野菜士リーン

longshu

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第1章

1-16 波乱の夜 その3

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---『ルーアン』に火の雨の降った夜---

レーネが彼女の書斎で陰鬱な顔をして『時空水晶』に向かって何かつぶやいている。

「そう、そこでナパーム弾ね、早く発射なさいアメリカ軍、、、捉えたわ!!!」

凄惨な笑みを浮かべるレーネ

《10640,2051,2366,19671221041515,ズオビィアオジュアンホァン》(座標転換)

ベトコンがゲリラ戦を決め込むべく潜伏しているハイフォンの北西部に存在するマングローブの森。アメリカ軍のグラマンF-8戦闘機から投下された大量のナパームBが炸裂するその一瞬に、ナパーム弾<その、叫び声を上げながら地上にいる者達を消し炭にするべく群がってくる悪魔の弾道>は、ベトコン達の目前上空から消え失せた。文字通り、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするベトコン達。

と同時に、『ルーアン』に大量のナパーム弾の雨が降り注ぐ。時間も空間も天文学的に遠く離れた戦争にまみれた大陸で、大量殺戮用に考えに考えぬかれた焼夷弾だ、『ミズガルズ』の一般都市において、そこに住む平和な民衆達に為す術があるはずもない、一瞬の内に『ルーアン』全域は火の海に包まれた。

「な、何これは!!火の雨!?『ルーアン』の象徴の知性と協和の女神像が飴色に溶け出してる!これは友好協約を結んで久しい『ルーアン』なの?どういうこと!!レーネ!!!」

『ウェールズ』の魔法遺物を活用しての組織的な魔道研究を開始するべく、2年ほど前から始まった魔導修練班の教育課程について相談しようと、久しぶりにレーネの書斎を訪れたリーン。『英雄戦争』で『レボルテ』、『ウェールズ』王国ともに相当な痛手を負い、中原の同族同士による諍いの愚かさを双方認め、停戦および友好協約を結んでから7年、貴族の暴虐の愚かさについての共通認識も出来て両国家とも手を取り合い平和裏に互いの発展の道を歩んでいるはずであった。

「、、、一部始終を見てしまったのね、リーン。そう、この幻視は『ウェールズ』の『ルーアン』よ。所詮、私が思い描いていた平和な世界などすべて絵空事。私は『ルーアン』を手始めに『ミズガルズ』すべてを無に帰する事にしたのよ。私が何でそう考えているか、土弄りしかしていないあなたには永遠に理解できないのでしょうけれど、、、。」

レーネの表情は一時期のいつ壊れてしまうか分からないような不安定さとは異なり、絶望を通り越した明らかな諦観を持ってリーンに接している。その有様は長い年月の風雨に打たれた耗損した彫像の後ろ姿にも似てまったく動かしがたく、その信念を曲げるのはドワーフ職人の鉄梃でも難しいと思われた。

「分かるわけないじゃない!バカ!!」

と言うと、リーンは電光石火の早業で『時空水晶』を奪い取ると『イスティファルド』最上階にあるレーネの書斎の窓から全力で投げ捨てた!!リーンの切り札30m級のリンゴの人面樹がその巨大な幹で城壁を破壊するかのごとく、大胆で圧倒的な離れ業であった。一瞬の後、激しくバラバラに砕け散る硬い音を立てる神代の宝具。あまりの事にレーネもあっけにとられ【浮遊魔法】や【時間停止魔法】を仕込む暇もなかった。

「な、何を!!」

いつぞや見せたような、眦を裂き世界の全存在を憎み切るような怒りをリーンに向けるレーネ。その虹彩は以前の知性と穏やかさを称えた輝かしい漆黒ではなく、暗くよどんだ紅色に変わり、瞳孔は黒い炎のように揺らめいている。

「そ、その瞳、、、あ、あなた、一体、、、どうしてしまったの(苦悶)、、、。」

《スーナハン!》(時の死の雄叫び!)

レーネは、昔なじみにもまったく躊躇する風はなく命を止めるに至る魔法を唱える。レーネから染み出した黒灰色の霧がリーンを包み込まんとする。包んだものを死に追いやる魔法であった。

《リュイスージエジョウファ!》(緑の解呪法!)

それを命を司る土魔法のオーラで消滅させるリーン。狼狽えつつも、レーネと対峙する手段を選び出す。

「し、仕方ない、ここはひとまず逃げるしかないわ。だけど、レーネ、これだけは覚えていて!私は絶対あなたを諦めない!昔のような皆に優しくて、賢くて、認められてたあなたを取り戻す!!!」

「まだ戯れ言を言うか!!!」

怒り狂い次の魔法の詠唱を唱えだす紅色の虹彩のレーネからなんとか逃げ切り、そして直感でレーネを取り戻す切り札と感じたガラハドを無理やりひき連れ『イスティファルド』王宮から落ち延び、そして今に至るのだった。

------

「そうか、そんな事があったのか、オレを連れ出したのはオレとレーネとの絆を信じての事なんだな。もしオレがレーネに洗脳されると、あいつを元に戻せる可能性がより小さくなるからなんだな。分かったよ、オレも彼女を取り戻す決意が固まった。やろう。」

いざという時はやる男ガラハド、酔っ払ってジャムカと互角の戦いを演じた時のように、頼もしくリーンと手をがっちり握り合うのだった。

「しかし、怒って紅色の虹彩と黒い炎の眼ってのが引っかかるな、『時空水晶』に乗っ取られちまってるとか?」

「そうなの、魔道の学術書や古文書に不勉強だったのを今更ながら強く後悔するわ、、、やはり何でも知っているおじいちゃんに洗いざらい話して、助言をもらいましょう。」

『時空水晶』と、それに影響されてなのかレーネの急変を思い出しつつ、リーンとガラハドは『土の賢者』の元へ急ぐ。

《話は終わったか、先を急ぐぞ!》

興味なさそうにリーン達の話を聞くとも無く聞いていた『風の馬』ブローズグホーヴィは、話が終わったのを見て、リーン達を乗せて気持ちよさそうに風を切って、高速で大草原を駆け抜けて行くのであった。
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