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第三章 死
第11話 異
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仕事と父親業と曲作りを繰り返す日々の中で、徹の身体は明らかに疲弊していた。
しかし止まるわけにはいかない。
仕事を休むわけにはいかない。
役職付きの徹は職場で重要なポジションにある。
休めば皆に迷惑がかかる、徹に会うために登所する利用者がいる、そもそもお金を稼がなければならない。
休んではいけない理由は見つかるが、休む理由は見つからない。
父親業を放棄するわけにもいかない。
最近の雪乃は以前よりも笑顔を見せてくれるようになった、本来父親としてこのように過ごすべきだということは分かっていた。
ようやく父親になれたのだ、それ自体は徹自身も嬉しかった。
子供達と遊ぶのは正直楽しくはない、だが日々子供達が考えていることや成長を知ることが出来るのは面白い。
夢を諦めるわけにはいかない。
曲を作り続けてSNSに投稿し続けてきた、その努力がようやく報われた。
今回アイドルキングダム3の楽曲制作を依頼され、この試練を乗り越えれば華々しくミュージッククリエイターとして名を馳せることとなる。
こんなチャンスが巡ってくることは二度とない。
何を差し置いても曲を作らなければならない、そんなことは分かっている。
問題は物理的に時間が足りないということだ。
仕事、子育てには必要最低限の時間を割いている。
それでいて今の状況だ、曲作りをする時間は睡眠を削る他ない。
だが次は身体の限界を感じている。
いや、ここは正念場だ。
若かりし頃はライブ終わりに音楽仲間と共に飲み明かしたものだった。
今はもう連絡すらとらなくなってしまったが、彼等は今も夢を追いかけているだろうか?
あの頃は楽しかった、と昔に想いを馳せている自分に気が付き、大きく息を吸った。
昔は良かったなどと言いたくはない。
そう思うのであれば、今を人生で最高の瞬間にする必要がある。
俺が今やるべきことはこうだ。
毎日仕事と子育てをやり切り、睡眠を削ってでも曲を作る。
しかし、ただ曲を作るだけではダメだ。
最高の五曲を作り上げてみせる、構想はもう頭の中にある。
あとはやるだけだ、シンプルじゃないか。
こうして徹は心を殺し、仕事と子育てをやり切った。
いつからか眠気を感じなくなり、曲作りは順調に進んでいた。
眠気がくるのは朝の五時頃からだったが、もはや一時間も眠れないということでオールで仕事に臨んだこともあった。
期限まであと一週間、もう既に四曲制作を終え、残すは一曲となっていた。
疲れなどもう感じなかった、そんなある時。
仕事を終え、家に帰ろうと車に乗った。
早く帰らなければ父親になれない。
その強迫観念からか、徹は残業することをやめた。
主任という肩書き上、部下を置いて毎日一番最初に帰るのは良くないのだろう。
皆の白い視線を感じながらも、徹は父親になるために足早に帰るのだった。
今までは上司の仕事を肩代わりして、残業してでも会社のコミュニティを大切にしていた。
そのおかげもあり、職場での人間関係がもつれることは一切無かったが、今は良いとは言えない。
上司からは日々小言を言われている。
しかし今の徹にとっては時間以上に優先すべきものはない。
この仕事が終われば、子育てという次の仕事が待っているのだから。
徹は鍵を刺し、エンジンをかけようとした。
「、、、、、」
何故だろうか、手に力が入らない。
鍵を回そうとするも、鍵は回らない。
帰らなければいけない、でも帰れない。
よく見ると手が震えていた。
疲れているのだろうか?
そう思い、一呼吸おいて再度鍵を回してみる。
やはり回らない、回すことが出来ない。
徹はグッタリとシートに倒れた。
帰らなければいけないのに、帰りたくない。
そんな感情に気付いたのだ。
エンジンはかからないのではない、かけたくないのだ、身体が拒絶しているかのようだった。
徹は車の中で一時間近く休憩し、ようやく鍵を回すことが出来た。
帰っている最中の記憶はないが、家に着き、エンジンを切った。
少し遅れてしまったが父親になる必要がある。
車の扉を開けようとしたが、今度は扉が開かない。
早く帰って子供達の面倒を見なければならないのに、車から出られない。
またもそこで三十分ほど休憩してからようやく家に帰った。
合計で一時間半も遅れて帰ってきてしまったことへの罪悪感と怒られるのではないかという恐怖感に駆られながらそっと扉を開けた。
「ただいま~」
「パパ~!遅いよ!」
娘達のお叱りを受けながら居間へと入る。
「ごめんごめん」
「おかえり」
雪乃は夕飯の準備をしていた。
一時間半遅れて帰ってきてしまったが、特に変わりはないように思えてホッとした。
動けないという謎の状態に陥ってしまったため、今日は早めに眠ろうとした。
しかし眠気が全くやってこない。
それどころか布団に入っても頭の中で過去の出来事や誰かに言われた言葉、現在不安に思っていることや未来の想像などの映像が目まぐるしく映し出される。
頭が冴えている?ともいえない、心は沈んでいる。
頭が冴えているのであればこのまま曲でも作ってしまおうかと思ったが、またも身体が動かない。
どうしたら良いんだ、どうしたら良いんだ。
俺は何をどうしたら良いんだ?
