野菜士リーン

longshu

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第1章

1-ろ その日

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「おおお、こ、こんなひどい事を、人間が出来るものなの!!!?」

その時26歳のレーネは相も変わらず『時空水晶』を覗き込んでいた。1年前の『レボルテ』建国の立役者『英雄王』マキシムの死後、代表の地位を継いだ一人娘のレーネはその重圧を一身に受け、『レボルテ』を守るため懸命に防衛技術の収集と開発に寸暇を惜しまず励んでいるのであった。

それを見つけてしまったのはレーネから見れば全くの偶然としか思えないものであった。レーネは『レボルテ』防衛の武力を探るため、『真理の顕現』である『時空水晶』を使って、それが映し出すあらゆる時代のこの世界における武器や防具、兵器や魔導具を物色していた。

『レボルテ』の兵力の要である『ミスリル』防具や魔道を駆使した『飛空艇』も、『時空水晶』に映った『ミズガルズ』とは層を隔てた世界『アールヴヘイム』のエルフ達の知識を基に、レーネを中心に彼女の率いる王宮魔道技術陣がアレンジして開発したものであった。どちらも高磁化環境下・高電圧環境下での金属錬成や、無重力の時のルーンを結晶に閉じ込める技術など、時空魔法技術の粋が詰まっており、彼らの住んでいる『ミズガルズ』単独の知識では絶対に開発不可能な代物であった。

そんなある日、レーネは『時空水晶』の中に、彼女の住んでいるこの世界とは全く異なった原理を持つ異世界が映っているのを目撃した。レーネの指示も無くまったく勝手に自動的に、だ。少なくともその映像の始まりはそのように自然なものに見えた。

「あら、これは何かしら?これまで見た事も無いような光景だわ?こんな白黒のまだら模様の馬や、ぷっ、何あの眠そうな顔をした黄色い首の長い動物は?こんな動物『ミズガルズ』や最近『時空水晶』を通じて分かった他の世界『アールヴヘイム』や『ムスペッルスヘイム』にも居ないはずよ?これは一体???」

これまで見た事のある世界とは大きく異なる光景に大いに興味をひかれたレーネは、これまでの自身の『時空水晶』操作知識を頼りに、視察旅行を始めた。

その世界はレーネの住んでいる『ミズガルズ』に負けず劣らず美しいものだった。肥沃な大草原に闊歩する白黒の馬や首の長い馬たち、頭頂部のはげたワシ。そこから遠く離れたところでは、氷に囲まれた大地とそこに住む黄色いくちばしを持った魚のような鳥。どの自然や生物も精一杯その生を謳歌しているように見える。そして、そこに暮らしている人間達は装束こそ大きく違うものの姿形は彼女たち『ミズガルズ』の住人とまったく瓜二つであった。レーネはその世界と人間達の生活に魅了され1ヶ月ほどもその世界の探求に没頭する。

その世界には三つの種族があるようであった。白い人間と、黄色い人間と、そしていろんな色の肌をした奴隷達。概括して白い人間は奴隷達を使役し、また酷使していた。

「ふ、白い人間達は『ウェールズ』と同じような事をやっているのね、どこの世界も人間というのは学ばない存在なのかしら、、。」

そして、種族間の間でもやはり蔑視や略奪はあるようであった。これも『ミズガルズ』と大差ない。レーネは人間の持つ争いや蔑みといった本能を、『時空水晶』を通して数限りなく見る内に一種の諦観が出来上がっていた。そして、それに相反するようにどの世界に備わっている自然も『ユグドラシル』のそびえる『ミズガルズ』同様にあくまで美しいと感じた。

天空をも圧倒するかのようにそびえ立つ雪深い山々は、地表で争いを繰り広げている人間の行いなど、全く意に介さず静かに佇んでいる。そして、そこかしこに自生する杉や檜と言った巨大な樹木たち、数千年も昔から土地神のように奥ゆかしくひっそりと周りの全てを包み込むようにその営みを続けている。人間に対して諦観を持つに至ったレーネも、映像器を介してでも心にまっすぐ響き渡る大自然の営みには感動せざるを得ないのだった。

(あの子(リーン)が、自然にばかり拘るのも分かる気もするわね。。。)

『時空水晶』の映す時代では白い人間と黄色い人間が戦争をしているようであった。レーネの見た理解では、白い人間は黄色い人間を蔑視しており、抵抗している彼らの他は世界のほぼ全てを支配下に置いているようであった。黄色い人間はそれに抵抗するため、一族の命運をかけて、少ない資源しか持たないのではあったが懸命な魔法使い達によって兵器を開発し、同じ肌の色をしている群衆を半ば脅しつつも鼓舞し、白い人間達の支配に楔を打ち込まんとしていた。しかし彼女の目には世界を支配している白い人間達との物量差は圧倒的に見えた。

そして、レーネはそれを目撃してしまう。

黄色い人間達の大地上空に、突如として炸裂する巨大な火球。温度は数万度にも達しようか。その上を爆速で宇宙まで展開する巨大なキノコ雲。その自然とは似ても似つかない異形の様相の下、地表ではレーネ達と同じ人間達が地獄よりも更にひどい状況に置かれていた。全身真っ黒に炭化した女の子、もちろん死んでいる。剥がれて垂れ下がった皮膚を激痛と共に引き摺るお年寄り、しばらく見ている内に倒れピクピクと痙攣し、こうなるに至った原因も知らぬまま命を終える。強い爆発の衝撃に目や内臓が飛び出してしまった人間達、全身に突き刺さる建物の破片やガラスでハリネズミのようになった学童達。どれもこれも表現の域を超えて無残で、直視できないような惨状であった。

嗚咽の声を漏らし一瞬で失神してしまったレーネは、やがてむくりと起き上がると、無我夢中で彼女たちが住んでいる『ミズガルズ』と似てはいるが異なった世界で起こった事の一部始終を調べようとする。その後数年にわたって蔓延する広がり続ける不治の病、生きながら腐り死んでいく多くの者達、爆弾に見舞われたものが更に受ける差別。そしてそれを最後に目撃してしまった。

戦闘機に乗り、その悪魔の攻撃をした兵士達がその日に大宴会で将軍に祝されている光景や、ネズミでも葬るかのようにその爆弾の致死量を計算する科学者達、攻撃を決めた選民的な政治家。阿鼻叫喚の地獄図とすこし場所を隔てたところでは、こんな情景がやらわかに降り注ぐ五月雨のように淡々と繰り広げられているのである。

「わ、私達とおなじ顔かたち感情を持った人間達が、こんなむごい惨劇を繰り広げられるというの!!!」

激情に身を震わせ絶望するレーネ、そして徐々にある考えが和紙が水を吸うように急速に脳裏に浸透していった。その水は深黒でしかし透き通った真空を思わせる黒さだ。半年の後レーネは彼女の思い描いたある世界を実現するために、静かにその計画を実行に移すのであった。獲物を定めた執拗な雀蜂のように。
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