異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

40 報告会1:山頂には

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 次に目を覚ますとテントの中が透けてくる日の光ですっかり明るく見える時間だった。多分昼頃だろうか、またもどっかから流れてくる鍋の匂いで目が覚めた。

「やっぱり起きた」

 すぐ近くで笑いを含んだあゆみの声がする。

「さっきと同じお鍋だけど今度はご飯入れてオジヤにしたよ。食べるでしょ?」

 寝床で起き上がるとなんか耳がむず痒い。ボリボリと掻くとポロリと藁くずが数本落ちた。
 ああ、寝床のカバーがズレてたんか。

「ん~ぁ、ああ、食う。食うけどそれ持ってこっち来いよ。食いながら昨日の説明始めるから」
「え、じゃあアルディさんたちも呼んでくるね」
「待てあゆみ、こっち来いって」

 慌てて出ていこうとするあゆみを呼び止める。

「いや、説明はちゃんとするけどな。その前にちょっとだけ充電させろ」

 皿を手渡そうとするあゆみの手を掴んでこちらに誘うと、あゆみが赤くなりながらも「それこぼれるから気をつけて」と言って皿を手渡して寝床によじ登ってきた。そのまま俺のすぐ横に陣取って俺を見上げると、フッと微笑んで俺の手の中から皿を奪い返し、スプーンで一口掬って差し出してくる。

「はい、どうぞ」

 ついジッとスプーンとあゆみを見比べてると、あゆみが一層照れながら言葉を続けた。

「黒猫君、前にあんまり甘やかして貰ったことないって言ってたから……充電、させたげる」

 照れて赤くなりつつこんな可愛いこと言われちまって、嬉しいは嬉しいんだがどうにもリアクションに困る。戸惑う俺を促すように、あゆみがすぐ目の前までスプーンを持ち上げてつき出してきた。赤い顔のあゆみにつられてこっちまで照れながら、それでもそれを口に含んでみる。いつもみたいにガツガツかきこむのとは違って、一口一口凄え大切に食う。あゆみに食わせて貰うオジヤは、今まで食った飯の中で一番幸せな味がした。


 結局あゆみに最後までオジヤを食わせて貰った俺は、少しご機嫌であゆみを連れてアルディたちの所に向かった。
どうやらディーンたちはまだ砦の前に居座ってるらしい。ジェームズも特にここを離れた様子はないようだ。橋を渡らねばどちらも帰郷できないはずなのでアルディの隊の奴が見張ってくれてる。
 見張りの奴以外全員で集まった俺たちは、人気の減っちまった本陣の真ん中で、車座になって今日の出来事を説明し合った。



 ──黒猫君とバッカスの偵察(黒猫君の回想)──


 到着してすぐやってたディーンたちとの軍議はかなり不毛だった。すぐ向こうでドンパチやってんのに、こいつらは言い訳する事しか考えてねえ。すぐにあゆみが我慢できなくなってベンと一緒に退席してった。すぐにヴィクが追いかけてくれる。幾らあゆみが隠し事は嫌だと言ったって、最初っからこんな訳分かんねえ会議でて我慢できないのも仕方ねえ。
 あゆみが席を外してすぐ、俺は二人の言い訳を適当に聞き流しながら中の状況を吐き出させた。詳しいことを言いたがらない二人を脅しすかして何とか農民と狼人族の現状、そして残った兵の数なんかを確認する。必要なことだけ聞き出したところで「付き合いきれねえ。ちょっと先に食料調達してくる」と言い残してその場を後にした。
 別に本当に食材を狩りに出たわけじゃねえ。この前の干し肉と野菜、それにあゆみがいりゃあ当座の食料の心配はなかった。単にこんなばからしい会議なんかより、よっぽど重要で気になってることがあったからだった。

