野菜士リーン

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第1章

1-E-4 『英雄戦争』の終焉 その4 カーン 対 狂王

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――― カーン 対 狂王 ―――

「エアハルトよ、個人的には直接お前に恨みはないが、我が妻キルトの命を無残にも奪った悪政の報い、受けてもらうぞ。」

時空竜とマキシムの戦いを掻い潜り、狂王エアハルトに迫ったカーンは静かに言い放った。怒りはいつになく冷静に内に秘められている。

「ふ、ヘラを『七賢』どもに封印された挙句、農民風情に城を落とされるとはな。所詮、農民たちが支配した所で衆愚政治に陥り更に混沌とする事は目に見えているのだがな、それ故、貴族たち領主が統治する形態を採っていたのだが、、、まぁ、『ウェールズ』もこれまでか。だが、最期まで望みは捨てぬ、お前たちを全て切り捨て、レイシアを使って恐怖で縛り再び支配し直してやるぞ。」

エアハルトは悪逆貴族の横行を先導し『ウェールズ』を狂気の世界へ追いやった『狂王』という世間の評判とは裏腹に、実に正確に時流の移り変わりと、滅び行く自国の有様を認識していた。

「は、笑わせるな。お前たちエーベルゴード家を頂点とした貴族どもの奢り貪りが招いた結果だろうが!『革命軍』を代表して、オレがお前を打ち殺してくれる!!」

狂王に対して冷静に宣戦布告をしたカーンだったが、狂った国土にしておきながら自分を勘定に入れない言動と、平民を見下した態度に持ち前の怒りがじわじわとこみ上げてきていた。

「こい、最期の一太刀見せてくれるわ。」

そう言うと、エアハルトは、エーベルゴード家に代々伝わる王者の剣『デュランダル』を引き抜く。

言わずと知れた、建国のその昔より伝わる聖剣だ。巡り巡って現在ではエーベルゴード家に受け継がれている。国民を代表する英雄の象徴たる『デュランダル』が、国民に反旗を翻され孤立した王の手のもとにあるのは皮肉以外の何者でもない。しかし誰の所有下にあっても『デュランダル』は常に所有者に付き従いその威力を減じたりするものではなかった。

『怒れる木こり』カーンはその本分とでも言うのか怒りに任せエアハルトの元へ駆け寄り、狂王の頭を飛ばそうと乱暴に彼の斧を横殴りに振り払う。大重量の『大地の斧』をも棒でも振るかのように扱う元木こりならではの筋力と歴戦の経験による思い切りの良さであった。耳の先に斧先が当たり、頭が飛ばされるかと思えた刹那、一瞬の内にロングソードでそれを軽々と受け流すエアハルト。初太刀は五分と五分であった。

「ふ、力任せに振れば良いというものではない。」

そして受け流すとともに切っ先をカーンの重装備の鎧のスキマに通す。1mmを違わないすばらしい剣先のコントロールだ。下地の鎖帷子を切り裂き鎧のスキマから鮮血がこぼれ出る。瞬間離開するカーン。

「ぐ、やりおるわい。」

これまで大抵の敵は腕力で叩き潰してきたカーンも、『大地の斧』すらきれいに受け流し返す刀でダメージを与えてくる狂王に、久々に好敵手にまみえた感触を得たのであった。

仇敵の実力を認めたカーンは次の手を繰り出した。『大地の斧』を縦横無尽に振り回し始めると同時にエアハルトに切りかかる。斧の死角はエアハルトの前後左右まったくなく、さりとて獲物の動きはカウンターを狙えるほど王を狙った正確なものではない。正攻法ではまったくありえない滅茶苦茶な操法であったが、補って余りある体力と場数がこの戦法を支えていた。

「やれやれ、まるでガキのケンカだな。」

そう言うと、斧の軌道に追従するように剣を合わせ、振り回した後の死角を狙う。

エアハルトが斧を振り回した後のカーンの二の腕を払い落とそうとする瞬間、カーンは、ニッと笑うと、次の手を繰り出す。左手を盾から離すと裏に仕込んでいた短剣を投げる。見事にエアハルトの肩に突き立った。

目にも留まらぬ速さで斧を振り回し視界を奪うのと同時にもう一方の手で不意の攻撃を行うという、動体視力と膂力に物を言わせた攻撃であった。

「ぐっ、、、」

「どうだ、高慢ちきな狂王よ、平民の怒り思い知ったか!!!」

「ふん、いちいち芝居がからんと物の言えんやつよ、こんなもの。」

短剣を肩からえぐり取りカーンへ投げ返す。カーンがふっと身を交わすと短剣は50m程まっすぐ正確に飛んでいき、マキシム達が乗り込んできた王の間の扉へ突き立った。

見たところ、土のルーンに守られた『大地の斧』と、王者の剣『デュランダル』の両獲物のポテンシャルは互角。そして、長い年月にわたって朝晩木を切り倒し、妻への復讐から叩き上げで操武術を磨いてきた木こりと、幼少の頃より長きにわたって剣術師範より手ほどきを受けてきた王者。太陽と月ほど対極的な操武具術の違いはあるのであったが、剣戟の力も互角に見えた。

「今度はどうだ!!」

その後半時に渡って、凄絶なつばぜり合いを続ける平民と王であった。
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