24 / 41
24 フードプロセッサー
しおりを挟む
取調官黒田は奇異に感じていた。前代未聞の大量殺人を犯し、そして優生思想を前面に出して反省の色一つ見せなかった植松が、なぜだか近頃、妙に疲れ切っている。取り調べに神経をすり減らし出したようにも見えないし、持ち前の奇天烈な論理に綻びを認め反省の色を見せたようにも見えない。相も変わらず重度障害者は社会の害悪だ、との一点張りで、それを反吐の出る理論とセリフで脚色して多角的に並べ立てているだけだ。しかし、最近は黒田の問い詰めにも上の空で、憔悴していつも何かに怯えているような姿をよく見せるのだった。
「おい、植松っ!聞いてるのか?2階に上がって、男性集合部屋で岡田さんを刺した時の様子を詳しく言えといったんだ!」
「ひぃっ!?お、岡田!!?お、俺を見続けるのはやめてくれ~!!!」
突然、あらぬ方向の何もない空間を仰いで、震えあがって取り乱す植松。まるでポルターガイストに怯えるホラー映画の主人公のようだった。
「う、植松!?どうしたんだ、いよいよ良心の呵責に耐えかねたか!?」
植松は、黒田の声掛けなどまったく聞こえぬかのように机の中に逃げ隠れようとする。あれだけの事をしでかした人間にしてはあまりに肝の小さいビクビクした態度も態度なら、机の下に逃げ込む振る舞いなど幼児退行しているかのようだ。刑事経験30年のベテラン黒田も、あまりに突拍子もない行動に首をひねるばかりだった。
(俺の主義に反するが、精神鑑定にかけた方がいいかもしれんな。)
黒田は正義の人だ、有史以来の悪人であっても精神鑑定ひとつで無罪放免になってしまう今の日本の法制度に不平不満は感じている。しかし仇討ちが法制化されていた中世と現在では明らかに仕組みが違う、そこにある社会に生きている以上、定められたルールには従わざるを得ない。
(おっと、そうこうしている内にもう18:00か、鑑定医には連絡しておくとして、明日仕切り直しだな。。。)
黒田が若かりし頃、名だたる日本企業が24時間戦えますかを標榜していた時分には、クロだと確信した容疑者に対しては昼夜を分かたず圧迫して、自白に持ち込んだことも数え切れないほどだったのだが、熱心な教師が親に返り討ちに遭い、労働時間は分単位で厳しく管理される、そんな時代だ、そしてもう定年に近い、本人が老いを認識している事もありそろそろ取り調べを終了しようとした、そんな矢先であった。
「ぐ、ぐ、ぐぐ、ぐぐぐぐぐ、ぐがぁーーーーーーーーーー!!!!」
取調用の古びたトタンの机の下で両の手で目を覆っていた植松が、長らく活動を休止していた火山の満を持しての大噴火か、もしくはボーイング機の離陸に伴う地響きか、そんな形容がふさわしく聞こえる恐ろしい音声と共に、突然、自身の力で動いたような挙止とは到底思えない、クレーンに強引に引きずり出されるスクラップカーのような動きで部屋の端から端まで跳ね飛ばされる。
「ど、どうした!?」
のんびり明日の取り調べの立て直しを思案していた黒田は、心臓が凍りつきそうなほど不意を突かれ、吹っ飛んだ植松を目で追う。
「と、敏蔵、ゆ、許してくれ~!!!グ、グググ、ググガ、ググガガ、グゥウ、グピュ、ピュ、ピュュ、ピュ~~~!!!」
植松が耳慣れない名前を叫んで、どこかにいる誰かに向けて許しを請うたかと思うと、何か見えない力に背中を押されるように両の手を上にあげる形で立ち上がった。見ようによっては、両手を引っ張られ宙吊りにされているように見えなくもなかった。心なしか黒田の眼には植松のつま先が地面からいくらか離れ宙に浮いている、ように見えるのだった。
そして、次の瞬間、植松の体は、首から下にかけて肉を一枚一枚そぎ落とされるかのように分解を始めた。手慣れた主婦が手早くきれいにリンゴの皮むきをするかのように、あっという間の出来事であった。そして、植松の叫び声は、その解体されるに伴い喉仏から絞り出されるくぐもった苦痛の声から、やがて気道から空気の漏れる音に変わる。
「ピュ~、ピヒュー~、ピヒュー、ヒュヒュヒュヒュ~、ヒュ~、ヒュ~~~、ウ、、、」
激しく飛び散る血肉と共に、目の前で見る見るうちに回転しながら切り刻まれ細くなっていく。それは黒田の目に場違いではあったがドネルケバブの屋台で回転する羊の肉を連想させた。
リンチ殺人やどざえもんなど、数々の醜い死骸や殺人現場を際限なく見てきた黒田は、それでも気絶せずに持ちこたえていた。しかし、これまでの人間による悪意の所業や大自然の脅威による死に方とは異なる、明らかに何か禍々しい物の力の働きに、黒田は思わず阿弥陀信仰を思い、そして彼自身の死をも覚悟した。
