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19 愛情
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珍しく行った孝雄の家で、いつものようにガキ大将の雄一郎が得意気にがなっている。
「おい、スーマリは次は俺の番だからな!」
雄一郎が凛に高圧的な態度で切りだし、コントローラ争いの主導権を奪おうとした。
ここは静岡県掛川市の何の変哲もない新興住宅地にある、同じく何の変哲もない男の子3人の家庭の遊び部屋であった。3人兄弟の孝雄たちの傍に住んでいる雄一郎は育ちが悪い。チャンネル争いで刃傷沙汰を起こしかけた事もある家庭だ。生傷も彼の体には絶えない。そして自分の家に帰りたくないのか、いつもこの家で夕飯時まで遊んでいる。帰り掛けいつも寂しそうな不安そうな顔をするのを慈愛の目で見ていた孝雄の母親は、雄一郎が自分から帰ると言うまで飽くまで家に居させ、多少の横暴やわがままにも目をつぶっているのであった。
そして今日は、珍しく孝雄の家に俊介と凛が遊びに来ている。俊介と凛は歳が7つも離れている。父子家庭で父親の勤務時間も三交代でまちまちのため、凛の昼寝のおねしょを片づけたり、着替えを準備したり、ご飯の準備をしたり、俊介が半分親代わりのような感じで、今日も保護者のようにして凛を連れてきていた。
雄一郎はもちろん、珍しく遊びに来ていた俊介と凛をいじめるつもりなどないのであったが、両親から学んだ横暴さが表に出てしまっている。そして、凛より8歳も年上でその上、小6にしてジャイアンのように恐ろしく肥大した巨漢である。幼稚園児の彼女には、雄一郎は山奥に生息している巨大なヒグマか何かのように見えるのであった。
え~ん。
凛は、たまらず泣き出す。
ぽかっ!
隣で黙ってファミコンの番を待っていたいつもは静かな俊介が、意を決したかのように、発奮して雄一郎の頭にゲンコツをお見舞いする、そして涙目の凛にしてみれば英雄的に素敵な立ち振る舞いでさっと凛の手をとると、疾風のように孝雄の家から逃げ去っていった。
雄一郎に刃向う小学生などここらにはいない、孝雄たち3兄弟と雄一郎本人は一瞬ポカンとしていたが、次の瞬間、
「おい!俊介!!明日の朝覚えてろよー!!」
と、どなった。
明日の朝、仕返しされることが分かっているのに、私を助けてくれるカッコいいお兄ちゃん!大きくなったらお兄ちゃんと結婚したい!当時4歳の凛は真剣にそう考えた。
――――――――――――――
え~ん。
夕方、凛が二人だけの食卓で泣いている。
「どうした?」
家の事を守ろうと部活もやらずいつも早めに帰ってくる俊介が、凛に心配そうに尋ねた。
「おまえんち母ちゃんいないから、いつも菓子パン一個なんだろって言われた~!」
凛はまだ小学校高学年だ、感情の抑制が効かない。日頃気にしている母親がいないことを、クラスのいがぐり頭に言われて、坂を転げ落ちるようにめそめそと落ち込んでしまったのであった。
「なんだと!、、、お兄ちゃんが懲らしめてやるからな!」
そう言うと、凛にそんな事を言ったクラスメートの名前を聞き出す。やり返すのだろうか?
