野菜士リーン

longshu

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第1章

1-60 アークタワーにて

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「名にし負う、『可睡の杜』の戦闘長ショウキ殿に参戦していただけるとはありがたいですね。」

「いえ、これも『ハマツ』のため『ミズガルズ』の平和のため。私達『可睡の杜』の修行僧達は、できうる限りの任務を引き受けるつもりでおります。」

ここは、都市国家『ハマツ』の象徴ともいえる石造りの超高層塔『アークタワー』の一室である。『ハマツ』の代表ヤストモは銀色の細淵眼鏡を掛け、スーツに身を包んだ長身の男で、冷静で分別のある物言いをしてこう言った。

『ハマツ』は民主制を敷いている小さな島国の都市国家である。大陸のように、争いと侵略により生まれた巨大権力がたびたび崩壊し、またそれが次の戦争を呼ぶと言った地政学上の帰結を見る事はない。数少ない人員と限られた狭い土地の最大幸福を得るために自然発生的に発展してきた統治体系であった。

また、有史以来幾たびも強大な大陸からの圧迫を受け、島国内で強固に一致団結しているというのもあり、島民の基本的思考には合理と分別が染みついていた。先般の火の雨の災厄の折にもその合理と団結は発揮され、『ルーアン』のように都市中を焼き払われるような事も無く、最小の被害で済んだのであった。もちろんそこには有史以来最強の技術力を持った発明都市という側面もあったのだが。

『ハマツ』の象徴『アークタワー』も火の雨の直撃を受けたのではあるが、塔を建てるために開発された弾性強化岩盤や、超高層塔用水圧車、自己修復ポリマー等により、崩壊するような事も無く、中央統制機能を被災の翌日から遺憾なく発揮し、現在でも統治機能に一点の曇りもないのであった。

「さて、この度の『レボルテ』の侵攻はかつて『ミズガルズ』中原に君臨した『ウェールズ』王国の時にも増して、強力なものでした。家屋全壊121棟、半壊578棟、死者・行方不明者371人という、人口数万人の我々『ハマツ』にあっては尋常ならざる被害です。『可睡の杜』は被災を免れたようですな。避難民の受入にご協力いただき非常に感謝しております。」

「元々寺院というのはそういう緊急時のために創立しているような側面もありますからな、当然のことです。」

これが『ルーアン』であれば、ここまで詳細に被害状況が把握され、迅速かつ組織的に救護や復興に当たる事など望むべくもないのだが、『ハマツ』はそれを当たり前の事のように実現していた。

「かつての『英雄戦争』前の『ウェールズ』王国の侵攻としては、彼ら王族の釈明の言を借りれば、”膨張主義の一部の有力貴族達が自前で『魔法強化船』を揃え港湾まで押し寄せ攻撃を仕掛けた”程度の、言わば私的な物に限られ我々としても城塞や反撃砲の整備くらいで簡単に対処はできていたのですが、今回のように空から炎の爆弾が降ってくるとなると対処のしようがありませんでした。しかも『レボルテ』からの直接の声明はなく、意図も目的も皆目見当が付かないのです。」

「うむ、不可解ですな。彼らの真意を探るためにも共同軍の派遣は必要となりましょうな。」

『レボルテ』の無慈悲な侵攻に対する反攻の狼煙は、まずは今は無き『ウェールズ』王国の『ルーアン』暫定政府から上がった。実質的な外務大臣の役割を担っている『ジルブレヒト』という主席参謀の呼びかけによって。『レボルテ』に対して企図された包囲網は、『炎の散弾』によって破滅的な被害を被った『ウェールズ』を筆頭として、軽微な被害で防ぐ事が出来たここ『ハマツ』、また大小様々な国家、そしてほとんど害のなかった『ジャムカ帝国』まで、『ミズガルズ』中の国家を巻き込まんとする壮大なものであった。

そして今現在、『ハマツ』の市長ヨシトモと『可睡の杜』の部隊の長となっているショウキ及びその配下達達によって、この度の遠征軍の体制確認と作戦会議を開催するに至っている。

「それでは、陣容と作戦についてです。先の戦争で血統が完全に途絶えたと考えられていた『ウェールズ』王国エーベルゴード家でしたが、中から奇跡的に王女レティシア・F・エーベルゴードの生存が発見されました。今回の遠征軍は彼女を首領に仰ぎます。これは共同軍の正当性と調和を演出するためですね、主力軍は暫定首都『ルーアン』から、騎士、魔道士、工兵、歩兵合わせ10万人進軍する事が決まっています。我々『ハマツ』の軍勢は千人、数は少ないですが、最新武器を搭載した工兵隊を組織して臨みます。新たな防衛兵器の試用も兼ねてです。私達に領土的野心はありませんから、攻撃を受けた身として『英雄戦争』の報復戦に共同参加する、といったスタンスです。ここまでの所で不明な点はありますか?」

