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longshu

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5 過労死

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「あいつ、死んじまったな。」

「池野くん、その話やめとこうか。」

「そうだな。」

ここは、とある東証一部上場企業の工場である。生産技術課長の敏文と、その片腕である池野が、のどかに隣の家の外構の出来映えでも語るかのように、当たり前に死を語っている。
敏文の部下である俊介の首つりによる過労自殺が発見され、葬儀が営まれてから1週間余りたったある日の昼休みの会話であった。

(ちっ、死にやがって、俺がめんどくせーじゃねーか。。。)

敏文たちの業務を、生真面目な俊介にすべて背負わせ、自身はパチンコに興じながら、もしくは家で酒を浴びながら、夜寝る寸前まで怒声による電話で会社にいる俊介に翌朝までの業務指示をする、そして必死の思いで俊介が出した成果を自分の物として上司に喧伝して昇進してゆく、そのサイクルを数年繰り返したのちの結果であった。

しかし、敏文はそういった違法行為の証拠が残るような言動や書類は決して残さない。社員の過労死と聞いてまずはじめに疑われるのが上司であったが、手が後ろに回るのを防ぐため、タイムカード、労働組合、部長、、、ありとあらゆる細工を弄して巧みに揉み消している。人事部や健康管理センターをすべて抱き込んでの確信犯である。

もしこれが労災自殺となった場合の世間への評判、ひいては関わった自分たちへの責任追求、それらを産業医や所属看護師、職務関係者、人事部、すべてに納得するまでしつこいほど十分言い含め、いわばマインドコントロールしていた。彼らも、敏文の強引な正当性の主張、そして社の創立以来初めて起こってしまった、社員の自殺と言う事の重大さ、それらに煩わしさを感じ穏便に済ませようと、言わば会社ぐるみで単なる自殺で済ませようと動いているのであった。

”面倒くさい”、自身の出世による金の事しか考えていない敏文にしてみれば、部下の死もその一言で片づけられるような些細な事であった。

「では、その俊介さんは、もともとの虚弱体質と精神薄弱であったと思われる、そう言われるんですね?」

「ええ、みな同じ業務量の仕事をしているのに、彼だけ付いていくのが遅かったというか、、、労働基準法を超えるような時間の残業など絶対に命じてもいませんし、当人たちもやっていないわけですから、ただの神経症なのでしょう。」

そういう会話を産業医との間で相手が根負けするまで執拗に数限りなく重ね、陰に陽に圧力を加え、産業医も気重に感じ止む無くカルテに”虚弱体質”の文字を入れる。死ぬ1週間前に俊介が決死の覚悟で上げた産業医に対しての悲痛な叫び声も、敏文とそれに抱き込まれた者たちによって”病弱”の二文字で片づけられてしまったのであった。

(じゃぁ、また武田に戻すか。)

死んでしまった部下の生命を、こと切れて地面に転がっているコガネムシか何かのように箒でさっさと脇に片づけ、また新たな犠牲を割り当てて自身は悪の生活に埋没する。中学高校当時から続いている彼の行動様式は、今もまったく変わっていないのであった。

――― マンスリーマンションの一室にて ―――

(死ぬ、もう死ぬしかない、、、。)

彼の働く工場のすぐそばに否応なく自費で借りさせられたマンスリーマンション、そろそろ明け方に近い。つい先ほど、タバコの匂いの残る粗末な調度の仮床にたどり着き、2時間しか取ることの許されない眠りに就こうとした俊介は、その一点だけをここ一か月、永遠に走り続ける籠の中のハムスターのようにぐるぐると考えていた。

工場を燃やそうと発作的に考えたことも幾度となくあった、あいつの家に火炎瓶を投げいれ全てを無に帰そうとしたことも。しかし善良な一市民である彼はそれらすべてを心の底に封印し、今も、脳みそを抜かれたぜんまい仕掛けの奴隷のように、工場での絶望的な苦役と、マンスリーマンションでの取れるか取れないかのほんのわずかな休息を繰り返していた。

家族との団らんとにぎやかで暖かな食事、旧友との折々の邂逅、そう言った人生にぬくもりを与えるようなありとあらゆる行動は、労働時間から否応なく禁止され、一生涯続くかのような奴隷労働に従事させられている。

毎月200時間を超える残休出、2時間しか与えられない睡眠時間、職場での暴力と罵声、工場技術職と言う名の未明から深夜まで絶え間なく続く極度の肉体労働、当然引き起こされる不眠と鬱。

それら四六時中襲い続ける苦しみに耐えかねたかのように、彼は最期に小さくため息をつくと、準備したビニールのひもを二段ベッドの手すりに括り付け、首吊りで25歳の生涯を終えた。腐乱した死体が発見されたのは2週間後、家族によってではなく、契約更改のための連絡が途絶えているのを不審に思ったマンション管理会社の巡視によって、であった。

そして、そんなマンスリーマンションでの陰惨な出来事とは対照的に、敏文はいつものように傲然と工場で声を張り上げているのだった。
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