15 / 70
決断の中
しおりを挟む
一度仕切り直す為に、酒をスコッチに変える。話題もカードキーの扉をどう突破するかに変える。
出来るなら乱暴狼藉は働かない方向で行きたい。何かやってるの何かの部分が分からないのに、下手な事はしたくない。目覚めが悪い事もだ。
早速運ばれてきたスコッチを舐めつつ、俺は口火を切った。
「さて、どうするね」
「私達に出来る方法としては、二つに一つ。盗むか壊すか」
「……一応、それ以外にも方法はあるっちゃあるんだよな」
「例えば?」
「誰かがカードキーの扉開けたら、閉まり切る前に押し入る」
「強盗の手法ね」
「うるせぇ。……ただまぁ、人が来るのを待たないといけないからな。そこら辺が欠点なのと、それなら盗むのと大差ないってのがな」
「そうよねぇ……」
イリナもそう返して考え込む。俺も腕を組んで唸る。そうしながら図を眺めていると、ある考えが浮かんできた。
押してダメなら引いてみろ。
何も、あの扉だけにこだわる必要は無いのだ。あのカードキーの扉の先。その目星を付けたのだから、まずはそこに行ってからでも遅くはないだろう。
「……行ってみるか」
俺の呟きに疑問符を浮かべるイリナへ思い浮かんだことを説明すると、即断即決と言わんばかりに彼女はグラスのスコッチを一気飲みし、無言で俺の手を引いていく。
その目は爛々としており、俺はグラスに残った酒を急いで飲み干してバーを出て行く羽目になった。アルコールが容赦なく喉を焼く。
「酔ってんのか?」
むせそうになりながら、イリナをジト目で見る。
「まさか。ギンギンよ」
エレベーターに乗り、先程までウロチョロしていたフロアの一階下のフロアで降りる。案内図を元にあの空白の方へ進んで行く。
客室が並ぶエリアの先。そこにあったのは何の変哲もない壁だった。扉も何も無い。試しに回り込んでみたが、反対側にも扉は無かった。
更に試しで壁を叩いてみたが、軽い音は一切しない。逆に重い音がする。結果としては、この船が如何に頑丈に作られているかを改めて思い知らされただけだった。
たまたま通りかかった客に変な目で見られながら、その場から立ち去る。傍目から見れば、俺はなにも無い壁を叩いて回る変人でしかないからだ。
「……さて、これからどうするね」
エレベーターホールまで戻り、ソファーに腰掛ける。柔らかい背もたれに身を預け、イリナを見上げた。
「劇場の方に行ってみるわ」
「それもいいが、望薄と思うぞ」
「どうしてよ」
「昨日、船の中を見て回ったんだがな……。劇場の周りには、出演者控室や楽屋や倉庫がまとめられていた。図にも用途不明の空白は無かったし、さっきの壁より望みがない」
「………………」
イリナはムスッとした顔をしたが、自分の中でも納得がいったのか特に反論はしなかった。
「……さて、これからどうするね」
俺はさっき口にした言葉と一言一句同じ言葉を口にした。
「俺達に残されてんのは、二つ……いや、三つか」
「三つ?」
「カードキーを盗むか、扉を壊すか……見た物を忘れ、知らんぷりするか」
「………………」
「まぁ、要するに。回れ右するなら今の内って事だ」
「回れ右って……」
「考えてみろよ。そもそも、俺達はジャーナリストでも探偵でも正義の味方でもない。興味本位で嗅ぎまわっている一般人だ」
違うか? とイリナに向かって目で語りかける。流石のイリナもそこまで図々しくはないようで、俺の言葉に否定はしなかった。
「本来なら、ここまで踏み込む権利も義務もない。更に言えば、こっから先に踏み込むには、どう足掻いても法を犯す。それも、誤魔化すのが難しいくらいのな」
不法侵入を既にやらかしているとはいえ、その時を誰にも見つけられていないので動かぬ証拠でも出されない限り、シラを切ればある程度は誤魔化せる。
だが、扉を突破するには傷害か器物破損しか方法が無い。しかも、そのどちらも被害者と壊した扉という証拠を残してしまう。バレなければどうって事ないが、バレた時が一番マズイだろう。
日本での安寧を失う可能性が高い。
「……亮平。止める気なの?」
「俺じゃなくて、お前はどうなんだ? イリナ」
「私は別に。むしろ、どんとこいって感じ」
彼女の表情からも、その言葉が痩せ我慢とかそういうのではなく本気なのが伺える。
「そうか」
「……で、亮平は?」
「こんな質問しておいて、俺だけ抜けたはないだろ」
俺がそう返すと、イリナは一瞬だけ目を見開いた後、歯を見せつける形で笑った。
「そうこなくっちゃ」
彼女に投げ返す様にして、俺も笑う。
「いつやる?」
「すぐだ。……一晩置いたら、考えが変わっちまいそうだし」
「それは困っちゃうね。じゃあ行こうすぐ行こう」
中学生のガキみたいなテンションでイリナは言う。
「……よっこいしょ」
それに対して、俺は立ち上がる際に爺臭い事をやってしまった。思わず苦笑するがすぐに取り直し、イリナとどうウェイターを襲うかを考える。
なるべく顔を見られない様にする方法は何かと、案を出し合う。
こんな風な、行動の合間でする作戦会議というのも、久し振りだ。なんだか、昔に戻った気がした。