ヤストモの話は、どんな時でも整然として私見を省いている。民主主義国家の頭領としてのバランスのとれた主義信条を感じさせる。

「各国の動きと我々の立ち位置についてはだいたい分かりました。斎主の『リョウジン』より話は聞いておられようが、私達は信仰を持つ身。侵略戦争に対する報復に付き従うと言えばまだ名分が立ちますが、それでも基本は伝令や後方支援、救護に当たらせて頂ければと考えております。」

ショウキ率いる『可睡の杜』の修行僧達は総勢50名、その内10名ほどが今回の会議に参加している。会議に参加したその中の5人は皆神妙な顔をして、静かにヤストモの話を聞いていた。中には『英雄戦争』の『アーデルヘイト封印戦』を経験した最古参もチラホラ混じっていた。中に、リョウジンの密命を理解している『テューレン』一族の者もいる。

「ええ、『リョウジン』様から話は聞いております。私達『ハマツ』の民がいつも一目置いているのは、あなた方『可睡の杜』一門の方々の身体能力の高さと、伝令諜報等のスキル。できれば『ウェールズ』の報復戦などで我々の民一人たりとも死者は出したくない。あなた方の索敵や戦況判断のスキルに非常に期待しております。」

「なるほど、では我々は、先遣や諜報部隊として一般兵士のフォローをすることに致します。」

「ええ、戦闘は我々の開発した新兵器に任せていただき、戦局を正確に判断する、被害を最小限にとどめる、その一点に注力して頂ければと思います。」

「では、そのような役割で望むと致しましょう。もちろん、一般兵士に危難が及ぶ場合は、私達も全力で守護いたしますぞ!」

「では、古くからの紋切り型ではありますが、血判状といきましょう。」

このスーツ姿の隙の無い民主国家代表と、『可睡の杜』の修行僧達は、洗練された民主国家『ハマツ』には不似合いな血判状に集まった皆々連判し、一風変わった会談を終えた。

--- 数日後 ---

「え、『ハマツ』が開戦!?明後日艦隊が『ハマツ』港を出港!?『可睡の杜』の修行僧達も参戦!!?ショウキさんが首領!!!?」

ユーイは『可睡斎』の客人用に用意されている『ハマツ』新聞に目を通していた(新聞と言っても不定期で、号外のみ活版印刷で刷られる程度のものである)。

「え、何々?」

「この間いろんな所に炎の雨を降らせてきた『レボルテ』っていう国に対して、いろんな国が集まって戦争するんだってよ。でも『ハマツ』は少しだけ参加する見たいだけど、ショウキさん達は戦い得意だから引っ張り出されたみたいだね。」

「そんな!人間同士争っている場合じゃないのに!?団結して超〇型巨人や〇形の巨人に対抗しないといけないのに!?」

進○の巨人に頭の中を食い破られているワカが漫画と現実を混同して答える。

「はいはい、でも最近ショウキさん見かけないと思ったら、そんな事になってたんだね、噂でしか聞いた事無いけど、相当強いらしいから、そんなに心配する事ないかな~。。。」

「そうだに、ショウキおじさんスーパーサ〇ヤ人みたいなんだに!黄色く光るし!!」

「はいはい、でもマサムネがまたどうなるか心配だよ。あいつ無茶するからな~。。。今回もまた何か義侠心に駆られて突拍子も無い事をやり出さないと良いのだけど、、、。」

ユーイは7年前の『英雄戦争』の時の事を心配している。『ウェールズ』の圧政を打破するという大義に駆られ、『革命軍』に加わり暗闘していた時期の事を。他国の戦争に加入して日夜命を危険を晒している、日を追う後に戦況は激しさを増し息子の安否もしれない。子を思う親としては、心配で心配で夜も眠れなかったのであった。

「マサムネくんか~、もう何年も見てないけど、いい男になっているかしら?今何しているの?」
ミーナが懐かしそうに尋ねる。

「たまに便りが来ますが、なんかいろんな街を回りながら大道芸人の真似事をしているそうですよ。。。たまには帰ってくればいいのに、チェッ。」

「ねぇ、その船に乗ればマサムネ兄ちゃんに会いに行けるの?」

ロイネも優しかったマサムネに会いたいようである。

「いや、そんな戦争にあいつを参加させたくないんだけどね~。。。でも、フラフラしてるからこっちから連絡取りようが無いしな~。。。」
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