野菜士リーン

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第1章

1-E-3 『英雄戦争』の終焉 その3 マキシム 対 時空竜

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――― マキシム 対 時空竜 ―――

マキシムは古代迷宮戦において獲得した呪剣『星辰剣』を目前に掲げると、静かに目を閉じて神官が自身の祈りを神に捧げるかのごとく真摯に魔剣に語りかけた。

「『星辰剣』よ、今こそその力を開放せよ!」

マキシムが剣に命令すると、剣は生きているがごとく大きく震え、やがてマキシムの手を離れ彼の前方の中空に浮かび周りの空間との共鳴を始める。そして剣の周りにおびただしい数の切っ先の残影が取り囲みだす。これまでの戦に次ぐ戦でマキシムが切り従えてきた気の遠くなるほどの戦陣の剣気がすべてそこに凝縮される。やがて剣の周りに薄く光り輝く、時折近づくもの全てを切り裂くような鋭いオーラがまとい出す。『星辰剣』操術の一つ【剣の記憶】だ。切り結んだ記憶を剣気として凝縮し一気に放出する。一般的な魔法による防御はする事敵わず、時空竜という先天的に強力な魔法防御フィールドを持っている古代竜にも有効と思われる剣技の一つであった。

「竜の首筋を切り刻め!『星辰剣』!!」

『星辰剣』はそれ自身意志を持っている。マキシムの命に従い、身にまとう剣気のオーラとともに時空竜を食い破るべく首筋に食いついた。一瞬の後に首筋に広がる大きな裂創、飛び散る肉片、灰色の血。それしきで殺される古代竜ではなかったが、マキシムの操る『星辰剣』は時空竜に有効なダメージを与えているようだった。

マキシムは、元、寒村の相談役だ、正式な剣の手ほどきを受けたわけでもなく貴族や騎士などという身分では決して無い。しかし、カーンの暴挙に背中を押され、オレたちがやらねば仲間たちが皆殺しにされるという悲愴な切迫感、『ウェールズ』貴族の暴虐に終止符を打つと言う深い責任感の元、ともすればマキシムの精神を食い破ってきそうな古代の呪いの名剣をうまく御し自らのものとしていた。

『星辰剣』が長年慣れ親しんだかのようにマキシムの手に戻ってくると、彼に対するいつもの精神干渉が始まった。全感覚を剥ぎ取られ暗闇に永遠に唯一人取り残されたと錯覚されるような絶望感がマキシムを襲う。普通の人間ならば繰り返しさらされると確実に発狂してしまうような精神干渉だ。しかし、元より『七賢』並みに冷静で、正しく物を見る能力に長けており、あまつさえ暴虐に終止符を打ち民衆に平和を取り戻す大義を自身に任じている彼だ。激越な古代剣の呪いも、彼の精神を打ち破るに足る物ではないのであった。

「ギュギュヒューン!!!」

急所の首を突かれ痛みで激昂する時空竜は、マキシムの存在そのものの消し去らんかのように首を大きく振り回して、彼へ向けてより猛然と【クリムゾンブレス】を吐き出す。しかし、これもマキシムへ纏わせたリョウジンの水魔法【聖流水幕】により彼を傷つける事は出来ない。

「この水流は通常の対毒戦でも活躍してくれてましたが、時空竜のブレスにも通用するとはなかなかの優れものですな?」

「それが自然界のものならば全て清めることのできる水流です。そして『古き竜』と言えども生物の一種、動物と同じような構造上の弱点を持っているはずです。長すぎるため防御も間に合わず、重い頭を動かすために硬化も出来ない首ならばきっと攻撃が効くはず、ブレスは気にせず引き続き奴の首筋を狙いましょう。」

リョウジンは長年の経験から、マキシムへ的確な助言を行う。

「承知しました。では、行くぞ『星辰剣』!」

自身を鼓舞する掛け声とともにマキシムは時空竜へ向かっていった。

『革命軍』首脳は、古代の名剣と、百戦錬磨の手練れリョウジンの魔法により、『七賢』にも匹敵する凶悪な伝説の竜の一族時空竜とも互角に戦いを繰り広げていた。
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