野菜士リーン

longshu

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第1章

1-39 『アールヴヘイム』炎上

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「あ、あれは何?大きな島が浮いてるわ!?」

時刻は夕方、リーンの指差す方角に落ちゆく赤みがかった果実のようにたわわでおいしそうな太陽に混じり、大小様々な空に浮かんだ島嶼群が姿を現す。遠目からは大きさまでは分からないが、質量感からしてそれぞれの島が橋渡し数十キロはあるのであろう。画家が白いキャンバスに初めて入れた筆のように、明確に、微動だにせずに、空中にそれらの存在はある。島々は、強固な岩盤に支えられているようで、上部は草地に覆われ山々の起伏や川の流れ、そして、しかとは分からないがそれらは城壁で囲まれ、都市や城のようなものまで見えるようである。

「ホ、ホントだ、夢でも見てるのか?どうやって浮いてるんだろ、神秘的だな~!?」

「飛○石ね!ラ○ュタね!!」

ガガゴッ!

「(剣の)柄で殴ることないじゃないの、柄で!!?」

メルはガラハドのいつにない制裁に、涙をこらえながら反駁した。

《おお、お前たちは知らなかったな。あれは『アールヴヘイム』じゃよ。妖精郷じゃ。あそこではエルフたちが静かに営みを続けておる。エルフたちは遥か神代の時代から肥沃だが争いの絶えない『ミズガルズ』の地を離れて、ああして規律正しく空に漂う大陸を形成して、他の種族からすれば隠棲的な生活を営んでいるのじゃ。》

「完全に神話の話ね!まさかホントだとは、、、。『風の馬』がスキールニルの従者だったってのも驚きだったけど、、、。」

《ははは、お前たちの世界には神話として伝わっている内容も、ワシ達にとっては単なる出来事じゃよ。しかし、変じゃな。いらぬ争いの火種や人間たちの混乱を招かぬよう、不可視の防御膜が貼ってあるはずなのじゃが、、、。》

「そ、そうよね。これまで地上からはもちろん、おじいちゃんの浮遊城とか『レボルテ』の飛空艇なんかからでも見たことなかったもの。ここから見ると『ミズガルズ』の北西部に位置すると思うんだけど、ちょうど死界だったのかしら?」

《いや、彼らは彼らの地上が常春となるように、眼に見えないくらいではあるが悠然とそれに適した地理へ移動しているはずじゃからの。不可視の防御膜で見えなかったんじゃろ。しかし今おもむろに多くの島が見えるのも変じゃな、、、。『ミズガルズ』の人間たちも大騒ぎしておる頃じゃろう?ひょっとして『風の賢者』に何か異変が、、、?》

「え?『風の賢者』って『七賢』の一人?おじいちゃんや『アーデルヘイト』以外にも『賢者』っているの?」

《もちろんじゃ、『七賢』が世界の安寧のために存在していることは知っておろう。『アールヴヘイム』が『ミズガルズ』の人間に知られると、あらぬ争いや諍いを産むやも知れぬからの、『風の賢者』はその風のルーンの力を駆使して空気を目に見えぬように屈曲させ、『アールヴヘイム』の存在自体を『ミズガルズ』から見えなくなくようにしていたのじゃ。おまえの祖父も皆に知られてはおらぬが、実は大切な役目を担っておるのだぞ。》

「へ~、そうなの!『七賢』達はみんなの知らないところでそんな活躍をしていたのね。決めた、私も『七賢』になるわ!!」

メルがまた出番欲しさに突拍子もないことを言う。

「ファンタジーゲームなら、主人公の幼なじみがメキメキ実力をつけて世界に冠たる存在になるなんてのはありがちだがな。しかし、作者を甘く見ないことだな。」

「それなら、リーンはおじいちゃんの後を継いで『土の賢者』で、ガラハドはア○サー王かラ○スロットかしらね(笑)。」

ドキッ。

《ははは、冗談はさておき、その『風の賢者』とっておきの100にも及ぶ島嶼の不可視フィールドが無くなったとなると、彼女の様子が心配じゃわい、お前たちを『死者の海』へ送った後、彼女の城へ寄ってみるかの。》

ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン、、、、

そして、初めて見る『アールヴヘイム』のメカニズムやその歴史に目から鱗が落ちているリーン達の前で、『アールヴヘイム』の上空に突如として火の槍が現れた。

「いやっ!!!」

「あ、あれは、何だ!!?」

「そ、そんな、、、レーネの『時空水晶』で見たのと同じ映像だわ!!!?」

「おまえが『時空水晶』を破壊して、火の雨は防ぐことができるようになったんじゃなかったのか?」

「そのはずなのに!!!どういうこと!!?」

《なんと、お前『真理の顕現』を壊してしまったのか、罰当たりなやつじゃ。お前達の時間で言えば3年ほどはこの世に姿を見せんはずじゃがのぉ、、。》

「それじゃ、どうしてまた同じような惨劇が、、、。」

愕然として項垂れるリーン、レーネの乱心と野望を止めるために反逆者の汚名を着てまでとった決死の行動も、一時しのぎにしかならなかったのか、、、。

「『精霊王』さん、『真理の顕現』に詳しいんですか?あの『時空水晶』は一体なんの役割をする道具なんでしょう?今は、乱心した『レボルテ』のレーネに良いように使われているとしか思えません、、、。」

魔法についてはほとんど無知なガラハドであったが、打ちひしがれているリーンに代わって、オーグレイドに尋ねる。

《ああ、あれか、あれは時空のルーンによって精巧に編み込まれた、この世界の時間、空間、重力、磁力など物理的な力の成り立ちを管理する精密機関じゃ。あの火の槍を異世界から呼び寄せるなど『時空水晶』の力を持ってすれば造作も無いこと事じゃが、変じゃな?》

「淡々と喋ってるけど、あの下で起こっている惨劇を何とも思わないの!!!?」

場所と相手をわきまえず激昂するリーン。しかし、生き物もろくに住んでいない世界の馴れ初めから、その発展を見届けてきた『元精霊王』にとってみれば、異次元から取り寄せた兵器による絨毯爆撃も、単なるちょっとしたイベントにすぎないのであった。とかくこの世界、とくに人間やエルフ、ノームにドワーフ、オーガといった直立歩行の種族達の振る舞いは戦争の繰り返しによって成り立っている。その事実と歴史を全てありのままに見つづけているのが彼であったから。

リーン達が手をこまねいて見ている間に、火の槍はますますその勢いを強めて『アールヴヘイム』に降り注ぎ、彼女たちの視界からでもくっきり見つけられるほど、空中都市は火の海に包まれている。

《そうじゃな、この争いがお前たち世界の住人達の望みだとすれば、ワシ達精霊界の住人には何とも出来まいて。これがどこかの神の企みとなれば話は別じゃがな。神は『神の長』によって、この世界への干渉は固く禁じられておるはずじゃからの、その場合は明らかな契約違反じゃ。》

そう整然と言われれば当たり前の事実、リーン達は自身の親友や恋人だった女が招いているこの惨事をどうしても受け入れることが出来ず、いくらしても止むことのない悔恨に包まれるのであった。

「なぜまた同じ事が起きてしまったかは別として、起きてしまった事はしょうもなし、私たちは急いで『ファニステール』を目指しましょうよ!」

メルが珍しく好いことを言う。

「そ、そうね。そうだったわ。『精霊王』さん、言葉を荒げてしまってごめんなさい、先を急いでちょうだい。」

《おお、落ち着いたか。まぁ、あの『風の賢者』と風魔法を初めとして様々な魔法に精通したエルフたちの事じゃ、お前たちが心配するには及ぶまいて。今頃、都市を狙った火の槍もとっくに消し炭になっておるじゃろうな。さて、それはそうとラルフに日頃の碁の相手の礼をするためにも、お前たちの冒険を少しでも助けてやろう!本当はあと数日はお前たちを連れてのんびり『ミズガルズ』の景色を楽しむつもりじゃったが、急を要すとあれば、あと半日ほどで超特急で送ってってやるぞ!!》

と、言うが早いか、これまで大空を観光するかのように北へ南へ渡り鳥の雁行のようにゆったり滑空していたのとは打って変わり、猛スピードで翼を動かし『ファニステール』に向けてまっすぐに飛行しだした。

「きゃっ!」

その恐るべき速さに皆その場にへたり込む。巨大な物体が猛スピードで動くことによる空気の摩擦や、気流や電位の変化で、周囲は雷や竜巻、豪雨に包まれだした。

「ひぇ~、オーちゃんが本気出した~、、、、。ちょっと待って~。。。」

《はっはっはっ、遊覧船飛行も退屈していたところじゃ、『ファニステール』まで目標半日で行くぞ!》

「お、おぇっ。。。」

急な変化に面食らいながらもレーネの行く末を案じ『イスティファルド』地下へと息せき切って先を急ぐリーン達であった。
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