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医務室の中
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沿岸警備隊の捜査官はほとんどお飾りだった。
コッポラが主立って質問をし、警備隊の方の捜査官は人の良さそうな、悪く言えば曖昧な笑みを浮かべながら隣に座っているだけだった。
どうやら、捜査の主導はFBIが握っているらしい。
俺とイリナがウェイターの不審な点に気が付いてから操舵室に駆け込むまでの全てを話し終えると、コッポラはそれまで取っていたメモを止め、軽く咳払いをした。
「ありがとうございました。……まぁ、不法侵入など色々とありますが、今は、いいです」
今はということは、いずれ言及される時が来るのだろうか。散々暴れておいてアレだが、日本に帰る頃に無職になっているのは嫌だな。
などと思っているとコッポラがメモを閉じ、「ご協力ありがとうございました」と言った。
「とりあえず、今回はこれくらいで。また何かあれば、連絡します」
「……もう、いいのか?」
「今日のところは、これで大丈夫です。……子供達にも、話を聞きたいですし」
「そうか」
「何かあったら、連絡しますんで」
「……分かったよ」
冷めて不味さが増したコーヒーの残りを飲み下し、俺は席を立った。コーヒーには手を付けなかったが、イリナも同じく席を立つ。
「医務室は何処だ?」
沿岸警備隊の捜査官は、俺の言葉が自分に対して向けられた事にしばらく経ってから気が付いたようで、「ああ」と酷く間の抜けた声を出し説明を始めた。
医務室の前の廊下は、子供達でごった返していた。
子供達は俺達の姿を認めると、それぞれの言葉で「おじさん」と「お姉さん」と声にする。随分と懐かれたものだ。ハイタッチをしたり、頭をポンポンしたりしながら医務室に入る。
甲板で子供達を迎えに来ていた女性隊員が、小さな患者相手に問診をしていた。俺が声を掛けると、奥の方から白衣の男が現れた。
「この子達を保護した方ですね」
首から提げた聴診器を外しながら、彼は言った。
「はい」
「皆、少し瘦せていたり、栄養状態がよくなかったり、不安な点は多いですが……なにもすぐに命に関わる様な症状が出ている子はいませんでした」
「……そうですか」
それを聞いて心の底からでは無いが、子供達に関してはひとまず安心することが出来た。
「あと一時間もすればホノルルの基地に戻れますから、そこで食事を取らせますよ。勿論、貴方達の分もありますよ」
「そりゃありがたい」
「昨日の昼から、何にも食べてないからね」
イリナの発言を聞いたことで、腹が減ってる事を意識させられる。軍隊のメシと言えばクソ不味いレーションが思い浮かぶが、往々にして基地のメシは美味いものだ。何処の国の元軍人も、口を揃えてそう言う。
ならば、期待してもいいだろう。
「……そういえば、あの子は?」
イリナが俺の肩を叩きながら訊ねてくる。
「あの子?」
「エレナって娘」
言われてからザッと部屋を見回してみるが、あの子の姿は無い。
「ああ。言われてみれば、見えないな」
俺とイリナが揃って首を左右に捻っていると、女性隊員が「あの子なら、トイレに行ったはずですよ」と教えてくれた。
「そうですか」
「……でも、少し遅いですね。そこそこ時間経ってると思うんですけど」
彼女の言葉で一気に不安になった。
「それなら、私、探してきましょうか?」
イリナが手を上げる。この場で手一杯らしい医官と女性隊員は、その申し出にありがたいと頭を下げた。部外者に船内をうろつかせていいものかと一瞬思ったが、隊員がいいと言ったのならいいのだろう。
トイレの場所を教えてもらい、二人で向かう。だが流石に、女子トイレに入るのはイリナだけだ。
彼女がすぐに出てこなかったので、俺は壁に寄りかかり欠伸を一つかいた。欠伸で漏れた涙を拭っていると、イリナがエレナを連れてトイレから出てくる。
「用足しは済んだのか?」
「……うん」
小さな声を共に頷くエレナ。
「医務室に戻ろう。それに、あと少ししたら港に着くみたいだから、そこでメシが食べられるぞ。……腹、減っただろ?」
「……うん」
見るからにテンションが低い。俺がそれに困惑していると、見かねたイリナが口を出してきた。
「あとで話すから。医務室に戻ろう」
「お、おお……」
言われるがまま、医務室に引っ張られていく。そして、エレナをそこに預けると、再びイリナに連れられて甲板に出た。そこには乗ってきたヘリコプターが二機並んでいて、周囲で整備員らしき作業服を着た何人かが忙しなく動き回っている。銃器とはまた違う、油と鉄の匂いが漂っていた。
作業中のところ、うろついていいんだろうか。コックと整備員を怒らすとロクな事にならないと、経験上知っている。しかし、そんな事お構いなしに柵の方まで俺を引っ張って行く。
この時、動いていく景色を前にこの船を動いているのを実感した。船医の言葉からこの船が動いているのを理解してはいたが、それを意識するのはここにきて初めてだった。
「で? 聞かせてくれるんだろうな」
