329 / 406
第11章 北の森
40 報告会1:山頂には
しおりを挟む
次に目を覚ますとテントの中が透けてくる日の光ですっかり明るく見える時間だった。多分昼頃だろうか、またもどっかから流れてくる鍋の匂いで目が覚めた。
「やっぱり起きた」
すぐ近くで笑いを含んだあゆみの声がする。
「さっきと同じお鍋だけど今度はご飯入れてオジヤにしたよ。食べるでしょ?」
寝床で起き上がるとなんか耳がむず痒い。ボリボリと掻くとポロリと藁くずが数本落ちた。
ああ、寝床のカバーがズレてたんか。
「ん~ぁ、ああ、食う。食うけどそれ持ってこっち来いよ。食いながら昨日の説明始めるから」
「え、じゃあアルディさんたちも呼んでくるね」
「待てあゆみ、こっち来いって」
慌てて出ていこうとするあゆみを呼び止める。
「いや、説明はちゃんとするけどな。その前にちょっとだけ充電させろ」
皿を手渡そうとするあゆみの手を掴んでこちらに誘うと、あゆみが赤くなりながらも「それこぼれるから気をつけて」と言って皿を手渡して寝床によじ登ってきた。そのまま俺のすぐ横に陣取って俺を見上げると、フッと微笑んで俺の手の中から皿を奪い返し、スプーンで一口掬って差し出してくる。
「はい、どうぞ」
ついジッとスプーンとあゆみを見比べてると、あゆみが一層照れながら言葉を続けた。
「黒猫君、前にあんまり甘やかして貰ったことないって言ってたから……充電、させたげる」
照れて赤くなりつつこんな可愛いこと言われちまって、嬉しいは嬉しいんだがどうにもリアクションに困る。戸惑う俺を促すように、あゆみがすぐ目の前までスプーンを持ち上げてつき出してきた。赤い顔のあゆみにつられてこっちまで照れながら、それでもそれを口に含んでみる。いつもみたいにガツガツかきこむのとは違って、一口一口凄え大切に食う。あゆみに食わせて貰うオジヤは、今まで食った飯の中で一番幸せな味がした。
結局あゆみに最後までオジヤを食わせて貰った俺は、少しご機嫌であゆみを連れてアルディたちの所に向かった。
どうやらディーンたちはまだ砦の前に居座ってるらしい。ジェームズも特にここを離れた様子はないようだ。橋を渡らねばどちらも帰郷できないはずなのでアルディの隊の奴が見張ってくれてる。
見張りの奴以外全員で集まった俺たちは、人気の減っちまった本陣の真ん中で、車座になって今日の出来事を説明し合った。
──黒猫君とバッカスの偵察(黒猫君の回想)──
到着してすぐやってたディーンたちとの軍議はかなり不毛だった。すぐ向こうでドンパチやってんのに、こいつらは言い訳する事しか考えてねえ。すぐにあゆみが我慢できなくなってベンと一緒に退席してった。すぐにヴィクが追いかけてくれる。幾らあゆみが隠し事は嫌だと言ったって、最初っからこんな訳分かんねえ会議でて我慢できないのも仕方ねえ。
あゆみが席を外してすぐ、俺は二人の言い訳を適当に聞き流しながら中の状況を吐き出させた。詳しいことを言いたがらない二人を脅しすかして何とか農民と狼人族の現状、そして残った兵の数なんかを確認する。必要なことだけ聞き出したところで「付き合いきれねえ。ちょっと先に食料調達してくる」と言い残してその場を後にした。
別に本当に食材を狩りに出たわけじゃねえ。この前の干し肉と野菜、それにあゆみがいりゃあ当座の食料の心配はなかった。単にこんなばからしい会議なんかより、よっぽど重要で気になってることがあったからだった。
まず、ドラゴンがいるかも知れねえ山頂で落ち合う約束をしちまってたディアナたちのことが心配だった。バッカスは認めようとしねえが、さっきっからコイツがディアナの安否が気になってじっとしてられねえってのもバレバレだ。そしてディーンとこの二人から伝え聞いた砦の中の様子はどう見積もっても地獄らしい。
だから俺としてはまずディアナを探しだし、それから砦の中に潜入するつもりだった。あいつら、中の奴を逃がさないことばっかり考えて外からの侵入には大して備えちゃいないらしい。
アルディたちのテントを出たところで丁度ヴィクと行きあった。ヴィクによるとあゆみはただ会議から逃げ出したんじゃなく、自分の出来ることをしに行ったらしい。だったら俺も俺の出来ることをしに行くだけだ。
