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第1章
1-121 世界樹の森の戦い その3 戦の始まり
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これからの作戦の仔細まで密に打ち合わせること1時間あまり、ジルブレヒトの元に魚鱗の陣の物見の者から急報が入る。どうやら『可睡の杜』の修行僧からの早馬のようだ。その修行僧の機敏なこと、暗殺を生業としている集団のように『ウェールズ』の領主には見えた。それほどまでにモンク達の修行は厳格で容赦の無いものなのであった。
「ふむ、当然のことながら、いよいよ本体が動いてきたか。なるほど、そういう事か。」
「どうしたんだ?ジルブレヒト?」
早速、緊迫して宰相ファビウスがジルブレヒトに尋ねた。ジルブレヒトはごく静かに戦況分析をしている。
「うむ、ファビウス、ここに集っている皆の者にも、いよいよ最終決戦だと言う事を知らせておこう。物見の『可睡の杜』の修行僧殿から、将軍カーンと大量、恐らく数万体の無人魔装兵やミスリルの化け物の到来との知らせだ、オレの魔道索敵網からも裏付けが取れている、修行僧殿の見解も間違いなかろう。奴らめ、勝手に我らが王都『ヴァルヴァンティア』を貪っておきながら、侵入して荒らされるのを避けたようだな。図々しい。」
そう、吐き捨てるようにジルブレヒトが言うと、集まった『ウェールズ』の首脳陣は色めき立った。
「ふむ、何万騎なのか早く分析結果がほしいところだな、しかし、無人魔装兵ばかりか?カーン手飼いの古参戦士団はいないのか?」
「うむ、やはり生命反応はカーン一人のみのようだ。あの芋洗い軍団は、見ようによっては無人魔装兵等より厄介なんだがな、奴らは首都防衛に温存させておく気なのか?それとも『ジャムカ帝国』か『スペニア』にでも当たらせる気か?」
「いよいよ出てきたかカーンめ!今度こそは、血祭りに上げてくれるわ!!」
先の『英雄戦争』で幾度となく散々な目に合わされているドルガンは、再度噴火を始めつつある休火山のように雪辱に燃えている。
「いや、お前の実力では、あのカーンには太刀打ちできぬであろう。7年前とは違いこちらの戦力にも限りがある。レーネにまみえる前に戦力を減らさぬためにも、ここはオレが出ようと思う。」
「な、何を~!!!」
怒髪天を衝く、まさにこの表現が相応しいようにドルガンがジルブレヒトに殴りかからんかのごとく猛った。必死にその背中を羽交い締めにしてファビウスが言う。
「お、お前の事だからありとあらゆる想定はしているのだろうが、勝算は?」
「ふ、当然だ。そしてドルガン、あの筋肉馬鹿をさばくことが出来ると言えば、お前しかいない。まずはあたってくれるか?いくら身体能力が高かろうが、超一級の戦士に相対しながら、オレの魔法は防げぬであろう。後方から絡め取ってくれるわ。このたびの戦は『英雄戦争』の雪辱戦だ、騎士の一騎打ちというわけではないからな、それでも不足はあるまい。」
「ふん!端からそういえばいいのじゃ!よかろう少々腑には落ちんが、お前の言うとおり戦争だからな。だが、お前の手など借りる間もなく、一瞬で首を落としてくれるわ!」
(無骨一辺倒かと思えば、この国宝級に依怙地な友ドルガンを従えるとは。。。この男、人を懐柔する手腕も覚えてきたようじゃな。。。たいした将器よ。。。)
一度言い出したら絶対に折れないドルガンが、ジルブレヒトの描く方向にうまく軌道修正されるのを見て、ファビウスは思った。
ーーー 『ウェールズ』魚鱗の陣 陣頭にて ーーー
「カーン、近年の『レボルテ』の不遜な振る舞い、悔い改めるべき時がきたようだな。」
ジルブレヒトは遙か上空に聳える皆を公平に見守る『ユグドラシル』の樹の下で、静かで冷たい感情の見えない口調で敵方の総大将に対して言い放つ。まるで絶対零度に安置されたワイングラスのように容赦の無い冷徹な声であった。
戦争開始時の、飛空艇や無人魔装兵による言わば奇襲的な攻撃とは打って変わり、両軍、正々堂々と真正面から対峙し、大将同士の宣誓のようなものまで行われるような、いわゆる最終決戦の席上であった。『ウェールズ』軍は、宰相ファビウス、主席参謀ジルブレヒト、領主の長鉄火翁ドルガン、『霧の魔法師団』『緑の騎士団』の主力、と、総力を結集した錚々たる顔ぶれであった。
一方の『レボルテ』の方は、建国最大の功労者、大将軍カーンこそいるものの人間は彼の他一人もいない。彼の子飼いの戦士団や、魔法使いの一人すら姿は見えなかった。『杭天華国』や『無法者の国』といった同盟軍に割いている、というような知らせもなく、不可解な事この上ない。そして、その代わりにおびただしい数のミスリルの化け物達がカーンの後方に控えていた。
「マタギが大将軍などと、ふざけた称号を名乗りおって!今日こそは、ワシの槌の錆にしくれるわ!!」
ドルガンの挑発にも、7年前激烈で容赦の無い行動で『ウェールズ』を震撼させた大将軍カーンは、まったく乗ってこない。苦虫をかみつぶしたような顔をして、ジルブレヒトと戦闘の挨拶を交わした後は、押し黙っているばかりである。
いつもの竹を割るような銅鑼声を想定していた、ジルブレヒトやドルガン、旧臣は拍子抜けした。
そして彼らの怪訝な様子をまったく意に介さずに、静かに現在の彼の象徴『大地の斧』を眼前に高々と掲げると、カーンは迷いを振り払うかのように大声で言い放った。
