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食堂の中
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ヘリから降りると俺達は上等兵曹の案内の下、船の食堂の方に向かうとした。
しかし、別れる段になり子供達の何人か、特にエレナが不安そうな眼差しを向けてくる。たった数時間の付き合い、それにその大半を寝て過ごしていたにも関わらずここまで信用されていたのは意外だった。
兵曹に一言断ってから、俺はエレナの前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫だよ」
スペイン語ではなく、英語で言ったが意図は伝わったようで少しだけ安心したようで僅かに表情を緩める。
「行きましょう」
「……はい」
船医らしき白衣を着た男と女性隊員が子供達に声を掛けだしたのを見届けてから、俺とイリナは船の中へと入った。食堂に入ると、コーヒーの芳香が鼻孔を飛び込んでくる。
一昨日の昼に飲んだので、久し振りという訳じゃないが今の俺にはその匂いが酷く懐かしく感じた。
匂いの元を辿ろうと顔を上げると、どことなくこの場に似つかわしくないラテン系のスーツを着た男が目に入ってきた。ニコラス・ケイジに髪を幾分か足して、三十歳くらい若返らせたみたいな男だ。
男は俺達の存在に気が付くと、立ち上がりこちらに一礼をした。
「FBIのスタンリー・コッポラです。以後お見知りおきを」
「石田です。こちらこそ」
「イリナ・ガルキアです。どうも」
こちらもそれぞれに挨拶を返し、席に付く。兵曹は俺達二人にもコーヒーを出してから、警備隊側の捜査官を呼んでくると言って食堂を後にした。
一息付こうとディスペンサーから垂れ流されたブラックの不味いコーヒーを啜っていると、コッポラが口火を切った。
「突然で悪いですが……。石田さん、ガルキアさん、貴方達は一体何者なんですか?」
コッポラが真面目くさった表情で突然かつ変な質問を投げかけてきたので、思わず変な声が出てしまう。イリナに至っては声を出して笑っていた。
「何者って……」
目尻の涙を拭いながら、イリナが言う。
「ただの雇われガードマンよ、私」
「俺もただの旅人だ」
馬鹿にされたと思ったのか、コッポラはムッとした顔をする。
だが、これが事実なのだからしょうがない。
俺はイギリスの公務員でもちょっとイカしたアメリカ人でも、赤旗の下に集った同志でもない、日本語学校の事務員だ。
「じゃあなんでただの一般人が、銃器を難なく扱い、子供二十人を怪我もさせずに安全な所まで移動させられたんですか!?」
その言葉を聞いて、俺はいつの間にか自分の認識が歪んでいる事に気づかされた。俺の中の当たり前が、必ずしも他人にも当てはまるとは限らないのだと。
散々、イリナをマイノリティー扱いしてきたが、冷静に考えれば俺もマイノリティー側なのだ。しかし、今の俺は間違いなく一般人だ。これは紛れもない事実である。
「相手が無能だったのが一つ。それと、向こうからしたら子供達は商品だからな、下手に傷付けられなかったんだろう」
それらしい言葉を言って、彼を煙に撒く。
「……ただの初老の旅人は、即座にそうは返さないんですよ」
皮肉にもなりきらない素直な毒を吐き、コッポラは今度はイリナの方を見た。
「……まだ中年だよ」
俺の絞り出した声を無視して、コッポラは話し始める。
「ガルキアさん。貴方さっき、雇われガードマンだって言いましたよね」
「言ったわ」
「……本当に、ただの雇われガードマンなんですか?」
「そうよ」
平然とした声と表情で言い放つ。イリナだって、修羅場の数で言えば同世代の女より圧倒的に上な訳で。大卒のお坊ちゃんが敵う相手ではない。案の定、コッポラは絶句していた。
「じゃあ逆に聞くけど、貴方は私達を一体なんだと思ってるの?」
「カタギの職業じゃない人達」
それを冗談ではなく、本気で言っている。彼の顔からはその事が読み取れた。
これには俺も笑ってしまった。
「カタギじゃない……ときたか……」
「違いますか?」
「違うよ。なんなら、調べてくれたって構わない」
「………………」
しかし、それでもコッポラは疑いの眼差しを向けてくるので俺とイリナは顔を見合わせる。ここで若いFBI捜査官をおちょくるのも悪くはないが、ここで前職を話す事にした。
「……悪かったよ。だが、嘘は言ってない。俺達はカタギだ。だけど、前は違う」
「前?」
「三年前の戦争、覚えているか?」
「覚えてるもなにも、忘れる訳がないじゃないですか」
「俺達は、義勇兵としてそこで戦っていたんだ」
突然何を言い出すかと思えば。コッポラの顔にそんな文字が浮かんでくる。
「ぎゆうへい?」
「そう。義勇兵」
「更に言えば、俺はそれより前から中東方面でイスラム過激派とドンパチしてた。……下手すれば、コッポラ君、君がミルク飲んでた頃から銃握ってたんだよ」
「………………」
またコッポラは無言になってしまったが、彼の中では納得が付いた様だった。
「……そう、だったんですね」
噛みしめるかの如く、彼は一音一句をハッキリと発音する。
「そうなんだよ」
改めて言うと、少し照れ臭くなってくる。それを誤魔化す為に頭を指で掻いた。
