異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

3 北の農村

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「あゆみ、ついたぞ。起きろ」

 私が一人しっかり寝ちゃってる間も船の旅は順調だったらしく、黒猫君に揺さぶられて目覚めるとお日様はすでに傾きだし、船は少し川幅の広くなった川べりの橋場に停められてた。もうすでに皆降りはじめてる。

「今日はここで一泊します」

 アルディさんが降りがけにそう言って川と反対の方向を指さした。そこには塀のようなもので囲われた小さな集落のような村がある。

「このままちょっと歩きますが大した距離じゃないし大丈夫ですよね?」

 アルディさんがそういうのはむろん私が黒猫君にいつものごとく抱えられてるから。
 もし私が自分で歩くとなったらちょっときついかなって距離がありそうだ。
 すでに皆村に向かって歩き出してる。

「多分まともな場所で寝られるのは今日が最後ですよ。しっかり休んでくださいね」

 黒猫君に抱えられながらアルディさんと並んで歩いてると、アルディさんがニヤニヤしながら私たちに忠告してくれる。するとなぜか黒猫君がムッとしてそっぽ向いた。

「明日はどうするんですか?」

 なんだか知らないけど無視を決め込んだ黒猫君は放っておいて、アルディさんに聞いてみる。

「ここからしばらくはこのまま船で北に向かいます。ここより川上は川の流れが速くなりますから通常逆上るのは無理なんですけどね。あゆみさんたちが付けたモーターのおかげで僕たちはこのままあがっていけます」

 あ、そっか。そうだよね。

「え、じゃあ普通はどうやって船を北に戻してたんですか?」
「ああ、それはここで船を川から一旦引き上げて、馬車にひかせて陸路でいくんですけどね。もうひと月以上も北からの便は止まってますから、その道も下手すると荒れてるかもしれません」
「オークは? 結局あれっ切り出てねーのか?」

 黒猫君の問いかけに、アルディさんが少し難しい顔で村のほうを見る。 

「今の所何もないようですね。何かあれば狼煙が上がってるはずですから」
「ああ、そういう連絡手段はあったんだな」
「ええ。ここから北も所々に狼煙台が設置されてます。普段は無人ですが、今回の僕たちの北上に合わせて、陛下が食料と人を送って連絡を可能にしてくれてます」
「え、じゃあ私たち北に行ってもキールさんに連絡を取れるんですか」
「ええまあ。決して多くは伝えられませんが、例えば全滅ですとか成功、失敗くらいは」
「おい、なんでそう縁起でもない例が最初に出てくるんだよ?」

 黒猫君が眉をひそめるとアルディさんが苦笑いしながら答えてくれる。

「それは狼煙の順番の問題です。上がりっぱなしは全滅かほぼ全滅、要は緊急度が一番高いんですよ」
「ああ、そういう事か。じゃあ残りの二つは?」
「煙を短く点滅させるのが成功、長めの点滅が失敗です。他にもいくつかは取り決めがあります。ほら着きましたよ」

 アルディさんが言った通り、私たちは村の一番端、村の周りをくるりと囲む木で組んだ柵の切れ目に辿り着いた。柵は私の背丈ほどあるけど決して厚くはなく、結構荒く組まれてるから小さな子供なら通り抜けられそう。
 こんな柵で本当に大丈夫なのかな。

「こんなんでなんかの役に立つのか?」

 黒猫君も同じことを考えたようで、そういいながら片側の木枠を私を抱えてないほうの手でぐいぐい押してみてる。見た目よりはしっかり作られてるのか、その程度では軋む音もしなかった。 

「まあ、通常これでも抑えられないような生き物はこの辺りには来ませんからね。オークは少数であればこれで充分防げます。大量の群れになっていた場合は村を捨てて逃げるしかどの道手がないですし」

 アルディさんも反対の柱を手で叩いて答えてくれた。
 私たちが中に入ると、入り口のすぐ近くで遊んでた子供たちが寄ってくる。何かと思えば、内側に開けられてた扉を私たちの後ろで閉めてくれた。

「……のどかだな」
「ええ。とはいえ本来この村に住んでいた大人がほとんどいない状態に変わりはないんですけどね」

 そっか、ここの人たちも北に送られちゃってたんだっけ。

「そんなんで俺たちが泊って大丈夫なのか?」
「今は残った老人子供をナンシーの貧民街の者とウイスキーの街の者が手助けしてますし、今回の北への派兵に合わせてキーロン陛下が駐留させる兵士をおいてますから」
「は、派兵、ですか」