俊介は、どんな苦難に直面しようが、日々真面目に着実に生活を送っている。幼い凛からもそのように見えた。一度として、凛がまだ幼稚園だった頃に失踪してしまった母親への恨み言を聞いたことがない。お父さんは小さな工場の三交代の作業員で、凛たちが寝静まる頃に出勤するのが常で、子供たちからすればとても大変な仕事をしているように見えた。たまに凛たちが起きている時に帰ってくると、とても疲れた顔をしてくずおれるように二階の寝室へ行ったっきり寝こけてしまう。そんな状態のお父さんに頼るわけにはいかない、そう思った俊介は、母親が失踪したあたりから自分を厳しく律し、小さな自分よりもさらに小さなかわいい凛を守る決意を固めたのであった。
翌週の火曜日
凛が物音に気が付いて目を覚まし台所へ行くと、俊介が汗びっしょりになりながら何やら孤軍奮闘している。どうもフライパンで炒め物をしているようだ。
「お兄ちゃん、何してるの?」
「何って、お弁当作ってんだよ、俺とお前の。ちょっと待ってろよ!スペシャルなの見せてやるから!」
「え~!!?大丈夫なの、お兄ちゃん!?」
凛が驚いて、俊介が作っていると思われる弁当箱に目をやると、それはそれはすばらしいボリューム感のある出し巻き卵が3個、王様のように中央に陣取っていた。そしてご丁寧にご飯には海苔で、『○○!うちはパンばかりじゃないぞ!』と、書いてある。そのおかずたちの暖かなたたずまいに、凛は、思わず俊介に抱きつく。元々凝り性で、技術・家庭科だけは中学校時代5だった俊介は、大学受験そっちのけで、1週間弁当の研究ばかりしていたのであった。
凛の友達からは口をそろえて電車男のように言われる俊介も(実際、傍から見れば黒縁メガネで猫背で暗くて、電車男そのものなのであった)、凛にとってはガキ大将から私を守ってくれる、残り3人になってしまった消え入ってしまいそうなこの家族の事をいつも考えてくれる、正義の味方仮面ライダーなのであった。
そしてこの日を境に、これまで父親がいない朝は、パンか卵かけご飯くらいだった食卓が、お弁当の残りもの、大根おろしを添えたさんま、ハムエッグ、味噌汁などなどがにぎやかに並ぶようになるのであった。
こうして、俊介のどんな環境でも真面目に踏み外さずきっちり行動していく性格は形作られ、そこを、どうしようもない悪の徒に付け込まれることになる。
――――――――――――――
「お兄ちゃん。。。」
杏と丸尾に強制的に大掃除させられたすっからかんのアパートで、凛が目を覚ます。そのままくずおれるように体をくの時に曲げ泣き崩れる。俊介が自殺に追い込まれて以来、初めて見せた凛の涙であった。
「おい、スーマリは次は俺の番だからな!」
雄一郎が凛に高圧的な態度で切りだし、コントローラ争いの主導権を奪おうとした。
ここは静岡県掛川市の何の変哲もない新興住宅地にある、同じく何の変哲もない男の子3人の家庭の遊び部屋であった。3人兄弟の孝雄たちの傍に住んでいる雄一郎は育ちが悪い。チャンネル争いで刃傷沙汰を起こしかけた事もある家庭だ。生傷も彼の体には絶えない。そして自分の家に帰りたくないのか、いつもこの家で夕飯時まで遊んでいる。帰り掛けいつも寂しそうな不安そうな顔をするのを慈愛の目で見ていた孝雄の母親は、雄一郎が自分から帰ると言うまで飽くまで家に居させ、多少の横暴やわがままにも目をつぶっているのであった。
そして今日は、珍しく孝雄の家に俊介と凛が遊びに来ている。俊介と凛は歳が7つも離れている。父子家庭で父親の勤務時間も三交代でまちまちのため、凛の昼寝のおねしょを片づけたり、着替えを準備したり、ご飯の準備をしたり、俊介が半分親代わりのような感じで、今日も保護者のようにして凛を連れてきていた。
雄一郎はもちろん、珍しく遊びに来ていた俊介と凛をいじめるつもりなどないのであったが、両親から学んだ横暴さが表に出てしまっている。そして、凛より8歳も年上でその上、小6にしてジャイアンのように恐ろしく肥大した巨漢である。幼稚園児の彼女には、雄一郎は山奥に生息している巨大なヒグマか何かのように見えるのであった。
え~ん。
凛は、たまらず泣き出す。
ぽかっ!
