野菜士リーン

longshu

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第1章

1-109 草原の戦い その8 銀の狼

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『草原の王』ジャムカの目の良さに驚嘆しながら、ヴァンは不可思議さを感じていた。ヴァンの探知網には時空魔法の動きは出ているが生命反応が無い、それにジャムカは金属で出来た狼という。ひょっとして、さっき危惧していたレーネが開発した魔法生物か魔法兵器なのではないか?

ジャムカの言う金属で出来た狼は、あれよあれよという間に、『草原の王国』軍に迫ってきた。ヴァンの目にも見えるような距離にまで近づくと、ヴァンはどうやらその事となりを理解した。それは大きく雄々しくそして美しい、ミスリル金属で出来た造形物であった。

それらは狼の形を取り、4本の気高く優雅な足を素早く動かし疾走している。これが戦争でなければ、うっかり見とれてしまうかもしれない程、神話的でうっとりとした夢の中の出来事のようであった。不覚にもぼんやりと眺めてしまったヴァンの目の前でミスリルで出来た狼たちは『草原の王国』の騎馬兵達に襲いかかる。

「グァァッ!!」

ミスリル狼の爪は、騎馬にまたがった軽装の『草原の王国』の兵達の身体をいとも簡単に引き裂いた。肩から下腹部まで袈裟懸けに切られ絶命する兵士。攻撃は凶悪ながらそこは金属製の狼、あくまで無言である。無言のまま、黙々と次の獲物をめがけ跳び回る。

「ふむ、ホントに金属、あれは銀だな?銀で出来た狼か!持ち帰ったら、金になりそうだな、ハッハッハ!」

魔法生物との戦いはともかく、戦慣れしている『草原の王国』の王様は、場違いな間延びした台詞を口に出す。同じく、ムカリやボオルチュ、閣僚達も初めて見る怪物達にも落ち着き払っていた。

「ジャムカ様!!ミスリル銀です!通常のものよりも高強度で魔法に強い銀ですよ!!そんな売るとか言っている場合じゃないです!!!」

その高度な魔法技術と、目前で見る殺人的な攻撃力に、ジャムカに非難の声を上げるヴァン。ヴァンはヴァンで、この、魔法に強い素早い銀の獣に、どう対処した良いか100通りほどの考えを高速で巡らせている。

「はっ!狼狽えたりして、お前はかわいいな!まぁ、見てろよ!!終わったらお妃にしてやる!!」
ガクッ、腰砕けになるヴァン、何か対抗できる戦略はあるのであろうか?心配でしょうが無いヴァンであった。

そんなヴァンを気にすることなく、言うまでも無く軍の最先頭にいるジャムカは、『風の馬』ブローズグホーヴィを駆って攻撃に繰り出した。

「唸れ!勝利の剣!!」

携えていた勝利の剣を掲げ、大きく素早くそして力強く左右に一閃する。ゴウンッ!!大気が唸りを上げて大きく鳴動する!!そして、一瞬のうちに胴体を真っ二つにされるミスリル狼たち。剣撃の幅は100mはあろうか、勝利の剣から発せられる強烈な真空の刃である。

「ひゃあっ!!す、すごい、ヒュード(ヴァンの同僚の風の魔道士長)の鎌鼬なんか目じゃないわ!!!」

ムカリやボオルチュは見慣れているのか、どうと言う事は無く、敵狼の残存勢力と兵士達の被害状況をそろばんを弾いている。しかし身体を真っ二つにされたはずのミスリル狼たちは、首を落としたり、片前脚がもげたり、両後脚を失ったりしながらも、なおも攻撃を継続してくる。これにはさすがに狼狽える屈強な草原の兵士達。

「なんと、おもしろい、あいつら傀儡か?首が落ちてどうやって兵士の場所が分かるのだ?」

ジャムカはそう言うと、『風の馬』ブローズグホーヴィを駆って、狼たちの真ん中に踊り出る。

(な、なんて緊張感無いのかしら!!?頭の中の危機回路が麻痺してる?)

草原の兵士達を追いかけて疾走していた首のないミスリル狼は、ジャムカが近づいてくるのが分かると、踵を返して『風の馬』の上で興味深そうにしげしげと眺めているジャムカに飛びかかった。

(言わんこっちゃない!?)

ヴァンが目を覆った瞬間、ハエでも躱すように難なくあしらうジャムカ、そして狼の胴体を足で、両前脚を両手でしっかり掴むと、なんと、切断部に触れるくらいまで顔を近づけまじまじと観察を始めた。

「おおっ、こいつら中身が空洞だぞ!!筋肉もないのに一体どうやって動いているんだろう。。。あ、これは!?」

もがいているミスリル狼の切断された首に腕をねじ込み青い色をした鋭角の水晶を捻り取る。その深海の底のような深い青色をした宝玉は内部でチロチロと同じく青い炎が燃えている。一目で飛び抜けた神秘性と傑出して緻密な魔法を感じさせた。ジャムカは一時戦も忘れ『草原の国』では絶対にお目にかかれない魔法の結晶を二本の指で挟んで見とれている。

命の源とおぼしき核を奪われたミスリル狼は、関節の継ぎ目からばらばらとジャムカの前で分解し『風の馬』の上で脆い枯れ葉のように崩れさった。野生の勘でミスリル狼の弱点を直ぐさま見抜く眼力、そしてミスリル銀で出来た魔法生物を羽交い締めにできる脚力、それに埋め込まれている結晶をねじ切る膂力、ジャムカは人間離れした力を見せその挙止は圧巻であった。

(金属の狼を動かしているあれは、、、)

『風の馬』ブローズグホーヴィは彼の数万年にも及ぶ追憶を思い起こしていた。
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