野菜士リーン

longshu

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第1章

1-63 出立のルーアン軍

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--- 軍団先頭 ---

(『レボルテ』からの火の散弾が降り注いだ時は、いよいよ『ウェールズ』最後の日かと思ったが、それを逆手にとってのこの壮観、無論レティシア様の持って生まれたカリスマ性がこれを可能にしているのだが、生き馬の目を抜くような他国との交渉と言い、レティシア様の権威を高めるための演出と言い、ジルブレヒトも相当な策士よの。あいつに愛国の志がある事は間違いない。こうなっては腹を据えるまで、ワシも乗せられてやるわ。カーンへの意趣返しもあるしな。)

ファビウスは『ウェールズ』出征軍の先頭で陣頭指揮をとりつつ、そんな事を考えていた。数週間前にジルから、『エーベルゴード』の末裔が今も存在している事を告げられ、それ以降の急展開だ。7年間平穏に『ルーアン』を統治はしていたが、彼も元々はれっきとした将軍、『英雄戦争』で苦杯をなめ続けて来た『荒れ狂う木こり』カーンに対し、激烈な対抗心を今もなお持っているのだった。

「おい、ファビウス、7年ぶりじゃ、腕が鳴るな!!あのカーンめ!今度こそこの鉄槌を食らわせてやるわ!!!」

「うむ、『怒れる木こり』には節目節目で何度も煮え湯を飲まされているからな、あの化け物みたいな身体能力の高さ、7年経ってどうなったか、また一度剣を交えてみたいもんじゃな。」

戦友ドルガンと言葉を交わす。都落ちした『ルーアン』を堅守するため、自然と感情を表に出す事がなくなったファビウスも、心なしか嬉しそうな様子である。

「何をのんきな事を!今度こそは一騎打ちなどと悠長な事を言ってはおれん、どんな手段を使ってでも『イスティファルド』を奪還するのだ!!」

「今からそんないきり立ってどうする、奴と見える時までその激情は取っておけ(笑)。」

他の者にとっては、厳つい恐怖の対象でしかないドルガンも、ファビウスにしてみれば竹馬の友であった。実際彼らは幼少の頃より『ヴァルヴァンティア』の貴族学校にて切磋琢磨した間柄である。動のドルガンと、静のファビウス、端から見れば水と油の間柄ながら、彼らは日夜酒を酌み交わすほど親密でもある。

「しかし、ジルブレヒトの外交術には目を見張るものがあるな。いつの間にやら多国間の大軍勢を組織しておるとは。7年前はただの意固地でへんちくりんな黒魔道士だったのだが、、、?」

「奴の変身ぶりなどどうでもよい、この鉄槌を『レボルテ』に下すまでじゃ!!!」

「相変わらずだな(笑)。」

久しぶりの出征と、やがてくる激戦を前に、尻込みするどころか楽しんでいるようでもある老将達であった。


--- 魔道士部隊 ---

10万騎の大軍勢の中ほどで、魔道士部隊の長となったヒュードとヴァンがルーン念話をしている。

《これだけ離れてれば、ジルブレヒトには傍受されまいが、あいつなかなかやるな、負け犬根性だった『ルーアン』貴族達が、今やこの勢いだ、しかしいつのまに同盟軍をまとめたんだ?用意が良すぎるぜ?》

《仕事の出来る男ってそういうものなのよね~。憧れちゃうわ~!》

《なに、言ってやがる!!》

《グラマーで妖艶な女魔道士にそう言ってもらえるとは光栄だな(笑)。》

《ゲゲッ!?き、聞こえてらしたんですか、、、。》

《念話の解読など、この程度の距離ならば闇魔法使いにとっては知れたもの。それよりお前達、7年ぶりの戦争だが魔法の修練は積んできたのか?》

《は、はい、ジル様。先日、古代魔道書『イフリートの記憶』にて解読した新たな火炎魔法、『革命軍』にお見舞いしてやります!》

《ふふ、頼もしいな、此度の戦はお前達、有能な王宮魔道士の魔法戦に掛かっていると言っても過言ではないだろう。先回は『革命軍』の芋魔道士、レーネやリーン達に遅れを取ったが、私もこの日のために7年間研究してきたつもりだ。》

(小声で)(おい、今後、念話はやめようぜ。)

(そ、そうね、あんまり聞かれたくないような話もあるし、、、でも、グラマーで妖艶なんて、、、ジル様、私の事見てくれているのね!)

(ちっ!冗談だよ!)


--- 『ルーアン』出征広場 ---

「レティシア様行ってしまわれたな。ジルブレヒト殿の手腕により、滅びる寸前だったところから、乾坤一擲の賭けに結びつける事が出来たのだが、果たして本当にあの『レボルテ』を打倒する事が出来るのだろうか?」

庶民院代表サイトの目線の遙か先に、『ウェールズ』最後の師団が規律正しく更新しているのが見える。先頭には、実質的な総大将であるファビウスや猛雄ドルガン、勇猛な騎士でもある領主達。中尾には彼ら騎士達を援護し、また先方への大がかりな先生魔法攻撃を行うための魔道士達、そして最後尾には、既に動かしがたい新たな『ウェールズ』の象徴となっているレティシア王女がいるはずである。

そしてサイトの目線の更にはるか遠くに、この世界の根幹とも言える大きなくすの樹『ユグドラシル』と周辺の『緑水青山の森』が見える。人間達の些末な争いなど、まったく意に介しないその雄大な様は、サイト達に彼ら人間という存在の卑小さとそれに相対する『ミズガルズ』を含む世界の崇高さを感じさせずにはいられないのであった。

『ウェールズ』の国教『光のルーン』を信仰している彼らではあったが、『光のルーン』の強要している懸命で一種偏狭な教義を諳んじるまでもなく、いつどこからでも見る事のできる天界まで到達するかのように堂々とそびえた『ユグドラシル』を見て、その存在を感じるだけで世界との一体感を自身の物とする事が出来るのであった。

「占星術師の話によると、遙か南方に『土の精霊王』アースドラゴンが飛来するのが目撃されたそうよ。瑞獣『アースドラゴン』がこの世界に出現するなんて何百年に一度かの珍しい事で、『ウェールズ』にとっては非常な吉兆らしいわよ!きっと勝てるわ!!」

サラもサイトと同じ風景を共有しつつ、この戦の帰結を考えている。

「うん、そうだといいね。ジルブレヒト殿のおかげで私達庶民は戦役を免れているし、やはり『レボルテ』の無差別攻撃は許容するに余りがある。我々の領主や配下の騎士殿達に期待しよう。」

「ええ、そうしましょう。さ、私は荒れた家の片付けがあるから、行くわね。」

「ああ、私も復興の指揮で大忙しだ。では、ごきげんよう。」

レーネの炎の雨によって、がれきと化した『ルーアン』の中央広場での閲兵式を終え、『ミズガルズ』の誇る遙かなオルレアン平原へ繰り出した大兵団。彼らを見送った後、庶民達の代表サイトとその知己サラは静かに佇み、武運を祈りつつ普段の生活へ戻るのであった。
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