テントを出る時の様子からしてアルディには俺がなんかする気なのが分かってたみたいだが、一応ヴィクに伝言を残してバッカスと森へ向かった。
一旦本陣の外に出ちまうとバッカスももうそれまでの我慢を脱ぎ捨てて、俺を乗せたまま一気にスピードを上げていく。こいつの跳躍で橋よりかなり下流で川を飛び越え、密度の高い木々の間をすり抜けて森をあっという間に駆け抜けていく。
これ、あゆみが一緒だったら悲鳴じゃすまねえな。そんなスピードで森を抜け一気に山を駆けあがる。深い森が徐々に背を低くして、ある所から低木だらけになり、崖を蹴りあがって頂上に迫る。山頂付近の岩場を飛び跳ねるようにして登り、最後の一歩を蹴って平らに開けた山頂に着地した俺たちの目前に飛び込んで来たのは、車座になって俯きながら黙々と作業してるディアナとその群れの狼人たち……そしてその横に、寝そべってるドラゴンが一頭。
そのままドラゴンに突撃する勢いで駆けてたバッカスが、ディアナの無事な姿を見た途端、上に乗ってる俺を道づれにバランスを崩して盛大にコケやがった。
「遅いぞバッカス。何をじゃれてるんだ?」
編みかけのどでかい敷物の向こうでフっと手元から顔を上げ、ディアナが転がってる俺たちを見て片眉を上げた。
「お、お前ら、一体何やってんだ!?」
なんのかんの言ってバッカスの奴、かなり心配してたらしい。文句を叫びつつ、焦ってじたばたとやりながら人型に戻り始めた。
道連れにされた俺は背中と後頭部を地面に打ち付けて、バッカスの巨体に押しつぶされて涙目になりながら立ち上がる。だがこの光景、何やら既視感を覚えずにはいられない。なんだ、あゆみにしてもディアナにしても。なんでこう俺たちの心配をよそにこう悠々としてられるんだ?
「お前が遅いからここで待つ間、このドラゴンとここの巣作りを手伝うって取引したとこだぞ」
そう言って全員で編んでいるそのどでかい敷物を目で差し示す。開けた山の頂上に引っかかるようにゴロンと寝そべったドラゴンが、ディアナの声に反応して片目を開けてこちらを睨んだ。
「お前らか、ディアナの待ってた奴らってのは……ってなんだおまえ、変な匂いしてるな」
フッと眉を寄せて起きだすと、ドラゴンの巨体が小山のように盛り上がる。座りなおしたドラゴンは優に20メートルはありそうだ。ちょっと見上げる俺の背中に冷や汗が伝う。
だがそんな俺にスッと顔を寄せ、ドラゴンがスンスンと犬のように俺の匂いを嗅いできた。
「おい、よせよ。俺は喰いもんじゃねえぞ」
「いや、ワシは肉は食わん。そういう匂いじゃあない。なんだ、この世界で嗅いだことのない匂いがするぞ」
やべえ。このドラゴン、なんか全く違う次元のもの嗅いでやがった!
「その巨体で肉を食わねえで何食ってんだ?」
気を逸らそうと俺がそう言えば、ドラゴンは少し顔を上げ、東のほうを見ながらフンっと鼻を鳴らす。
「ワシは肉より魚が好きでな。この東の海はワシの好みの魚が大量におる」
「魚、な。ほーう。俺も魚は好きだ。猫だしな」
「……猫、だけじゃあなかろう。お前からは人間の匂いもしているぞ」
「そ、そうか?」
おお、どうやら俺、まだ人間の部分がほんとにあるらしい。
そこでやっとバッカスのことを思い出して見回すと、いつの間にかディアナの横に座って俺たちのことなどお構いなしに話し込んでた。まあ色々あるみたいだし放っておいてやるか。
「おい、そんなことよりディアナが言うにはお前らはあの向こうの砦の奴らを蹴散らしに来たそうだな」
ちょっとよそ見してた俺にドラゴンがなにやら期待を込めて尋ねてくる。
「いや? 俺らはあそこに捕まってる連中を連れ戻しに来ただけだ」
ディアナの奴、なんでそんな誤解を招く言い方を、と訂正するつもりで言い返すと、なぜかドラゴンががっかりした顔でこちらを見た。
「なんだ、違うのか。てっきりこれであの山も元に戻るかと思ったんだがな」
そう言って残念そうにまたも寝そべっちまった。こいつ、巨体の割になんだかやけに覇気がねえな。
「そんなもん、あんたの身体なら自分で勝手に蹴散らしゃよかっただろうに」
「と、とんでもない。ワシは平和主義者だ。争いは好かん」
「は、はあ?」
人は見かけによらねえっつーが。普通ドラゴンって町焼いたり壊したりするもんじゃねえのか? 俺の勝手な思い込みかこれは?
