野菜士リーン

longshu

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第1章

1-E-2 『英雄戦争』の終焉 その2 狂乱の王女レイシア

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「娘よ、父の最期の願い、奴ら反逆者を地獄の底へ落としてくれ。」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――ーー!!!!」

狂王エアハルトの横にぐったりと座していた王女レイシアが身の毛もよだつような叫び声を上げると、突然地殻変動でも起こったかのような地響きとともに例の大岩石と漆黒の物質が『イスティファルド』最上部の大理石でできた内壁や天井を巻き添えにしながら、猛烈な勢いで『革命軍』の主将達へ唸りを上げて急襲してきた。それは彼らに火山の噴火か隕石の衝突を思い起こさせた。

暴走しているレイシアの深紅の虹彩には、煌々と燃え盛る黒い炎が揺らめいている。

リョウジンはその深紅の瞳を知りすぎるほど知っていた。つい先刻まで両目にそれを燃え盛らせていた『時空の賢者』と一戦混じえていたのだ。他の『七賢』の力を持ってしても捉えることかなわず、リョウジン達『テューレン』一族の多大な犠牲と秘儀体術を以てして、ようやく封印に成功した『ロキの瞳』を持つ『時空の賢者』アーデルヘイト。

重力の束縛を破り飛び回る魔法武器、瞬間移動する事のできる大戦力をもった魔道士、伝承にすらなく当然眼にしたこともない大型で敏捷で捕捉不可能な召喚獣、挙句の果てには時間の巻き戻しや停止、再び勝てるとは思えない相手であった。

《グァンドン》(光の盾)

リョウジンのルーン詠唱に従い、マキシム、カーン、リョウジンの周りを光の壁が覆う、大岩石は一瞬の内に消滅し、黒い物体は【光の壁】に阻まれ行く手を逸らした。

黒い物体は光を喰い破りながら上方へ逸れ、周りの視界を歪めながら天井を無き物に変えていった。

レイシアの深紅の虹彩と、その黒い物体の威力を見て、リョウジンは即座に理解した。明らかに『ロキの瞳』だ、と。伝説に言う、死ねばすぐに次の伝承者が形成される『七賢』、アーデルヘイトを封印したから彼女に『時空の賢者』が継承され、その瞳が発現したのかそれは分からない。しかし、紛れも無くそれは『ロキの瞳』であった。

そして『テューレン』一族の鉄の掟に従い『ロキの瞳』をもつ『時空の賢者』は廃されなければならない。それが大柄で美しい銀髪を持ち操剣の巧みな百戦錬磨の魔女ではなく、狂王に囚われている可憐な少女であろうと、である。

仮にも『ロキの瞳』だ、小手先の【光の壁】などでは寸時も持つまい。唯一の救いは、継承してすぐだからか彼女の纏う魔力は、百戦の賢者アーデルヘイトほどには禍々しく強大でなかった事であった。

『怒れる木こり』カーンは魔法には全く疎い。現在城下でヒュードやヴァンといった歴戦の『ウェールズ』宮廷魔道士達と魔法戦を繰り広げているリーンやレーネの活躍もまったく理解できないのか、戦法や成果についてまったく語りもしなければ尋ねもしない。自分の住む空間とはまったく異世界のものとして捉えているようである。それで傷つこうが恩恵を被ろうがまったく気にも留めないのであった。目の前で起こっている魔法を使えない者達にとっては絶望的とも思える事象にも、少し鈍感というのか場違いな事ばかり言っている。マキシムは、これがこの男の強さなのだと思った。

魔法は使えないがその威力は十二分に理解している『革命軍』の首謀者の一人であり宰相でもある『哲者』マキシムは、この眼の前の少女が起こしている現象を正確に捉えその脅威と勝算を冷徹な目で計算していた。

「リョウジン殿、あの大岩石の方はなんとか叩き落とせると思いますが、漂う黒い物体は何でしょうか?それにあの王女の燃えるような黒き炎の瞳、何やら人外の者に操られているようにも見えますな。我々では全く手が出ないような、、、なにか策はありますか?」

