51 / 97
―楽園編―
竜の棲まう島
しおりを挟む
藍里は僕をじっと見つめた後、一息ついて――
「あの、さとりくん、さとりくんって……卯月さんとはどんな関係なのですか?」
僕は、藍里のその質問に、一瞬ドキっとした。卯月……? 愛唯のことなのか? なぜ藍里は愛唯のことを知っているんだろう?
「え、藍里、卯月って、愛唯のこと? どうして藍里が愛唯のことを……?」
これは、藍里が僕のことを試しているのだろうか? それとも、メメント・デブリの影響なのだろうか? いきなりの発言に驚いた僕は、まともな受け答えもできなかった。
「どうして、でしょうね? ごめんなさい……私にも分からないです。聞くべきではなかったですね」
藍里は申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ている。
「変なこと聞いちゃってごめんなさい! 何でもないです! 気にしないでください!」
そう言って、藍里はミィコの後を追って船室へと逃げるように駆け込んでいった――
――僕は途方に暮れた。
もしかして、藍里は、何かを隠しているのだろうか? 世界がループし続けている中で、僕、愛唯、藍里、3人の接点は必ずあったはずだ。
僕の最期の瞬間、そこに愛唯と藍里が居合わせている、それは紛れもない事実なのだ。
――僕は一つの憶測を導き出した。
おそらく、藍里も僕と同じ未来を見ているのだろう。そう考えると辻褄が合う。
そして、僕と愛唯の間にある確執のようなものを探っているのではないだろうか? そうして、藍里は僕の死を防ごうとしてくれているのかもしれない。
藍里が愛唯の名前を知るタイミングは――あった。
僕の最期の時に呟いた言葉、それこそが『愛唯』だ――いや、それとも、ループする世界の中で、愛唯と藍里に何らかの接点があったということだろうか?
そう考えると、僕らが一緒にいるのは偶然ではなく、必然なのだろうか? おそらく、世界が幾度となくループをしていくうちに、自然と『最適解が導き出される』ということなのだろう。
つまり――ループを止めるためのピースは既に揃っていて、それを、正確にはめ込んでいくだけ、なのかもしれない。
そして、そのピースをパネルにはめ込んでいるのは――いったい、何者なのだろうか?
誰かの意思によって、パズルピースが動かされているとするならば――僕らはピースの一部でしかない、のかもしれない。
僕があの時……僕の最期の瞬間を思い出した時、藍里に打ち明けなかったことは正解だったのだろうか? 正しい位置にピースがはめ込まれているのだろうか?
――謎は深まるばかりだ。
そうこうしているうちに、船員たちは海竜――『ダブルヘッドシーサーペント』の素材をあらかた回収し終わっていたようで、彼らは甲板に戻って出港の準備をしていた。
船員たちは早々に帆を張り、間もなくドラゴンの島に向けて航行を再開した。
――航行は極めて順調。
僕は一人、船首に立ち、前方からの風を全身に受け、その心地よい潮風の余韻を堪能した。
ドラゴンの島へと近づくにつれ、空は陰り、空気が重くなっていった――
重々しい空気に包まれながらも船は止まることなく進み続け、次第に目的地の島が見えてくる。その島は断崖に囲まれ、侵入者を拒んでいた。そのため、海蝕洞の中を通って上陸するようだ。
藍里とミィコが船室から出てきて、船首にいる僕のもとへと二人は駆け寄ってきた。
「サトリ、アイリ、準備はいいですか?」
僕と合流したミィコは僕らに決断を迫る。
「もちろん」
「もちろんです!」
当然、僕らの答えはYESだ。
ミィコにそう答えた僕らは、甲板から梯子でボートまで下りて、海蝕洞へと向かった。
海蝕洞の内部は暗く、ボートの先端に取り付けられたランタンの光を頼りにゆっくりと前進していく。
時々、海面の岩が行く手を妨げるが、船頭が巧みな技でボートを操り、それを回避しつつ海蝕洞の奥深くへと進み続ける。