「お待たせしました!」
兵曹が再び食堂の扉をくぐった。その隣には、軍人には見えない影の薄そうな捜査官を連れていた。
しかし、別れる段になり子供達の何人か、特にエレナが不安そうな眼差しを向けてくる。たった数時間の付き合い、それにその大半を寝て過ごしていたにも関わらずここまで信用されていたのは意外だった。
兵曹に一言断ってから、俺はエレナの前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫だよ」
スペイン語ではなく、英語で言ったが意図は伝わったようで少しだけ安心したようで僅かに表情を緩める。
「行きましょう」
「……はい」
船医らしき白衣を着た男と女性隊員が子供達に声を掛けだしたのを見届けてから、俺とイリナは船の中へと入った。食堂に入ると、コーヒーの芳香が鼻孔を飛び込んでくる。
一昨日の昼に飲んだので、久し振りという訳じゃないが今の俺にはその匂いが酷く懐かしく感じた。
匂いの元を辿ろうと顔を上げると、どことなくこの場に似つかわしくないラテン系のスーツを着た男が目に入ってきた。ニコラス・ケイジに髪を幾分か足して、三十歳くらい若返らせたみたいな男だ。
男は俺達の存在に気が付くと、立ち上がりこちらに一礼をした。
「FBIのスタンリー・コッポラです。以後お見知りおきを」
「石田です。こちらこそ」
「イリナ・ガルキアです。どうも」
こちらもそれぞれに挨拶を返し、席に付く。兵曹は俺達二人にもコーヒーを出してから、警備隊側の捜査官を呼んでくると言って食堂を後にした。
一息付こうとディスペンサーから垂れ流されたブラックの不味いコーヒーを啜っていると、コッポラが口火を切った。
「突然で悪いですが……。石田さん、ガルキアさん、貴方達は一体何者なんですか?」
コッポラが真面目くさった表情で突然かつ変な質問を投げかけてきたので、思わず変な声が出てしまう。イリナに至っては声を出して笑っていた。
「何者って……」
目尻の涙を拭いながら、イリナが言う。
「ただの雇われガードマンよ、私」
「俺もただの旅人だ」
馬鹿にされたと思ったのか、コッポラはムッとした顔をする。
だが、これが事実なのだからしょうがない。
俺はイギリスの公務員でもちょっとイカしたアメリカ人でも、赤旗の下に集った同志でもない、日本語学校の事務員だ。
「じゃあなんでただの一般人が、銃器を難なく扱い、子供二十人を怪我もさせずに安全な所まで移動させられたんですか!?」
その言葉を聞いて、俺はいつの間にか自分の認識が歪んでいる事に気づかされた。俺の中の当たり前が、必ずしも他人にも当てはまるとは限らないのだと。
散々、イリナをマイノリティー扱いしてきたが、冷静に考えれば俺もマイノリティー側なのだ。しかし、今の俺は間違いなく一般人だ。これは紛れもない事実である。
「相手が無能だったのが一つ。それと、向こうからしたら子供達は商品だからな、下手に傷付けられなかったんだろう」
それらしい言葉を言って、彼を煙に撒く。
「……ただの初老の旅人は、即座にそうは返さないんですよ」
皮肉にもなりきらない素直な毒を吐き、コッポラは今度はイリナの方を見た。
「……まだ中年だよ」
俺の絞り出した声を無視して、コッポラは話し始める。
「ガルキアさん。貴方さっき、雇われガードマンだって言いましたよね」
「言ったわ」
「……本当に、ただの雇われガードマンなんですか?」
「そうよ」
平然とした声と表情で言い放つ。イリナだって、修羅場の数で言えば同世代の女より圧倒的に上な訳で。大卒のお坊ちゃんが敵う相手ではない。案の定、コッポラは絶句していた。
「じゃあ逆に聞くけど、貴方は私達を一体なんだと思ってるの?」
「カタギの職業じゃない人達」
それを冗談ではなく、本気で言っている。彼の顔からはその事が読み取れた。
これには俺も笑ってしまった。
「カタギじゃない……ときたか……」
「違いますか?」
「違うよ。なんなら、調べてくれたって構わない」
「………………」
しかし、それでもコッポラは疑いの眼差しを向けてくるので俺とイリナは顔を見合わせる。ここで若いFBI捜査官をおちょくるのも悪くはないが、ここで前職を話す事にした。
「……悪かったよ。だが、嘘は言ってない。俺達はカタギだ。だけど、前は違う」
「前?」
「三年前の戦争、覚えているか?」
「覚えてるもなにも、忘れる訳がないじゃないですか」
「俺達は、義勇兵としてそこで戦っていたんだ」
突然何を言い出すかと思えば。コッポラの顔にそんな文字が浮かんでくる。
「ぎゆうへい?」
「そう。義勇兵」
「更に言えば、俺はそれより前から中東方面でイスラム過激派とドンパチしてた。……下手すれば、コッポラ君、君がミルク飲んでた頃から銃握ってたんだよ」
「………………」
またコッポラは無言になってしまったが、彼の中では納得が付いた様だった。
「……そう、だったんですね」
噛みしめるかの如く、彼は一音一句をハッキリと発音する。
「そうなんだよ」
改めて言うと、少し照れ臭くなってくる。それを誤魔化す為に頭を指で掻いた。
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