最後に望むのは君の心だけ

こみあ

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第四章 昇進 - Promotion -

21 努力する騎士

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 それから一ヵ月はあっという間に過ぎ去った。
 新しい仕事に追われて私は忙しく、毎日が気づかないうちに終わっていく。雑務は2週間目辺りで何とか時間内に全て追いつくようになった。そこで団長に連れられてそれぞれの隊にお目見えをさせられ、そしてそのままそれぞれの団員の面接を言い渡された。
 どうやら、本来は必ず全員に毎年行うべき面接を、団長の時間がないことを理由に今まで全てキャンセルしてきていたらしい。言われてみれば自分自身、団長と今後の昇進について話し合える機会など、この4年一度も与えられていなかった。

「だから別にこのままここで働けてりゃ俺はいいんだって」

 団長室に呼び出すとドリスがぼそぼそとそういう。

「だけどドリスも以前雀の涙が辛いって言ってなかったか?」
「そりゃ辛いさ。だけどな、団長だの副団長だの、それに近衛隊か? 俺には無理だしヤル気もねえ」
「簡単に降りるなよ。本来、東西南北のそれぞれの騎士団には準騎士団長が付くはずなんだ。それが団長が面倒くさがって人が抜けた後補充しなかったから今二つ席が空いてしまってる」

 私が言いつのるのにはそれなりに理由がある。ドリスはこの前の賭けの一件もそうだが、隊をまたいで人脈がある。これだけ一癖も二癖もある騎士団の人間たちを唆し、丸め込んで胴元をやり、文句を一言も言わせずに掛け金を分配できてるのはやはりそれだけの人望と管理能力の現れだと私は思っている。
 だが私がそう言ってもドリスはハッと鼻で笑って私を見返す。

「そんなもん、それぞれの隊の奴がやらねえと意味ねえだろ」
「そう言うが、お前も私も前門警備は東西南北どこにも属してないから昇格される可能性がなくなるじゃないか。元の隊は関係なく、私は能力で人選するつもりだぞ」
「お前ぶれねえな。そんなに偉くなりたいのか?」

 ギロリと睨んで少し嫌味っぽくそう言われて、だがはっきりと答えてやる。

「給料が上がるならな。私は金が入るなら働くぞ」

 私の答えに虚を突かれた顔をしたドリスが、次の瞬間に笑い出した。

「ああ、確かに給料が上がるなら考えるな。そういう事なら給料の上がる方法を考えてくれ」
「分かった。じゃあ後でまた話そう」

 それから今までの経歴を紙に書き留めてドリスが部屋を出ていったところで一息ついて窓の外を見る。最後に剣を振ったのはいつだった?
 ここしばらく忙しすぎて剣を手にする時間さえもない。気晴らしに訓練場に行ってみよう、そう思いいたって団長室を後にした。



「おい、ラス。お前折角いい技持ってんだから、次の王前試合には出るんだろ?」

 訓練場で素振りを続けていると、近くで同様に自主訓練をしていた兵士が気軽に声を掛けてきた。見覚えはあるが今まで話したことはない。するとその隣の奴も口を挟む。

「ああ、カラムが抜けた今、お前が出ねえと近衛に負けるぞ」

 こちらも見覚えもあるし喋ったこともないわけではないがそれほど仲のいい相手ではなかった。

「私は王前試合に出ることを禁止されている」

 特に隠すことでもないし私がハッキリとそう答えると、二人が顔を見合わせてこちらに寄ってくる。

「なんだそりゃ?」
「聞いたことなかったぞ、そんなの」

 カラムが騎士団を去ってから、こんな事が頻繁に起きていた。今までよっぽど皆カラムが怖かったらしい。カラムもどうやらわざわざ私のいない時に騎士団に顔を出して、ラスに叱られたからもう怪我人は増えないと宣言していったそうだ。もうやらない、とは言わない所があいつらしい。

「ああ、入った最初の年に決まってたんだ。王前試合にはそれぞれ王子も出席するから女性兵士の私は辞退するようにってな」
「なんだその差別は」
「ああ、ひでえ話だ、直訴しに行くぞ直訴しに」
「……お前らだって去年まで何も言わなかっただろうが」
「去年はカラムがいたからな。あいつが強かったし怖かった」

 一人がそう言うともう一人がうんうんと頷く。どうやらカラムの影響はかなり広範囲に渡っていたらしい。

「悪いが私は別に出なくても構わない。というか、金にもならないのに出たくない」

 私の返事に二人が口を開けて呆れかえる。

「お前、本当に変わってるな。王前試合でいい成績を残せば褒賞が出ることもあるんだぞ」
「出る保証がない。しかも余計な奴らに目をつけられる可能性は少なくない。私は着実に実力で昇進して給料をあげてもらう方がよっぽど嬉しい」

 私は至極当たり前の事を言っているはずなのに、二人が頭を振って肩をすくめる。

「信じられないな。あれだけ副団長って肩書でこき使われてるのにまだそんなこと言うか」
「あれだ、嗜虐趣味って奴だ……ってカラムいねえよな? あいつにこんなこと言ってるの聞かれたら殺されちまう」

 ……カラムの呪いは当分残るらしい。
 それはともかく私は別に自分が嗜虐趣味だとは思わない。単に向き不向きの問題だ。人前で活躍して一獲千金を狙うより、確実に足場を固めて長期的に報われる道を行きたい。子供は育つのに何年もかかるんだ。

「とにかく王前試合の件は放っておいてくれていい」

 私はそう言いおいて自分の訓練に戻った。



「ラス、王前試合に出るって本当か?」

 週末、私の部屋に来たカラムの第一声でがっくりとうなだれる。
 あのあと、あれだけ言っておいたにも関わらず、どうやら騎士団の中の誰かが団長に直訴したらしい。
 王前試合には団体戦があり、毎年この期間は騎士団と近衛隊は犬猿の仲となる。王前試合に出場する団体の中で毎年この二つが一位二位を争うのだ、仕方のない事ではある。ところが今年は去年団体戦で騎士団にいたカラムが近衛隊に行ってしまった。戦力減少は火を見るよりも明らかだった。そこに、今まで王前試合に出ていなかった私が、実は王子つきの近衛隊と秘書官たちからの申し送りによって出場できないのだと聞きつけた騎士団の若い連中が憤ってしまったわけだ。

「……と言うわけで、私はまるっきり興味がないにもかかわらず、こんな顛末になってしまったんだ」

 私が説明を終えると、カラムが呻いた。

「また面倒なことに巻き込まれやがって。って今回は俺が抜けたのが元凶か」

 面白くでもない話をしながらも二人で一緒に夕食を終えると、カラムが椅子から立ち上がって私の手を引く。あれから何度となくベッドに誘われ一緒に入るのだが、まだあれ以上に関係は進展していない。
 あの時身体を固くした私を気遣って、カラムは辛抱強く待ってくれている。
 私も毎回、何とか気を抜こうとするのだが、どうしても緊張が止まらない。しかも騎士の私が力いっぱい力めば、いくらカラムでも足を開かせるのは簡単じゃない。我ながらいらない所で硬い性格で困ったものだ。

「それじゃ今週も頑張ろうな」

 カラムはそれでもおどけて私をリラックスさせてくれる。たとえ先に進むことはなくても、何度となく繰り返されるカラムの愛撫はすっかり私にとって毎週の楽しみになっていた。
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