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11. 虜囚②
「うぁっ……ちょ、何すんだよ……ッ」
ぬるりとした感触から逃れるように顔を背けると、剥き出しになった首筋に舌が滑り、あ、と思った瞬間には、首に何かが二つ突き刺さる感覚をおぼえた。
「いたぁ、ッ……やだ……やめろっ!」
刺さったものが引き抜かれ、その傷に舌が這わされる。何とかして逃れようとシュナイダーの胸を押し返すがびくともせず、首の左側をがっつりと押さえられそれ以上逃げられなくなってしまった。
傷から流れ出ているであろう血をじゅるりと吸い上げられ、俺は全身に鳥肌を立てながら身体を振るわせた。シュナイダーはただの魔導騎士ではないのか? こんなのまるでーー
「おい、魔物の真似事はやめろ」
突然、低い男の声が牢の中に響いた。声のする方を仰ぎ見ると、シュナイダーと一緒に俺を攫った男ーーカイデン・スタンが鉄格子の外側から俺たち二人を見ていた。僅かに顎を上げこちらを見下ろす目線の冷たさに、思わず背筋がぴしりと凍る。
「ふん。せっかくお楽しみ中だったのに邪魔をしてくれたな」
シュナイダーは身体を起こし、口元を僅かに血で汚した端正な顔を俺に向けた。青白かった頬に少しだけ赤味がさしている気がする。シュナイダーが指で口角を押し上げると、そこにはまるで肉食獣のように鋭利な牙が生えていた。
「なんだよ、それ……」
「血を吸うのに便利かと思って魔術で生やしてみたんだ。なかなか理にかなっている」
牙を生やして人の血を吸う魔物の話は寝物語として聞いたことがあった。おとぎ話のようなもので現実にいるかどうかは知らないが、その魔物の真似をして俺の血を吸ったということか?
シュナイダーが右手で自分の口元を覆い、数秒の後にそれを外す。にこり、と笑って見せた口にはもう血に濡れた犬歯は残っていなかった。
「レネ、会議の時間だ。こんなところでふざけてないで早く行くぞ」
「気の短い男め」
俺はもう一度スタンを見上げたが、この大男は声色からも表情からも気持ちが読み取れない。決して歓迎されていないことだけは分かるけど。
「お前は随分長いこと眠りこけていたんだ。サフィルスに課した制限時間まで残り四時間と言ったところだな」
ベッドから起き上がり服を整えながらシュナイダーが言った。
俺を攫う時にシュナイダーが設けた制限時間は『明日の日没』まで。つまり、俺は丸一日気を失っていたということだ。
「さて、あいつはいつお前を迎えに来るかな」
「……ウィルは、間に合わない。あいつは転移魔法が使えないから」
「おや、そうだったか」
ウィルは転移魔法が使えない。膨大な魔力があっても、その使い方を知らないからだ。
ここが王都のどこに位置するのか知らないが、ノルエンデ村から王都の北端までは荷馬車で三日、仮に村で一番早い馬で夜通し駆けても少なくとも一日半はかかるだろう。途中で馬を休ませる必要があるし、加えてそこからこの隊舎までとなると、とても丸一日では到着できない。
「まあ、何とかするだろう。そうでなくてはお前を人質にした意味がない」
そうだ、と言いながらシュナイダーはローブのポケットをまさぐった。何かを引っ張り出し、口元に近付けて呪文を唱える。それを俺の方にひょいと放り投げたかと思うと、その"何か"は俺に真っ直ぐ飛んできて張り付くように首に巻きついた。
「な、何だよこれ! くそッ、はずれない!」
「奴隷用の魔法具だ。おいたをしようとすれば私にはすぐ分かるからな」
首に巻かれたものをぺたぺたと触って確認する。どうやら皮でできた首輪のようだが、首にぴったりとひっ付いて一部の隙間もない。後ろ側に金具が付いているようだが、長さを調節したり、まして外したり出来るような機能は付いていないようだった。
「お似合いだよ」
シュナイダーはにこりと微笑むと俺の顎を指先でつつとなぞり持ち上げた。
「おい、早くしろ」
「はいはい。私の副官殿はせっかちでいけない」
横から投げかけられた咎めるようなスタンの言葉に、飄々としてシュナイダーが応える。
「後で食事を持ってこよう。まだ聞きたいことも聞けていないしな」
そう言い残し二人は牢を後にしていった。
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