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23 終焉
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一人の女が、燃え盛る古い建物の中に佇んでいる。そして少し離れた所にある柱に倒れこんでいる、首を切断され皮だけでつなぎとめられている男を見て悲憤の涙を流している。彼女には一つだけ、まるで蜃気楼でも見ているかのように非現実的な点がある。女には首から下がない。気管と、頸椎と、首の周りの筋肉だけが首から垂れ下がり、長い髪の毛と縺れあっている。やるせない表情をその美しい顔に浮かべ、炎の迫る畳に頬を押し付け這いつくばりながらも、上目使いで兄を見ている。
その様子を傍で見ている永富に、その女の視線が向く。血の涙を流し物凄まじい形相で永富を睨み切る。その刹那あたりは炎に染まった。
「ひ、ひぃ!!」
「敏蔵。私はお前を許さない。お前たちの一族郎党、ことごとく呪い殺してやる。これまで行ってきたことを後悔してやまぬように最大の苦痛を永遠に感じるようにして殺してやる。何度生まれ変わってきても、何度でも何度でも何度でも殺してやる。」
ずたずたに切れた口から血を吐き出しながら絞り出したこの言葉は、か細く小さく、小夜の命の灯同様今にも消え入りそうだった。それにもかかわらず、柱や漆喰が燃え倒れる音で騒がしかった社の中に呪詛のように響き渡り、皆の心に深く刻み込まれた。
「だ、だから、敏蔵って誰だよ!!?」
永富は、新しく転がり込んだ莉奈の部屋で、永遠に繰り返される悪夢に呑まれたまま、数日間眠りこけていた。数百回は同じ夢を繰り返しただろうか、夢の間に間に永富は、これは俺が過去に経験した何かに復讐されている、そう認識しだした。そして、夢が繰り返されるごとに、あの恐ろしい廃屋の惨事の中で、あの首だけの女の姿が徐々に近づいて来ていることも明確に意識した。
繰り返しの悪夢の中で永富は、ふと、あの首だけ女の距離が奴の力の及ぶ範囲まで近づいたら、俺はどうなるんだろう。自然とそのようにも考えた。そして、そうならない内になんとか悪夢から抜け出したい、と、やはり自然とそう考えた。あのくそ女、莉奈はどうしているんだ!?早く俺を起こさねぇか!!役にたたねぇ奴だ!!!小夜に睨みつけられながらも、そう意識して眠っている腕を振り回そうとしたその時だった。
手が、白く、小さく、その持ち主がこれから長く豊かな人生を経験し、徐々にがっちりと大きくなり、そして節くれだって共に年老いて死ぬまで連れそうのだろう、その手が、その夢を、とある巨大な暴漢の血なまぐさい遊びの道具として無残にも摘み取られてしまったその手が、しっかりと永富の手のひらを掴んでいた。
永富がどれだけ彼の持つその怪力を込めようと、その小さなちっぽけな手は決して動かない。小夜の憎悪の眼から逃れるようにその手の先に視線を移すと、そこには、先日永富に戯れに殺された雅人が、死んだ時のそのままの姿勢で、横たわったまま彼と手をつなぎ、そして、じっ、と永富を見ていた。
死んだ時と同じように全身青膨れで骨はぐちゃぐちゃに折れ、永富によって左脳と左目は陥没させられてしまっていたが、残った右目でしっかりと永富を見ている。
「く、くかっ!?」
永富は叫び声を上げる。これまで死んだ幼児の生命の事など一度として脳裏に浮かんだことすらない永富だったが、幾百度と繰り返される悪夢と、自身を静かに見定めている彼が殺害したはずの幼児、それを見た事で永富は自分の行いの愚かさをやっと悟ったのだった。
(ようやく理解したか。)
雅人と永富をはさんで向こう側にいた小夜が、畳に這いつくばり永富を見つめながら首だけでにじり寄っていた小夜が、口を開かずに静かにそう言う。すると、永富は首だけを残して全身を木っ端みじんに削ぎ落とされて死んだ。
その様子を傍で見ている永富に、その女の視線が向く。血の涙を流し物凄まじい形相で永富を睨み切る。その刹那あたりは炎に染まった。
「ひ、ひぃ!!」
「敏蔵。私はお前を許さない。お前たちの一族郎党、ことごとく呪い殺してやる。これまで行ってきたことを後悔してやまぬように最大の苦痛を永遠に感じるようにして殺してやる。何度生まれ変わってきても、何度でも何度でも何度でも殺してやる。」
ずたずたに切れた口から血を吐き出しながら絞り出したこの言葉は、か細く小さく、小夜の命の灯同様今にも消え入りそうだった。それにもかかわらず、柱や漆喰が燃え倒れる音で騒がしかった社の中に呪詛のように響き渡り、皆の心に深く刻み込まれた。
「だ、だから、敏蔵って誰だよ!!?」
永富は、新しく転がり込んだ莉奈の部屋で、永遠に繰り返される悪夢に呑まれたまま、数日間眠りこけていた。数百回は同じ夢を繰り返しただろうか、夢の間に間に永富は、これは俺が過去に経験した何かに復讐されている、そう認識しだした。そして、夢が繰り返されるごとに、あの恐ろしい廃屋の惨事の中で、あの首だけの女の姿が徐々に近づいて来ていることも明確に意識した。
繰り返しの悪夢の中で永富は、ふと、あの首だけ女の距離が奴の力の及ぶ範囲まで近づいたら、俺はどうなるんだろう。自然とそのようにも考えた。そして、そうならない内になんとか悪夢から抜け出したい、と、やはり自然とそう考えた。あのくそ女、莉奈はどうしているんだ!?早く俺を起こさねぇか!!役にたたねぇ奴だ!!!小夜に睨みつけられながらも、そう意識して眠っている腕を振り回そうとしたその時だった。
手が、白く、小さく、その持ち主がこれから長く豊かな人生を経験し、徐々にがっちりと大きくなり、そして節くれだって共に年老いて死ぬまで連れそうのだろう、その手が、その夢を、とある巨大な暴漢の血なまぐさい遊びの道具として無残にも摘み取られてしまったその手が、しっかりと永富の手のひらを掴んでいた。
永富がどれだけ彼の持つその怪力を込めようと、その小さなちっぽけな手は決して動かない。小夜の憎悪の眼から逃れるようにその手の先に視線を移すと、そこには、先日永富に戯れに殺された雅人が、死んだ時のそのままの姿勢で、横たわったまま彼と手をつなぎ、そして、じっ、と永富を見ていた。
死んだ時と同じように全身青膨れで骨はぐちゃぐちゃに折れ、永富によって左脳と左目は陥没させられてしまっていたが、残った右目でしっかりと永富を見ている。
「く、くかっ!?」
永富は叫び声を上げる。これまで死んだ幼児の生命の事など一度として脳裏に浮かんだことすらない永富だったが、幾百度と繰り返される悪夢と、自身を静かに見定めている彼が殺害したはずの幼児、それを見た事で永富は自分の行いの愚かさをやっと悟ったのだった。
(ようやく理解したか。)
雅人と永富をはさんで向こう側にいた小夜が、畳に這いつくばり永富を見つめながら首だけでにじり寄っていた小夜が、口を開かずに静かにそう言う。すると、永富は首だけを残して全身を木っ端みじんに削ぎ落とされて死んだ。
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