野菜士リーン

longshu

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第1章

1-45 海神エーギルとフレーセイ島 その2 ヴァンドロメオン探訪

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『フレーセイ島』は遠目に見た穏やかさとは打って変わり、リーン達の目前に広がる風景は清潔ではあるものの殺伐荒涼としていた。人っ子一人いない草原の丘陵地に、見るものを威圧してやまない背の高い濃灰色の城壁、そして侵入者を手招きするがごとく城門は開け放たれている。

遠目には荘厳に見えた『海神』エーギルの白亜の館『ヴァンドロメオン』も圧迫感のある濃灰色の城壁の中にあって、また広大な大地の中に生物のまったく見えない空疎な雰囲気が手伝ってか、何かしらの謂われのない畏れを抱かさずにはいられない。城は、見ると所々廃墟のようにくず落ちている壁面もそこかしこにある。一言で言うならば、人のいない霊宮と言ったところか。

「ゲゲゲ、お化け屋敷みたいね、私、怖いところ嫌いなのよね、、、。」

行動に似合わず怖がりなメルが、冗談半分かもしれないが怯える。

「何言ってんだよ、ドゥーブーの呪いの儀式やってた人間が。一晩置いてってやろうか(笑)。」

と、空元気なガラハドも、そこに感じる何かおそれ多いものに感じる畏怖を、覆い隠すことはできないのであった。

「何だか、いわくありげな所ね。アンピトリテさん、『海神』エーギルはいるのかしら?そしてここはどんな所なの?」

「私も、詳しくは知らないんですよね。『海神』エーギル様は、私たち『イス』の守護神でもあって、たまに『イス』の憩いの広場に訪れて集会をやったりして私たちみんなと交流しているから顔見知りなんですけど、本業はここ『フレーセイ島』で海で死んだ生き物たちの来世への裁きをしているらしいんです。で、いつもはここにいるって言うからきっと今もいると思ったんだけど、、、。」

「え、『海神』エーギルって閻魔大王だったの?」

何にでも口を出したい知ったかぶりのメルがまた口を開く。

「閻魔大王って何だよ?」

「私が放浪の旅をしていたときに辺境のシャーマンに聞いた、ここからずっと遠くの地下の世界にいる死者を裁く裁判長よ。」

「ひぇ~、怖いわね~、それでこの場所も罪人を審判する裁判所みたいに厳粛に見えるのね??アンピトリテさん、あなた『海神』エーギルさんと面識あるんでしょ。ちょっと、ついて来てよ。」

「え、いいのかよ?こんな所まで連れてきてもらったその上、そんな事まで頼んで、、、?」

ガラハドはどうも、アンピトリテに弱いらしい。

「いいですよ、こんなかわいい服ももらっちゃったし、それにガラハドさんとメルさんの喧嘩を聞いてるのも面白いですしね。海中じゃ、こんな掛け合い見たことないです(笑)。」

「あら、コ○トに思えちゃったかしら(笑)?でも、ありがとう。土地勘のある人がいて心強いわ。」

「ありがとう、アンピトリテさん。じゃぁ、早速『エーギル』さんの館へ入ってみましょうよ!」

「怖いもの知らずだな~、、、。」

リーン達、4人なのか3人と1魚なのかは不明だが、彼女達はアンピトリテに案内され『エーギル』の館『ヴァンドロメオン』へ入った。とは言えアンピトリテも初めて入る場所だ、お互いにおっかなびっくりである。城門もそうだが館も当然のように来島者を歓迎するべく?開け放たれていた。唯一、訝しげな点が渡り鳥や虫たちを除けば生き物の気配がまったく見られない点だ。不思議に思いながら館の門をくぐるとまず大広間があった。

大広間は、中央に黒檀であろうか?巨大な漆黒の木材で出来たテーブル、メルの言うように閻魔大王でも座りそうな巨大な物が見えた。その周りには同じく漆黒で出来た九つの背高椅子、どれも鈍く黒光りしていて高さ2mはあろうかという代物だ。

大広間は天井が吹き抜けとなっていて重厚感を感じさせる。左右の壁に一つずつまた大きくてがっしりした扉が付いていた。大広間の設備はまったくのこれだけで、少なく簡素なのが故に威圧感と虚無感を見た者に想起させる作りであった。

漆黒の巨大なテーブルの横には、黒水晶で出来たメッセージボードが立てかけられており、そこには分厚く縮緬状の和紙の上に黒い墨の太く豪快な文字で<本日緊急閉廷、明日ソール三刻(10:00)より開廷>と書いてある。

「あら、『エーギル』さん、ご不在かしら?」

「この島が海の死者達の裁判場になってるってホントだったんですね?お休みしているのか不在なのか、隣の部屋を訪ねてみますか?」

大広間の右の壁の大きな扉を開けると、どうやら次は食卓の間らしかった。10以上にのぼる大きな長椅子が設えられた、真っ白なシーツの掛かった全長10mはあろうかという長方形のテーブルが置いてある。テーブルの上には、金と銀の皿に大量に盛られた焼いた牛の肉や、豚肉の塩漬け、ザワークラウト、銀杯に入っているフルーティーで甘美な匂いを漂わせたビール。

壁面には作り付けの三段の棚が埋め込まれ、一段目には先端を壁の穴に固定された金と銀で出来た焼き串が、二段目には大きな金と銀の首飾り、三段目には同じく金と銀の剣が並んでいた。そして、また少し離れた所にクローゼットがあり、数十着のきれいな衣服が飾られている。

テーブルの左側には、直径3mはあろうかという赤銅で出来た大きな鍋、中にはたっぷりと上面発酵のビールが注ぎ込まれ特有の香ばしい香りをただよわせていた。

「変ねぇ?さっきまでちょっと早めの夕食でも食べようかと待っていたような感じね?」

「ねぇ~、この料理といい金や銀で出来た食器や装飾品といい、『エーギル』って北○路魯山人みたいに美食家なのかしら?ガッ!?」

「確かに、私たちの街で会合をしている時は立派な格好ですね。おいしい物もたくさん食べてそう。でも『エーギル』様には9人の娘の女神達もいて、皆『フレーセイ島』に住んでるって聞いてたんですけど、みんな揃っていないって不思議ですね、、、?」

「お、おい、外に出るか。明らかに違和感あるぞ、、、?」

無人の巨大な館に、整然と用意された豪華なディナー、何かしら不気味な感触を感じ取り、及び腰になる彼らであった。
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