異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

4 村長さんたち

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「ウイスキーの街の村長の家より質素だな」

 黒猫君がボソリとそんな事言ったけど、アルディさんに連れられて向かった村長さんの家は確かにすっごく普通の家だった。他の周りの家と比べて何も違わない。

「ええ、ここの村長は持ち回りですから」

 そういいながらアルディさんが扉を叩くと、髭のおじいさんが3人も飛び出してきた。

「おお、待っとりましたぞ!」
「え?」
「ささ、どうぞ! どうぞ中へ!」

 おじいさんたちのあまりの勢いにアルディさんさえも戸惑ってる。
 眼の前でおじいさんに引きずられるようにして、アルディさんが奥の部屋に連れてかれる。
 顔を見合わせてる黒猫君と抱えられた私もすぐにもう一人のおじいさんに掴まえられて引きずられてく。
 なんか挨拶だけじゃ済まなそうな気がするんだけど……
 そして中に入った私たちのすぐ後ろで家の扉がバタンと閉じられた。



「ようこそいらっしゃった、良かった、良かった」

 家の扉を抜けて奥の部屋に入るとそこにはすでにもう二人のおじいさんたちが座ってた。

「あんたさんらがワシらんとこの若いもんを助けに行ってくださるんじゃろ」
「ありがたい、ありがたい」
「あんなに沢山、人手も送ってくれたしの」
「それにこちらが噂の猫神様ぞりゃ」
「それに片足の巫女様。ありがたやぁ」

 そう言ってなぜか手をすり合わせてる。
 こっちの人もやっぱり拝むんだね。
 って暢気に考えてる場合じゃない。やめて欲しいよ、白いお髭のお爺さん5人に拝まれるのは流石に困っちゃうから。

「拝むのはマジやめろ、俺達はそんな大したもんじゃねーからな」

 黒猫君は私のように躊躇する事なくはっきりと文句を言う。だけどおじいさんたち、全然動じてない。

「何言ってらっしゃるんですか! 雨の中でも麦が発芽しないのはあなた方お二人のおかげだと聞きましたぞい」
「そうですぞい、おかげでこの人数でも刈り入れが出来る上に、この前きたセンバっちゅう道具のおかげで子どもたちでも麦の穂を扱げてますですじゃい」

 ああ、そっか。とうとう雨が降り出してたんだったね。
 確かにここ数日は明け方、雨が降ってるらしい。私たちは最近そこまで早くから外に出てないから目にしてないけど。

「一体誰がそんな話言いふらしてんだ!?」
「そりゃさ物資を補給に来てらした兵士様ですぞい、吟遊詩人様のように『教会攻防戦、猫神様の奇跡』を街の者に演じていって下さいましたからの」

「マイクか!?」
「マイクさんだね……」
「マイクです」

 呆れる私たちのすぐ横で、しれっとした顔でアルディさんが最後に付け足した。焦って黒猫君が文句を言い始める。

「な、なんであいつに補給なんかさせてんだよ!」
「マイクは元々ここの村の出身ですし、当然の選択でしょう。文句はそれくらいにして、まずは皆椅子に座りましょう」

 アルディさんはおじいさんたちにも座るようにいいながら、自分だけ先に席に座ってしまう。
 でもその横でアルディさんの視線が「今はこれ以上聞くな」と言ってるのが私にも黒猫君にも分かったので、私たちも仕方なく口を噤んで椅子に座った。

「ささ、ここで取れた果実酒ですじゃ、どうぞどうぞ」

 座った途端、おじいさんの一人がそう言って出してくれたのはお馴染みのタイザー。
 それをチビチビやりながら様子を見る黒猫君と私の横で、アルディさんが飲み物に手も付けずに綺麗な笑顔を浮かべて話し始めた。

「ヴィクから伺っていた長老の皆様が集まってくださってたのは非常に好都合ですね。では早速、皆様にお伝えしておくことがいくつかあります」

 そう言って周りを見回しつつも、息も継がずにアルディさんがしゃべり続ける。

「今後ナンシーより毎週兵士が二人、我々の補給物資の搬送の為にこちらに来て一晩お世話になることになります。ご存知の通りすでに5人が着任しこちらに駐屯してますから、その日は合計7名、こちらでお世話になることになります」

