野菜士リーン

longshu

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第1章

1-21 王女レティシアの即位 その1

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--- 『魔法遊園地にて子供達と戯れるショウキと時を同じくして、『ルーアン』の仮の王宮にて ---

「レティシア様、ご準備はよろしゅうございますか?」

彼は『英雄戦争』にて辛くも生き残った『ウェールズ』貴族重鎮の中の重鎮ファビウスと言う。『革命軍』筆頭のカーンとも幾度と無く冥府の門をくぐるか否かという激闘を演じたのだが、今では平和国家そのものを体現しているかのようなテッカリ禿げ上がった頭に柔和な愛想笑いがよく似合う老骨である。

「ファビウス様、衣装は準備が整いセリフも大方把握いたしましたが、果たしてこれだけで即位式は滞り無く進むのでしょうか?つい半年前に漁村から魔法都市『ルーアン』へ召されてきた私としましては、なにやらお伽話と言いますか夢の中の出来事に地に足つかないのですが、、、」

「なに、我々の描いたシナリオのままに頷いてさえいれば良いのだ。お前はかつて『ウェールズ』を束ねたエーベルゴード王家の最後の生き残り、かつての強国の象徴として居るだけでそれでよい。」

「そういうお約束でしたよね、私、国家のことなど全くもって何も出来ません、、、。」

「当たり前だ、万事、俺に任せておけ。」

「はい、、、」

「ジル、口を慎まんか、恭しくも先王のご息女、これから王女に即位されるお方であるぞ!」

ジルブレヒトは感情のない瞳でファビウスをじっと見詰めると、レティシアに対する高圧的な口利きを止めるのであった。表情は冷徹を絵に描いたような典型的な闇魔道士顔で、それによく似合う黒いヴェルヴェットのローブを羽織り『ウェールズ』お抱えの宮廷魔道士を示す銀地に赤色の斧の紋章をあしらった直径5cmほどの純銀製のペンダントを首にかけていた。

他にこれと言った装飾はしておらず、こと魔導具を多く所持し多彩を競いたい『ウェールズ』魔道士の中にあっては、魔導具を持たずとも相応の魔法を発せられるという自負を示しているとも取られ、なかなかの自信家にも見える。もっともジルブレヒトは単に物を多く持つ事が嫌いなだけのシンプルな人間なだけであったが。

ジルブレヒトも重鎮の一人であった。彼は策謀の士である。『革命軍』が王都『ヴァルヴァンティア』に蹂躙されるその日、敗戦が濃厚と判断すると王家存続のためと称して、ほぼ独断的に得意の闇魔法を駆使してレティシアを連れ去り敵前逃亡したのであった。敗戦後『ウェールズ』が半ば『革命軍』の監視下で平和国家としての歩みを始めて数年、いつの間にかふらりと『ルーアン』へ返って来たのだったが、結果が全てを物語るこの世界では王家の最後の種という切り札を持っている彼は、敵前逃亡の罪も払拭して権勢を振るうのであった。

そして『レボルテ』の監視がまったく無くなった今日、エーベルゴード王家最後の一人レティシアを立てて、摩擦なく平和裏に『ウェールズ』の再興を推進しようという計画なのであった。

--- 仮王宮にて ---

敗戦後、遷都した『ルーアン』に設けられているあくまでも(と言っても恒久的なのであったが)仮の王宮の大きな庭には、一万人にも及ぶ『ウェールズ』の人々が、王女レティシアの即位を一目見ようと集まりざわめきあっている。先の戦争で一敗地にまみれた遠方の領主やら、古くから続く珍しく差別主義に陥っていない穏健派の名家、『ルーアン』一般市民、宮廷魔道士達、『ウェールズ』のいろいろな階級の様々な人が集まっていた。

7年前『革命軍』に敗れて都落ちしてから、かつてあった中原全域からの徴税も途絶え、これまでの贅沢ぶりからは考えもつかないような緊縮財政の政治運営を余儀なくされていた『ルーアン』首脳部であったが、『ウェールズ』復活の起爆剤として捉えているのか、いつになく豪奢な式典にする模様だ。

『英雄戦争』当時、居を構えていた王都『ヴァルヴァンティア』中の贅を集めた建てられた『イスティファルド』王宮は、今は既に『レボルテ』に落とされてしまっていた。しかし、『ルーアン』での仮の王宮も、その、高さ50mはあろうかという尖塔をもった、中央に大鐘のある7階建ての宮殿、10km2はあろうかという広く整備された宮庭と、隅々まで手入れされた庭木、どれをとっても『ヴァルヴァンティア』を手に入れる前の『レボルテ』などよりよほど首都らしい拠点だった。なおここ『ルーアン』の仮王宮『アウグストゥスブルグ』は、戦に敗れるまでは『ルーアン』領主のファビウスの執政所なのであった。

「レティシア様か、7年前『ヴァルヴァンティア』の園庭で姉王女のレイシアと共に追いかけっこをして遊んでいる所を見かけたが、どんなにか我々『ウェールズ』への復帰を待ち望んでいるであろう?それにしてもあの闇魔法使い、これでファビウス様に次ぐ主席参謀の地位は手に入れたな。うまくやるね。」

さわやかな風のようなイケメンが今回の即位式についての総評を述べる。国家級高級魔道士の試練である『精霊の塔』を乗り越えた実力者の証である黄金に輝く瞳と、地髪なのか珍しいオリーブ色の長髪をなびかせている。装備はそれ自体が浮遊能力を持った風のマントと、呼べば雷を起こすと呼ばれる雷切の短剣のみで、簡潔であるが有用な物を効果的に選択している印象であった。彼は風の宮廷魔道士ヒュード。