「ドラゴンの癖に平和主義者って……あんた変わってんじゃねーのか、それ?」
「ああ、よく言われる。どうにも他のドラゴンと反りが合わんでな。だからこうしてこんな離れた山に自分の住処を求めてきたんだが……」
ほうっと小さなため息なんかつきながら向かいの山を見てやがる。
「ここへ来た時は穏やかな連中が住んでる小さな村が一つあるだけで、なんとも雅ないい場所だったんだが、そのうち煩い連中が増えおってな」
「あ、ああ」
「ちょっと目を離したすきに何やらデカい囲いなど作りおって。ワシが好きだった連中がどこにも見当たらんようになっとった。しかもあっちから流れてくる汚水のせいでこの辺りの川では魚も食えん。このままだと東の海まで魚がいなくなってしまう」
ドラゴンはそう言いながらがっくりと自分の顎を前足の上に垂らした。
……なんだよこのドラゴン。この巨体に似合わず本気ですげえ弱気だな。
「なあ、じゃあ俺があの中掃除するって言ったら、あんた協力してくれるか?」
「蹴散らすんじゃないのか?」
「いや、そんな面倒なことしたくねえ。俺の今回の目的はとにかく中にいる農民と狼人族の連中を連れ出すことだ。ついでに鉱山の排水が悪影響を出してるならなるべく早く解決しておきたい」
「どうやらお前、猫の癖に頭が回るようだな」
「猫は余計だ。ネロって呼べ」
「そうか、じゃあネロ、ワシはルディイイイイン」
そこでドラゴンが雄たけびかと思う声をあげはじめる。慌ててその鼻っ面を手で叩く。叩いちまってから流石にやり過ぎたかと見上げると、ドラゴンの奴、目を寄せて困った顔でこっちを見てた。
あああ。マジでコイツ、気が弱いらしい。
「大声上げてんじゃねえよ。今下の奴らがおびえちまったら面倒だろうが」
「す、すまん。ワシの名はルディイ……ンだ」
「ルディンだな」
「いや、ルディイイ……何でもない。ルディンでいい」
また大声を出そうとしたドラゴンを睨むと焦ったように声を落とした。
「じゃあルディン、計画を立てようぜ」
こうして俺はバッカスとディアナも加えてこれからの作戦を話し合った。
「やっぱり起きた」
すぐ近くで笑いを含んだあゆみの声がする。
「さっきと同じお鍋だけど今度はご飯入れてオジヤにしたよ。食べるでしょ?」
寝床で起き上がるとなんか耳がむず痒い。ボリボリと掻くとポロリと藁くずが数本落ちた。
ああ、寝床のカバーがズレてたんか。
「ん~ぁ、ああ、食う。食うけどそれ持ってこっち来いよ。食いながら昨日の説明始めるから」
「え、じゃあアルディさんたちも呼んでくるね」
「待てあゆみ、こっち来いって」
慌てて出ていこうとするあゆみを呼び止める。
「いや、説明はちゃんとするけどな。その前にちょっとだけ充電させろ」
皿を手渡そうとするあゆみの手を掴んでこちらに誘うと、あゆみが赤くなりながらも「それこぼれるから気をつけて」と言って皿を手渡して寝床によじ登ってきた。そのまま俺のすぐ横に陣取って俺を見上げると、フッと微笑んで俺の手の中から皿を奪い返し、スプーンで一口掬って差し出してくる。
「はい、どうぞ」
ついジッとスプーンとあゆみを見比べてると、あゆみが一層照れながら言葉を続けた。
「黒猫君、前にあんまり甘やかして貰ったことないって言ってたから……充電、させたげる」
照れて赤くなりつつこんな可愛いこと言われちまって、嬉しいは嬉しいんだがどうにもリアクションに困る。戸惑う俺を促すように、あゆみがすぐ目の前までスプーンを持ち上げてつき出してきた。赤い顔のあゆみにつられてこっちまで照れながら、それでもそれを口に含んでみる。いつもみたいにガツガツかきこむのとは違って、一口一口凄え大切に食う。あゆみに食わせて貰うオジヤは、今まで食った飯の中で一番幸せな味がした。
結局あゆみに最後までオジヤを食わせて貰った俺は、少しご機嫌であゆみを連れてアルディたちの所に向かった。
どうやらディーンたちはまだ砦の前に居座ってるらしい。ジェームズも特にここを離れた様子はないようだ。橋を渡らねばどちらも帰郷できないはずなのでアルディの隊の奴が見張ってくれてる。
見張りの奴以外全員で集まった俺たちは、人気の減っちまった本陣の真ん中で、車座になって今日の出来事を説明し合った。
──黒猫君とバッカスの偵察(黒猫君の回想)──