隣で黙ってファミコンの番を待っていたいつもは静かな俊介が、意を決したかのように、発奮して雄一郎の頭にゲンコツをお見舞いする、そして涙目の凛にしてみれば英雄的に素敵な立ち振る舞いでさっと凛の手をとると、疾風のように孝雄の家から逃げ去っていった。
雄一郎に刃向う小学生などここらにはいない、孝雄たち3兄弟と雄一郎本人は一瞬ポカンとしていたが、次の瞬間、
「おい!俊介!!明日の朝覚えてろよー!!」
と、どなった。
明日の朝、仕返しされることが分かっているのに、私を助けてくれるカッコいいお兄ちゃん!大きくなったらお兄ちゃんと結婚したい!当時4歳の凛は真剣にそう考えた。
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え~ん。
夕方、凛が二人だけの食卓で泣いている。
「どうした?」
家の事を守ろうと部活もやらずいつも早めに帰ってくる俊介が、凛に心配そうに尋ねた。
「おまえんち母ちゃんいないから、いつも菓子パン一個なんだろって言われた~!」
凛はまだ小学校高学年だ、感情の抑制が効かない。日頃気にしている母親がいないことを、クラスのいがぐり頭に言われて、坂を転げ落ちるようにめそめそと落ち込んでしまったのであった。
「なんだと!、、、お兄ちゃんが懲らしめてやるからな!」
そう言うと、凛にそんな事を言ったクラスメートの名前を聞き出す。やり返すのだろうか?
俊介は、どんな苦難に直面しようが、日々真面目に着実に生活を送っている。幼い凛からもそのように見えた。一度として、凛がまだ幼稚園だった頃に失踪してしまった母親への恨み言を聞いたことがない。お父さんは小さな工場の三交代の作業員で、凛たちが寝静まる頃に出勤するのが常で、子供たちからすればとても大変な仕事をしているように見えた。たまに凛たちが起きている時に帰ってくると、とても疲れた顔をしてくずおれるように二階の寝室へ行ったっきり寝こけてしまう。そんな状態のお父さんに頼るわけにはいかない、そう思った俊介は、母親が失踪したあたりから自分を厳しく律し、小さな自分よりもさらに小さなかわいい凛を守る決意を固めたのであった。
翌週の火曜日
凛が物音に気が付いて目を覚まし台所へ行くと、俊介が汗びっしょりになりながら何やら孤軍奮闘している。どうもフライパンで炒め物をしているようだ。
「お兄ちゃん、何してるの?」
「何って、お弁当作ってんだよ、俺とお前の。ちょっと待ってろよ!スペシャルなの見せてやるから!」
「え~!!?大丈夫なの、お兄ちゃん!?」
凛が驚いて、俊介が作っていると思われる弁当箱に目をやると、それはそれはすばらしいボリューム感のある出し巻き卵が3個、王様のように中央に陣取っていた。そしてご丁寧にご飯には海苔で、『○○!うちはパンばかりじゃないぞ!』と、書いてある。そのおかずたちの暖かなたたずまいに、凛は、思わず俊介に抱きつく。元々凝り性で、技術・家庭科だけは中学校時代5だった俊介は、大学受験そっちのけで、1週間弁当の研究ばかりしていたのであった。
凛の友達からは口をそろえて電車男のように言われる俊介も(実際、傍から見れば黒縁メガネで猫背で暗くて、電車男そのものなのであった)、凛にとってはガキ大将から私を守ってくれる、残り3人になってしまった消え入ってしまいそうなこの家族の事をいつも考えてくれる、正義の味方仮面ライダーなのであった。
そしてこの日を境に、これまで父親がいない朝は、パンか卵かけご飯くらいだった食卓が、お弁当の残りもの、大根おろしを添えたさんま、ハムエッグ、味噌汁などなどがにぎやかに並ぶようになるのであった。
こうして、俊介のどんな環境でも真面目に踏み外さずきっちり行動していく性格は形作られ、そこを、どうしようもない悪の徒に付け込まれることになる。
――――――――――――――
「お兄ちゃん。。。」
杏と丸尾に強制的に大掃除させられたすっからかんのアパートで、凛が目を覚ます。そのままくずおれるように体をくの時に曲げ泣き崩れる。俊介が自殺に追い込まれて以来、初めて見せた凛の涙であった。
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