柵を背に、手すりの部分にもたれ掛かる。
「勿論。そのつもりで、ここまで連れてきたんだもん」
イリナは手すりに腕を置き、視線を海に向け、目を細めた。
コッポラが主立って質問をし、警備隊の方の捜査官は人の良さそうな、悪く言えば曖昧な笑みを浮かべながら隣に座っているだけだった。
どうやら、捜査の主導はFBIが握っているらしい。
俺とイリナがウェイターの不審な点に気が付いてから操舵室に駆け込むまでの全てを話し終えると、コッポラはそれまで取っていたメモを止め、軽く咳払いをした。
「ありがとうございました。……まぁ、不法侵入など色々とありますが、今は、いいです」
今はということは、いずれ言及される時が来るのだろうか。散々暴れておいてアレだが、日本に帰る頃に無職になっているのは嫌だな。
などと思っているとコッポラがメモを閉じ、「ご協力ありがとうございました」と言った。
「とりあえず、今回はこれくらいで。また何かあれば、連絡します」
「……もう、いいのか?」
「今日のところは、これで大丈夫です。……子供達にも、話を聞きたいですし」
「そうか」
「何かあったら、連絡しますんで」
「……分かったよ」
冷めて不味さが増したコーヒーの残りを飲み下し、俺は席を立った。コーヒーには手を付けなかったが、イリナも同じく席を立つ。
「医務室は何処だ?」
沿岸警備隊の捜査官は、俺の言葉が自分に対して向けられた事にしばらく経ってから気が付いたようで、「ああ」と酷く間の抜けた声を出し説明を始めた。
医務室の前の廊下は、子供達でごった返していた。
子供達は俺達の姿を認めると、それぞれの言葉で「おじさん」と「お姉さん」と声にする。随分と懐かれたものだ。ハイタッチをしたり、頭をポンポンしたりしながら医務室に入る。
甲板で子供達を迎えに来ていた女性隊員が、小さな患者相手に問診をしていた。俺が声を掛けると、奥の方から白衣の男が現れた。
「この子達を保護した方ですね」
首から提げた聴診器を外しながら、彼は言った。
「はい」
「皆、少し瘦せていたり、栄養状態がよくなかったり、不安な点は多いですが……なにもすぐに命に関わる様な症状が出ている子はいませんでした」
「……そうですか」
それを聞いて心の底からでは無いが、子供達に関してはひとまず安心することが出来た。
「あと一時間もすればホノルルの基地に戻れますから、そこで食事を取らせますよ。勿論、貴方達の分もありますよ」
「そりゃありがたい」
「昨日の昼から、何にも食べてないからね」
イリナの発言を聞いたことで、腹が減ってる事を意識させられる。軍隊のメシと言えばクソ不味いレーションが思い浮かぶが、往々にして基地のメシは美味いものだ。何処の国の元軍人も、口を揃えてそう言う。
ならば、期待してもいいだろう。
「……そういえば、あの子は?」
イリナが俺の肩を叩きながら訊ねてくる。
「あの子?」
「エレナって娘」
言われてからザッと部屋を見回してみるが、あの子の姿は無い。
「ああ。言われてみれば、見えないな」
俺とイリナが揃って首を左右に捻っていると、女性隊員が「あの子なら、トイレに行ったはずですよ」と教えてくれた。
「そうですか」
「……でも、少し遅いですね。そこそこ時間経ってると思うんですけど」
彼女の言葉で一気に不安になった。
「それなら、私、探してきましょうか?」
イリナが手を上げる。この場で手一杯らしい医官と女性隊員は、その申し出にありがたいと頭を下げた。部外者に船内をうろつかせていいものかと一瞬思ったが、隊員がいいと言ったのならいいのだろう。
トイレの場所を教えてもらい、二人で向かう。だが流石に、女子トイレに入るのはイリナだけだ。
彼女がすぐに出てこなかったので、俺は壁に寄りかかり欠伸を一つかいた。欠伸で漏れた涙を拭っていると、イリナがエレナを連れてトイレから出てくる。
「用足しは済んだのか?」
「……うん」
小さな声を共に頷くエレナ。
「医務室に戻ろう。それに、あと少ししたら港に着くみたいだから、そこでメシが食べられるぞ。……腹、減っただろ?」
「……うん」
見るからにテンションが低い。俺がそれに困惑していると、見かねたイリナが口を出してきた。
「あとで話すから。医務室に戻ろう」
「お、おお……」
言われるがまま、医務室に引っ張られていく。そして、エレナをそこに預けると、再びイリナに連れられて甲板に出た。そこには乗ってきたヘリコプターが二機並んでいて、周囲で整備員らしき作業服を着た何人かが忙しなく動き回っている。銃器とはまた違う、油と鉄の匂いが漂っていた。
作業中のところ、うろついていいんだろうか。コックと整備員を怒らすとロクな事にならないと、経験上知っている。しかし、そんな事お構いなしに柵の方まで俺を引っ張って行く。
この時、動いていく景色を前にこの船を動いているのを実感した。船医の言葉からこの船が動いているのを理解してはいたが、それを意識するのはここにきて初めてだった。
「で? 聞かせてくれるんだろうな」
柵を背に、手すりの部分にもたれ掛かる。
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