387 / 406
第13章 ヨークとナンシーと
16 幌馬車の旅
しおりを挟む
あゆみを抱えて馬車に揺られながら、大してやることもなく旅路が進む。
それでもあの不味い昼飯に味噌を振る舞ったお陰で、今まで無言一辺倒だった馬車の中が、少しだけ砕けた雰囲気になっていた。
「じゃああんたらはヨークのジークオン教会の司教なのか」
「ああ。御者や警備をしている連中はヨークの雇われ者だが、ここにいる六人はそうだ」
俺が水を向けると、俺たちの右隣のじいさんが気軽に答えた。どうやらこのじいさんがこの中で一番年配でまとめ役らしい。味噌を一番喜んでいたのもこのじいさんだった。
「まあ、司教とはいってもあそこには沢山いるがな」
と、今度は俺たちの左に座る痩せぎすのじいさんが口を挟む。多分このじいさんたちの中ではこのじいさんが一番若い。とは言ってもこいつも五十は超えていそうだ。
「なんせ我がジークオン教会はこの国最大だからの。ナンシーなんぞの小さな教会とは比べ物にならん」
つけ加えるように俺たちの真ん前に座ってるじいさんが少し誇らしげに言った。
「司教様なのにわざわざこんな遠くまで来るなんて大変ですね」
それに素直に驚いたあゆみが呑気な声で相槌を打つと、その隣のじいさんたちが眉根を寄せてぼそぼそと話しだす。
「仕方あるまい。ネイサン様は……新サロス長官は就任して日が浅い。まだ色々引き継ぎが終わってないんだろうて」
「とはいえ、それでも教会裁判へ護送するからには体裁が必要だからなぁ。おかげで今回は我々のような自治員にお声がかかったらしい」
「自治員、ですか」
「あー、教区管理省内の自治、まあ教会内の警備や教区内で起きるごたごたを仲裁したりする部署じゃのぉ」
聞きなれない名前に首をひねるあゆみに、またも俺たちの右隣のじいさんが補足してくれた。
「まあ中々に忙しい省だからな、ワシらのようなジジイくらいしか手の空く者もいなかったんだがな」
「そうそう。大体、ワシらは司教などといってもただ長く勤めてきただけじゃよ。この歳までしっかり勤めればあそこでは誰でもなれる役職じゃからな」
……あゆみが人に気を許されやすいのはいつものことだが、それにしたって俺たちみたいな護送者相手にここまで気安くていいのか?
いくらなんでも、味噌振舞っただけなのにやたらと気安すぎてこっちのほうが不安になってきた。
「あんたら、そんな話を俺たちにしてて大丈夫なのかよ」
「このくらいの話をお前らが聞いたからってなんの問題がある」
「そうじゃ、見くびるなよ小僧。一応これでも全員魔法持ちだぞ」
「こんな老いぼれでも手枷足枷付きの囚人を護送するには十分じゃよ」
俺の問いかけに、それぞれが笑って軽く答えてきた。
いや、手枷足枷があったからって、悪いがこのじいさんたちだったら俺、一瞬で全員倒せる気がするんだが。
どうもこのじいさんたちにはあまり危機意識があるとは思えない。
残りのじいさんたちだって、年長のじいさんと歳は大して変わらなそうだ。
自治員とやらをやって来てただけあって、皆それなりに体つきがしっかりしてはいるが、それにしたって全員かなり歳食ってる。さっきっから馬車の揺れにも体幹が耐えられてない気がする。
っていうか、こんなじじい共に長旅はキツイだろうに。
しかも俺たちみたいな容疑者候補を護送って、どう考えても荷が勝ちすぎやしないか?
「…………」
「でもこんな揺れる馬車の旅は辛くないですか?」
「こんなもん、慣れておるよ」
「ああ、お前さんのようなひ弱な娘ならともかく、そんな敷物ワシらは必要とせん」
「流石ですねぇ。でもこのクッション、これからナンシーでも安くなるらしいですよ」
「ほう、確かに布物はナンシーが有名だが」
「それがですね、北の砦で──」
無言でなんと答えたもんか考えてるうちにあゆみが話題を変え、思わぬほうに話が進んでいく。まるで孫娘の気を引こうとするように、それに五人のじいさんたちが代わるがわる答えてた。
あゆみは俺が味噌を振る舞ったことを単純に喜んで嬉しそうに話してるが、俺は少し違う。あゆみには申し訳ないが、折角情報を引き出せる機会だと思ったからこれ見よがしにあゆみを出汁に味噌を振舞っただけだ。
そうとは知らずに相手が気を許したのをいいことに、あゆみのお喋りはどこまでも続いてく。
タカシから聞かされてた通り、どうもこの連中は緩すぎる。
ふと昨日のタカシとのやりとりが思い出されて、思わず胃の辺りが痛み出す。
あの後、俺たちがタカシから聞いた状況は思っていたよりも複雑なものだった。
キールに改めて挨拶した後、タカシが差し出した教皇とヨーク侯爵からの書状であいつが本物の福音推進省長官であることはすぐに確認が取れた。
たかが書状だけで信じていいのかよっと思ったのだが、テリースに言わせると貴族家の正式な書状を偽造するのは俺が考えているよりよっぽど難しいことらしい。
正式な書状に使われる羊皮紙やインクはそれぞれ家ごとに特徴が決まっていて管理も厳しく、サインや封印の印章指輪の造形なども含め、必要最低限の貴族間でしか知られていないらしい。
すぐにエミールの所有していた貴族総覧がひっぱりだされ、書状が本物であることが確認された。
「だがお前が福音推進省長官なんだったら、なんで従者のお前が本物のサロスだって誰も気づかないんだ?」
当たり前の質問をした俺に、タカシが悪戯っぽい笑みを浮かべて俺たちを見回して答える。
「福音推進省という立場は非常に特殊で危険なのですよ。彼らの身の安全を保つ為にも、私の部下は全員、普段は別の組織に所属しています。それぞれが福音推進省に所属していることさえ極秘にしているのです。末端に至っては一人の連絡員を除き、他に誰が所属しているかさえ知らされていません」
「……それは、教会内でさえお前が福音推進省長官だと知ってる者がほとんどいないということか?」
「そうですね。全容を把握しているのは私のみですし、長官が誰であるかは教会内でも教皇とその側近数人しか知りません」
すぐにその答えの意味を理解したキールがすごく嫌そうな顔で尋ねれば、タカシは何食わぬ顔で答えた。
「待て、そんな極秘情報を俺たちが知っちまっていいのかよ?」
「いけません。本来、情報が漏れた可能性が疑われた時点で、裁判の必要なく即処刑対象となります」
思わず問い返した俺にとんでもない答をしれっと返したタカシは、だがそこで一旦言葉を切り、満面の笑みを浮かべて先を続ける。
「ただし、今回キーロン陛下に正式に要請された場合に限り、教皇庁と新王政府の話し合いを円滑に進め、今後の協力関係をより深める前提で、この極秘情報を開示せざるを得ない、と教皇と前もって合意しておりました」
あー、それであの確認の一幕だったわけか。
クソ。こいつ確信犯だ。
キールが王の権限でこの秘密の開示を要求した時点で、俺たちは全員自動的にこいつらの話に巻き込まれたってわけだ。
「だが同じここまで来るんだったら、なぜ最初からお前がサロスとして来なかった?」
はめられたとは言わねーが、同じ巻き込まれるなら裏は知っておきたい。
そう思ったのは俺だけじゃなかったらしい。
「もっと言うなら、なんでわざわざ行方不明になどしたんだ?」
俺同様、渋い顔になったキールが俺の問いにかぶせるように尋ねる。
そんな俺たちを静かに見返して、タカシが薄い笑みを浮かべて説明を始めた。
「この度、サロス長官代理としてこちらに赴いたネイサンは、現在教皇の下で働く五人の枢機卿の一人です。彼の出身のギル家は王都のシャングリラ教会を統べる大枢機卿を排出した旧貴族家で、ヨークのジークオン教会でも代々枢機卿に名を連ねてきました。その権威は決して教皇には及びませんが、ヨークの主産業の羊毛業に深く関わり、ヨークにおいては教会内部でさえ政治的に無視できない存在なのです」
そこまで答えたタカシは手の中のカップに視線を落とし、残った茶を弄ぶようにゆっくりと揺らしつつ話を続ける。
「元々王都の枢機卿におもねる一派に属していましたが、それがここ半年ほど、その言動があからさまになりましてね。王都のシャングリラ教会の教論を表立って支持し、獣人その他を非人として貶める言動が目立ち、最近増えている行方不明者の人体売買や奴隷売買にも関与していると噂されています。そしてとうとう今回、福音推進省長官が行方不明と聞いて自分を取り立てるよう、しつこく教皇に迫ってきまして──」
「まて、それはおかしいだろ」
スラスラとどこまでも続けるタカシの言葉を切るように思わず口を挟んだ。その俺の声に、カップを揺らしていたタカシの手がピタリと止まった。
「今教皇がお前を一緒によこしたってことは、お前が行方不明になるのを教皇は最初から知ってたんじゃねえのか? ってことは、お前の行方不明自体、ネイサンをハメるためだったんじゃねえの?」
被せるように尋ねた俺に、それまで伏せていた視線を上げたタカシの口角がニヤリと上がる。
