野菜士リーン

longshu

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第1章

1-2 土の賢者の伝言

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リーン達の逃亡している『緑水青山の森』は、神代からそこに存在し今もなお繁栄し続ける世界樹『ユグドラシル』と、周辺に栄えた王都『ヴァルヴァンティア』を中央にいだく、直径500km以上はあろうかという広大な森である。

現在リーン達のいる世界は『ミズガルズ』、『緑水青山の森』は、『ミズガルズ』を含むこの世界全体の輪廻転生を象徴する『ユグドラシル』の大量の落ち葉から何万年もの時を経て形成された古代林で、太古から営みを続けている強大な精霊もそのままに存在している。

土の魔道士であるリーンにとっては、魔道の流れでもあるルーンを自由自在に使うことの出来る戦闘に非常に有利な環境と言えた。それが追い風となって今回の逃亡劇の成功を見たのであろう。そして、ガラハドが昔なじみのリーンにいつものように愚痴をはいている。

「おい、マンドラゴラはないだろ!!!」

死にかねない事態だっただけに、ものすごい剣幕でガラハドががなっている。

「ごめん、でも私の出来る魔法では、あれしか手がなかったのよ。『土の賢者』の魔道書『ネブラスカ』にも、ある程度の勇者には失神の効果しかないとしっかり書いてあったし、臨床例も豊富にあるのよ。」

「日ごろはおとなしいくせに、恐ろしいやつだな、ブツブツブツブツ、、、。」

と言って、また考えにふけり出すガラハド。

「で、マンドラゴラなんてはるか北方のガリア原生林くらいにしか生えてないはずだが、どうしたんだ?」

「これ。」

と言って、世にも奇妙な呪いのわら人形の原型のような形をした種を取り出す。

「これに生育魔法をかけて、蔦に引っ張らせたのよ。案外簡単だったわ(笑)。植物を利用した土魔法が、『野菜士』が『野菜士』たる所以ね。」

(、、、こいつに喧嘩売るのはやめとこう、、、)

「でもカーンの態度、どうも引っ掛かるな、敵を前にしてはまさしく鬼神のような徹底主義者なのに、歯切れが悪いと言うか、手加減していると言うか、遊ばれたというか、、、。」

「建国者の娘の手前、命令は絶対なんだろうけど、カーンも、薄々レーネの変心には気付いていると思うわ。以前の溌剌としていた彼女とは、まるで別人だもの。」

(レーネ、いったいどうしてしまったんだ、英雄戦争でのあの信念、『時空水晶』を解読したときのあの笑顔、戴冠式での誓い、全てが夢、幻なんだろうか、、、。)

と、思考がスパイラルダウンしていくガラハド。

(あら、古傷に触れちゃったかしら、やっぱり今後この話題はタブーね、、、。)

そんなやり取りをしつつも、しばらく森の中を進んでいると、開けた草原にたどり着いた。すると、遠目に探していたリーンたちを見つけたのか、南西の遠方より一羽の真っ白い鳩が飛んでくる。その鳥は遠くから見てもあくまでも優雅で、大地の豊かな脈動を体現しているかのような生を謳歌する飛び方であった。

飛速はおおよそ時速50km。最近時折見かける、レーネが開発した飛空艇ほど速くもなく、時折見かける鳳凰たちのように悠然と飛んでくる。躯や羽や頭部の周りには緑色で薄く暖かく柔らかに輝くルーン文字のリングが鳩を見守るかのように浮かんでいる。

「あ、おじいちゃんの伝書鳩だわ。滅多な事では飛ばさないはずだけど、まるで、今回のことを予見していたようね。」

「え、あの『土の賢者』ラルフか?たしか『英雄戦争』後、程なくして病死した事になってるけど?」

「おじいちゃん、争いごとや世間の有象無象が嫌いだからそういう事にしておいてくれって、人里は離れた山奥に引っ込んじゃったのよ、最近ますます偏屈になってきて、相手に困るのよね(笑)。」

「って、そんな無茶苦茶な、、、。」

嘘、方便、ルーズな応対が大嫌いな神経質なガラハドはまた悩みだした。(この世界を司るはずの『土の賢者』が、そんな世間を欺くような事していいのか、そもそも彼くらいの実力者なら、もっと世界の安定のために力を尽くしてもいいじゃないか、リーンもリーンだ、しれっと7年も嘘を付き通して、ダメだ、こんな口八丁手八丁なのが世間にまかり通るとは、世の中間違ってる、、、。)

