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檻の中
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子供の数はザッと見ても二十はいた。しかも年齢は最年長でも小学校中学年くらいの、年端もいかないという表現がピッタリくる子供達だ。
彼等は突如として部屋に突入してきた俺達に慄いた。
リーダー的な役割を持っているのか、その中で一人、浅黒い肌をした女の子が両手を広げ他の幼子を守る体勢を取った。
「子供?」
流石にこれは予想外でイリナも目を丸くしている。しかも、檻に閉じ込められている。とてもじゃないが、穏やかではない状況だ。
俺は構えるのを止め、イリナに銃を預けると檻まで近づいた。
「君達は?」
試しに英語で話しかけてみる。だが、皆怯えるばかりで話そうとしない。
それに唯一口を開いたリーダーらしき女の子の口から出てきたのは。「manténgase alejado」という言葉だった。
「なんて言ったの?」
イリナが俺に聞いてくる。幸い、その言語は俺の知識の中にあった。
「スペイン語。たしか意味は『近づかないで』だったはず」
うろ覚えでたどたどしくなることを承知で、俺は息を吸い込む。
「No somos enemigos」
すると女の子は顔を上げ、俺とイリナの顔に真剣な眼差しを向けてきた。子供だからと言って侮ってはいけない。そう思わせるだけの力がある。
「……Entonces, ¿quién eres?」
「¿Me? Soy un invitado en este barco」
「¿Navío? ¿Es esto un barco?」
「Sí, así es」
少女の顔から血の気が引いていくのがよく分かった。その様子からして、ここが船なのを知らなかったようだ。
「……¿Por qué están aquí?」
核心に迫る質問をする。何故ここが船だとしらなかったのか、何故子供達だけなのか。予測こそ付くし、それを子供の口から言わせるのは酷な事もかもしれない。でも、確証を得られなければ疑うことしか出来ないのだ。
「……Hemos sido vendidos y secuestrados」
俺とイリナは顔を見合わせた。疑惑が確信に切り替わる。
「人身売買」
イリナの言葉に、俺は黙って頷いた。人身売買自体、決して無縁だった訳じゃない。
そもそも、戦場と戦争犯罪は切っても切れない縁だ。俺も傭兵時代、連れ去られそうになった子供を助けた事も一度や二度じゃない。
三年前の戦争でも超大国軍の兵隊が属国の子供を連れ去って、『再教育』という名の洗脳まがいの事をやっていたのも有名な話だ。
「もしかして、この船に乗ってる金持ち相手に?」
「……だろうな」
一歩引いて冷静に考えてみれば、豪華客船ほど人身売買におあつらえ向きな空間は無い。
航路によっては全世界を回るので、客も商品も仕入れ放題。
客層も一定のクオリティーが望める。それに、海の上じゃ逃げられる心配は無い。
臨検でもやられなければ、バレもしない。
やってる事はクソ以下だが、これを考えた奴は頭が良い。
おそらく、戦闘訓練を受けたウェイターはおそらく人身売買ビジネス側の人間。一定の区画にしかいないのは、一定の区画の客相手に商売をするからだ。
「……どうする?」
「どうするもこうするも、見捨てる訳にはいかないだろ。ここでこの子達放って逃げたら、目覚めが悪い」
「そうよねぇ……」
事は確実に俺達の手に負えなくなってきている。だが、放っておいたら確実に後悔するだろう。
永遠に覚めない悪夢の中に放り出されるのと同義だ。
しかし、どうすればいいのか。何処にどう逃げ、何処にどう助けを求めればいいのか。二十人もの子供達を誰にも気づかれずに移動させるのは不可能に近い。
「外に助けでも求める?」
「どうやって? 携帯は通じないし、衛星通信機の類は持ってないぞ」
「操舵室とかに行けばあるかも」
ああでもないこうでもないと俺達が話していると、例の少女が話に割り入るようにして訊ねてきた。
「¿Pueden ayudarnos?」
それを聞いた途端、胸を締め付けられるような痛みが走った。少女の懇願するような、すがりつく目線が胸を締め付けるのだ。
「俺が助けてやる」
今すぐにでもそう叫びたい。隣を見れば、イリナも同じ様な顔をしている。
(どうすれば……)
俺達が必死に頭を絞っていると、入ってきた扉とは別の扉が開き。
「んあ?」
MP5Kを手にしたウェイターの格好をした男が入ってきた。男は俺達の存在に驚いた様だったがすぐに取り直し。