数十秒後、返り血を浴びて全身血まみれになった黒田の視線の下に、首だけになった植松と、血と肉と汚物でできた植松の残骸が出現した。そしてその翌日、あと数年の定年を待たず黒田は警察を去るのだった。
「おい、植松っ!聞いてるのか?2階に上がって、男性集合部屋で岡田さんを刺した時の様子を詳しく言えといったんだ!」
「ひぃっ!?お、岡田!!?お、俺を見続けるのはやめてくれ~!!!」
突然、あらぬ方向の何もない空間を仰いで、震えあがって取り乱す植松。まるでポルターガイストに怯えるホラー映画の主人公のようだった。
「う、植松!?どうしたんだ、いよいよ良心の呵責に耐えかねたか!?」
植松は、黒田の声掛けなどまったく聞こえぬかのように机の中に逃げ隠れようとする。あれだけの事をしでかした人間にしてはあまりに肝の小さいビクビクした態度も態度なら、机の下に逃げ込む振る舞いなど幼児退行しているかのようだ。刑事経験30年のベテラン黒田も、あまりに突拍子もない行動に首をひねるばかりだった。
(俺の主義に反するが、精神鑑定にかけた方がいいかもしれんな。)
黒田は正義の人だ、有史以来の悪人であっても精神鑑定ひとつで無罪放免になってしまう今の日本の法制度に不平不満は感じている。しかし仇討ちが法制化されていた中世と現在では明らかに仕組みが違う、そこにある社会に生きている以上、定められたルールには従わざるを得ない。
(おっと、そうこうしている内にもう18:00か、鑑定医には連絡しておくとして、明日仕切り直しだな。。。)
黒田が若かりし頃、名だたる日本企業が24時間戦えますかを標榜していた時分には、クロだと確信した容疑者に対しては昼夜を分かたず圧迫して、自白に持ち込んだことも数え切れないほどだったのだが、熱心な教師が親に返り討ちに遭い、労働時間は分単位で厳しく管理される、そんな時代だ、そしてもう定年に近い、本人が老いを認識している事もありそろそろ取り調べを終了しようとした、そんな矢先であった。
「ぐ、ぐ、ぐぐ、ぐぐぐぐぐ、ぐがぁーーーーーーーーーー!!!!」
取調用の古びたトタンの机の下で両の手で目を覆っていた植松が、長らく活動を休止していた火山の満を持しての大噴火か、もしくはボーイング機の離陸に伴う地響きか、そんな形容がふさわしく聞こえる恐ろしい音声と共に、突然、自身の力で動いたような挙止とは到底思えない、クレーンに強引に引きずり出されるスクラップカーのような動きで部屋の端から端まで跳ね飛ばされる。
「ど、どうした!?」
のんびり明日の取り調べの立て直しを思案していた黒田は、心臓が凍りつきそうなほど不意を突かれ、吹っ飛んだ植松を目で追う。
「と、敏蔵、ゆ、許してくれ~!!!グ、グググ、ググガ、ググガガ、グゥウ、グピュ、ピュ、ピュュ、ピュ~~~!!!」
植松が耳慣れない名前を叫んで、どこかにいる誰かに向けて許しを請うたかと思うと、何か見えない力に背中を押されるように両の手を上にあげる形で立ち上がった。見ようによっては、両手を引っ張られ宙吊りにされているように見えなくもなかった。心なしか黒田の眼には植松のつま先が地面からいくらか離れ宙に浮いている、ように見えるのだった。
そして、次の瞬間、植松の体は、首から下にかけて肉を一枚一枚そぎ落とされるかのように分解を始めた。手慣れた主婦が手早くきれいにリンゴの皮むきをするかのように、あっという間の出来事であった。そして、植松の叫び声は、その解体されるに伴い喉仏から絞り出されるくぐもった苦痛の声から、やがて気道から空気の漏れる音に変わる。
「ピュ~、ピヒュー~、ピヒュー、ヒュヒュヒュヒュ~、ヒュ~、ヒュ~~~、ウ、、、」
激しく飛び散る血肉と共に、目の前で見る見るうちに回転しながら切り刻まれ細くなっていく。それは黒田の目に場違いではあったがドネルケバブの屋台で回転する羊の肉を連想させた。
リンチ殺人やどざえもんなど、数々の醜い死骸や殺人現場を際限なく見てきた黒田は、それでも気絶せずに持ちこたえていた。しかし、これまでの人間による悪意の所業や大自然の脅威による死に方とは異なる、明らかに何か禍々しい物の力の働きに、黒田は思わず阿弥陀信仰を思い、そして彼自身の死をも覚悟した。
数十秒後、返り血を浴びて全身血まみれになった黒田の視線の下に、首だけになった植松と、血と肉と汚物でできた植松の残骸が出現した。そしてその翌日、あと数年の定年を待たず黒田は警察を去るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる