野菜士リーン

longshu

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第1章

1-い 凛の家庭菜園

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「さて、今日は大根を収穫してみよう!」

凛は威勢よくそう言うと、自宅の隣にある荒れ地をすこし耕しただけの申し訳程度の家庭菜園へ向かった。ここは宮城県のとある中核都市の郊外である。中核都市とはいっても東京なんかとは違い、郊外ともなれば目を引く物など何もなく、畑や田んぼばかり、彼女の住んでいる家の周辺はなおのこと、今では過疎化に伴い休耕地と荒れ地が広がりつつあった。

凛の家庭は、サラリーマンの父、主婦の母、隠居の祖父と彼女の平々凡々な4人家族。家族の皆から愛情をもって育てられ、口うるさい父母に半ば辟易しながらも、元気百倍な明るい性格で、友達も星の数ほど多くいつも屈託無く笑い転げている。そして今は、街中にある唯一の私立の教育大学に一日数本のバスで遠い遠いと愚痴を言いつつ通う大学3年生であった。

 何故彼女が、大学生にしては一風変わった野菜作りの趣味に勤しんでいるかと言えば、癌に罹患している祖父の影響であった。祖父は癌発覚以来、無農薬野菜を摂取するため(特ににんじんジュースにはまっていた)日中は畑を耕し続けており、同居している凛も、暇な土日その横で見よう見まねで野菜作りを学んでいるのであった。

今日は、とある晩秋の日曜日、凛の大嫌いな緊張する大学の教職課程もなく、昨晩連ドラの録画を穴が空くまで見続けて夜更かしし、昼前まで大の字で寝ていて、父母に怒られ怒られ一階に下りて来てようやく一日がスタートしたのであった。

早速外に出て畑を見ると、相も変わらず祖父がにんじんの種の播種をやっている。

「あ、おじいちゃん、ちょっと、身体のことあるんだから、ほどほどにしなよ。」

「ワシは、これ(にんじん)で癌を治すんじゃ、ほれ、お前にもやるぞ。」

「遠慮しとく。」

家庭菜園にしては広大なにんじん畑の横にある、こじんまりとした凛専用の畑を見ると、畝の中央に40cm間隔で5本ほどの大根が綺麗に植わっている。土から出ているところはくすんだ緑色に変色してしまっているが、立派な何枚もの大きい青々とした葉をたたえた何とも健康そうな大根であった。

「案外、簡単じゃないの?きっと美味しいわ!野菜作りなんて楽勝ね(笑)!」

薄手のポリプロピレンで出来た菜園手袋をはめて大根を抜き取ろうとする凛。が、勢いよくその根っこを引き抜くと地中に植わっていた目に見えない部分からすぐに横に折れ曲がってしまっていた。

「あぁ~、どうしたのかしら?やっぱり、本で読んだ位じゃダメね。近所の農家のおじいちゃんに教えてもらおうかしら。。。」

大根はその根の長さ分、畝の下を深く掘って耕す必要があるのだが、ちょっと興味本位で初めて見た程度の凛にはそんな事は全然分からないのであった。

「凛~!風花ちゃんから電話よ~!!」

家の中から、昼食の準備をしていた母の大きな呼び声が聞こえる。大根がうまく育たなくて、ちょっと残念に思っていた凛だったが、風花からの電話と聞いて、そんな事などすっかり忘れてしまった。

「分かった~!今行く~!!」

大声で、母の呼びかけに応える凛。

右手に失敗作の大根を抱え、畑道具をそそっかしく家庭菜園に残したまま、友達の遊びの誘いに応えるべく家へ戻る凛であった。
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