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言い合いの中
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身体を動かすことに疲れた俺達は、砂山を作ったりそれにトンネルを掘ったりして遊び始めた。
「なに作ってんの?」
「防波堤」
打ち寄せてくる波から、エレナが創る山を守るためだ。砂製なので言うほど耐久性は無いが、無いよりはマシである。
かくいうエレナは一生懸命に砂を積んで、固めて山の形を作っている。イリナはその補助だ。
「これ、どこに積む?」
「ここ!」
創造主の名を取ってエレナ山と呼ぶが、その山はエベレスト級の急勾配を誇る山となっていた。
というか、ほぼ円錐である。
それを見ていると、なんだか懐かしい気分になる。
俺も子供の頃、公園の砂場で同じような山を作ったことがあるからだ。あの頃は、飽きもせず砂を掘っては盛って、山を作っていた。
「亮平。堤防……」
「堤防じゃなくて防波堤――あっ……」
俺が作った防波堤は、いつの間にか波にさらわれて形を留めていなかった。
「……やっぱし、耐久力ないからダメか」
「別に無くてもいいじゃん」
イリナはそう言うが、それではスッキリしない。
「どうするか……」
俺が悩んでいると、エレナが肩を叩いた。
「どうした?」
エレナは山の麓を指差し、手で掘るジェスチャーをする。何をしたいのか一瞬分からなかったが、「ここに水を溜めるの」という彼女の言葉にその意味を理解した。
水をせき止めるのではなく、あえて受け入れて水を溜める態勢を取るということらしい。
「頭いいな」
これは素直に感心した。
押して駄目なら引いてみろ、を地でいくような発想だ。
俺は言われるがまま、砂を掘り、山の周りに濠を作っていく。
すると、みるみるうちに海水が流れ込んできた。でも、水は濠に溜まるだけで山を削ることはない。
「凄いな。ちゃんとしてるよ」
得意げな顔をするエレナを褒める。
イリナは黙々と山を改造している。何にインスピレーションを受けたのか、角を付けていた。
これじゃあ鬼ヶ島だ。
「なーにしとるか」
「イカしてるでしょ」
「桃太郎に攻め落とされそうなデザインじゃねぇか。縁起悪い」
「モモタロウ?」
イリナとエレナが揃って首を傾げる。日本人なら誰でも知ってる昔話だが、あくまでも日本人限定だ。
「昔話だ。桃太郎っていう、桃から生まれた男の子が犬と猿と雉を子分にして、鬼が住む鬼ヶ島に突入する……って話だ」
とりあえずイリナ向けに、英語でざっくばらんに説明する。
「随分とバイオレンスな話ね」
イリナの素直すぎる感想に思わず笑ってしまう。
「でもまぁ、鬼も周辺の集落から金品を略奪してるから、大義名分はあるんだよな。正義の鉄槌を下すなりなんなりの」
「ふーん。で、その奪われた金品は返されたの?」
「……そういえば返されてないな」
それどころか、自分の物にしていた気がする。少なくとも、俺の記憶にある桃太郎はそうだった。
「……モモタロウってどんな話?」
エレナにせがまれ、今度はスペイン語でざっくばらんに説明する。
すると。
「なんで、モモタロウは宝を取り返そうとしたの? 自分の家は襲われなかったんでしょ?」
これまた、ストレートな感想が出てきた。
「……それは、あれだ。正義感だ。なんの罪もない一般人から宝を奪う、卑劣な鬼を倒す為だ」
「……よく分かんない」
「いずれ、分かるようになるよ。コイツだけは許せないって、気持ちが湧いてくる。それが正義感だ」
「正義感……」
ホノルルの温かな砂浜の上で、齢八歳ほどの女の子に正義感を説く。
不思議な体験だ。こんなことをしているか、したのは、俺だけだろう。
(妙な感じだ)
ふと見れば、いつの間にか鬼ヶ島に顔が付いていた。目と口の部分を窪ませている。目付きが悪い、禍々しい表情だ。
「進化版オニガシマよ」
進化どころか、古典的デザインだ。子供の頃に見たマンガ日本昔話に登場した鬼ヶ島にそっくり。
けど、それを言うとイリナがへそを曲げるのは火を見るよりも明らかなので、適当に褒めておく。
「桃太郎が尻尾巻いて逃げてくな」
「でしょ。……でも、私だったら逃げないわ」
「勇ましいことで」
「……ねぇ、少し遊ばない?」
「遊んでるだろ」
「頭を使う遊びよ」
何を言い出すかと思えば、自分だったらどうこの島を攻め落とすかをシミュレートする遊びらしい。
「……可愛くない遊びだな。それに、エレナの教育上よろしくない」
「なによ。ついこの間まで、喜んで似たようなことばかりやってたクセに」
似たようなこと。何年も鉄火場に立ってきたベテランとして、俺に作戦を立案させることが何度かあったのだ。
彼女はそのことを言っている。
「三年前まではな。それに、アレだって仕事だったんだ。特別ボーナスまで出た時もあったんだぞ」
「別に仕事じゃなくても――」
イリナがそこまで言いかけたが、急に言葉を止める。
「……どうした?」
なにごとかと思ったら、エレナがクスクスと笑っていた。
「エレナ?」
俺が呼びかけると、彼女は笑いながら俺とイリナへ交互に視線を向けた。
「おかしいよ。おじさんとお姉ちゃん」
「なんで?」
「だって、笑いながら喧嘩してるんだもん」
どうやら自分達も気付かぬうちに、言い合いをしながら笑っていたらしい。
思いもよらぬ指摘に、俺とイリナはキョトンとしていたが。
「仲いいね」