藍里は洞窟の壁一面にぎっしりと生息している光る苔と、その淡い光を反射する海面を見ながら――
「なんだか、神秘的ですね」
そう呟いた。
「そうだね……藍里にミィコ、僕は、二人とこの世界を冒険できたこと、本当に良かったと思っているよ」
「サトリ、それはドラゴン退治を完了してから言うセリフです」
「そ、そうだね」
そうミィコに言われた僕は、なんだか恥ずかしくなって少し照れた。
――突然、ボートが揺れ、その場に停止する! 行き止まりだ。
その行き止まりの先には、地底から地上へと続く巨大な階段が見える。人工物なのか、自然物なのか分からないが……この階段は間違いなく島の内部へと繋がっている。
ミィコがランタンに火をつける。
「彼はミコたちがドラゴン退治を終えて、ここに戻ってくるまで待っていてくれるそうです」
ミィコは船頭の方を見ながらそう言った。
「もし、戻ってこなかったら?」
僕はミィコに変なことを聞いてみた。
「縁起でもないこと言わないでください! 必ず戻ってくるんです!」
「そ、そうですよね」
僕はミィコに怒られた。
――こうして、僕らは階段を上がり始める。果てしなく続くように思えるその階段も、1段、また1段と上っていくうちに、いつしか終わりが見えてくるのだ。
そうして、僕らは、光降り注ぐ地上へとたどり着くことができた!
洞窟から垣間見える地上は深い霧に包まれて薄暗い。光降り注ぐどころか、薄暗くてなんだか気味が悪い。
僕らは足早に洞窟の外へ出ると、そこは――怪しい植物の生い茂る密林だった。まさにジャングル。
周囲にモンスターの気配は感じられず、僕らが油断していると――行く手を阻む植物が突然にモンスターと化して襲い掛かってくる!
――これは擬態だ。
だが、所詮植物だ、植物モンスターの群れを薙ぎ払って前に進む。
しかし、それの余裕が命取りとなることもある――不意に、モンスターの吐き出す酸のようなものを浴びそうになってしまった。
「毒に気を付けてください! この周辺は猛毒を持つモンスターが多く生息しています!」
僕の後ろからミィコがそう叫んだ! ここまで来て、毒にやられて全滅なんてパターンは何としてでも回避しなければ。
「安心してください! 私の薬でどんな毒でも病気でもあっという間に治せます!」
藍里が『アルケミストバッグ』の中に収納されているポーションの数々を、誇らしげにアピールしながらそう言っていた。
この短期間で錬金術を極めつつある藍里は、僕らにとって頼もしくもあり、その反面、錬金術に取り憑かれた恐ろしい魔女のようでもあり――僕は複雑な気分でもある。
そして、藍里の薬には、例外なく服用者に襲い掛かる、謎の副作用による苦しみが待ち受けていることだろう。
「万が一、本当に万が一、僕が毒で苦しむようなことになったら、その時だけはお願いします、その時だけ……」
僕は藍里に、『できれば使いたくない』というニュアンスで、その気持ちを伝えた。
「はい! その時には、すぐ楽にしてさしあげます!」
「アイリ、その言い方……」
「お手柔らかにお願いします……」
ミィコも僕も藍里に恐縮した。
――そうして、僕らはドラゴンの住処と思わしき洞窟の前に立ち尽くしていた。
ついに、たどり着いたのだ。長かった。
いや、現実世界の時間に換算すれば、2時間にも満たないのだろう。
この世界の数日は、とても長かったように思える――不思議な感覚だ。
ミィコはドラゴンの住処を指さし――
「サトリ、さっさと終わらせるのです。サトリの能力全開放でドラゴンを仕留めるのです!」
ミィコはそういうが、僕の能力と言えば、照明と衝撃波くらいなもので、ドラゴンを倒せるような必殺技は持ち合わせていない、はず。
「ま、まあ、頑張ってみる」
僕は自信なさげにそう言ってから、ゆっくりと能力を発動させ――光子光源が灯る。
僕らの周辺をその光が優しく包み込んだ。
――いよいよ、クライマックスだ!
