悪魔な魔法使いの弟子はじめました。

こみあ

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第2章 新しい風

新しい波の行方 ― 4 ― ☆

 やっと話し合いを終えて戻ってみれば、アエリアはエリーに付き添われて独りで夕食を取っている最中だった。昨日独りで食べるのは嫌だと言われた矢先にこれだ。

「エリー、すまないがアエリアと話がしたい」

 俺はそう言ってエリーを下がらせ、餌付けをするつもりでアエリアのすぐ横に座った。
 だがすぐ隣のアエリアの細い肩を見た途端、ピピンが言っていた『肩を優しく抱いて~』ってのが頭をよぎり咄嗟に身体が動く。軽く肩を抱きしめる……予定がつい、完全に抱きしめてしまった。

「アエリア……」

 何か言わねばと思うのに、気ばかり焦ってどうやっても言葉が出てこない。耳の奥にドクンドクンと鳴り響く自分の心臓の音がうるさい。抱きついたまま動かない俺に呆れたのか、アエリアが後ろでゴソゴソと何かしながら聞いてくる。

「師匠、どうしちゃったんですか」
「悪いがしばらくこうしていてくれ」

 なんとか時間を稼ごうとそう言ったのだが、言葉を続けるより早くアエリアの吐息が耳元で聞こえ始めてそれどころではなくなった。その息遣いが徐々に早くなってる気さえする。きっと俺の気のせいだろう。だがそんなことを考えるだけで頭に血がのぼり、抱きしめる腕にもつい力が入ってしまう。顔にかかった俺の髪を避けようとしたのだろう、アエリアが小首をかしげ髪を引っ張る。そんな些細な動作が俺の心をかき乱し、余計力がこもってしまう。

 あと少し。
 もう少し。
 このままで。

「師匠?」
「まだもうちょっと」

 俺の腕の中のアエリアの身体が気のせいかやけに暖かくて……

「し、師匠、い、息が苦しい……」
「す、すまない」

 ハッとしてアエリアを離した。ヤバい。またあと少しで理性を手放す所だった。
 小動物よろしくハーフーと深呼吸をしているアエリアの顔が、よっぽど苦しかったのかやけに赤い。その赤い顔が変に色っぽくて俺は慌てて自分の部屋に逃げ帰った。

「ピピンの奴!」

 あいつの言っているような行動が取れるのはよっぽど理性とやらがしっかりしたやつなのだろう。俺には無理だ。

 しばらくイライラと部屋の中を歩き回っていたがどうにも収まりきらない。今までこんな苦労をしたことのない俺にはうまく事を運べない苛立ちをどこに向ければいいのかさえ思いつかない。

 ……ちょっと一回りして森のモンスターでも狩ってくるか。

 最近では俺の気配を悟ったのか屋敷の周りをうろつくモンスターはすっかりいなくなった。転移で南の森にでも出なければ大した相手も見つかるまい。早々に諦め、着替えを済ませふて寝するつもりでとっとと布団に入る。そこでやっと思い出した。

 まさかアイツ、今日もこちらに来るつもりか?

 慌てて部屋の鍵をかけに行こうとベッドから立ちあがると、ノックの音とともに挨拶をしてマイアが就寝の手伝いに入って来た。

 別に手伝いなど必要なかったがアエリアの様子を聞き出せればとマイアを部屋に入れた。俺の着替えが終わってしまっていることに気づいたマイアは暖炉に薪を足しながら俺に話しかける。

「アーロン様。アエリア様はこちらにいらっしゃるとのことですでに部屋の火を落としておいでです。こちらの暖炉の火が絶えないように多めに入れさせて頂きますね」
「な、なんだってそんな」

 つい言葉が口から漏れた。

「アエリア様は本当に可愛らしい方でいらっしゃいますね。アエリア様は私共にも沢山アーロン様のお話をしてくださいます」

 狼狽える俺を他所にマイアはそう言って目元を緩め、意味ありげにこちらに視線を向ける。

 なっ、ア、アエリアは一体何を話してるんだ?

「アーロン様とご一緒に過ごされるのを心から望んでおいでですよ。羨ましいですわ」

 フッと優しく笑うとマイアはまるで何もなかったかのようにベッドを整え、なぜか余計に手ぬぐいなどを揃えだす。そして飲みものと果物や果ては甘味までベッドサイドテーブルに整えて「それでは失礼します」と微笑んで出ていった。

 一体何を考えているんだこのメイドどもは! ピピンの仕業か?

