野菜士リーン

longshu

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第1章

1-15 波乱の夜 その2

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---『ルーアン』に火の雨の降る5年前---

レーネの書斎で一時くつろぐリーンとレーネ、『時空水晶』は所有を唯一それを理解し操ることの出来るレーネに移し、レーネはレーネで日夜書斎でその『ミズガルズ』の人たちの理解の遠く及ばない神器の解明に励んでいるのであった。

「レーネ、あなた、いい加減そんな不気味な宝玉とニラメッコしてないで外見てみまさいよ。あれ、あなたの部屋から見える『ユグドラシル』の立派で綺麗なこと、世界を紡ぐ常緑とはああいう景色を言うのよね~。」

「リーンったら、また自然にうっとりとなっちゃって。それより、ねぇ、リーン見てみて。この間『ロキの経典』を解読していると『時空水晶』にこんな機能がある事がわかったわ。」

と、言ってレーネはルーンを唱える。

《ユェングーコンジェン》(遠隔空間)

「しょうがないわね~、魔法バカは、、、。」

しばらくして、無色透明な完全球体『時空水晶』にこれから水浴びをしようと服を脱ぎだしているガラハドが投影された。

「ゲゲッ、ガラハド!?ちょっと、何見てるのよ、これじゃ覗きじゃないの!?」

レーネが顔を赤くして集中を解くのと同時に、『時空水晶』の幻視は掻き消えた。

「コホン、こ、この機能は、頭のなかで考えた遠隔地や人の周囲を水晶に投影できる機能なの。”魔道士の魔道属性の判別”といい、”物を浮かせる機能”といい、”物質の構造を簡単に変える機能”といい、『ロキの経典』に書いてあるように<『時空水晶』がこの世界の物理現象を司る>って言うのは、本当ね。」

「こいつ、あなたのエッチな妄想も見抜いちゃうのね(笑)。」

「バカ!」

この頃には『時空水晶』の基本機能をほぼ理解して自在に使いこなしているレーネであった。しかし当時は、この神代のアイテムに隠された真の力を知る由はまだ無いのであった。

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「お、おい、そんなん隠れて見てたのかよ。」

「か、隠れてって!べ、べつに私はあなたの裸なんか興味ないわよ。でもあのあなた一筋だったレーネがどうしてあんなに変わってしまったのかしら、、、。」

「、、、そうだな、、、話を続けてくれ。」

「うん。」

---『ルーアン』に火の雨の降る1年前---

先の代表であり父でもあったマキシムの死去の後、代表の位を継いだレーネは、この頃には『時空水晶』の様々な機能を最大限活用して、空中を滑空する『飛空艇』や、魔法金属を使ったミスリルメイル等と言った現在の革命国家『レボルテ』の骨格とも言えるような魔道工業製品群を開発し、国力や戦力を日増しに充実させていた。

レーネの誕生日を祝おうと彼女の書斎へ探りを入れに来たリーンは、そこで机の上にポンと置いてある『時空水晶』をふとのぞき込んだ。

「え、このビジョンは何なの!?」

『時空水晶』には、リーンが見たこともない鋼鉄の巨大な乗り物が、その太く長い鼻の先から火を噴き、都市であろうか?灰色のブロックでできた建物の群れをこれでもかと破壊しつくしている場面が見えた。周りには恐慌に陥り逃げ惑う多くの人間達も見える。彼らの行動や表情は正しく死に瀕している鬼気迫るものがあり、辺りは破壊と暴力と混沌に満ちあふれていた。

永遠に続く底の見えない深い悪夢から、ようやく揺り起こされたかのように、隣で俯せでうたた寝をしていたレーネは重く暗く首を上げる。ここ数年でのレーネの変化をリーンやガラハドも察知はしていた。が、マキシムの突然の死去の後の国政を担わなければならない重圧がずっしりとのしかかって仕方がない部分もあると思っていた。また、何と言っても現在の革命国家『レボルテ』代表なのだ、国が国なら絶対権力をもつ女王といったところである。新興国家といえども、あまりに馴れ馴れしいやり取りは規律に関わる。

「ああ、これは遠い世界の戦車という戦争に使う乗り物よ、私達の世界の装備や魔法ではとても太刀打ち出来ないわね。」

「ホントね、こんなの、私のとっておきの人面樹でもすぐ粉々にされちゃいそうだわ。でも、こんな恐ろしい兵器なんてこの世界にいるのかしら?」

リーンの一言に、突如、カッとなるレーネ。

「私には父の興したこの国を守りぬく責務がある。いつ『ウェールズ』が報復に来るかも分からないし、『ウェールズ』を打倒してからというもの、いろんな新興勢力が中原を伺い狙っているのよ、その対応策も今すぐにでも建てないといけないわ。そんな事を知りもしないで簡単に平和国民ヅラしないでもらいたいわ。」

「ご、ごめんなさい、そんなつもりで言ったんじゃないのよ、ただ、あまりに強力そうだから、つい感想が口を出ちゃっただけ。」

暗い瞳でジッとリーンの真意を探りつつレーネは言った。

「そう、それならば良いんだけど。それから、金輪際『時空水晶』を覗きこむようなことはやめてもらいたいわね。『飛空艇』や『ミスリル金属』の生成について触媒のような働きも果たしていて誤動作の危険があるし、国家機密に関わるような部分も多くあるわ。」

「そ、そうね、代表であるあなたの書斎へ簡単に出入りしたりして、いくら友達とはいえ、ちょっと軽率だったわ。」

レーネは、ちょっと意外そうな顔をした。

「まだ友達と思ってくれているのね、、、。うれしいわ、、、。そのうちまた個人的に会いましょう。」

「そんな、同じ宮廷に住んでいるんじゃないの?」

「そう、そうだったわね。またね。」

と言うと、また長く続く悪夢にでも戻るかのように陰鬱な顔をして俯こうとする。リーンは意を決して、それを遮るように思い切り良く声を上げていった。

「誕生日おめでとうレーネ!今日の夜、ガラハドの宿舎でパーティーを開きたいんだけど来てもらえるかしら?あなたがちょうど時間に都合が付く事は秘書に確認済みよ。」

「え、そう、ガラハドの部屋で、、、今日、誕生日だったの?忘れてたわ、、、リーン、あなたはいつも大事なことを思い出させてくれるわね。ありがとう。」

レーネは、呪縛が一時解けたように、少し笑って言った。

「じゃ、マーニ一刻(18:00)だから、遅れないでよ!!!」

穏やかだったレーネの異常とも思えるような怒りにうろたえつつも、それを悟られないように振る舞い、彼女が元に戻ってくれることを願って書斎を後にするリーンであった。

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「そうか、パーティーの前にそんな事があったのか?そういえばあの時、お前たち心なしギクシャクしていたような気も、、、代表になってからしばらくして、あいつおかしくなったよな、国を守る重圧だとばかり思ってたけど、、、。おれもその頃剣術師範を拝任して、忙しくてこれまでみたいに簡単に会えなくなったし、、、。」

「そうね、私も魔道師範になって間もなかったし、レーネは私達庶民なんかと違って、何かこう神話の中の存在みたいに完全無欠の絶対に損なわれない存在だ、なんて思ってたわ。今になって考えるとレーネにもっと心遣いしていればよかったな、、、、」

「、、、そうだな、で、あの夜は何があったんだよ?」

「ああ、そうね、それは、、、、、、」
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