出来るなら乱暴狼藉は働かない方向で行きたい。何かやってるの何かの部分が分からないのに、下手な事はしたくない。目覚めが悪い事もだ。
早速運ばれてきたスコッチを舐めつつ、俺は口火を切った。
「さて、どうするね」
「私達に出来る方法としては、二つに一つ。盗むか壊すか」
「……一応、それ以外にも方法はあるっちゃあるんだよな」
「例えば?」
「誰かがカードキーの扉開けたら、閉まり切る前に押し入る」
「強盗の手法ね」
「うるせぇ。……ただまぁ、人が来るのを待たないといけないからな。そこら辺が欠点なのと、それなら盗むのと大差ないってのがな」
「そうよねぇ……」
イリナもそう返して考え込む。俺も腕を組んで唸る。そうしながら図を眺めていると、ある考えが浮かんできた。
押してダメなら引いてみろ。
何も、あの扉だけにこだわる必要は無いのだ。あのカードキーの扉の先。その目星を付けたのだから、まずはそこに行ってからでも遅くはないだろう。
「……行ってみるか」
俺の呟きに疑問符を浮かべるイリナへ思い浮かんだことを説明すると、即断即決と言わんばかりに彼女はグラスのスコッチを一気飲みし、無言で俺の手を引いていく。
その目は爛々としており、俺はグラスに残った酒を急いで飲み干してバーを出て行く羽目になった。アルコールが容赦なく喉を焼く。
「酔ってんのか?」
むせそうになりながら、イリナをジト目で見る。
「まさか。ギンギンよ」
エレベーターに乗り、先程までウロチョロしていたフロアの一階下のフロアで降りる。案内図を元にあの空白の方へ進んで行く。
客室が並ぶエリアの先。そこにあったのは何の変哲もない壁だった。扉も何も無い。試しに回り込んでみたが、反対側にも扉は無かった。
更に試しで壁を叩いてみたが、軽い音は一切しない。逆に重い音がする。結果としては、この船が如何に頑丈に作られているかを改めて思い知らされただけだった。
たまたま通りかかった客に変な目で見られながら、その場から立ち去る。傍目から見れば、俺はなにも無い壁を叩いて回る変人でしかないからだ。
「……さて、これからどうするね」
エレベーターホールまで戻り、ソファーに腰掛ける。柔らかい背もたれに身を預け、イリナを見上げた。
「劇場の方に行ってみるわ」
「それもいいが、望薄と思うぞ」
「どうしてよ」
「昨日、船の中を見て回ったんだがな……。劇場の周りには、出演者控室や楽屋や倉庫がまとめられていた。図にも用途不明の空白は無かったし、さっきの壁より望みがない」
「………………」
イリナはムスッとした顔をしたが、自分の中でも納得がいったのか特に反論はしなかった。
「……さて、これからどうするね」
俺はさっき口にした言葉と一言一句同じ言葉を口にした。
「俺達に残されてんのは、二つ……いや、三つか」
「三つ?」
「カードキーを盗むか、扉を壊すか……見た物を忘れ、知らんぷりするか」
「………………」
「まぁ、要するに。回れ右するなら今の内って事だ」
「回れ右って……」
「考えてみろよ。そもそも、俺達はジャーナリストでも探偵でも正義の味方でもない。興味本位で嗅ぎまわっている一般人だ」
違うか? とイリナに向かって目で語りかける。流石のイリナもそこまで図々しくはないようで、俺の言葉に否定はしなかった。
「本来なら、ここまで踏み込む権利も義務もない。更に言えば、こっから先に踏み込むには、どう足掻いても法を犯す。それも、誤魔化すのが難しいくらいのな」
不法侵入を既にやらかしているとはいえ、その時を誰にも見つけられていないので動かぬ証拠でも出されない限り、シラを切ればある程度は誤魔化せる。
だが、扉を突破するには傷害か器物破損しか方法が無い。しかも、そのどちらも被害者と壊した扉という証拠を残してしまう。バレなければどうって事ないが、バレた時が一番マズイだろう。
日本での安寧を失う可能性が高い。
「……亮平。止める気なの?」
「俺じゃなくて、お前はどうなんだ? イリナ」
「私は別に。むしろ、どんとこいって感じ」
彼女の表情からも、その言葉が痩せ我慢とかそういうのではなく本気なのが伺える。
「そうか」
「……で、亮平は?」
「こんな質問しておいて、俺だけ抜けたはないだろ」
俺がそう返すと、イリナは一瞬だけ目を見開いた後、歯を見せつける形で笑った。
「そうこなくっちゃ」
彼女に投げ返す様にして、俺も笑う。
「いつやる?」
「すぐだ。……一晩置いたら、考えが変わっちまいそうだし」
「それは困っちゃうね。じゃあ行こうすぐ行こう」
中学生のガキみたいなテンションでイリナは言う。
「……よっこいしょ」
それに対して、俺は立ち上がる際に爺臭い事をやってしまった。思わず苦笑するがすぐに取り直し、イリナとどうウェイターを襲うかを考える。
なるべく顔を見られない様にする方法は何かと、案を出し合う。
こんな風な、行動の合間でする作戦会議というのも、久し振りだ。なんだか、昔に戻った気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる