CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

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―楽園編―

灰色の世界

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「これから別行動になるんですね。それなら、ちゃんとテレパシーが通じるかをテストしましょう!」
 確かにさっきの藍里のように、通じることのない念話を飛ばし続けるのはあまりにも可哀想だ。
『テストテスト』
 僕は、藍里とミィコに向かって念話を飛ばした。
『テストテスト。聞こえています』
 ミィコだ。
『テストテスト! 二人の声聞こえます! 私の声は聞こえてますか!?』
『大丈夫』
『聞こえています』
 念話のテストは問題ないようだ。
「大丈夫みたいだね。単独行動はちょっと不安だけど、何かあったら連絡取り合おう」
「はい」
 二人は返事をした。

 ――藍里とミィコは首都へと続く門をくぐっていった。
 外敵から街を守るためなのだろうか、見た感じ、とても強固な造りだ。お濠と高い城壁が首都全体を囲んでおり、奥には小さなお城らしきものも見える。
 興味本位で僕も首都へと続く門をくぐった。
 すると、その先に広がる光景に、僕は目を奪われた。

 建造物はルネサンス様式で溢れ、行きかう人々で賑わっている。その街並みは、外周に住宅街、内周は商業区画となっているようだ。
 そして、その街のほぼ中央には、立派なお城がそびえ立つ。まさにファンタジーを象徴するような街並み。圧巻だ。
 一瞬、その風景に飲み込まれそうになる感覚に陥った。この世界での感動も、現実世界のものと差ほど変わらないのかもしれない。

 そうした高鳴る気持ちを抑えつつ、街道まで戻ってから、その周辺に生息している植物を刈り取り始めた。
 薬草の見分けがつかないとはいえ、視覚的に普通の雑草とは明らかに違う見た目のものが疎らに生えている。それらをとにかく刈り取っていった。
 ある意味、プレイヤーが僕らだけなので、ライバルがいない。取り放題の状態だ。

 とにかく僕は、生息している植物を手当たり次第に黙々と刈り続けた――
 リーパーの熟練度も上昇している気がする。
 森の近くにはキラキラと光る魔法のキノコらしきものも生息している。これは見た感じ価値がありそうだ。

 ――どれだけ刈り続けていただろう? 陽が落ち始め、辺りは暗くなってきている。情報誌には、夜間は獰猛な獣やモンスターに遭遇しやすいとあった。暗くなる前に首都に戻ろう。
 と、思った矢先、僕は草刈りに夢中になりすぎていて、首都からだいぶ離れた場所に来てしまっていたことに気が付いた。見るからに深い森の中に迷い込んでいる。
 マップもない、方角も分からない、完全に迷子だ――

『えーと、藍里、ミィコ、聞こえますか?』
『はい、さとりくん! 聞こえます!』
『聞こえてますよ、サトリ。何かありました?』
 僕の念話にみんなが反応してくれた。
『あの、申し訳ないんだけど、僕、道に迷ったみたいだ』
『え、大丈夫ですか!? 今すぐ迎えに行きます!』
 藍里の優しさで不安が少しだけ和らいだ。
『何をやっているんですか……バカサトリ。仕方ないですね、サーチにぎりぎり引っかかる範囲だったので、なんとかなりそうです。そこから動かないでください』
『え、まって、ここ、明らかに危険そうなんだけど……もう少し安全そうな場所に移動したい――』
『ダメです、サトリ! そこから動くとサーチから外れます! いいですね? 動いちゃダメですよ』
 僕の提案はミィコに速攻で却下された。
『マジか……』
 僕は現状に絶望した。
『さとりくん、すぐ向かいますので待っていてください』
『ありがとう、大人しくここで待ってるよ』
 僕には待つ以外の選択肢は残されていなかった。獰猛な獣や、モンスターに出くわしてしまったら……戦うしかないだろう。

 ――しかし、僕の悪い予感は見事に的中した。目の前に現れた黒い獣、犬のようにも見えるが、不気味に赤く光る眼に黒いオーラを放つ、おぞましいとしか言いようのない獣だ。
 獣は躊躇うことなく僕に飛びかかってきた。

 ――僕は運よく獣の攻撃をかわした。
 しかし、獣は間髪入れずに襲い掛かってくる。
 避け切れない――獣が僕に覆いかぶさってくる。

 獣の鋭い爪によって、僕の皮膚と肉は切り裂かれ、体に激痛が走る。
 そして、獣の鋭い牙が僕の喉に食い込む。
 ――息が、出来ない。僕は、こんなところで終わってしまうのだろうか……?
 目の前が、真っ暗になってゆく――
 そのまま僕は窒息状態に陥り、苦しみながら息絶えた。

 しばらくして、僕は無残に横たわる僕の体を見下ろしていた。
 ――僕は霊体になっているようだ。
 そういえば、情報誌には死ぬと霊体になると書かれていたような。長い間霊体のままでいると、その霊体が塵になって存在自体がロストするとか、しないとか、なんとか……。
 この世界でロストしたらどうなるのだろう? なんだか恐ろしいぞ。
『ミィコ! ミィコ! 大変だ! 死んだ!』
 僕は慌ててミィコに救いを求めた。
『え!? サトリ、何をやっているのですか!?』
『え、さとりくん、大丈夫ですか? 生きてください!』
『藍里さん、ごめんなさい、無理です。死んでます』
『そんな!? ダメです! 生きてください!』
 僕と藍里がよく分からないやり取りをしている間に、僕を襲った獣はどこか別の場所に移動したらしい。

『サトリ、今、ミコのサーチした情報によると、モンスターがその場から少し離れているようです。 近くにいるモンスターから感知されないように、サトリの荷物を急いで回収してそのまま首都に向かいます! ミコたちに霊体は見えないので、サトリもはぐれないようにちゃんとついてきてください!』
 間髪入れずにミィコと藍里が物陰から現れて、僕の荷物を回収し始めた。
『わ、サトリ、どれだけ薬草を採集したんですか……重量が半端ないです! これだけあれば、当分は生活に困らないです!』
『回収完了! ミコちゃん、さとりくん、急いで離れましょう』
 藍里の掛け声に続いてみんな一斉に駆け出した。

 ――しかし、僕は見てしまった。
 ミィコのすぐ後ろに、不気味に光る真っ赤な眼を。僕を襲った獣の眼だ。

 その獣はミィコに襲い掛かかろうとしていた。
 霊体の僕は見ているしかなかった。ミィコまでも犠牲になってしまうのだろうか。
 ――と、その時、果敢にもそれを察した藍里が、獣の方にくるりと向き直り、リズミカルな動作とともに、手にしていた長い棒で鋭い牙を受け止めた! だが、それも長くはもたないだろう。
 絶体絶命に見える中、ミィコは鞄から何かを取り出そうとしている。
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