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ある日の土曜日、たまたま3年生が居なかったので4人だけで放送室で練習していた。
そろそろ暑くなってきたが、窓は開けられないので、軽音部はエアコンを6月ぐらいから使用許可が出る。
唯と宏太の意味の分からない成長速度はとどまるところを知らず、先輩に追いつくか追いつかないかぐらいまで行っていた。
なので、難易度も何も考えずに作った新しい曲を練習していた。
すると、自分自身の中で何か満足のいかない曲の雰囲気になっていた。
何か青春の疾走感、少し悲しい苦い感じ、それでもきらきらする雰囲気。
そんな雰囲気が欲しかったので、みんなにそれを伝えた。
「ん~、曲としての疾走感というか、青春っぽさというか、なんかそういう感じを出してほしい。」
が、3人はポカーンとしていた。「え?どういうこと?」
「いや、そのまんまだよ。もうちょっと曲全体としての疾走感が欲しい。」
「いや、その疾走感が分からへんねん。」と、唯が言ってきた。
おそらく、未経験者の二人は弾くことで精いっぱいなので曲の雰囲気をくみ取るという事がまだできてなかったんだろう。
と思っていたがそれに続いて、忍も「そうだよ。疾走感だけじゃわかんない。」と言ってきた。
俺は、感覚で言っていたのだがそれが皆には伝わらない様子に俺は苦労していた。
「まあ、もうほんのちょっとリズムが前にくる感じが欲しいってことじゃないの?」
俺と結構な時間を共にしている忍が、解説のように話してくれた。
やはり、小中高とずっと一緒にいると、ある程度俺の考えていることもある程度わかってくれている。
「なんとなくそんな感じ。」
「じゃあ、取り合えずちょっとそれでやってみますか。」
いざ、やってみると自分の欲しい演奏に少しずつ近づいて行った。
なので、都度都度みんなに欲しい演奏を言いながら、何度か練習をした。
結構自分の想像通りの音楽が出来上がって、満足のいく音楽になった。
「めっちゃいい!この感じこの感じ!まじでこれを求めてた!」
俺が満足な様子をあらわにしていると、唯が正直な感想を言ってきた。
「なんかわからへんけど、満足なんならそれでええわ。」
まあ、そんな感じで1時間ほど練習をした。
練習終わりに唯がとある提案をしてきた。
「あのさぁ、勝太郎青春感が足らんって言ってたやん?やからさ、青春っぽいことしてさ、みんなで青春ってのがどんなもんかっていうのを体験してみぃひん?」
確かに、部活に入ってから青春という青春は部活しかしていない。
なので、「友達と遊ぶ」という青春の一部を味わうのもいいかもしれない。
「ありかもな。」普段はかなり無口な宏太がまさかの賛同してきた。
「まあ、なかなか私たち一緒に遊ばないからね。せっかくだしいいんじゃない?」忍も賛同してきた。
「そうだな。まあせっかくだし行くか。」反対する理由も特になかったので、俺も乗っといた。
「じゃあ、カラオケ行く?楽しいで?」という唯の提案にみんなが首を縦に振った。
てなわけで、みんなでカラオケに行くことにした。
学校の最寄り駅の近くに最近できたカラオケ店にみんなで向かった。
「まあ、勝太郎はいいとして、他の二人は歌得意なん?」と、唯が質問をしてきた。
宏太は、少しずつ心を開いて来てくれているみたいで、この話にも混ざってきた。
「まあ、そんなにうまくはないけど、好きだね。」
「忍は?」
「私はまあ、下手だなあ。でも、勝太郎とずっと一緒にいるから感覚がくるってるだけかもしれないからわかんない。」
忍の家で、ずっと俺と一緒に演奏をしていたので、歌のうまさが狂うのは普通なのかもしれない。
一応、母親が元歌手なので、ある程度歌の表現技法や歌の歌い方に関しては母から色々教えてもらっていた。
なので、自分で歌が上手いと言うのは調子乗っているように聞こえるかもしれないが、母への尊敬込みでの発言だ。
「ちなみに、あたしはそこまでうまくないかなあ~。でも、普通に勝太郎以外の二人の歌声がめっちゃ楽しみやねんな。」
そんなこんなの会話をしていると、駅前のカラオケに到着した。
「じゃあ、入りますか。」
「いらっしゃいませー。」
カラオケの店員さんが、感情のこもっていない挨拶をしてきてくれた。
「今からは入れますか?」
と、唯が受付をし始めた。
俺たちは学生証だけ見せて、あとは後ろにおいてある待合用の小さな椅子に座って待っている。
唯は普通の学校の友達とも来ているらしく、会員になっていたみたいで安めの値段で行けることになった。
「じゃあ、フリータイムで...あ、ドリンクバーでお願いします。」
と、店員さんとの色々な受付を終えて、唯は俺たちの方に向かってきた。
「じゃあ、行こうか」
コミュ力の高い唯のおかげでスムーズに入店出来たが、唯が居なければもっと時間がかかっていただろう。
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