戦う理由

タヌキ

文字の大きさ
39 / 70

言い合いの中

しおりを挟む
 身体を動かすことに疲れた俺達は、砂山を作ったりそれにトンネルを掘ったりして遊び始めた。
「なに作ってんの?」
「防波堤」
 打ち寄せてくる波から、エレナが創る山を守るためだ。砂製なので言うほど耐久性は無いが、無いよりはマシである。
 かくいうエレナは一生懸命に砂を積んで、固めて山の形を作っている。イリナはその補助だ。
「これ、どこに積む?」
「ここ!」
 創造主の名を取ってエレナ山と呼ぶが、その山はエベレスト級の急勾配を誇る山となっていた。
 というか、ほぼ円錐である。
 それを見ていると、なんだか懐かしい気分になる。
 俺も子供の頃、公園の砂場で同じような山を作ったことがあるからだ。あの頃は、飽きもせず砂を掘っては盛って、山を作っていた。
「亮平。堤防……」
「堤防じゃなくて防波堤――あっ……」
 俺が作った防波堤は、いつの間にか波にさらわれて形を留めていなかった。
「……やっぱし、耐久力ないからダメか」
「別に無くてもいいじゃん」
 イリナはそう言うが、それではスッキリしない。
「どうするか……」
 俺が悩んでいると、エレナが肩を叩いた。
「どうした?」
 エレナは山の麓を指差し、手で掘るジェスチャーをする。何をしたいのか一瞬分からなかったが、「ここに水を溜めるの」という彼女の言葉にその意味を理解した。
 水をせき止めるのではなく、あえて受け入れて水を溜める態勢を取るということらしい。
「頭いいな」
 これは素直に感心した。
 押して駄目なら引いてみろ、を地でいくような発想だ。
 俺は言われるがまま、砂を掘り、山の周りに濠を作っていく。
 すると、みるみるうちに海水が流れ込んできた。でも、水は濠に溜まるだけで山を削ることはない。
「凄いな。ちゃんとしてるよ」
 得意げな顔をするエレナを褒める。
 イリナは黙々と山を改造している。何にインスピレーションを受けたのか、角を付けていた。
 これじゃあ鬼ヶ島だ。
「なーにしとるか」
「イカしてるでしょ」
「桃太郎に攻め落とされそうなデザインじゃねぇか。縁起悪い」
「モモタロウ?」
 イリナとエレナが揃って首を傾げる。日本人なら誰でも知ってる昔話だが、あくまでも日本人限定だ。
「昔話だ。桃太郎っていう、桃から生まれた男の子が犬と猿と雉を子分にして、鬼が住む鬼ヶ島に突入する……って話だ」
 とりあえずイリナ向けに、英語でざっくばらんに説明する。
「随分とバイオレンスな話ね」
 イリナの素直すぎる感想に思わず笑ってしまう。
「でもまぁ、鬼も周辺の集落から金品を略奪してるから、大義名分はあるんだよな。正義の鉄槌を下すなりなんなりの」
「ふーん。で、その奪われた金品は返されたの?」
「……そういえば返されてないな」
 それどころか、自分の物にしていた気がする。少なくとも、俺の記憶にある桃太郎はそうだった。
「……モモタロウってどんな話?」
 エレナにせがまれ、今度はスペイン語でざっくばらんに説明する。
 すると。
「なんで、モモタロウは宝を取り返そうとしたの? 自分の家は襲われなかったんでしょ?」
 これまた、ストレートな感想が出てきた。
「……それは、あれだ。正義感だ。なんの罪もない一般人から宝を奪う、卑劣な鬼を倒す為だ」
「……よく分かんない」
「いずれ、分かるようになるよ。コイツだけは許せないって、気持ちが湧いてくる。それが正義感だ」
「正義感……」
 ホノルルの温かな砂浜の上で、齢八歳ほどの女の子に正義感を説く。
 不思議な体験だ。こんなことをしているか、したのは、俺だけだろう。
(妙な感じだ)
 ふと見れば、いつの間にか鬼ヶ島に顔が付いていた。目と口の部分を窪ませている。目付きが悪い、禍々しい表情だ。
「進化版オニガシマよ」
 進化どころか、古典的デザインだ。子供の頃に見たマンガ日本昔話に登場した鬼ヶ島にそっくり。
 けど、それを言うとイリナがへそを曲げるのは火を見るよりも明らかなので、適当に褒めておく。
「桃太郎が尻尾巻いて逃げてくな」
「でしょ。……でも、私だったら逃げないわ」
「勇ましいことで」
「……ねぇ、少し遊ばない?」
「遊んでるだろ」
「頭を使う遊びよ」
 何を言い出すかと思えば、自分だったらどうこの島を攻め落とすかをシミュレートする遊びらしい。
「……可愛くない遊びだな。それに、エレナの教育上よろしくない」
「なによ。ついこの間まで、喜んで似たようなことばかりやってたクセに」
 似たようなこと。何年も鉄火場に立ってきたベテランとして、俺に作戦を立案させることが何度かあったのだ。
 彼女はそのことを言っている。
「三年前まではな。それに、アレだって仕事だったんだ。特別ボーナスまで出た時もあったんだぞ」
「別に仕事じゃなくても――」
 イリナがそこまで言いかけたが、急に言葉を止める。
「……どうした?」
 なにごとかと思ったら、エレナがクスクスと笑っていた。
「エレナ?」
 俺が呼びかけると、彼女は笑いながら俺とイリナへ交互に視線を向けた。
「おかしいよ。おじさんとお姉ちゃん」
「なんで?」
「だって、笑いながら喧嘩してるんだもん」
 どうやら自分達も気付かぬうちに、言い合いをしながら笑っていたらしい。
 思いもよらぬ指摘に、俺とイリナはキョトンとしていたが。
「仲いいね」
 エレナのスペイン語で言い、俺は赤面しながら、「よせやい」と返した。
 今の言葉が理解出来なかったイリナは、キョトンとしたままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...