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十二月はクリスマスで大変
70話 話しておきたい
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少し時間の早い夕食も無事終わり、ソファーに移動した私たちは、
『お母様の手作りのチョコレートケーキを頂きながら、BGMに流れ続けるクリスマスソングを聞きつつ歓談する』
という、まるで小説にでも出てきそうな家族の団らんの中にいた。
私の手にも隣に腰掛けた先輩の手にも、薄く切り分けられたケーキのお皿が載っている。
少し仏頂面ではあるものの、先輩も今は会話に加わり、何気ない高校のことやオブラートに包みまくった私とのお付き合いの経緯を話してた。
いつしか話題も尽きて沈黙がしばらく続くと、先輩の義理のお父様である俊樹さんが咳払いをして、綺麗な笑顔を浮かべて私たちを見回した。
「今日は和也くんにも裕也くんにも、それに市川さんにも無理を言ってきてもらってすまなかったね」
俊樹さんはそう言って軽くうなずくと、コーヒーカップを置いて先輩に向きなおる。
今日の先輩は髪を結ってはいるけどカラコンは入れていない。それでも色素の薄い先輩の瞳と視線があって、一瞬微かに表情を固くした俊樹さんは、それを誤魔化すように笑顔を貼り付け明るい口調で語りだす。
「実は裕也くんと一度ちゃんと話しておきたいことがあってね」
俊樹さんは堂々としてて、いかにも理想の旦那様でお父さんに見えるのに、なぜか私にはその綺麗すぎる笑顔が『城島先輩』の笑顔を思い出させ、言いようのない違和感があった。
俊樹さんは先輩に話しかけているにも関わらず、途中からその視線を徐々に自分の手元のコーヒーカップに落とし、その笑顔にそぐわない少しかたい声で続ける。
「久美さんとも話し合ったんだが、裕也君、大学が決まったのならこれを気に、ここに一緒に住もう」
先輩のお母様にちらりと視線を送った俊樹さんは、やはり綺麗な笑顔を先輩に戻してきっぱりと宣言した。
「K大学ならここから通うほうが楽だろうし和也くんの自宅も近い」
先輩の行く大学のことは先輩からも既に聞いてはいた。有名大学で都心にあるキャンパスは時々テレビでも見る。
だから、もし大学が始まったら会える時間は減るだろうと、それなりに覚悟はしてたけど。
俊樹さんの言葉でそれが一気に現実味を帯び、一瞬視界が暗くなった気がした。
するとまるで私の不安を見透かしたように、俊樹さんが私を一瞬見てからまたも先を続けた。
「市川さんとお付き合いし始めたばかりで離れがたいのは分かるが、本当に裕也くんの将来を思えば市川さんだってそこは理解してくれると思うんだがどうだろう?」
不安げな私の様子に気づいたように、俊樹さんがその綺麗な笑顔を私に向けて、まるで教え諭すように話す。
「第一、二人共まだまだ若いし、これからどれくらいお付き合いが続くのかも分からないことだし」
俊樹さんの何気なく放った言葉が胸に突き刺さった。
そんなことは、誰に言われなくたって、多分私たちが一番わかってる。
それどころか、私と斎藤先輩の交際は最初から先輩の卒業までの期間限定で開始したのだ。
突然、ある事実に気づいて胸の奥でドキリと心臓が嫌な音をたてた。
分かってたはず、自分が言いだしたことだ。
なのに、私は今まで卒業後のことを一度も先輩と話し合ってないことに気づいてしまった。
気持ちがズンと落ち込んで、一気に顔から血の気がひいていくのを感じる。
「とにかくだね、これ以上久美さんのご両親にご迷惑かけるのはよくないと思うんだ」
人の家の団らんにお呼ばれしているのに、まさかこんなところで泣くわけにもいかない。
そう思って私が手を握りしめていると、こちらを見て一瞬間を置いた俊樹さんが、畳み掛けるように先を続けた。
「一度そちらにも挨拶に出向くけど、もう授業もないだろうし、今から引っ越しの準備をはじめて2月ごろまでにはこちらに越して来て欲しい。業者はもう手配してあるし、なんならこちらで僕の知り合いにも顔つなぎしてあげるよ」