俺は、どうしたいんだ?
その自問自答を繰り返し、朝がやってきた。
しかし止まるわけにはいかない。
仕事を休むわけにはいかない。
役職付きの徹は職場で重要なポジションにある。
休めば皆に迷惑がかかる、徹に会うために登所する利用者がいる、そもそもお金を稼がなければならない。
休んではいけない理由は見つかるが、休む理由は見つからない。
父親業を放棄するわけにもいかない。
最近の雪乃は以前よりも笑顔を見せてくれるようになった、本来父親としてこのように過ごすべきだということは分かっていた。
ようやく父親になれたのだ、それ自体は徹自身も嬉しかった。
子供達と遊ぶのは正直楽しくはない、だが日々子供達が考えていることや成長を知ることが出来るのは面白い。
夢を諦めるわけにはいかない。
曲を作り続けてSNSに投稿し続けてきた、その努力がようやく報われた。
今回アイドルキングダム3の楽曲制作を依頼され、この試練を乗り越えれば華々しくミュージッククリエイターとして名を馳せることとなる。
こんなチャンスが巡ってくることは二度とない。
何を差し置いても曲を作らなければならない、そんなことは分かっている。
問題は物理的に時間が足りないということだ。
仕事、子育てには必要最低限の時間を割いている。
それでいて今の状況だ、曲作りをする時間は睡眠を削る他ない。
だが次は身体の限界を感じている。
いや、ここは正念場だ。
若かりし頃はライブ終わりに音楽仲間と共に飲み明かしたものだった。
今はもう連絡すらとらなくなってしまったが、彼等は今も夢を追いかけているだろうか?
あの頃は楽しかった、と昔に想いを馳せている自分に気が付き、大きく息を吸った。
昔は良かったなどと言いたくはない。
そう思うのであれば、今を人生で最高の瞬間にする必要がある。
俺が今やるべきことはこうだ。
毎日仕事と子育てをやり切り、睡眠を削ってでも曲を作る。
しかし、ただ曲を作るだけではダメだ。
最高の五曲を作り上げてみせる、構想はもう頭の中にある。
あとはやるだけだ、シンプルじゃないか。
こうして徹は心を殺し、仕事と子育てをやり切った。
いつからか眠気を感じなくなり、曲作りは順調に進んでいた。
眠気がくるのは朝の五時頃からだったが、もはや一時間も眠れないということでオールで仕事に臨んだこともあった。
期限まであと一週間、もう既に四曲制作を終え、残すは一曲となっていた。
疲れなどもう感じなかった、そんなある時。
仕事を終え、家に帰ろうと車に乗った。
早く帰らなければ父親になれない。
その強迫観念からか、徹は残業することをやめた。
主任という肩書き上、部下を置いて毎日一番最初に帰るのは良くないのだろう。
皆の白い視線を感じながらも、徹は父親になるために足早に帰るのだった。
今までは上司の仕事を肩代わりして、残業してでも会社のコミュニティを大切にしていた。
そのおかげもあり、職場での人間関係がもつれることは一切無かったが、今は良いとは言えない。
上司からは日々小言を言われている。
しかし今の徹にとっては時間以上に優先すべきものはない。
この仕事が終われば、子育てという次の仕事が待っているのだから。
徹は鍵を刺し、エンジンをかけようとした。
「、、、、、」
何故だろうか、手に力が入らない。
鍵を回そうとするも、鍵は回らない。
帰らなければいけない、でも帰れない。
よく見ると手が震えていた。
疲れているのだろうか?
そう思い、一呼吸おいて再度鍵を回してみる。
やはり回らない、回すことが出来ない。
徹はグッタリとシートに倒れた。
帰らなければいけないのに、帰りたくない。
そんな感情に気付いたのだ。
エンジンはかからないのではない、かけたくないのだ、身体が拒絶しているかのようだった。
徹は車の中で一時間近く休憩し、ようやく鍵を回すことが出来た。
帰っている最中の記憶はないが、家に着き、エンジンを切った。
少し遅れてしまったが父親になる必要がある。
車の扉を開けようとしたが、今度は扉が開かない。
早く帰って子供達の面倒を見なければならないのに、車から出られない。
またもそこで三十分ほど休憩してからようやく家に帰った。
合計で一時間半も遅れて帰ってきてしまったことへの罪悪感と怒られるのではないかという恐怖感に駆られながらそっと扉を開けた。
「ただいま~」
「パパ~!遅いよ!」
娘達のお叱りを受けながら居間へと入る。
「ごめんごめん」
「おかえり」
雪乃は夕飯の準備をしていた。
一時間半遅れて帰ってきてしまったが、特に変わりはないように思えてホッとした。
動けないという謎の状態に陥ってしまったため、今日は早めに眠ろうとした。
しかし眠気が全くやってこない。
それどころか布団に入っても頭の中で過去の出来事や誰かに言われた言葉、現在不安に思っていることや未来の想像などの映像が目まぐるしく映し出される。
頭が冴えている?ともいえない、心は沈んでいる。
頭が冴えているのであればこのまま曲でも作ってしまおうかと思ったが、またも身体が動かない。
どうしたら良いんだ、どうしたら良いんだ。
俺は何をどうしたら良いんだ?
俺は、どうしたいんだ?
その自問自答を繰り返し、朝がやってきた。
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