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家に帰ってからも、忍の泣いている姿が俺の脳裏から離れなかった。
よくよく思い返してみれば、忍の泣いてる顔を見たのは小中学校の卒業式ぶりだ。
本人が優秀だから、先生に怒られて泣くこともなかったし、男子とも仲良くやっていたから嫌がらせも受けていなかった。
だからこそ、初めて見た忍の姿が頭にこびりついてきたのだ。
(だめだ。とりあえず、違う事を考えよう)俺はそう考えて、家に置いてあるギターに手を取って、最近練習している曲をとにかく弾いた。何もかもを忘れようと、必死になって手を動かした。
だが、弾いていてわかる。自分の手が小刻みに震えている。
いつもは絶対にしないミスを連発している。これじゃ、余計に自分の心が沈んでしまう。
さっと、自分のギターをもとの位置に戻して、ベットの中で布団にくるまった。
布団の中で、あれを必死に忘れようとした。
すると、知らない間に意識は夢の世界へと飛び、眠りに着いていた。

次の日、オフなので家で作曲の続きをしていた。
前作っていた曲が、あとはラスサビの打ち込みだけなので完成させた。
「っしゃー!終わった~!」と、叫んだ。
好きなことをやっていたとしても、やはり集中するのは疲れてしまう。
騒音が気になるかもしれないが、父が「子どもはうるさいぐらいが良いから、叫んでも迷惑がかからない家にしたい。」と、我が家のほとんどは防音室になっている。
その代わりに、ローンの返済に追われる日々を暮らしているが、別に苦じゃないと父は言っている。
ちなみに、たとえ曲が出来上がっても俺が歌を入れなければメンバーに聞かせる段階にはいかない。
まあ、ボカロに歌わせてもいいのだが、シンプルにお金がもったいないので使う気はない。
ということで、家にあるマイクに向かってレコーディングをしていく。
俺の中では作曲の工程だと、このレコーディングの時間が一番楽しい。
椅子に座った状態で、少し見上げた位置にマイクがつるされてある。
まあ、もちろんたった一回でOKテイクが出るわけもなく、一回目で満足のいかなかった部分だけ撮り直す。
と、何度か撮り直した後、俺の満足のいくテイクが出た。
そして、撮り終わったら、みんなにサンプルを聞いてもらいに行く。
なので、俺らの中でのグループラインで聞いてもらう日の約束を取り付けることにした。
勝太郎「サンプル完成したから、聴いてもらいたくて、いつなら会える?」
忍「私はいつでも。」
宏太「俺もいつでもいけるよ。」
唯「実は、今日家におらなあかんから、いけるんやったらあたしの家来て欲しいんやけど。」
勝太郎「じゃあ、唯の家集合で大丈夫?」
他3人「分かった。」
ということで、唯の家に集合することになった。
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