エレナのスペイン語で言い、俺は赤面しながら、「よせやい」と返した。
今の言葉が理解出来なかったイリナは、キョトンとしたままだった。
「なに作ってんの?」
「防波堤」
打ち寄せてくる波から、エレナが創る山を守るためだ。砂製なので言うほど耐久性は無いが、無いよりはマシである。
かくいうエレナは一生懸命に砂を積んで、固めて山の形を作っている。イリナはその補助だ。
「これ、どこに積む?」
「ここ!」
創造主の名を取ってエレナ山と呼ぶが、その山はエベレスト級の急勾配を誇る山となっていた。
というか、ほぼ円錐である。
それを見ていると、なんだか懐かしい気分になる。
俺も子供の頃、公園の砂場で同じような山を作ったことがあるからだ。あの頃は、飽きもせず砂を掘っては盛って、山を作っていた。
「亮平。堤防……」
「堤防じゃなくて防波堤――あっ……」
俺が作った防波堤は、いつの間にか波にさらわれて形を留めていなかった。
「……やっぱし、耐久力ないからダメか」
「別に無くてもいいじゃん」
イリナはそう言うが、それではスッキリしない。
「どうするか……」
俺が悩んでいると、エレナが肩を叩いた。
「どうした?」
エレナは山の麓を指差し、手で掘るジェスチャーをする。何をしたいのか一瞬分からなかったが、「ここに水を溜めるの」という彼女の言葉にその意味を理解した。
水をせき止めるのではなく、あえて受け入れて水を溜める態勢を取るということらしい。
「頭いいな」
これは素直に感心した。
押して駄目なら引いてみろ、を地でいくような発想だ。
俺は言われるがまま、砂を掘り、山の周りに濠を作っていく。
すると、みるみるうちに海水が流れ込んできた。でも、水は濠に溜まるだけで山を削ることはない。
「凄いな。ちゃんとしてるよ」
得意げな顔をするエレナを褒める。
イリナは黙々と山を改造している。何にインスピレーションを受けたのか、角を付けていた。
これじゃあ鬼ヶ島だ。
「なーにしとるか」
「イカしてるでしょ」
「桃太郎に攻め落とされそうなデザインじゃねぇか。縁起悪い」
「モモタロウ?」
イリナとエレナが揃って首を傾げる。日本人なら誰でも知ってる昔話だが、あくまでも日本人限定だ。
「昔話だ。桃太郎っていう、桃から生まれた男の子が犬と猿と雉を子分にして、鬼が住む鬼ヶ島に突入する……って話だ」
とりあえずイリナ向けに、英語でざっくばらんに説明する。
「随分とバイオレンスな話ね」
イリナの素直すぎる感想に思わず笑ってしまう。
「でもまぁ、鬼も周辺の集落から金品を略奪してるから、大義名分はあるんだよな。正義の鉄槌を下すなりなんなりの」
「ふーん。で、その奪われた金品は返されたの?」
「……そういえば返されてないな」
それどころか、自分の物にしていた気がする。少なくとも、俺の記憶にある桃太郎はそうだった。
「……モモタロウってどんな話?」
エレナにせがまれ、今度はスペイン語でざっくばらんに説明する。
すると。
「なんで、モモタロウは宝を取り返そうとしたの? 自分の家は襲われなかったんでしょ?」
これまた、ストレートな感想が出てきた。
「……それは、あれだ。正義感だ。なんの罪もない一般人から宝を奪う、卑劣な鬼を倒す為だ」
「……よく分かんない」
「いずれ、分かるようになるよ。コイツだけは許せないって、気持ちが湧いてくる。それが正義感だ」
「正義感……」
ホノルルの温かな砂浜の上で、齢八歳ほどの女の子に正義感を説く。
不思議な体験だ。こんなことをしているか、したのは、俺だけだろう。
(妙な感じだ)
ふと見れば、いつの間にか鬼ヶ島に顔が付いていた。目と口の部分を窪ませている。目付きが悪い、禍々しい表情だ。
「進化版オニガシマよ」
進化どころか、古典的デザインだ。子供の頃に見たマンガ日本昔話に登場した鬼ヶ島にそっくり。
けど、それを言うとイリナがへそを曲げるのは火を見るよりも明らかなので、適当に褒めておく。
「桃太郎が尻尾巻いて逃げてくな」
「でしょ。……でも、私だったら逃げないわ」
「勇ましいことで」
「……ねぇ、少し遊ばない?」
「遊んでるだろ」
「頭を使う遊びよ」
何を言い出すかと思えば、自分だったらどうこの島を攻め落とすかをシミュレートする遊びらしい。
「……可愛くない遊びだな。それに、エレナの教育上よろしくない」
「なによ。ついこの間まで、喜んで似たようなことばかりやってたクセに」
似たようなこと。何年も鉄火場に立ってきたベテランとして、俺に作戦を立案させることが何度かあったのだ。
彼女はそのことを言っている。
「三年前まではな。それに、アレだって仕事だったんだ。特別ボーナスまで出た時もあったんだぞ」
「別に仕事じゃなくても――」
イリナがそこまで言いかけたが、急に言葉を止める。
「……どうした?」
なにごとかと思ったら、エレナがクスクスと笑っていた。
「エレナ?」
俺が呼びかけると、彼女は笑いながら俺とイリナへ交互に視線を向けた。
「おかしいよ。おじさんとお姉ちゃん」
「なんで?」
「だって、笑いながら喧嘩してるんだもん」
どうやら自分達も気付かぬうちに、言い合いをしながら笑っていたらしい。
思いもよらぬ指摘に、俺とイリナはキョトンとしていたが。
「仲いいね」
エレナのスペイン語で言い、俺は赤面しながら、「よせやい」と返した。
今の言葉が理解出来なかったイリナは、キョトンとしたままだった。
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