 アルディさんにそう言われれば当たり前だけど、これ派兵だったのか。余りに自分の理解を超えてた状況に冷汗が滲んで来た。そんな私とは対照的に黒猫君が落ち着いた声で問い返す。

「何人くらいくるんだ?」
「ここの駐留に5人、北の物資移動に20人です。そのうち6人はそれぞれ3か所の狼煙台に駐留予定です」
「それじゃあ14人が俺たちと一緒に行くのか」
「いえ、その14人は僕とヴィク、それにネロ君も含みますからね」
「俺もかよ」
「当り前でしょう、なんしろ君は少佐なんですから。こんな小さな遠征に2人も士官が付くのは稀ですが」

 そっか、黒猫君も一応まだ軍人の肩書あるんだもんね。
 そこ行くと私、ほんとによく連れてきてもらえたなぁ。
 今回は黒猫君が全部手配してくれてて実は私は何も話を聞いてない。

「ほら、今日の宿に着きましたよ」

 アルディさんがそういって指さしのは……大きな納屋だった。


「結構広いな」

 学校の体育館ほどの広さのある納屋は、中に入ってみると綺麗に整えられ、床こそ土間だけどちゃんと家具も入れられてた。

「冬場は保存食や家畜も入りますから使えませんが、今はまだそこまで物のない時期なので借りられたんですよ」

 アルディさんが早速中を見まわりはじめる。黒猫君も付いてくから抱えられた私も自動的に一緒に見て回ることになる。

「この上に藁の寝床がありますから適当に一つ選んで使って下さい」

 そう言って指さしたのは結構急な梯子みたいな階段。これ、私は一人じゃ上り下りできそうもない。私がどうしようかと尋ねる前に、黒猫君、私を抱えたまま器用に片手で片側を抑えてスルスルとのぼってしまった。

「いつも思うけど、黒猫君凄く器用だよね」
「そうか? こんなの誰でものぼれるだろ」
「多分両足あっても片手じゃ私には無理だよ」
「兵士ならまあ当たり前に出来ますけどね」

 アルディさんはそういうけど、兵士ってそんな特殊な職業の人は日本にはいなかったし。自衛隊の皆さんくらいかな?
 階段をのぼった先はロフトのように片側が完全に開いてて、壁も何もない、まるで大きな棚みたいになってた。建物の長さいっぱいいっぱいに続いてるそこにはいくつか簡単な仕切りがあって、その間に5~6個づつ四角く結い上げられた藁がベッド代わりに置かれてた。

「寝具は後で荷物から自分たちで運んでください。と言ってもお馴染みのカーペットと毛布ですけどね」
「ああ、やっとく。一番奥んとこ使わせてもらうぞ」
「どうぞご自由に。洗面場所は一番奥の扉を出た外にあります。御不浄もそちらに一緒にあります」
「……冬に家畜を入れてるって割には思ったほど臭わないな」
「ああ、それは掃除をするものが特別ですからね」

 私はピンと着て聞いてみた。

「もしかしてメリッサさんみたいな妖精さんですか!?」
「ああ、妖精、って言うんでしょうかね? ブラウニー達ですよ」
「ブラウニー?」
「ええ。ただ彼らは非常に臆病ですから、1日いたくらいでは見かける事はないと思いますよ」
「ブラウニーって小人だっけ?」

 私がそう尋ねると、黒猫君が興味なさそうに答えてくれる。

「確かそうだな、家に付くからメリッサとあんま変わんねえんじゃねえか?」
「そんな事いったらメリッサが怒りますよ。ブラウニーはメリッサと違って、決して我々の為に家を綺麗にするわけじゃありません。彼らはここに自分たちも住んでるから面倒を見るんです」
「じゃあ同居人ってことですね」
「そんな所です。ですから衣類などの洗濯なんかはしてくれませんよ。基本この旅の間はご自分たちで始末してください」

 そういえば今まで街にいる限り一度も自分たちで洗濯とかしないで済んでたな。森にいた時は自分とバッカスたちの服は洗ってたけど。

「分かった。それで今日これからの予定は?」
「今ヴィクとうちの兵士が何人か、バッカスたちと一緒に森に狩に行ったはずです。それが戻ってから夕食にしましょう。僕たちはその間に念のためここの村長に挨拶に行きますよ」

 そう言ってまたも急な階段を下りて、私たちは一緒に納屋のすぐ反対側にある小さな家へと向かった。
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