最後通告のような俊樹さんの断言口調に、私は目の前が真っ暗になる気がした。
『お母様の手作りのチョコレートケーキを頂きながら、BGMに流れ続けるクリスマスソングを聞きつつ歓談する』
という、まるで小説にでも出てきそうな家族の団らんの中にいた。
私の手にも隣に腰掛けた先輩の手にも、薄く切り分けられたケーキのお皿が載っている。
少し仏頂面ではあるものの、先輩も今は会話に加わり、何気ない高校のことやオブラートに包みまくった私とのお付き合いの経緯を話してた。
いつしか話題も尽きて沈黙がしばらく続くと、先輩の義理のお父様である俊樹さんが咳払いをして、綺麗な笑顔を浮かべて私たちを見回した。
「今日は和也くんにも裕也くんにも、それに市川さんにも無理を言ってきてもらってすまなかったね」
俊樹さんはそう言って軽くうなずくと、コーヒーカップを置いて先輩に向きなおる。
今日の先輩は髪を結ってはいるけどカラコンは入れていない。それでも色素の薄い先輩の瞳と視線があって、一瞬微かに表情を固くした俊樹さんは、それを誤魔化すように笑顔を貼り付け明るい口調で語りだす。
「実は裕也くんと一度ちゃんと話しておきたいことがあってね」
俊樹さんは堂々としてて、いかにも理想の旦那様でお父さんに見えるのに、なぜか私にはその綺麗すぎる笑顔が『城島先輩』の笑顔を思い出させ、言いようのない違和感があった。
俊樹さんは先輩に話しかけているにも関わらず、途中からその視線を徐々に自分の手元のコーヒーカップに落とし、その笑顔にそぐわない少しかたい声で続ける。
「久美さんとも話し合ったんだが、裕也君、大学が決まったのならこれを気に、ここに一緒に住もう」
先輩のお母様にちらりと視線を送った俊樹さんは、やはり綺麗な笑顔を先輩に戻してきっぱりと宣言した。
「K大学ならここから通うほうが楽だろうし和也くんの自宅も近い」
先輩の行く大学のことは先輩からも既に聞いてはいた。有名大学で都心にあるキャンパスは時々テレビでも見る。
だから、もし大学が始まったら会える時間は減るだろうと、それなりに覚悟はしてたけど。
俊樹さんの言葉でそれが一気に現実味を帯び、一瞬視界が暗くなった気がした。
するとまるで私の不安を見透かしたように、俊樹さんが私を一瞬見てからまたも先を続けた。
「市川さんとお付き合いし始めたばかりで離れがたいのは分かるが、本当に裕也くんの将来を思えば市川さんだってそこは理解してくれると思うんだがどうだろう?」
不安げな私の様子に気づいたように、俊樹さんがその綺麗な笑顔を私に向けて、まるで教え諭すように話す。
「第一、二人共まだまだ若いし、これからどれくらいお付き合いが続くのかも分からないことだし」
俊樹さんの何気なく放った言葉が胸に突き刺さった。
そんなことは、誰に言われなくたって、多分私たちが一番わかってる。
それどころか、私と斎藤先輩の交際は最初から先輩の卒業までの期間限定で開始したのだ。
突然、ある事実に気づいて胸の奥でドキリと心臓が嫌な音をたてた。
分かってたはず、自分が言いだしたことだ。
なのに、私は今まで卒業後のことを一度も先輩と話し合ってないことに気づいてしまった。
気持ちがズンと落ち込んで、一気に顔から血の気がひいていくのを感じる。
「とにかくだね、これ以上久美さんのご両親にご迷惑かけるのはよくないと思うんだ」
人の家の団らんにお呼ばれしているのに、まさかこんなところで泣くわけにもいかない。
そう思って私が手を握りしめていると、こちらを見て一瞬間を置いた俊樹さんが、畳み掛けるように先を続けた。
「一度そちらにも挨拶に出向くけど、もう授業もないだろうし、今から引っ越しの準備をはじめて2月ごろまでにはこちらに越して来て欲しい。業者はもう手配してあるし、なんならこちらで僕の知り合いにも顔つなぎしてあげるよ」
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