「あの、さとりくん、さとりくんって……卯月さんとはどんな関係なのですか?」
僕は、藍里のその質問に、一瞬ドキっとした。卯月……? 愛唯のことなのか? なぜ藍里は愛唯のことを知っているんだろう?
「え、藍里、卯月って、愛唯のこと? どうして藍里が愛唯のことを……?」
これは、藍里が僕のことを試しているのだろうか? それとも、メメント・デブリの影響なのだろうか? いきなりの発言に驚いた僕は、まともな受け答えもできなかった。
「どうして、でしょうね? ごめんなさい……私にも分からないです。聞くべきではなかったですね」
藍里は申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ている。
「変なこと聞いちゃってごめんなさい! 何でもないです! 気にしないでください!」
そう言って、藍里はミィコの後を追って船室へと逃げるように駆け込んでいった――
――僕は途方に暮れた。
もしかして、藍里は、何かを隠しているのだろうか? 世界がループし続けている中で、僕、愛唯、藍里、3人の接点は必ずあったはずだ。
僕の最期の瞬間、そこに愛唯と藍里が居合わせている、それは紛れもない事実なのだ。
――僕は一つの憶測を導き出した。
おそらく、藍里も僕と同じ未来を見ているのだろう。そう考えると辻褄が合う。
そして、僕と愛唯の間にある確執のようなものを探っているのではないだろうか? そうして、藍里は僕の死を防ごうとしてくれているのかもしれない。
藍里が愛唯の名前を知るタイミングは――あった。
僕の最期の時に呟いた言葉、それこそが『愛唯』だ――いや、それとも、ループする世界の中で、愛唯と藍里に何らかの接点があったということだろうか?
そう考えると、僕らが一緒にいるのは偶然ではなく、必然なのだろうか? おそらく、世界が幾度となくループをしていくうちに、自然と『最適解が導き出される』ということなのだろう。
つまり――ループを止めるためのピースは既に揃っていて、それを、正確にはめ込んでいくだけ、なのかもしれない。
そして、そのピースをパネルにはめ込んでいるのは――いったい、何者なのだろうか?
誰かの意思によって、パズルピースが動かされているとするならば――僕らはピースの一部でしかない、のかもしれない。
僕があの時……僕の最期の瞬間を思い出した時、藍里に打ち明けなかったことは正解だったのだろうか? 正しい位置にピースがはめ込まれているのだろうか?
――謎は深まるばかりだ。
そうこうしているうちに、船員たちは海竜――『ダブルヘッドシーサーペント』の素材をあらかた回収し終わっていたようで、彼らは甲板に戻って出港の準備をしていた。
船員たちは早々に帆を張り、間もなくドラゴンの島に向けて航行を再開した。
――航行は極めて順調。
僕は一人、船首に立ち、前方からの風を全身に受け、その心地よい潮風の余韻を堪能した。
ドラゴンの島へと近づくにつれ、空は陰り、空気が重くなっていった――
重々しい空気に包まれながらも船は止まることなく進み続け、次第に目的地の島が見えてくる。その島は断崖に囲まれ、侵入者を拒んでいた。そのため、海蝕洞の中を通って上陸するようだ。
藍里とミィコが船室から出てきて、船首にいる僕のもとへと二人は駆け寄ってきた。
「サトリ、アイリ、準備はいいですか?」
僕と合流したミィコは僕らに決断を迫る。
「もちろん」
「もちろんです!」
当然、僕らの答えはYESだ。
ミィコにそう答えた僕らは、甲板から梯子でボートまで下りて、海蝕洞へと向かった。
海蝕洞の内部は暗く、ボートの先端に取り付けられたランタンの光を頼りにゆっくりと前進していく。
時々、海面の岩が行く手を妨げるが、船頭が巧みな技でボートを操り、それを回避しつつ海蝕洞の奥深くへと進み続ける。
藍里は洞窟の壁一面にぎっしりと生息している光る苔と、その淡い光を反射する海面を見ながら――