「はいっ!悩まない悩まない、スーレ、伝言を教えて頂戴。」

《カイフォンバ》(開け封よ)

すると、スーレの嘴がいかにも人間のように動き出すのと同時に、天空よりいかにも偏屈そうな年寄りと言った感じの声音が聞こえてくる。

「リーンか、久しぶりだ。で、子供はできたのか?早くひ孫の顔が見たいもんじゃ、わしも老い先短い身じゃて。」

「バ、バカ、何言ってるのよ?」

頬を赤らめるリーン、しかし自動録音されているラルフの声に、この反駁が届くはずもない。

「お、お前、子供できたのか(驚愕)?い、いつの間に、、、シグルスのことは吹っ切れたのか(疑問)?」

「そ、そんな訳ないじゃない、おじいちゃんのいつもの口癖よ、ふふふふふ(意味深)、、、、。」

と軽口を言い合っている間に、スーレの嘴はなめらかに動きを続けた。

「挨拶はさておき本題じゃ。『ミズガルズ』に張り巡らせておる、わしのコガネムシくん観測網によるとじゃ、数日前からお前のおる『イスティファルド』で大きな魔力の変動があった。属性は時空魔法じゃの。時空魔法と言うからには、飛空艇でも開発した時のように、またレーネがとんでもない事を考えとらせんじゃろうか?あの飛空艇ときたら、せっかく田舎で余生を楽しんでおるのに、うるさいわ、ルーンの流れが乱れるわ、上空から生活を除かれてる気がするやらで、かなわんわい。」

『ミズガルズ』の発展に革新的な役割をもたらした魔道発明も、偏屈な『土の賢者』の手にかかっては、ただの騒音に過ぎない。

「あいつ、魔道士としてのセンスと志はすばらしい物をもっておるが、危なっかしいところがあるからの、お前達、竹馬の友がサポートしてやるんじゃぞ。」

「じゃ、ひ孫を心待ちにしておるからの。」

メッセージが終わった瞬間に魔法が解けた鳩は、その後、いっぱい餌をもらってリーンとの再開を懐かしんだ後、機密案件を伝えたことなど、さも知らなかったかのようにキョトンとして、首をフリフリ古巣へ旅立って行った。

「す、すごいなこの魔法、どうなってるんだ?」

「スーレを媒介として、おじいちゃんの声音の周波数で周辺の空気を振動させているのよ。詳しく知らないけど、風魔法の一種かしら?」

「土の賢者ってのは、すごいんだな、風魔法でも何でもこいかよ。」

「これは、緑の精霊の力でスーレを縛っていたから、土と風の複合と言ったところね?土と風みたいな属性の正反対な複雑な複合魔法を自在に使えるのは『七賢』くらいだけど、『イスティファルド』の魔道士の卵でもそれくらいはできるわよ。」

「人間、興味ないことは知らないもんだな。魔法なんて何でも一緒と思ってたよ。」

「でも、この話、当然だけど『ルーアン』に火の雨が降る前みたいね。おじいちゃんのコテージが『イスティファルド』から2,000kmくらいだから、魔法をかけたスーレの翼が時速50kmとして2日前の伝言みたいね。となると、レーネはまた前みたいに『時空水晶』の新しい働きを解明して、火の雨の前日から何らかの働きかけをしたに違いないわ。」

「いったい、どうなっちまったんだ、レーネ、、、。」

と、またきりもみ急降下をするガラハドを無視しつつ、

「おじいちゃんも言ってるけど、私たちはレーネが暴走しないように防波堤となって元に戻るように導くのが使命だわ。困ったときはおじいちゃんに相談するのが一番ね。なんとか心変わりを元に戻せないか、良い策を持ってると思うわ。って、ガラハド! 聞いてるの!!」

「わ、わかったよ、オレも昔のレーネに戻ってきてほしい!協力する。」

(あれ、この人、こんなに気弱だったかしら、『英雄戦争』当時やレーネと一緒にいたときは、もっと力強くて輝いてたような気がしたけど???)

かくして、レーネの暴走を食い止めるべく 『時空水晶』を破壊して、『イスティファルド』より命からがら?逃亡してきたリーンとガラハドは『土の賢者』ラルフの下へ足を運ぶこととなった。
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