到着してすぐやってたディーンたちとの軍議はかなり不毛だった。すぐ向こうでドンパチやってんのに、こいつらは言い訳する事しか考えてねえ。すぐにあゆみが我慢できなくなってベンと一緒に退席してった。すぐにヴィクが追いかけてくれる。幾らあゆみが隠し事は嫌だと言ったって、最初っからこんな訳分かんねえ会議でて我慢できないのも仕方ねえ。
あゆみが席を外してすぐ、俺は二人の言い訳を適当に聞き流しながら中の状況を吐き出させた。詳しいことを言いたがらない二人を脅しすかして何とか農民と狼人族の現状、そして残った兵の数なんかを確認する。必要なことだけ聞き出したところで「付き合いきれねえ。ちょっと先に食料調達してくる」と言い残してその場を後にした。
別に本当に食材を狩りに出たわけじゃねえ。この前の干し肉と野菜、それにあゆみがいりゃあ当座の食料の心配はなかった。単にこんなばからしい会議なんかより、よっぽど重要で気になってることがあったからだった。
まず、ドラゴンがいるかも知れねえ山頂で落ち合う約束をしちまってたディアナたちのことが心配だった。バッカスは認めようとしねえが、さっきっからコイツがディアナの安否が気になってじっとしてられねえってのもバレバレだ。そしてディーンとこの二人から伝え聞いた砦の中の様子はどう見積もっても地獄らしい。
だから俺としてはまずディアナを探しだし、それから砦の中に潜入するつもりだった。あいつら、中の奴を逃がさないことばっかり考えて外からの侵入には大して備えちゃいないらしい。
アルディたちのテントを出たところで丁度ヴィクと行きあった。ヴィクによるとあゆみはただ会議から逃げ出したんじゃなく、自分の出来ることをしに行ったらしい。だったら俺も俺の出来ることをしに行くだけだ。
テントを出る時の様子からしてアルディには俺がなんかする気なのが分かってたみたいだが、一応ヴィクに伝言を残してバッカスと森へ向かった。
一旦本陣の外に出ちまうとバッカスももうそれまでの我慢を脱ぎ捨てて、俺を乗せたまま一気にスピードを上げていく。こいつの跳躍で橋よりかなり下流で川を飛び越え、密度の高い木々の間をすり抜けて森をあっという間に駆け抜けていく。
これ、あゆみが一緒だったら悲鳴じゃすまねえな。そんなスピードで森を抜け一気に山を駆けあがる。深い森が徐々に背を低くして、ある所から低木だらけになり、崖を蹴りあがって頂上に迫る。山頂付近の岩場を飛び跳ねるようにして登り、最後の一歩を蹴って平らに開けた山頂に着地した俺たちの目前に飛び込んで来たのは、車座になって俯きながら黙々と作業してるディアナとその群れの狼人たち……そしてその横に、寝そべってるドラゴンが一頭。
そのままドラゴンに突撃する勢いで駆けてたバッカスが、ディアナの無事な姿を見た途端、上に乗ってる俺を道づれにバランスを崩して盛大にコケやがった。
「遅いぞバッカス。何をじゃれてるんだ?」
編みかけのどでかい敷物の向こうでフっと手元から顔を上げ、ディアナが転がってる俺たちを見て片眉を上げた。
「お、お前ら、一体何やってんだ!?」
なんのかんの言ってバッカスの奴、かなり心配してたらしい。文句を叫びつつ、焦ってじたばたとやりながら人型に戻り始めた。
道連れにされた俺は背中と後頭部を地面に打ち付けて、バッカスの巨体に押しつぶされて涙目になりながら立ち上がる。だがこの光景、何やら既視感を覚えずにはいられない。なんだ、あゆみにしてもディアナにしても。なんでこう俺たちの心配をよそにこう悠々としてられるんだ?
「お前が遅いからここで待つ間、このドラゴンとここの巣作りを手伝うって取引したとこだぞ」
そう言って全員で編んでいるそのどでかい敷物を目で差し示す。開けた山の頂上に引っかかるようにゴロンと寝そべったドラゴンが、ディアナの声に反応して片目を開けてこちらを睨んだ。
「お前らか、ディアナの待ってた奴らってのは……ってなんだおまえ、変な匂いしてるな」
フッと眉を寄せて起きだすと、ドラゴンの巨体が小山のように盛り上がる。座りなおしたドラゴンは優に20メートルはありそうだ。ちょっと見上げる俺の背中に冷や汗が伝う。
だがそんな俺にスッと顔を寄せ、ドラゴンがスンスンと犬のように俺の匂いを嗅いできた。
「おい、よせよ。俺は喰いもんじゃねえぞ」
「いや、ワシは肉は食わん。そういう匂いじゃあない。なんだ、この世界で嗅いだことのない匂いがするぞ」
やべえ。このドラゴン、なんか全く違う次元のもの嗅いでやがった!
