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第四章 昇進 - Promotion -
23 落ちる騎士
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あれから一体どういう話し合いが上であったのかは知らないが、結局私は王前試合に出場することが決まった。とはいえ団体戦ではなく個人戦の、しかもフルメイルの甲冑を着用する槍試合のみだ。
私は無論出場したくない。しかもフルメイルの槍試合は私が最も苦手とする競技だ。馬に乗り、一直線に真っ向からぶつかり合う槍試合は、両者的に当てられるだけの技量があると、あとは体重の差が勝敗を決めてしまう。
「だから私は出たくないって言ったんだ」
ボソリと訓練に付き合ってるドリス以下前門警備や他の兵士数人に私がボヤくと、ドリスが肩をすくめて返してくる。
「今更何いってやがる。決まっちまったもんに文句言ったって始まらねえだろ。それにしてもまさかお前がここまで軽いとは想定外だ」
的はいつもの訓練用のものではなく、ほぼ成人男性一人分の重みを付けた木偶の坊だ。それに向かって真っ直ぐに馬を走らせてその中心を手に持っている練習用の槍で突いてやる。ただそれだけのことなのだが。
「うわっ、クソッ」
またも馬の尻から滑り落ちるように落馬した私はいい加減慣れたこともあり上手に受け身をとる。
「なあラス、それ本気でやってんのかよ」
「当たり前だろう、誰が好き好んで何度も落馬なんかするか!」
幾ら訓練に付き合わせてるとはいえ、こうも文句ばかり言われていれば腹も立ってくる。走り抜け、少し先でこちらに戻り始めた賢い馬の首を叩いてやり、手綱を引いて練習場の周りでやいのやいの言っていたドリスたちのほうに歩きだす。
「だから何度も言っただろう、槍試合になんて私を出してどうするって」
「そうは言ってもあれだけ騒いだ挙げ句、今度は辞退しますとは言えねえしなぁ」
途方にくれた様子でドリスがそう返してきた。
何度やっても同じだ。試合に出てくるようなガタイのいい兵士と真っ向からぶつかった場合、私の体重では軽く後ろに吹き飛ばされてしまうのだ。というか自分から吹っ飛ばないと肩や腰を負傷しかねない衝撃が来る。まあ、訓練用の槍と違い試合用の槍は裂けて衝撃を減らすように出来ているが、実際には相手もこちらに走ってくるし私を突きに来るので、これで耐え切れないようではどうにもならない。
結局私を担ぎ上げて王前試合への出場を迫った手前、たとえ私が一番不利なこの槍試合でも許可を出されてしまった以上喜んで受けるしかなくなっていた。そしてその上で出場して私がボロ負けすれば、近衛隊としては満足なのだろう。妥協をしたように見せかけた、これは嫌がらせだった。
「いっそ甲冑に重しを仕込んだらどうだ?」
「馬が走りにくい上に私の動きまで制限されて当たらなくなるぞ」
「じゃあ、馬に身体を括り付けたら?」
「私に怪我しろって言ってるのか」
「ああ、そりゃまずい、肩が抜けるか腰が外れるか」
「止めてくれ」
「じゃあどうするんだよ?」
そう言ったのは私が以前自主訓練をやっていたときに話しかけてきた兵士だった。多分こいつも陳情した口なのだろう。自分たちの行動の結果が思わぬ問題につながって申し訳ないとでも思っているのか、やるせなさそうな顔で声を上げた。
「仕方ないさ、練習できるだけ練習して当てるだけは当てて馬から落ちる」
私が現実的な対応をはっきりと口にすると、その場にいた奴らが全員渋い顔で唸った。
「試合の練習はどうなってる?」
私にそう尋ねながら、団長が私の提出した昇進希望者のリストと評価、それに給料見直しの陳情書を手に、顔を引きつらせながら誤魔化すようにそう聞いてきた。
「順調だとでも思いますか? ああ、綺麗に落馬できるようにはなりましたよ」
あれから訓練を重ねた結果、最後は曲芸師のようにスタッとブレずに地面に降り立つことができるようになった。全くなんの使いみちもない技を極めさせられたものだ。
「……そうか。まあ、諦めて明日は落馬してこい」
そう言ってからふと外に視線を向けて首を傾げる。
「ああ、念の為、剣も持っていけ。明日は荒れそうだ」
つられて外を見れば確かに雲行きが怪しい。夏の終わりの嵐か?