 まず、ドラゴンがいるかも知れねえ山頂で落ち合う約束をしちまってたディアナたちのことが心配だった。バッカスは認めようとしねえが、さっきっからコイツがディアナの安否が気になってじっとしてられねえってのもバレバレだ。そしてディーンとこの二人から伝え聞いた砦の中の様子はどう見積もっても地獄らしい。
 だから俺としてはまずディアナを探しだし、それから砦の中に潜入するつもりだった。あいつら、中の奴を逃がさないことばっかり考えて外からの侵入には大して備えちゃいないらしい。

 アルディたちのテントを出たところで丁度ヴィクと行きあった。ヴィクによるとあゆみはただ会議から逃げ出したんじゃなく、自分の出来ることをしに行ったらしい。だったら俺も俺の出来ることをしに行くだけだ。
 テントを出る時の様子からしてアルディには俺がなんかする気なのが分かってたみたいだが、一応ヴィクに伝言を残してバッカスと森へ向かった。

 一旦本陣の外に出ちまうとバッカスももうそれまでの我慢を脱ぎ捨てて、俺を乗せたまま一気にスピードを上げていく。こいつの跳躍で橋よりかなり下流で川を飛び越え、密度の高い木々の間をすり抜けて森をあっという間に駆け抜けていく。
 これ、あゆみが一緒だったら悲鳴じゃすまねえな。そんなスピードで森を抜け一気に山を駆けあがる。深い森が徐々に背を低くして、ある所から低木だらけになり、崖を蹴りあがって頂上に迫る。山頂付近の岩場を飛び跳ねるようにして登り、最後の一歩を蹴って平らに開けた山頂に着地した俺たちの目前に飛び込んで来たのは、車座になって俯きながら黙々と作業してるディアナとその群れの狼人たち……そしてその横に、寝そべってるドラゴンが一頭。
 そのままドラゴンに突撃する勢いで駆けてたバッカスが、ディアナの無事な姿を見た途端、上に乗ってる俺を道づれにバランスを崩して盛大にコケやがった。

「遅いぞバッカス。何をじゃれてるんだ?」

 編みかけのどでかい敷物の向こうでフっと手元から顔を上げ、ディアナが転がってる俺たちを見て片眉を上げた。

「お、お前ら、一体何やってんだ!?」

 なんのかんの言ってバッカスの奴、かなり心配してたらしい。文句を叫びつつ、焦ってじたばたとやりながら人型に戻り始めた。
 道連れにされた俺は背中と後頭部を地面に打ち付けて、バッカスの巨体に押しつぶされて涙目になりながら立ち上がる。だがこの光景、何やら既視感を覚えずにはいられない。なんだ、あゆみにしてもディアナにしても。なんでこう俺たちの心配をよそにこう悠々としてられるんだ?

「お前が遅いからここで待つ間、このドラゴンとここの巣作りを手伝うって取引したとこだぞ」

 そう言って全員で編んでいるそのどでかい敷物を目で差し示す。開けた山の頂上に引っかかるようにゴロンと寝そべったドラゴンが、ディアナの声に反応して片目を開けてこちらを睨んだ。

「お前らか、ディアナの待ってた奴らってのは……ってなんだおまえ、変な匂いしてるな」

 フッと眉を寄せて起きだすと、ドラゴンの巨体が小山のように盛り上がる。座りなおしたドラゴンは優に20メートルはありそうだ。ちょっと見上げる俺の背中に冷や汗が伝う。
 だがそんな俺にスッと顔を寄せ、ドラゴンがスンスンと犬のように俺の匂いを嗅いできた。

「おい、よせよ。俺は喰いもんじゃねえぞ」
「いや、ワシは肉は食わん。そういう匂いじゃあない。なんだ、この世界で嗅いだことのない匂いがするぞ」

 やべえ。このドラゴン、なんか全く違う次元のもの嗅いでやがった!