 テキパキと途絶えることなく話を続けるアルディさんに、おじいさんたちがちょっとばかりたじろいてる。それを無視してアルディさんが先を続けた。

「その後その二人は、補給物資を持って狼煙台を北に向かって周り、必要に応じて交代しながらまたこちらに戻ります。ですから週末にも再度二人、こちらでお世話になります。今まで通り、食料等は自己調達またはこちらから買い取りさせて頂くことになりますが大丈夫ですか?」
「も、もちろんですじゃ」
「そうですじゃ、あの納屋はこれから少しずつ引いた粉と籾を保管しますじゃが、それでもまだまだ充分余裕はありますじゃ」
「そう言っていただけると助かります。ではお伝えする事は以上ですので、僕たちはこれで」

 凄く手早く説明だけしたアルディさんが、スッと立ち上がってスタスタと出ていこうとするのを、一人のおじいさんが気づいて縋りつく。

「ま、待って欲しいんじゃが」
「まだ何か?」

 視線から笑みを消して短く問い返すアルディさんの片目がこっちを睨んで「何してるんですか、早く行きますよ」って叫んでる。それを見てとった黒猫君が慌てて私を担いで立ち上がった。
 その間もおじいさんはアルディさんの腰にしがみつき離さない。

「ま、マイクが今回の派兵に皆様が白ウイスキーをお持ちくださると言っとりましたが、本当ですかのう?」

 縋りつくおじいさんの必死の訴えを聞いたアルディさんが、ほんの少し目元を緩めて相槌を打つ。

「ああ、すみません。すっかり忘れてました。はい、こちらでタイザーと交換させていただくために1本預かってきていますよ、後程納屋の方に引き取りに来てください」
「おお、良かった。ナンシーから噂だけは流れて来とりましたじゃが、是非是非この村でも一本味見してみたいと思っとりましたよって」
「こちらもタイザーは緊急時の水代わりになりますから、ここで交換して頂けるのは助かります。それだけですか?そうですか、それでは失礼します」

 今度こそ、縋りついてたおじいさんを引きはがしてアルディさんが出口に向かって歩き出した。
 見ればおじいさんたちも、ちょっと物足りそうながらも、それ以上は引き留める気がないようだった。




「おいアルディ、まさかさっきの事をこのまま誤魔化す気じゃねーよな」

 納屋に向かって歩き出すとすぐに黒猫君がアルディさんの肩を引いて尋ねた。
 ああ、マイクさんの件だよね。私も知りたい。

「そんなつもりはありませんよ。あれは単に一番効率のいい人間をここに送っただけですから」
「……もうすんじまったことはいい。だがまさかあいつそれをバースでもやるつもりじゃねーだろうな!?」
「まあ、やるでしょうね」

 黒猫君の嫌味たっぷりな質問にしれっと答えるアルディさん。すぐ横で黒猫君が一瞬で激高するのが私にも見てとれた。怒る黒猫君とは正反対にアルディさんが肩をすくめ、淡々ととんでもない事を付け加える。

「それに、それは陛下のご指示でもありますから」
「へ!?」
「ハァ!?」

 流石に今度は私もギョッとして、黒猫君と一緒に驚きの声をあげてアルディさんを見た。
 それをアルディさんがニヤニヤしながら返事する。

「陛下も言っていたでしょう、お二人のその信仰は今後色々と役に立つと。ご覧なさい、実際ここでもごく簡単に我々が受け入れられてますよ」
「別にそんな事しなくたって納屋くらい借りれるだろ」
「いいえ、普通は借りれないんですよ。なんせ、これこそ彼らの最も隠したい収穫量が分かる場所ですからね」

 い、言われてみればその通りなんだけどね。

「でも、今回だってキールさんがちゃんと税金の一律徴収をするはずですよね。だったら私たちに見せたって別に問題ないんじゃ?」
「そうでしょうね。でもこれは習慣の問題です。今までよそ者を納屋なんかに泊める事のなかった彼らが、今回お二人の功績と北への遠征の内容を知って喜んで貸してくれてるんです。その効果の大きさはお二人には分からないかも知れませんがね」

 そう言ってアルディさんは困ったように私たちの顔を見比べる。
 流石にそう言われちゃっては文句も言えなくなった黒猫君は、最後に一つ小さくため息を付いた。
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