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闇の力

解決の兆し【二】

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 そもそも、僕自身も相手の目をまっすぐと見て会話をしてはいない。
「まあ、雲永、お前の気持ちはよくわかるって言ってやりたいけど、お前のその気持ちはお前にしかわからないもんな。まあ、だからって、本当に光峰が犯人だったら、こんなところに現れないだろ? そんなことするのは、よっぽどの馬鹿か、連続殺人鬼みたいなサイコな奴くらいだな」
 本城先輩は僕をかばってくれているようなのだが、僕自身、連続殺人鬼みたいなサイコな人格の持ち主だと思われてもなんら不思議ではないため、余計に疑われてしまうんじゃないかと気がかりでもあった。
「だからさ――俺もさ、いろいろ、餡子と親しかった女子生徒に話を聞いたりもしたんだよ。特に有力だったのが餡子の隣のクラスにいる御堂 祢子みどう ねこの話だった。彼女は餡子と中学の頃は仲が良かったんだが、高校に入ると餡子の交友関係が変化していって、最近じゃ、お互いに言葉を交わすことすらなかったそうだ。最後に話したときは、餡子から『気分がよくなる薬あるけど、どう?』って聞かれて、断ったのが最後だったらしい。だから、俺はもう、餡子と薬を売ってた奴らとの間になんかあったんじゃないかって確信もしていたんだが、噂の光峰が俺の前に現れたから、つい我を忘れて……申し訳ない」
 雲永先輩は詳しい事情を話してくれた後も、やっぱり僕に対して申し訳なさそうにしている。はて? 御堂 祢子――あのケモ耳女子のことだろうか?
「いえ、気にしてないです――ところで、御堂 祢子というのは、あの少し変わった髪形の?」
 気にはしていないが、僕は、あのケモ耳女子が御堂 祢子という名前なのかどうかをハッキリとさせておきたかった。
「ああ、うん。なんだ、光峰、お前、彼女と知り合いだったのか」
「い、いえ、そういうわけじゃ――」
「いや、そうだったとしても光峰を疑うわけじゃないからさ」
「ああ、はい――」
 僕は、ケモ耳女子と知り合いではないという事実を、このまま僕が何度も伝えて彼を納得させたところで、彼には僕に対する不信感しか残らないような気がしてきたのだ。喋れば喋るほどボロが出る僕の言葉には、潔い沈黙の方がお似合いだろう。
 だが、これで真相に近づいた。つまり、雲永先輩と雲永 餡子は兄妹で、ケモ耳女子はほぼ無関係、そして、怪しい薬に手を出していた雲永 餡子の交友関係を辿れば真犯人はおのずと見えてくる、というわけだ。それ即ち、警察に任せておけばそのうち解決する事件ということだ。
「まあ、そういうことだから、光峰が犯人ってわけじゃないなら、いつか警察が犯人を逮捕してくれることだろう。光峰が犯人じゃないのなら、な」
 雲永先輩も僕と同じ答えにたどり着いていたようだ。彼は一言多いような気もするが、僕は気にしない。気にしないのだ。
「そ、そう、ですね。今日はいろいろと話してくれて、本当にありがとうございました」
 僕は雲永先輩にお礼を告げてその場を立ち去ろうとすると――
「待ってくれ! なあ、光峰、もう一つだけ、聞いてほしい話があるんだ。変に思われるかもしれないが、お前を疑ったもう一つの理由、それが――お前が餡子と一緒に何度も何度も夢に出てくるんだよ。俺はその都度うなされて、目が覚めて……。それ以前に光峰についての噂話を聞いたことがあったとはいえ、知りもしない人物が俺の妹と一緒に夢に出てくるなんて、なんだかおかしいと思わないか? だからさ、どうしても、そのことが頭から離れなくて、こうして、光峰が……俺の前にお前が現れたんだから、きっと、何か理由があるんじゃないかって思ってさ」
 雲永先輩は不思議なことをいう。いや、『闇の力』を手にした僕にとっては、何の不思議でもない。これは、何かの繋がりがあるんだ。偶然ではない、必然だ。
「もう一つ、餡子と一緒に夢に出てきたのは、御堂 祢子、彼女もいっしょにいたんだ。それが気になって、いろいろと話を聞いてみたりもしたんだが……俺、突然の出来事を受け入れられなくて、おかしくなっているんだろうな。そうだよな。光峰、なんだか、すまない、本当に……」
 雲永先輩はそういうと、どこか寂しげで、心にぽっかりと穴が開いてしまったかのように、意気消沈としながら外を眺め始めた。
「いえ、僕からも――あの、僕からも御堂 祢子に話を聞いてみようと思います。何か、何か先輩の力になれるかもしれないので」
 僕らしからぬ発言に、僕自身、少し吐き気がするのだが、なぜか、彼の力になってあげたいと、そんな気持ちがこみあげていた。これは、僕に憑いている雲永 餡子の影響なのか? それとも、僕自身の心境の変化なのだろうか……。
「ありがとう、光峰。俺の、この嫌な感情も、お前とこうして話せたおかげでなんだかとても和らいだ気がするよ。本当に、ありがとうな。俺も、お前に何かあったら、その時は力になるからさ」
 雲永先輩はゆっくりと振り向き、にこやかにそう答えた。僕も心なしか笑顔になっていた気がする。そのまま僕は振り返らず、颯爽さっそうと三年生の教室を後にした。
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