 ベッドから一旦追い出された俺は声も返せずにアタフタとその場で行ったり来たりした挙句、またベッドに戻り横になる。

 アエリアが来る。ここにアエリアが。

 そう考えただけで身体が熱をびてくる。逃げ出したい気持ちでしばらく横になっていると昨日と同じように2つの部屋を繋げる扉がノックされた。

「師匠まだ起きてますか?」

 またもアエリアの暢気のんきな声が部屋に響く。アエリアが部屋に入って来た途端、なぜか部屋が一段と暖かくなった気がする。気のせいか何かえもいわれぬいい香りまでしてくる。

 俺はそこまで毒されているのか!?

「起きている」

 内心の焦りを押し隠そうとすると、余計どうにもぶっきらぼうな答えになってしまう。
 そんな俺の葛藤や返事はどうでもいいと言うように、アエリアが堂々と俺のベッドによじ登ってきた。

「今日はスチュワードさんに流石アーロン様のお弟子さんだと褒められちゃいました。魔力量が人一倍あって事象に関した知識も充分だと言われました」

 そう言って俺の横に滑り込んだアエリアは誇らしそうに俺を見あげる。近づいて来たアエリアから、今度こそ間違いなく何か甘い香りが漂ってきた。
 マズイ。これは一種の媚薬だ。あのメイドどもの仕業か!
 決して強い類いのものではなくこちらの婦女子の間では結構頻繁に使われている代物だが、なぜすでに理性をか細い糸で縛り付けている今の俺にこれを使う!
 それよりもコイツだ! こんなものを使われてコイツ大丈夫なのか?

「師匠、褒めてください! っていうか師匠のおかげでもあるので本当に有難うございます」

 そう言ってこちらに膝を詰めてくる。

「師匠? さっきっから何で一言も喋ってくれないんですか?」
「うっ。よ、良かったな」

 俺はどうにか普通の声を絞り出し、アエリアの頭をポンポンと軽く叩いた。

「はい。それでですね。エリーさんから師匠がきっと喜ぶという『お礼』の仕方を教わったので試してみたいのですが」
「は? うわ!」

 俺の了解を待ちもせず、アエリアは俺の膝にゴロンと頭を乗せた。

「師匠、これ本当にお礼になるのでしょうか?」

 そう言って俺の太腿に顔をすり寄せる。

 や、やばい。ほんとにやばい。止めてくれ。

 アエリアの頭がそんな所にあるってだけでもマズイのに、アエリアが頭を擦り付けるたびに媚薬の匂いが鼻をくすぐり柔らかい刺激が俺の太腿から這いあがってきてズクンズクンと快感が押し寄せる。

「あ、アエリアとりあえずそこに座れ。座り直せ!」

 薄手の寝間着だけでは下半身の反応を隠しきれない。
 なんとしても今すぐ布団に潜り込まねば言い訳もできん。いやそれよりも俺の理性がまた吹き飛ぶ前にコイツを引き剥がさないと!
 焦る俺をよそにアエリアが続ける。

「エリーさんから秘密の言葉も教わりました」

 そう言って俺の膝の上で仰向けになったアエリアが俺を見あげてきた。……嫌な予感しかしない。
 アエリアはふっと一息つくと、両手を広げて俺に突き出しながら呟くように言った。

「師匠、優しくしてください」

 どこかで何かがブチ切れる音がした。
 ……これは俺のだ!

「ア、アエリア」
「師匠?」

 俺はアエリアの身体を膝の上に起こしあげ、後ろから抱きすくめた。最後に残った理性が後ろからならきっと我慢が続くだろうと判断したらしい。

「お前が悪い。しばらく我慢しろ」

 そう言って、アエリアの髪に顔を埋めて両手を握りしめる。アエリアを撫でまわしてしまいそうな手を封じながらきつく抱きしめていく。

「し、ししょうだ、だいじょうび!」

 アエリアの肩口に唇を押し当てて強く吸った。するとそこに小さな赤い花が咲く。

「師匠何してるんですか? 何か……ひ!」

 顔を反対に傾け反対側にも俺の印を付ける。服を押し下げて背中にも一つ。

「師匠、い、痛くはないですけど何か変です。何してるんですか?」

 俺が印を付けてやるとアエリアがそのたびに身体を強張らせる。

 それでいい。ちゃんと拒絶しろ。でないと俺は多分どこまでもいってしまう。

 それでも前でわたふたと振られているアエリアの両手を抑えてアエリアをそのまま俯かせ、ネグリジェをすそからたくしあげて背中を露出させる。
 目の前にあらわになったアエリアの、少しピンクがかった背中に唇を寄せて幾つも俺の印を付けていく。

 肩甲骨の上に一つ。
 背中の真ん中に一つ。
 脇に近いギリギリの所に一つ。
 そのまま少し下にも一つ。

 俺の膝の上で前に屈むように上半身をうつ伏せにしたアエリアが、いつの間にか騒ぐのを止めてジッとしてる。もしかすると顔が布団に押し付けられて声が出ないのかもしれない。

 もう少し下にも……

「アンっ」

 アエリアが突然甘い声をあげながら身体をしならせた。よく見れば耳まで真っ赤にしている。

 ……アエリアが感じてる?

