかったかもしれないと後悔する。恋愛経験豊富そうな藤原からしてみれば、昨日のあんな出来事なんて日常茶飯事でわざわざ蒸し返すほどのことでもなかったかもしれない。俺は恋愛経験ほぼゼロのビギナーなので、そういう機微はさっぱりわからない。

 少しの沈黙の後、藤原はほんのわずかだけ肩を揺らしこちらに顔を向けた。

「……なんであんたが謝るんだよ」

 そのまま俺を睨むように見て言葉を続ける。

「高嶺先輩の遊び相手にも選んでもらえない俺を憐れんでるんですか? 惨めな気持ちになるからやめてください」
「遊び相手って……昨日も言ったけど俺そういうことしないから! お前がどうとかじゃなくて、付き合ってもない人と体の関係持ったりしない」
「じゃあ、俺が見たのは先輩の彼氏だったんですね。普段恋人はいないって周りに言っておきながら本当はやることやってんだ」

 藤原言っていることの意味が全くわからず、俺は思わず黙り込んでしまった。恋人がいないことはサークルのみんなが知っていて、それは紛れもない事実なのだが。
 ぽかんとしている俺に藤原が畳み掛けるように言葉を続けた。




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