「マキシムの作った『レボルテ』に仇なす輩共、一網打尽にしてくれる!!」
まるで自分に言い聞かせるようである。こうして、数百年に一度の大戦は幕を開けるのであった。
「ふむ、当然のことながら、いよいよ本体が動いてきたか。なるほど、そういう事か。」
「どうしたんだ?ジルブレヒト?」
早速、緊迫して宰相ファビウスがジルブレヒトに尋ねた。ジルブレヒトはごく静かに戦況分析をしている。
「うむ、ファビウス、ここに集っている皆の者にも、いよいよ最終決戦だと言う事を知らせておこう。物見の『可睡の杜』の修行僧殿から、将軍カーンと大量、恐らく数万体の無人魔装兵やミスリルの化け物の到来との知らせだ、オレの魔道索敵網からも裏付けが取れている、修行僧殿の見解も間違いなかろう。奴らめ、勝手に我らが王都『ヴァルヴァンティア』を貪っておきながら、侵入して荒らされるのを避けたようだな。図々しい。」
そう、吐き捨てるようにジルブレヒトが言うと、集まった『ウェールズ』の首脳陣は色めき立った。
「ふむ、何万騎なのか早く分析結果がほしいところだな、しかし、無人魔装兵ばかりか?カーン手飼いの古参戦士団はいないのか?」
「うむ、やはり生命反応はカーン一人のみのようだ。あの芋洗い軍団は、見ようによっては無人魔装兵等より厄介なんだがな、奴らは首都防衛に温存させておく気なのか?それとも『ジャムカ帝国』か『スペニア』にでも当たらせる気か?」
「いよいよ出てきたかカーンめ!今度こそは、血祭りに上げてくれるわ!!」
先の『英雄戦争』で幾度となく散々な目に合わされているドルガンは、再度噴火を始めつつある休火山のように雪辱に燃えている。
「いや、お前の実力では、あのカーンには太刀打ちできぬであろう。7年前とは違いこちらの戦力にも限りがある。レーネにまみえる前に戦力を減らさぬためにも、ここはオレが出ようと思う。」
「な、何を~!!!」
怒髪天を衝く、まさにこの表現が相応しいようにドルガンがジルブレヒトに殴りかからんかのごとく猛った。必死にその背中を羽交い締めにしてファビウスが言う。
「お、お前の事だからありとあらゆる想定はしているのだろうが、勝算は?」
「ふ、当然だ。そしてドルガン、あの筋肉馬鹿をさばくことが出来ると言えば、お前しかいない。まずはあたってくれるか?いくら身体能力が高かろうが、超一級の戦士に相対しながら、オレの魔法は防げぬであろう。後方から絡め取ってくれるわ。このたびの戦は『英雄戦争』の雪辱戦だ、騎士の一騎打ちというわけではないからな、それでも不足はあるまい。」
「ふん!端からそういえばいいのじゃ!よかろう少々腑には落ちんが、お前の言うとおり戦争だからな。だが、お前の手など借りる間もなく、一瞬で首を落としてくれるわ!」
(無骨一辺倒かと思えば、この国宝級に依怙地な友ドルガンを従えるとは。。。この男、人を懐柔する手腕も覚えてきたようじゃな。。。たいした将器よ。。。)
一度言い出したら絶対に折れないドルガンが、ジルブレヒトの描く方向にうまく軌道修正されるのを見て、ファビウスは思った。
ーーー 『ウェールズ』魚鱗の陣 陣頭にて ーーー
「カーン、近年の『レボルテ』の不遜な振る舞い、悔い改めるべき時がきたようだな。」
ジルブレヒトは遙か上空に聳える皆を公平に見守る『ユグドラシル』の樹の下で、静かで冷たい感情の見えない口調で敵方の総大将に対して言い放つ。まるで絶対零度に安置されたワイングラスのように容赦の無い冷徹な声であった。
戦争開始時の、飛空艇や無人魔装兵による言わば奇襲的な攻撃とは打って変わり、両軍、正々堂々と真正面から対峙し、大将同士の宣誓のようなものまで行われるような、いわゆる最終決戦の席上であった。『ウェールズ』軍は、宰相ファビウス、主席参謀ジルブレヒト、領主の長鉄火翁ドルガン、『霧の魔法師団』『緑の騎士団』の主力、と、総力を結集した錚々たる顔ぶれであった。
一方の『レボルテ』の方は、建国最大の功労者、大将軍カーンこそいるものの人間は彼の他一人もいない。彼の子飼いの戦士団や、魔法使いの一人すら姿は見えなかった。『杭天華国』や『無法者の国』といった同盟軍に割いている、というような知らせもなく、不可解な事この上ない。そして、その代わりにおびただしい数のミスリルの化け物達がカーンの後方に控えていた。
「マタギが大将軍などと、ふざけた称号を名乗りおって!今日こそは、ワシの槌の錆にしくれるわ!!」
ドルガンの挑発にも、7年前激烈で容赦の無い行動で『ウェールズ』を震撼させた大将軍カーンは、まったく乗ってこない。苦虫をかみつぶしたような顔をして、ジルブレヒトと戦闘の挨拶を交わした後は、押し黙っているばかりである。
いつもの竹を割るような銅鑼声を想定していた、ジルブレヒトやドルガン、旧臣は拍子抜けした。
そして彼らの怪訝な様子をまったく意に介さずに、静かに現在の彼の象徴『大地の斧』を眼前に高々と掲げると、カーンは迷いを振り払うかのように大声で言い放った。
「マキシムの作った『レボルテ』に仇なす輩共、一網打尽にしてくれる!!」
まるで自分に言い聞かせるようである。こうして、数百年に一度の大戦は幕を開けるのであった。
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