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三人はかなり驚いていた。
そりゃあそうだ、一発目からこんな高い点数をたたき出されたら、ビビるのはいたって普通だ。
俺も満足して、ウーロン茶を流し込んで、のどを潤した。
「すご!流石うちのボーカルなだけあるなぁ。」と、唯が俺を褒めてくれる。
褒められるというのは、やはり何があっても嫌な気はしない。
「ほな、二人は歌いそうにないし、あたしが歌おか。」
こういうときでも、唯はすごく積極的にやりたいことをする。
正直、こういうところがいろいろやっていく上で、かなり助かっている。
歌の前奏の部分が、部屋中に響き渡る。
前奏が終わり、唯が歌い始めた。
流石、ドラムをやっているだけあって、リズム感がばっちりだ。
かなりきれいな声なのだが、聴いているとどこか明るさを感じる。
いつも能天気な唯が上手に歌っているので、俺はとても意外に感じた。
確かに、「歌のうまさ」と、「能天気さ」というのは相関関係がないのだが、なぜか意外さは存在する。
そのきれいな歌声で一曲を歌い終わった。
「はあ~、やっぱ84ぐらいやんな~。」と、唯が言ったのに反応して忍が言った。
「いや、勝太郎のせいでかすんでるだけで、十分すごいから!」
これはきっと、忍は唯が傷ついてしまわないように、気を使って言ったんだろう。
「確かにな。よくよく見たら、平均78の曲やし。」
これで、テンションが下がることが分かったので、俺がとある提案をした。
「もう、いっそのこと採点機能使わない方が良いんじゃない?」
「そうやな。もう使わんとこか。宏太と忍もそれでいい?」
2人は無言でうなずいた。
俺は曲を入れるためのコントローラーを手に取り、設定を変えた。
「せっかくやし、二人も歌いいや。」と、唯が提案をした。
「俺、歌下手なんだけど歌ってもいい?」と、宏太が唯の提案に乗った。
最近、露骨に宏太が積極的にはなしたり、自分の思いを伝えてくれる。
「もちろんええで!」という唯の元気な返事を聞いて、宏太は軽くほほ笑んだ。
最近流行りのアニソンを宏太は入れた。
宏太の声は男らしく力強い、だがどこかに繊細さ、細かさを感じさせる声だった。
宏太は歌が下手だと言っていたが、そんなことはなく普通に上手い。
表現などはボーカルができるレベルではないが、
音程を取ったり、感情を表すぐらいはできているので、十分上手いと思う。
「私も、せっかくだし歌おうかな。」と、忍がマイクを握った。
「それじゃあ、これにしようかな。」
かなりしっとりとしたバラード曲だ。
聞きなれた声なのだが、すこし大人っぽさを帯びたきれいな声だ。
こうして、カラオケをしている中で気づいたのだが、人の声質を分析する癖が知らない間についてしまったらしい。
これを、ボーカルをしている「せい」というべきか、「おかげ」というべきかを一瞬考えたが、馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
忍の歌声を聞いていると、どこか落ち着く、安心できるそんな雰囲気がする。
そんなことを考えたとき、俺はふと気づいた。
唯のリズム感が完璧で明るさのある歌。力強く、どこか繊細さのある宏太の歌声。聞きなれた安心感に大人っぽさの混じった声。
すべてが、それぞれの演奏の特徴をつかんでる。
楽しみながら、リズムをしっかりとる唯のドラム。力強いが、どこか丁寧に繊細に演奏する宏太のベース。
誰もが、子どものころから聞いてきたピアノの音に大人のような安定感のある忍のキーボード。
この一瞬にそれぞれのなんとなく言語化に苦しんでいた特徴を理解することが出来た。
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