「その巨体で肉を食わねえで何食ってんだ?」

 気を逸らそうと俺がそう言えば、ドラゴンは少し顔を上げ、東のほうを見ながらフンっと鼻を鳴らす。

「ワシは肉より魚が好きでな。この東の海はワシの好みの魚が大量におる」
「魚、な。ほーう。俺も魚は好きだ。猫だしな」
「……猫、だけじゃあなかろう。お前からは人間の匂いもしているぞ」
「そ、そうか?」

 おお、どうやら俺、まだ人間の部分がほんとにあるらしい。 
 そこでやっとバッカスのことを思い出して見回すと、いつの間にかディアナの横に座って俺たちのことなどお構いなしに話し込んでた。まあ色々あるみたいだし放っておいてやるか。

「おい、そんなことよりディアナが言うにはお前らはあの向こうの砦の奴らを蹴散らしに来たそうだな」

 ちょっとよそ見してた俺にドラゴンがなにやら期待を込めて尋ねてくる。

「いや? 俺らはあそこに捕まってる連中を連れ戻しに来ただけだ」

 ディアナの奴、なんでそんな誤解を招く言い方を、と訂正するつもりで言い返すと、なぜかドラゴンががっかりした顔でこちらを見た。

「なんだ、違うのか。てっきりこれであの山も元に戻るかと思ったんだがな」

 そう言って残念そうにまたも寝そべっちまった。こいつ、巨体の割になんだかやけに覇気がねえな。

「そんなもん、あんたの身体なら自分で勝手に蹴散らしゃよかっただろうに」
「と、とんでもない。ワシは平和主義者だ。争いは好かん」
「は、はあ?」

 人は見かけによらねえっつーが。普通ドラゴンって町焼いたり壊したりするもんじゃねえのか? 俺の勝手な思い込みかこれは?

「ドラゴンの癖に平和主義者って……あんた変わってんじゃねーのか、それ?」
「ああ、よく言われる。どうにも他のドラゴンと反りが合わんでな。だからこうしてこんな離れた山に自分の住処を求めてきたんだが……」

 ほうっと小さなため息なんかつきながら向かいの山を見てやがる。

「ここへ来た時は穏やかな連中が住んでる小さな村が一つあるだけで、なんとも雅ないい場所だったんだが、そのうち煩い連中が増えおってな」
「あ、ああ」
「ちょっと目を離したすきに何やらデカい囲いなど作りおって。ワシが好きだった連中がどこにも見当たらんようになっとった。しかもあっちから流れてくる汚水のせいでこの辺りの川では魚も食えん。このままだと東の海まで魚がいなくなってしまう」

 ドラゴンはそう言いながらがっくりと自分の顎を前足の上に垂らした。
 ……なんだよこのドラゴン。この巨体に似合わず本気ですげえ弱気だな。

「なあ、じゃあ俺があの中掃除するって言ったら、あんた協力してくれるか?」
「蹴散らすんじゃないのか?」
「いや、そんな面倒なことしたくねえ。俺の今回の目的はとにかく中にいる農民と狼人族の連中を連れ出すことだ。ついでに鉱山の排水が悪影響を出してるならなるべく早く解決しておきたい」
「どうやらお前、猫の癖に頭が回るようだな」
「猫は余計だ。ネロって呼べ」
「そうか、じゃあネロ、ワシはルディイイイイン」

 そこでドラゴンが雄たけびかと思う声をあげはじめる。慌ててその鼻っ面を手ではたく。はたいちまってから流石にやり過ぎたかと見上げると、ドラゴンの奴、目を寄せて困った顔でこっちを見てた。
 あああ。マジでコイツ、気が弱いらしい。

「大声上げてんじゃねえよ。今下の奴らがおびえちまったら面倒だろうが」
「す、すまん。ワシの名はルディイ……ンだ」
「ルディンだな」
「いや、ルディイイ……何でもない。ルディンでいい」

 また大声を出そうとしたドラゴンを睨むと焦ったように声を落とした。

「じゃあルディン、計画を立てようぜ」

 こうして俺はバッカスとディアナも加えてこれからの作戦を話し合った。


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