「その巨体で肉を食わねえで何食ってんだ?」
気を逸らそうと俺がそう言えば、ドラゴンは少し顔を上げ、東のほうを見ながらフンっと鼻を鳴らす。
「ワシは肉より魚が好きでな。この東の海はワシの好みの魚が大量におる」
「魚、な。ほーう。俺も魚は好きだ。猫だしな」
「……猫、だけじゃあなかろう。お前からは人間の匂いもしているぞ」
「そ、そうか?」
おお、どうやら俺、まだ人間の部分がほんとにあるらしい。
そこでやっとバッカスのことを思い出して見回すと、いつの間にかディアナの横に座って俺たちのことなどお構いなしに話し込んでた。まあ色々あるみたいだし放っておいてやるか。
「おい、そんなことよりディアナが言うにはお前らはあの向こうの砦の奴らを蹴散らしに来たそうだな」
ちょっとよそ見してた俺にドラゴンがなにやら期待を込めて尋ねてくる。
「いや? 俺らはあそこに捕まってる連中を連れ戻しに来ただけだ」
ディアナの奴、なんでそんな誤解を招く言い方を、と訂正するつもりで言い返すと、なぜかドラゴンががっかりした顔でこちらを見た。
「なんだ、違うのか。てっきりこれであの山も元に戻るかと思ったんだがな」
そう言って残念そうにまたも寝そべっちまった。こいつ、巨体の割になんだかやけに覇気がねえな。
「そんなもん、あんたの身体なら自分で勝手に蹴散らしゃよかっただろうに」
「と、とんでもない。ワシは平和主義者だ。争いは好かん」
「は、はあ?」
人は見かけによらねえっつーが。普通ドラゴンって町焼いたり壊したりするもんじゃねえのか? 俺の勝手な思い込みかこれは?
「ドラゴンの癖に平和主義者って……あんた変わってんじゃねーのか、それ?」
「ああ、よく言われる。どうにも他のドラゴンと反りが合わんでな。だからこうしてこんな離れた山に自分の住処を求めてきたんだが……」
ほうっと小さなため息なんかつきながら向かいの山を見てやがる。
「ここへ来た時は穏やかな連中が住んでる小さな村が一つあるだけで、なんとも雅ないい場所だったんだが、そのうち煩い連中が増えおってな」
「あ、ああ」
「ちょっと目を離したすきに何やらデカい囲いなど作りおって。ワシが好きだった連中がどこにも見当たらんようになっとった。しかもあっちから流れてくる汚水のせいでこの辺りの川では魚も食えん。このままだと東の海まで魚がいなくなってしまう」
ドラゴンはそう言いながらがっくりと自分の顎を前足の上に垂らした。
……なんだよこのドラゴン。この巨体に似合わず本気ですげえ弱気だな。
「なあ、じゃあ俺があの中掃除するって言ったら、あんた協力してくれるか?」
「蹴散らすんじゃないのか?」
「いや、そんな面倒なことしたくねえ。俺の今回の目的はとにかく中にいる農民と狼人族の連中を連れ出すことだ。ついでに鉱山の排水が悪影響を出してるならなるべく早く解決しておきたい」
「どうやらお前、猫の癖に頭が回るようだな」
「猫は余計だ。ネロって呼べ」
「そうか、じゃあネロ、ワシはルディイイイイン」
そこでドラゴンが雄たけびかと思う声をあげはじめる。慌ててその鼻っ面を手で叩く。叩いちまってから流石にやり過ぎたかと見上げると、ドラゴンの奴、目を寄せて困った顔でこっちを見てた。
あああ。マジでコイツ、気が弱いらしい。
「大声上げてんじゃねえよ。今下の奴らがおびえちまったら面倒だろうが」
「す、すまん。ワシの名はルディイ……ンだ」
「ルディンだな」
「いや、ルディイイ……何でもない。ルディンでいい」
また大声を出そうとしたドラゴンを睨むと焦ったように声を落とした。
「じゃあルディン、計画を立てようぜ」
こうして俺はバッカスとディアナも加えてこれからの作戦を話し合った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