「私にも分かりません。が、超強力な時空魔法であろうとは思います。時空魔法には時空魔法、レーネ殿でもいれば手も考え出せましょうが、私の自然魔法ではちょっと刃が立ちませんな。」

怒れるカーンとは違い、このような緊急の折にも常に冷静沈着な二人である。

「とは言え、この最期の戦いに勝利をおさめるのは、中原ひいては『ミズガルズ』の民全体の宿願でもありましょう。私が、あの時空魔法の少女に対処してみます故、あなた方には飛び回る大岩石と主願である国王の打倒をお願いしたい。」

「おお、あんな岩などオレの『大地の斧』にかかれば一撃粉砕よ!狂王エアハルトの首を切り落としてやる!!」

彼は、大岩石と共に飛んで来る天井の大部分を無き物にした黒く魔法的な物質にはまったく考えが及ばないらしい。

「では、二手に分かれましょう。」

「うむ、そうしましょう。カーン、行くぞ!」

「おお、望むところだ!!」

とは言ってみたものの、30m先で狂王の意のままに発狂しながら悪意の爪を研ぐ王女の時空魔法には決定的な打開策を見いだせないのであった。

(ふむ、ちとマズイな、こうしている間にも次の攻撃を仕掛けてくるような気配だ、発狂していながら戦闘戦略は組み立てられていると見える、少女にあるまじき振る舞いは大方アーデルヘイトの差金だろうが、奴を封印した今、誰の意思で操られているのやら、、、)

発狂しながら時空魔法を駆使しているこの王女こそが、この『英雄戦争』最期の戦いの7年後、『ルーアン』民衆の大歓声と共に即位する王女レティシアの双子の姉、レイシアなのであった。子沢山の『ウェールズ』王家にあって深窓で育てられた10歳の娘などまったく気にもされず民衆にもあまり知られていない存在であったが、どうやらアーデルヘイトに何か仕込まれていたようであった。

美しいな、場違いながら、ふとリョウジンは思った。もちろん女としては開花前で艶熟な魅力ではなかったが、発狂していながらも身にまとう気品、整った目鼻立ち、王女としての威厳等、アーデルヘイトにおもちゃにされていなければ十二分にその魅力を発揮していたであろう。

「ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ―――ー!!!!」

レイシアが、声にならない声で別の召喚文を叫ぶと、耳をつんざくような轟音と人の魂を奪うかのような凶悪な雄叫びと共に、30m級の巨大で禍々しい灰色の時空竜が、革命軍の3人を塞ぐように召喚された。
広げれば20mはあろうかという大きな翼と、何者をも絶望させずにはおかない獰猛な顔つき、それを支える太く長く世界樹の幹のような鎌首、どれをとっても凶悪そのものであった。

「おおおお~!?竜殺しの時の悪竜『ファヴニール』よりもでけーぞ!!?」

3人が驚くが早いか、時空竜はすぐさま彼の持つ象徴的なブレス、【クリムゾンブレス】を吐き出す。赤紫色で霧状で3人に何とも形容しがたい嫌悪感をもよおさせた。

(身体に悪そーだな~。。。)魔法や伝説の魔物には全く造詣がないカーンは、トンチンカンにもそう思った。

《チンシュイサオディ》(清き水よ、洗いされ)

時を同じく、リョウジンの手から今度は水のカーテンが3人の前面5m程を覆い【クリムゾンブレス】を洗い流す。

「あれを吸い込むと、命はないようですからな、しかし、他の時空魔法を操りながら時空竜まで召喚してくるとは、あの娘『七賢』と同等かそれ以上魔力を持っているものと見える。どう攻略したものか、、、。」

「カーン、お前は狂王に行ってくれ、オレは時空竜をなんとかしよう。」

言うが早いか、『星辰剣』を振りかざしマキシムは時空竜へ迫った。
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