「なんだか、神秘的ですね」
そう呟いた。
「そうだね……藍里にミィコ、僕は、二人とこの世界を冒険できたこと、本当に良かったと思っているよ」
「サトリ、それはドラゴン退治を完了してから言うセリフです」
「そ、そうだね」
そうミィコに言われた僕は、なんだか恥ずかしくなって少し照れた。
――突然、ボートが揺れ、その場に停止する! 行き止まりだ。
その行き止まりの先には、地底から地上へと続く巨大な階段が見える。人工物なのか、自然物なのか分からないが……この階段は間違いなく島の内部へと繋がっている。
ミィコがランタンに火をつける。
「彼はミコたちがドラゴン退治を終えて、ここに戻ってくるまで待っていてくれるそうです」
ミィコは船頭の方を見ながらそう言った。
「もし、戻ってこなかったら?」
僕はミィコに変なことを聞いてみた。
「縁起でもないこと言わないでください! 必ず戻ってくるんです!」
「そ、そうですよね」
僕はミィコに怒られた。
――こうして、僕らは階段を上がり始める。果てしなく続くように思えるその階段も、1段、また1段と上っていくうちに、いつしか終わりが見えてくるのだ。
そうして、僕らは、光降り注ぐ地上へとたどり着くことができた!
洞窟から垣間見える地上は深い霧に包まれて薄暗い。光降り注ぐどころか、薄暗くてなんだか気味が悪い。
僕らは足早に洞窟の外へ出ると、そこは――怪しい植物の生い茂る密林だった。まさにジャングル。
周囲にモンスターの気配は感じられず、僕らが油断していると――行く手を阻む植物が突然にモンスターと化して襲い掛かってくる!
――これは擬態だ。
だが、所詮植物だ、植物モンスターの群れを薙ぎ払って前に進む。
しかし、それの余裕が命取りとなることもある――不意に、モンスターの吐き出す酸のようなものを浴びそうになってしまった。
「毒に気を付けてください! この周辺は猛毒を持つモンスターが多く生息しています!」
僕の後ろからミィコがそう叫んだ! ここまで来て、毒にやられて全滅なんてパターンは何としてでも回避しなければ。
「安心してください! 私の薬でどんな毒でも病気でもあっという間に治せます!」
藍里が『アルケミストバッグ』の中に収納されているポーションの数々を、誇らしげにアピールしながらそう言っていた。
この短期間で錬金術を極めつつある藍里は、僕らにとって頼もしくもあり、その反面、錬金術に取り憑かれた恐ろしい魔女のようでもあり――僕は複雑な気分でもある。
そして、藍里の薬には、例外なく服用者に襲い掛かる、謎の副作用による苦しみが待ち受けていることだろう。
「万が一、本当に万が一、僕が毒で苦しむようなことになったら、その時だけはお願いします、その時だけ……」
僕は藍里に、『できれば使いたくない』というニュアンスで、その気持ちを伝えた。
「はい! その時には、すぐ楽にしてさしあげます!」
「アイリ、その言い方……」
「お手柔らかにお願いします……」
ミィコも僕も藍里に恐縮した。
――そうして、僕らはドラゴンの住処と思わしき洞窟の前に立ち尽くしていた。
ついに、たどり着いたのだ。長かった。
いや、現実世界の時間に換算すれば、2時間にも満たないのだろう。
この世界の数日は、とても長かったように思える――不思議な感覚だ。
ミィコはドラゴンの住処を指さし――
「サトリ、さっさと終わらせるのです。サトリの能力全開放でドラゴンを仕留めるのです!」
ミィコはそういうが、僕の能力と言えば、照明と衝撃波くらいなもので、ドラゴンを倒せるような必殺技は持ち合わせていない、はず。
「ま、まあ、頑張ってみる」
僕は自信なさげにそう言ってから、ゆっくりと能力を発動させ――光子光源が灯る。
僕らの周辺をその光が優しく包み込んだ。
――いよいよ、クライマックスだ!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる