異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第12章 北の砦

11 シモンとベンハミン

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「シモンが言ってることはじゃあ、本当なのか?」

 ムスッとして黙り込んだベンさんに黒猫君が容赦なく突っ込むと、ベンさんが低く唸りながら口を開いた。

「もう忘れた。俺はとうの昔に森に引っ込んで今はただの森のくまさんだって言ってんのに、こいつらエルフは、皆がやっと忘れたことをいつまでもいつまでも……」

 答えるのかと思えば文句を言い続けるベンさんを横に、シモンさんが当たり前のような顔で説明を始める。

「ベンハミン翁の先々代には以前一度だけ謁見させて頂いたことがあります。その容貌や先日のオークとの闘いぶりを見て間違いないだろうと思いましたので、昨日ちょっとカマを掛けてみたんですよ。噂に高いベンハミン前獣王と自分がいればあゆみさんは別に必要ないだろうと。一瞬で顔色を変えて私に殺気を投げつけてくださったのですぐに確認できました」

 あ、ベンさんの肩ががっくり落ちた。

「さっきアルディさんが言ってた『狂獣王』って言うのは?」

 思わず私もベンさんに問いかけると、ベンさんが「お前もか」って顔で私を見て、情けなさそうなため息とともに天井を仰ぎ見る。代わりにシモンさんが笑顔で説明してくれた。

「私もナンシーに半分囚われてるような身でしたから噂だけでしか知りませんが、なんでも在位中に目を掛けた召使だか何だかが北ザイオン帝国の奴隷商人にさらわれたそうですね。それを追跡し、獣王国内に入り込んでいた人間の奴隷商人ばかりか、獣人を売り飛ばしていた獣人の奴隷商人まで一緒くたに首を刎ねたうえ、その首を前北ザイオン国王へ送ったとか送らなかったとか。激怒した前北ザイオン国王が送り出した騎馬隊精鋭1000騎を王自ら待ち構え、先陣を切って片っ端から馬ごと投げ飛ばしたと聞きました」

 うわ、ベンさんとんでもない。あ、でもこの前のオークを投げ飛ばしてた姿を思い出すと、充分あり得そうだよねぇ。それにしても……

「ベンさん、私を捕まえた時、奴隷にするとか言ってませんでしたっけ?」

 ちょっと嫌味くらい言う権利、私にはあると思う。そう思って突っ込んだら、ブスっと拗ねた様子でベンさんが答えてくれた。

「……あの一件でたとえ何人奴隷商を殺しても、北ザイオン帝国が奴隷制度を改めない限り獣人の奴隷はいなくならないって分かったからな。だったらいっそ北ザイオン帝国を攻め落として人間を全部奴隷にしてやろう、なんて思ったこともあったさ」

 うわ、なんかベンさん、今牙が光った気が。でもすぐにワイルドに歪めてたお顔をいつもの優しいベンさんに戻して、両肩をひょいっとすくめてみせる。

「だが、いざ国王を引退して市井に出てみりゃなんのことはない、奴隷になるしかない奴が多すぎた。何度買ってやって逃がしてやってもまた奴隷になりやがる。息子にあと継がせた気楽な隠居の身じゃあ、金もそうそうねえし、すぐにやめちまおうって思ってたんだがな。完全に食詰めて、切羽詰まってそうな奴だけ拾って面倒見てるうちにあの町が出来ちまった」

 そう言って、ちらりと私のほうを見る。
 うん。確かにあの時私、滅茶苦茶切羽詰まってました。思わず拝むように頭を下げると、ベンさん、はぁ~っと大きくため息ついて、首の後ろを揉みつつ先を続けた。

「結局、本当に奴隷しか出来ない奴は、ただ自由にしてやっても意味がないんだ。馬鹿みたいだが、最初っから奴隷としてちゃんと仕込んでやれば、逆に普通に生きる道が見つけられる。皮肉なもんだよな」

 そこで一旦言葉を区切ったベンさん、今度はシモンさんをギロリと睨んで口を開く。

「だからベンハミンなんて名前の奴はいねえ。ここにいるのは単なる奴隷商人のベンだ……って何度も言ったんだが、このエルフ、聞きゃあしねえ。協力しなけりゃナンシーで俺が狂獣王だって噂を流すって言いだしやがった」

 そう言ってシモンさんを睨むベンさんの眼力には全く容赦がなくて、私なんて傍で見てるだけでもドキドキしちゃうのに、睨まれてるシモンさんはまるっきり気にしていない様子。

「という訳で、ベンハミン前獣王は私とともに獣人国の王宮に密使としてうかがうことに同意してくださいました」

 ベンさんの文句をまるっときれいに無視して、シラっとそう言い切るシモンさんを見てると、なんでベンさんがエルフを毛嫌いしてたのかなんとなくわかっちゃった。

「つきましてはあゆみさん、お願いしていた品物は準備出来ましたでしょうか?」

 そう尋ねられて慌ててポケットを探る。黒猫君が見てない間に部屋で拾ってきた皮の小袋。昨日シモンさんに袋だけ渡されて頼まれてたのだ。

「これで足りますか?」

 そう言って差し出した革袋の中を確認してシモンさんが嬉しそうに頷いた。

「ええ、充分です。品質も混じりっ気なく完璧です」
「待て、お前あゆみになに頼んだんだ?」

 心配性な黒猫君が横から口を挟んでシモンさんの手元の革袋を覗き込む。

「大丈夫だよ黒猫君、それ単なる魔──」

 私が言いきる前に革袋の中身を確認した黒猫君が慌てて私の口を塞いだ。

「いい、分かった。でシモン、これをなんに使う気だ?」

 ああ、そっか。魔晶石作れるのはあんまり言いふらしちゃいけないんだっけ。慌てて私が口をつぐんだところでシモンさんが窓の方に視線を送る。

「あのドラゴンを使うのですよ。ドラゴンはこれに目がありませんので。もうすでに今朝バッカスにお願いして交渉してきてもらいました。あゆみさんのモノならば文句ないそうです。早速ベンと一緒に獣人国まで送ってもらおうと思います」
「へ? 送ってもらうって……え、まさか」
「お前、ルディンに乗ってくきか!?」

 驚く私と黒猫君にシモンさんが当然というように頷いてくる。

「折角手ごろなドラゴンが近場にいるんですし、ネロさんとバッカスが知己を得ていつでも話せるんですから使わない手はないじゃないですか」

 よくそんなサラっと言えるよねシモンさん。でも、シモンさんにしてみればルディンさんもまだ幼い竜らしいからあまり怖くないのかな?

「これだけあれば、行って帰ってくるまで機嫌を損ねることもないでしょう。ということで後は一刻も早く獣人国へ向かおうと思うんですがいかがですか、ベンハミン前獣王」
「もういいからその呼び方はやめろ。やめてくれ。分かったからベンと呼べ」

 結局ベンさんは非常に不服そうにしながらも、シモンさんと一緒に行ってくれるということらしい。

「ではバッカス、道案内にアントニーさんをお借りします」

 独りテキパキと指示を出すシモンさんに、すっごく不服そうな顔で、でもバッカスたちまで従ってる!
 シモンさん、本当に人を使うのが上手だよねぇ。

「と言うことですので、獣王国のことは我々に任せて、みなさんはしっかりあゆみさんを守りながらドワーフの件を片付けてください」

 ベンさんの件がよっぽど予想外だったのか、呆けた様子でシモンさんとベンさんのやり取りを見ていたアルディさんが、それでもなんとか気を取りなおして黒猫君に向きなおる。

「わ、かりました、分かりました。ではネロ君、僕たちはドワーフの対応を考えましょう」

 それを聞いて、とっても複雑そうな顔になった黒猫君が「俺スゲーいやな借り作っちまった気がする……」って呻くように呟いた。
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