 俺の中で今までの真っ黒な欲望とは全く違う歓びが広がった。アエリアが素直に感じている。俺が付けたキスの跡に身体をしならせて。
 突然俺の中にすっと余裕が生まれた。さっき迄の追い詰められるような欲望とは違う、いとおしむ気持ちが膨らむ。
 その気持ちのままにアエリアの背中をゆっくりと撫であげる。

「あ……師匠」

 アエリアの声には拒絶の音がしない。俺は触ることを許されたらしい。その事実が真っ白な歓びを俺に与えてくれる。下半身はとうの昔に限界まではちきれんばかりにそそり勃ち、今も激しい欲望の波が身体中を駆け巡ってるが、それとは全く別の次元で頭がスッキリとして来る。

 俺はおかしくなっちまったのか?

 アエリアの背中の感触を十分に堪能した俺はさっきっからアエリアが過剰な反応を示す腰の付け根に顔を落として脇に近いところに唇を這わせた。

「あぅあぅあぅ!」

 案の定アエリアが身体を弓なりにしながら声を上げ始める。やばい、アエリアの声が腰に響いてまた欲望が膨れあがる。それでもやめられなくて反対側まで唇を這わせた。
 アエリアの背中がよりピンクに染まって、息切れの音が聞こえる。

「師匠もうだめ、ぎぶ、もう限界です! 許して!」

 アエリアが突然暴れだした。
 ハッとして気づけば俺はいつの間にかアエリアの下着をずり下げてかなり際どい所にキスしてた。
 どうやらいつの間にか理性がいなくなっていたらしい。いなくなる前に一言かけてほしい。

 訳のわからないことを考えながらも俺は顔を上げて一息大きくつく。
 今回は自分の欲望をある程度抑えられた。痛いほどに膨れあがっている下半身の欲望とは別に訳の分からない達成感が広がる。
 アエリアを起こしあげ、ネグリジェを下してやってからもう一度だけ後ろから強く抱きしめる。

 ピピンは正しかった。俺は本当にコイツに惚れちまったらしい。コイツが嫌がることをしたくないと思えばかなり苦しいが欲望にもあらがえる。始めてそれが分かった。

 だが。

「アエリア、頼むから早く成長してくれ」
「師匠? それは無理です。私まだあと一週間は15ですし」

 ん?

「ちょっと待て、今あと一週間と言ったか?」
「はい、来週で16になります」
「っな! 何で今まで言わなかった!」
「言う暇がなかったじゃないですか。それにこの屋敷を出れなければ教会に『成人の儀』を受けにも行けませんし」
「馬鹿者! それとこれは別だ」

 この国で『成人の儀』はその人生でたった一度神から本当の祝福を受けられる重要な機会だ。貴族だけではなく平民でさえも何年もかけて準備する。アエリアの『成人の儀』を適当なものにする訳には絶対に行かない。
 何せアエリアは──

「アエリア、『成人の儀』に関しては心配するな。なんとかする」

 俺はそう言ってアエリアを開放してやるとアエリアはまだ少し赤い顔で振り返った。

「ほ、本当ですか! 良かったぁ、もう無理だと諦めてたんです」

 そう言って顔をほころばせた。

 静まれ俺の欲望!

 下半身はもうどうにもならないので一度コイツを寝かしつけて抜け出すしかない。俺はアエリアを布団に突っ込んで声をかける。

「もう遅い。そろそろ寝ろ」

 そう言い置いてベッドから立ちあがる俺にアエリアが後ろから不安そうな声をかける。

「師匠は寝ないんですか?」
「ちょっと城に急用が出来た」

 まだ不安そうな顔をするアエリアに続ける。

「心配するな。すぐに戻る」

 そう言って俺は直接城内にある自室に飛んで服を全て脱ぎ捨てシャワーに飛び込んだ。


    ▽▲▽▲▽▲▽


 あれから一時間。
 果てても果てても切りがない。

 ほんのちょっとさっき迄のアエリアから立ち昇っていた香りや赤い花が散らばった背中を思い出しただけですぐに元通りになってしまう下半身にげんなりしてくる。だがここなら幾ら欲望を吐き出してもアエリアを怖がらせることはない。

 悪いアエリア、しばらく帰れそうもない。
感想 3

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