野菜士リーン

longshu

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第1章

1-65 ムスペッスルヘイムのノーム城

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「いいでしょう、協力するわ。」

幾分頬を赤らめてフィリはこう切り出し、リーンから差し出された『土の賢者』ラルフよりの手紙をまるで慰撫するかのようにそっと傍らに置いた。ここは地下世界『ムスペッルスヘイム』のノームの居城『ルルロロノラムスル』である。

フィリは、王座に軽く腰を掛けてゆったりとくつろいでいる風である、物言い、動作の一つ一つに女王としての自然な威厳と気品が見え隠れしている。何百年もかけて培ってきた自然な風格だ。

リーン達が『フレーセイ島』の『波の乙女』達の案内に従い、彼女たちが『層間エレベータ』と呼んでいた『海神エーギル』の居城『ヴァンドロメオン』の地下に配置されている巨大な転送装置に乗って地下世界へ着いたのは、地上の時間で言う3日前であった。『層間エレベータ』の動きはそれはそれはスムーズで『波の乙女達』に言われなければ、本当に下降していたかどうかすら分からないくらいであった。

地下世界とは言っても、広大で真っ暗な洞窟に所々松明の明かりが照らしている、と言ったような風景では無く地上で太陽が上る時間と連動するように、その光を受けた苔類の一種が地下まで伸びたその群生根を通して淡い光を地下世界に伝えていた。

地下世界の地面からその蛍光する群生根を見上げると、その根の太さに比例した光の大小や、苔の種類による色のコントラスト(まるで七色であった)により、地上の住人達には幻想的な感覚を起こさせる。苔たちの地表での受光から地下での蛍光開始まではおよそ1時間程のタイムラグで、消光もそれに準ずる。地上との時差が1時間あるようなものであった。『ルルロロノラムスル』に着くまでに、親切にも案内してくれた村のノーム達から聞いた話によると、その不思議な特徴を持つ苔も『七賢』達による創造との事である。

そして、その薄桃色の巨大で優雅な城は、壁一面に自生している光苔に照らされた幻想的な地下空間に柔らかに調和し、花畑のようにリーン達の面前に横たわっていた。『世界蛇』によって海底に沈められたかつての首都『イス』に代わって建てられたノームの首都城『ルルロロノラムスル』である。

塔や門の端々の形状までよく練り込まれた繊細な芸術品のような建造物は、見る者にその完璧さへの畏怖と自然に湧き出てくる多幸感を与えた。一都市ほどの巨大な建築物も彼らの思い描いた構想通りに精密に創り上げてしまう、ノーム建築の結晶である。

そしてごく平和的に、城まで連れてきてくれたノームの農民から城内の案内まで引き継がれ、ノームの女王の待つ謁見の間まで難なく来られたのであった。その城の中の様子は『ミズガルズ』でも類を見ない整然さと規律正しさとそして善良さに満ち満ちていた。

「ありがとうございます、『水の賢者』フィリ。こちらから『ユグドラシル』の根の先にある『イスティファルド』の地下迷宮までは何日ほどの行程なのでしょうか?」

「まぁ、そう慌てないで。ザイラート、あなたこの方に付いて行って旅の目的の援護をしてあげてちょうだい。」

「ええ、分かりました『ノームの水賢』よ。私が責任を持って、彼らを目的の地へ導きましょう。」

ザイラートは『ノームパレス』の近衛兵長をしているとても礼儀正しい偉丈夫である。ノームにしては背が高くリーンと同じくらいで160cm程、肩幅と胴回りはその倍はあろうか、肉付きは人間にしては比較的華奢なガラハドと同じくらいあった。そして、その姿は優美なハヤブサを思い起こさせた。ノーム特有の美しい蔦が空へ向かって伸びてゆく様を描いた文様の入ったミスリルの鎧を身に纏っている。

「詳しい事は、彼に聞くと良いわ。」

「さ、お客人。今、このほど起こった地底火山噴火の被害状況の報告と対策策定の打ち合わせをしておるところでな、残りの事はこの近衛兵長に聞くと良かろう。」

宰相的役割だろうか、見るからに厳格なノームの長老然とした老ノームがリーン達を謁見の間からあしらう。何しろ、ノーム100人からなる執政会議の最中に通されたのである。このノームの地下世界を一人で切り盛りするフィリを数分間でも独占するのはなかなかの珍事であった。

ノーム達は謁見の間から別室へ移るリーン達を尻目に、村を襲った溶岩流の被害状況や、地温の変化が農作物に与える影響などを事細かく議論している。国を興したばかりで基盤も弱く防衛に忙しかった『レボルテ』や領主達の搾取でのみ成り立っていた『ウェールズ』とは似ても似つかない盤石な地底の王国での政策運営に、リーン達は驚嘆するのであった。
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