「まったくね、『イスティファルド』攻防戦の時なんか、いの一番にレティシア様を連れて逃げ出したりして、気が触れたかと思ったけど、実際、先の先まで見据えていたようね。なかなかの深慮遠謀じゃないの。私は好きよ。」

ショートボブの燃え上がるような赤い髪と、同じように情熱的な赤い瞳をもったグラマラスな女が応える。来ている衣装も魔道士共通のローブを除けば、肌の露出が多くて派手派手しく、目鼻立ちも非常にくっきりとして何かにつけて刺激的だ。もっている装備も、巨大な火球を生成できるファイヤーワンド、一瞬で巨大な炎の壁を生むファイヤーガードリング等々、煌びやかで直截的な物が多かった。彼女は炎の宮廷魔道士ヴァン。

二人とも『英雄戦争』では、魔法戦でリーンやレーネ達を相当手こずらせた実力派だ。彼らは『ウェールズ』お抱えの宮廷魔道士の筆頭格であった。伝統的な青地フェルトのローブに深緑色の三角帽、ところどころシルバー製のベルト、腕章、ペンダントといった『ウェールズ』の魔法装束に身を包んでいる。『ウェールズ』のお家芸といえば多彩で高度な魔法文化であり、戦争に敗れたとはいえ宮廷魔道士の数や実力は、今でもリーン達のいた『レボルテ』の数倍はあった。ジルブレヒトは当時から貴重な闇の魔道士として宮廷に奉仕していたが、今では名実ともに主参謀に昇格している。

「エーベルゴード王家の血が途絶えずにいたとは、、、かつては民に圧政をひいていたが、今では『ルーアン』とその周辺しか施政権を残されていない我々『ウェールズ』王国だ。そんな傲慢に振る舞う余地もない。善政を敷いてほしいものだ、、、。」

穏健派の貴族院筆頭領主イールドが、本日の王家の復興を目の当たりにして感慨深げに言う。

「敗戦を見越して辺境の漁村に一粒種を残しておくとは、ジル殿の嚢中もなかなか広いようだな。おかげで『ウェールズ』全域にまた希望の光りが灯る。民を虐げるような失敗は繰り返さぬであろうよ。」

領主フーリエが、イールドの独り言とも取れる物言いに相槌を打ってこう言う。どちらも、ジルブレヒトの行動と、今日の式典には好意的だ。

「サイトさん、今日即位されるレティシア様はどんなご様子なんでしょう。今は亡き女王様に似てお綺麗なんでしょうか?姉の王女は『レボルテ』の者によって殺されてしまったようだから。お二人揃っての様子を見られなくて残念ですね。」

彼女は、『ルーアン』にいる一般的な市民、サラだ。市民たちによって構成される庶民院の代表であるサイトにこう尋ねた。

「うん農奴を許容した善悪はさておいて、王家の血統というものはやはり国にとって必要不可欠だからね、さもないと革命国家『レボルテ』のように、庶民の小娘が支配する野蛮極まりない国家運営になってしまうし、、、。」

庶民院代表のサイトは分別顔で言った。彼も『ウェールズ』の市民への圧政については快く思っていないのであった。

「そうですね、私達はファビウス様の統治する『ルーアン』市民でよかったわ。噂に聞くところでは、『ヴァルヴァンティア』の南の都市なんか、悪辣な領主がいて女給をひどい虐待で殺してしまったらしくて、その旦那さんに領主の一族郎党全部血祭りにあげられたみたいですしね。『レボルテ』は野蛮で怖いわ~、、、。」

旦那さんとはカーンの事であるが、そんな生死の瀬戸際のような戦いを幾度と無く経験しているリーン達『革命軍』との戦闘など遠い世界の出来事のように話すほど、ここ『ルーアン』は『英雄戦争』当時からも平和で、血で血を洗うような争いとは全くの無縁なのであった。

過去の戦争において、中原の多くの民にそっぽを向かれ反逆を許してしまった『ウェールズ』各都市であったが、『ルーアン』だけは領主ファビウスの『ウェールズ』貴族にしては珍しい民に目を向けた善政によってゲリラや暗殺といったようなイザコザはなく、『ルーアン』市民は『ウェールズ』に心服しており、それが今暫定首都となっている直接の原因となっていた。今でも『エーベルゴード』家はともかくとして、ファビウスを中心とした『ルーアン』の統治に皆満足し、彼が興した即位式にはそれが多くの危険を孕んだ政治的な動きだったにせよ、一般庶民立ちは何の疑問もなく歓喜の祭典としているのであった。

「誇り高きエーベルゴード家の最後の血統レティシア様を掲げて、今こそ『レボルテ』に復讐するぞ!!」

主戦派の領主ドルガンがここぞとばかりに気勢を上げている。これこそがジルブレヒトの思うところであった。『ウェールズ』随一と言っても良い計算高い彼は、英雄戦争当時、中原の民の離反と『革命軍』の勢いからして骨身を惜しんで戦った所で王宮を死守して体制を挽回できるとはどうしても思えなかった。

それで、エーベルゴード王家の中では連れ去ったことが目立ってしまう数多くいた王子ではなく、浮葉のような扱いで継承権順位も最下位の双子の娘の妹の方であるレティシアを半ばさらうような形で連れ去り、王家の血統の存続を図ったのであった。当時主席参謀ヴァルマに押されあまり日の目を見なかった彼も、かなり偏ったやり方ではあったが『ウェールズ』王国の将来を考えていたのであった。
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