野菜士リーン

longshu

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第1章

1-62 レティシアの覚悟

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「私が指揮を執って『ヴァルヴァンティア』へ進軍ですか?な、何も出来ませんが。。。」

「もちろんだ、お前は、戦場の女神よろしく、凜として前を見ていればそれでよい。采配はファビウス殿が全て行ってくれるからな。」

刻はマーニ四刻(24:00)首脳陣による『レボルテ』への対抗策を煮詰めた後、ジルとファビウスはレティシアの仮住まいに赴き結論を伝えた。深夜に及んでもまったく議論疲れを見せずない『ウェールズ』中枢を担う二人に対し、レティシアは漁村での早寝早起き生活の癖が抜けきらないのか寝ぼけ眼である。

「まったく、お前の独断専行は今に始まった事では無いが、此度も少し唐突すぎるぞ!」

「国を思っての事だ、許せ。」

「確かに、あの無差別な攻撃を受け、いつ攻め入られるか予断を許さない今となっては、こちらから打って出ねばジリ貧じゃからの、至極妥当で用意周到な判断ではあるが、、、。」

「無論、お前の権力を簒奪しようなどと言う腹は全くない、そんな事をそそのかす配下がいたらきつく仕置きするまでだ。」

「そんな事はどうでもいいんじゃが、その同盟話、いくらなんでもあまりにできすぎとりゃせんじゃろうか?お前一人の力でそんな大規模な共同軍の話を付けきれたのか?」

「ふふふ、まぁおいおい話してやる。何より再び『レボルテ』にまみえて勝つ事が先決だ。」

「して、戦力と戦術は?」

「先刻、教会『イシス』での会議でも言ったであろう、『ルーアン』主力軍10万騎、『ジャムカ帝国』3万騎、『スペニア』5万騎、、、、、、新緑の森の北方100kmに各軍集合し、その後3手に分かれ、総攻撃に踏み切る、、、」

政治や外交の世界の事などさっぱり分からないレティシアであったが、二人の『ウェールズ』を思う気持ちだけはよく理解出来る。

(7年前、野蛮な『レボルテ』に殺されるばかりだった私を助けてくださったジル様。私はあなたのため、死んだレイシア姉さんのため、一度は滅んだ祖国のため、私に出来る事は全ていたします。)

彼らの矢継ぎ早の戦略議論を横で聞きながら、そんな事を決意するレティシアであった。

「、、、だ。分かったか?レティシア!?」

「は、はい!?」

「く、物わかりの悪いお前のために、噛んで含んで言うとだな、、、」

「またか、おまえのそのレティシア様に対する態度だけは我慢ならん!二度同じ事を言うなら、その舌引っこ抜くぞ!!!」

「わ、分かった。配慮する。。。」

「ふふふ、、、。いいんですよ、お気になさらなくても。私は元はと言えばただの小娘ですから(笑)。」

「こ、小娘などと、あなたは『エーベルゴード』家の最後の血統なのですぞ!?」

「小娘か、これはおもしろい、ハハハハハ!!!」

どんな時も、その仕草や存在が場を和ませずにはいられない不思議な雰囲気の持ち主、それがレティシアなのであった。

--- 数日後 ---

エーベルゴード家に代々伝わる『聡明の帝冠』と『宝剣デュランダル』に軽量かつ丈夫そうな白銀の鎖帷子を身につけて、数頭の戦馬がひく馬車に載り、レティシアは先陣を切る輝かしいファビウス達の様子を見守っていた。彼女のその姿はジルブレヒトの言ったように戦う女神そのもののような神々しい姿である。傍らにはそのジルブレヒトが控えている。『ウェールズ』王国『ルーアン』の命綱とも言える『エーベルゴード家』最後の王女の暗殺を防ぐ最後の砦である。当然、ジルの持つ全ての魔法知識を駆使した強力な魔法結界と物理結界が張られている。

レティシアの視界に広がるのは大草原に展開した『ウェールズ』最後の武力である10万騎である。『民心の離反』という最悪な士気の低下とそれに伴う指揮系統の混乱で、ゲリラ戦から身を起こした山賊の集団とも言えるような『革命軍』に敗れ去った王国軍ではあったが、『ルーアン』におけるファビウスの7年にわたる安定した治世を得てかつての栄光を取り戻したかのような煌びやかさであった。

「私、物心ついた頃にはジル様に漁村に連れて行かれたものだから、王宮での思い出は、豪華な住まいとレイシア姉さんくらいしかないのだけれど、こんなにも立派で頼もしい方々によって作られた国だったんですね。」

「当たり前だ、エアハルト様の乱心さえなければ、我々はいまでもこの広い中原の支配者として君臨していたはずなのだ。」

「そう、父はおかしくなっていたのですか?私は宮中行事くらいでその他には全くと言っていいほどお会いした事が無いから分からなかったのですが、、、。」

「そうだ、昔から選民的と言った部分で極端な所がある主君ではあったが、『英雄戦争』よりも更に前、お前が生まれた頃より、段々と精神をむしばまれていった様に見えたな。ひたすら自身の書斎にこもり、なにか怪しげな魔道の研究に没頭されていたようだ。最後には乱心としか呼べないほどに統治能力を欠いていたな。お前の姉を書斎に引き込むようになったのもその頃だよ。最終的には、仇敵マキシム・ライニンガーやカーン・ブラントに王女もろとも殺害されてしまったがな、、、。」

忌々しげに吐き捨てるようにジルブレヒトが言う。

「そうだったのですか、、、全然知りませんでした、、、。」

レティシアはまるで我が事のように申し訳なさそうにうなだれる。『英雄戦争』当時は、彼女たち『エーベルゴード』家の者達に『ウェールズ』の命運は握られており、その雰囲気は薄まったとはいえ現在でもやはり王家の血というものは歴として存在する。物心ついた時より漁村で7年も匿われ悠々自適に生活してきた今の彼女にはとても想像できない途方もない大きな事のように感じられた。

「しかし、見よ!この前方に広がる、我々『ウェールズ』軍の堂々とした勇姿を!!お前の血筋と振る舞いによって、これだけの勢力が復活できたのだ、お前には感謝しているぞ。オレは思う、此度の戦にどれだけの苦難・犠牲が待ち構えていようと、かならずやあのマキシム・ライニンガーの娘、レーネ・ライニンガーの首を取り、かつての栄光を我らが手に取り戻すと!!!」

「は、はいっ!頑張ります。」

汗をかき震える、初々しくも可憐な王女レティシア。彼女には当然ながら分不相応な重責ではあったが、ジルは敢えてこの時に『エーベルゴード』の血の重さを言い放ち、王女としての覚悟を求めたのであった。
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