「誰だテメェ等!」
銃を構えようとした。しかし男が構えるより先に、二発分の銃声が鳴った。
イリナがグロックを撃ったのだ。
彼等は突如として部屋に突入してきた俺達に慄いた。
リーダー的な役割を持っているのか、その中で一人、浅黒い肌をした女の子が両手を広げ他の幼子を守る体勢を取った。
「子供?」
流石にこれは予想外でイリナも目を丸くしている。しかも、檻に閉じ込められている。とてもじゃないが、穏やかではない状況だ。
俺は構えるのを止め、イリナに銃を預けると檻まで近づいた。
「君達は?」
試しに英語で話しかけてみる。だが、皆怯えるばかりで話そうとしない。
それに唯一口を開いたリーダーらしき女の子の口から出てきたのは。「manténgase alejado」という言葉だった。
「なんて言ったの?」
イリナが俺に聞いてくる。幸い、その言語は俺の知識の中にあった。
「スペイン語。たしか意味は『近づかないで』だったはず」
うろ覚えでたどたどしくなることを承知で、俺は息を吸い込む。
「No somos enemigos」
すると女の子は顔を上げ、俺とイリナの顔に真剣な眼差しを向けてきた。子供だからと言って侮ってはいけない。そう思わせるだけの力がある。
「……Entonces, ¿quién eres?」
「¿Me? Soy un invitado en este barco」
「¿Navío? ¿Es esto un barco?」
「Sí, así es」
少女の顔から血の気が引いていくのがよく分かった。その様子からして、ここが船なのを知らなかったようだ。
「……¿Por qué están aquí?」
核心に迫る質問をする。何故ここが船だとしらなかったのか、何故子供達だけなのか。予測こそ付くし、それを子供の口から言わせるのは酷な事もかもしれない。でも、確証を得られなければ疑うことしか出来ないのだ。
「……Hemos sido vendidos y secuestrados」
俺とイリナは顔を見合わせた。疑惑が確信に切り替わる。
「人身売買」
イリナの言葉に、俺は黙って頷いた。人身売買自体、決して無縁だった訳じゃない。
そもそも、戦場と戦争犯罪は切っても切れない縁だ。俺も傭兵時代、連れ去られそうになった子供を助けた事も一度や二度じゃない。
三年前の戦争でも超大国軍の兵隊が属国の子供を連れ去って、『再教育』という名の洗脳まがいの事をやっていたのも有名な話だ。
「もしかして、この船に乗ってる金持ち相手に?」
「……だろうな」
一歩引いて冷静に考えてみれば、豪華客船ほど人身売買におあつらえ向きな空間は無い。
航路によっては全世界を回るので、客も商品も仕入れ放題。
客層も一定のクオリティーが望める。それに、海の上じゃ逃げられる心配は無い。
臨検でもやられなければ、バレもしない。
やってる事はクソ以下だが、これを考えた奴は頭が良い。
おそらく、戦闘訓練を受けたウェイターはおそらく人身売買ビジネス側の人間。一定の区画にしかいないのは、一定の区画の客相手に商売をするからだ。
「……どうする?」
「どうするもこうするも、見捨てる訳にはいかないだろ。ここでこの子達放って逃げたら、目覚めが悪い」
「そうよねぇ……」
事は確実に俺達の手に負えなくなってきている。だが、放っておいたら確実に後悔するだろう。
永遠に覚めない悪夢の中に放り出されるのと同義だ。
しかし、どうすればいいのか。何処にどう逃げ、何処にどう助けを求めればいいのか。二十人もの子供達を誰にも気づかれずに移動させるのは不可能に近い。
「外に助けでも求める?」
「どうやって? 携帯は通じないし、衛星通信機の類は持ってないぞ」
「操舵室とかに行けばあるかも」
ああでもないこうでもないと俺達が話していると、例の少女が話に割り入るようにして訊ねてきた。
「¿Pueden ayudarnos?」
それを聞いた途端、胸を締め付けられるような痛みが走った。少女の懇願するような、すがりつく目線が胸を締め付けるのだ。
「俺が助けてやる」
今すぐにでもそう叫びたい。隣を見れば、イリナも同じ様な顔をしている。
(どうすれば……)
俺達が必死に頭を絞っていると、入ってきた扉とは別の扉が開き。
「んあ?」
MP5Kを手にしたウェイターの格好をした男が入ってきた。男は俺達の存在に驚いた様だったがすぐに取り直し。
「誰だテメェ等!」
銃を構えようとした。しかし男が構えるより先に、二発分の銃声が鳴った。
イリナがグロックを撃ったのだ。
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