「分かりました。明日は一日あちらにいますので急用がなければ来ないでください」
「……そこは急用があったら呼んでくださいって言うところじゃないのか?」
「私が来てどうにかなるような急用なんてないでしょう。一日待ってください」
「お前、たまには上官に気を使おうとか考えないか?」
「給料に上乗せされるなら喜んで考えます」
ジッと真っ直ぐに団長を見ながらそう返すと、団長がグッと息を呑んで「持ち帰り考慮する」とボソリと答えた。
「全く、持ち帰るって一体どこにだ? 自分の部屋か?」
私がブチブチと文句を言いながら部屋に戻ると、珍しく週末でもないのに部屋にカラムがいた。私たち兵士の自室にはそれぞれ鍵は付いている。だが、カラムはそれをいとも簡単に開けてしまう。
「来てたのか」
まだ夕食前だったが、明日は試合だからあまり重いものを食べるつもりはなく、あとで皆が済ませた頃に何かつまみに行こうと真っ直ぐ部屋に帰ってきてよかった。
「ラス、明日の試合の準備は出来てるのか?」
「ああ? 落馬の準備ならしっかりできたぞ」
私が肩を竦めてそう言うと、カラムがスッと目を細めて「ちょっと付き合え」と言って部屋を出ていく。今戻ったばかりなんだけどな、そう思いつつも私は無言で先を行くカラムのあとについていった。
私は無論出場したくない。しかもフルメイルの槍試合は私が最も苦手とする競技だ。馬に乗り、一直線に真っ向からぶつかり合う槍試合は、両者的に当てられるだけの技量があると、あとは体重の差が勝敗を決めてしまう。
「だから私は出たくないって言ったんだ」
ボソリと訓練に付き合ってるドリス以下前門警備や他の兵士数人に私がボヤくと、ドリスが肩をすくめて返してくる。
「今更何いってやがる。決まっちまったもんに文句言ったって始まらねえだろ。それにしてもまさかお前がここまで軽いとは想定外だ」
的はいつもの訓練用のものではなく、ほぼ成人男性一人分の重みを付けた木偶の坊だ。それに向かって真っ直ぐに馬を走らせてその中心を手に持っている練習用の槍で突いてやる。ただそれだけのことなのだが。
「うわっ、クソッ」
またも馬の尻から滑り落ちるように落馬した私はいい加減慣れたこともあり上手に受け身をとる。
「なあラス、それ本気でやってんのかよ」
「当たり前だろう、誰が好き好んで何度も落馬なんかするか!」
幾ら訓練に付き合わせてるとはいえ、こうも文句ばかり言われていれば腹も立ってくる。走り抜け、少し先でこちらに戻り始めた賢い馬の首を叩いてやり、手綱を引いて練習場の周りでやいのやいの言っていたドリスたちのほうに歩きだす。
「だから何度も言っただろう、槍試合になんて私を出してどうするって」
「そうは言ってもあれだけ騒いだ挙げ句、今度は辞退しますとは言えねえしなぁ」
途方にくれた様子でドリスがそう返してきた。
何度やっても同じだ。試合に出てくるようなガタイのいい兵士と真っ向からぶつかった場合、私の体重では軽く後ろに吹き飛ばされてしまうのだ。というか自分から吹っ飛ばないと肩や腰を負傷しかねない衝撃が来る。まあ、訓練用の槍と違い試合用の槍は裂けて衝撃を減らすように出来ているが、実際には相手もこちらに走ってくるし私を突きに来るので、これで耐え切れないようではどうにもならない。
結局私を担ぎ上げて王前試合への出場を迫った手前、たとえ私が一番不利なこの槍試合でも許可を出されてしまった以上喜んで受けるしかなくなっていた。そしてその上で出場して私がボロ負けすれば、近衛隊としては満足なのだろう。妥協をしたように見せかけた、これは嫌がらせだった。
「いっそ甲冑に重しを仕込んだらどうだ?」
「馬が走りにくい上に私の動きまで制限されて当たらなくなるぞ」
「じゃあ、馬に身体を括り付けたら?」
「私に怪我しろって言ってるのか」
「ああ、そりゃまずい、肩が抜けるか腰が外れるか」
「止めてくれ」
「じゃあどうするんだよ?」
そう言ったのは私が以前自主訓練をやっていたときに話しかけてきた兵士だった。多分こいつも陳情した口なのだろう。自分たちの行動の結果が思わぬ問題につながって申し訳ないとでも思っているのか、やるせなさそうな顔で声を上げた。
「仕方ないさ、練習できるだけ練習して当てるだけは当てて馬から落ちる」
私が現実的な対応をはっきりと口にすると、その場にいた奴らが全員渋い顔で唸った。
「試合の練習はどうなってる?」
私にそう尋ねながら、団長が私の提出した昇進希望者のリストと評価、それに給料見直しの陳情書を手に、顔を引きつらせながら誤魔化すようにそう聞いてきた。
「順調だとでも思いますか? ああ、綺麗に落馬できるようにはなりましたよ」
あれから訓練を重ねた結果、最後は曲芸師のようにスタッとブレずに地面に降り立つことができるようになった。全くなんの使いみちもない技を極めさせられたものだ。
「……そうか。まあ、諦めて明日は落馬してこい」
そう言ってからふと外に視線を向けて首を傾げる。
「ああ、念の為、剣も持っていけ。明日は荒れそうだ」
つられて外を見れば確かに雲行きが怪しい。夏の終わりの嵐か?
「分かりました。明日は一日あちらにいますので急用がなければ来ないでください」
「……そこは急用があったら呼んでくださいって言うところじゃないのか?」
「私が来てどうにかなるような急用なんてないでしょう。一日待ってください」
「お前、たまには上官に気を使おうとか考えないか?」
「給料に上乗せされるなら喜んで考えます」
ジッと真っ直ぐに団長を見ながらそう返すと、団長がグッと息を呑んで「持ち帰り考慮する」とボソリと答えた。
「全く、持ち帰るって一体どこにだ? 自分の部屋か?」
私がブチブチと文句を言いながら部屋に戻ると、珍しく週末でもないのに部屋にカラムがいた。私たち兵士の自室にはそれぞれ鍵は付いている。だが、カラムはそれをいとも簡単に開けてしまう。
「来てたのか」
まだ夕食前だったが、明日は試合だからあまり重いものを食べるつもりはなく、あとで皆が済ませた頃に何かつまみに行こうと真っ直ぐ部屋に帰ってきてよかった。
「ラス、明日の試合の準備は出来てるのか?」
「ああ? 落馬の準備ならしっかりできたぞ」
私が肩を竦めてそう言うと、カラムがスッと目を細めて「ちょっと付き合え」と言って部屋を出ていく。今戻ったばかりなんだけどな、そう思いつつも私は無言で先を行くカラムのあとについていった。
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