「嵌める、というのは外聞があまり良くありません。行動を促すために状況を用意した、と言っておきましょう」
「ものはいいようだな」
俺が突っ込むより早く、苦笑いを浮かべたキールが呟く。
「案の定、代理として派遣されたネイサンは勝手に福音推進省長官サロスの名を名乗り、予想以上に行動を起こしてくれました」
それが聞こえたのか聞こえなかったのか、先を続けたタカシの顔はどう見てもこの年齢のガキが見せる笑顔には見えなかった。
「ここからは色々と楽しくなりそうです」
コイツ、ガキのくせにスゲー胡散くせー。
確かにその時はそう思ったはずだった。
なのに、その後俺もキールもなんのかんのとこいつに言いくるめられて、気づけばこの話を受けちまっていた。というか受けざるを得なかった。
いくらそれなりに対策はしてきたとは言え、あゆみがこうして同行してる以上、今のうちに少しでもこいつらから事情を聞き出しておきたい。
そんな俺の思惑などお構いなしに、ヨークで一番羊料理が旨い店やら、巷で噂になってる花火師がいる職人街の話など、呑気な話題にあゆみが身を乗り出して花をさかせてる。
……こいつも昨日の話は全部一緒に聞いていたはずなんだけどな。
膝の上の能天気なあゆみの様子を見下ろして、俺は思わずこぼれそうになるため息を飲み込んだ。
それでもあの不味い昼飯に味噌を振る舞ったお陰で、今まで無言一辺倒だった馬車の中が、少しだけ砕けた雰囲気になっていた。
「じゃああんたらはヨークのジークオン教会の司教なのか」
「ああ。御者や警備をしている連中はヨークの雇われ者だが、ここにいる六人はそうだ」
俺が水を向けると、俺たちの右隣のじいさんが気軽に答えた。どうやらこのじいさんがこの中で一番年配でまとめ役らしい。味噌を一番喜んでいたのもこのじいさんだった。
「まあ、司教とはいってもあそこには沢山いるがな」
と、今度は俺たちの左に座る痩せぎすのじいさんが口を挟む。多分このじいさんたちの中ではこのじいさんが一番若い。とは言ってもこいつも五十は超えていそうだ。
「なんせ我がジークオン教会はこの国最大だからの。ナンシーなんぞの小さな教会とは比べ物にならん」
つけ加えるように俺たちの真ん前に座ってるじいさんが少し誇らしげに言った。
「司教様なのにわざわざこんな遠くまで来るなんて大変ですね」
それに素直に驚いたあゆみが呑気な声で相槌を打つと、その隣のじいさんたちが眉根を寄せてぼそぼそと話しだす。
「仕方あるまい。ネイサン様は……新サロス長官は就任して日が浅い。まだ色々引き継ぎが終わってないんだろうて」
「とはいえ、それでも教会裁判へ護送するからには体裁が必要だからなぁ。おかげで今回は我々のような自治員にお声がかかったらしい」
「自治員、ですか」
「あー、教区管理省内の自治、まあ教会内の警備や教区内で起きるごたごたを仲裁したりする部署じゃのぉ」
聞きなれない名前に首をひねるあゆみに、またも俺たちの右隣のじいさんが補足してくれた。
「まあ中々に忙しい省だからな、ワシらのようなジジイくらいしか手の空く者もいなかったんだがな」
「そうそう。大体、ワシらは司教などといってもただ長く勤めてきただけじゃよ。この歳までしっかり勤めればあそこでは誰でもなれる役職じゃからな」
……あゆみが人に気を許されやすいのはいつものことだが、それにしたって俺たちみたいな護送者相手にここまで気安くていいのか?
いくらなんでも、味噌振舞っただけなのにやたらと気安すぎてこっちのほうが不安になってきた。
「あんたら、そんな話を俺たちにしてて大丈夫なのかよ」
「このくらいの話をお前らが聞いたからってなんの問題がある」
「そうじゃ、見くびるなよ小僧。一応これでも全員魔法持ちだぞ」
「こんな老いぼれでも手枷足枷付きの囚人を護送するには十分じゃよ」
俺の問いかけに、それぞれが笑って軽く答えてきた。
いや、手枷足枷があったからって、悪いがこのじいさんたちだったら俺、一瞬で全員倒せる気がするんだが。
どうもこのじいさんたちにはあまり危機意識があるとは思えない。
残りのじいさんたちだって、年長のじいさんと歳は大して変わらなそうだ。
自治員とやらをやって来てただけあって、皆それなりに体つきがしっかりしてはいるが、それにしたって全員かなり歳食ってる。さっきっから馬車の揺れにも体幹が耐えられてない気がする。
っていうか、こんなじじい共に長旅はキツイだろうに。
しかも俺たちみたいな容疑者候補を護送って、どう考えても荷が勝ちすぎやしないか?
「…………」
「でもこんな揺れる馬車の旅は辛くないですか?」
「こんなもん、慣れておるよ」
「ああ、お前さんのようなひ弱な娘ならともかく、そんな敷物ワシらは必要とせん」
「流石ですねぇ。でもこのクッション、これからナンシーでも安くなるらしいですよ」
「ほう、確かに布物はナンシーが有名だが」
「それがですね、北の砦で──」
無言でなんと答えたもんか考えてるうちにあゆみが話題を変え、思わぬほうに話が進んでいく。まるで孫娘の気を引こうとするように、それに五人のじいさんたちが代わるがわる答えてた。
あゆみは俺が味噌を振る舞ったことを単純に喜んで嬉しそうに話してるが、俺は少し違う。あゆみには申し訳ないが、折角情報を引き出せる機会だと思ったからこれ見よがしにあゆみを出汁に味噌を振舞っただけだ。
そうとは知らずに相手が気を許したのをいいことに、あゆみのお喋りはどこまでも続いてく。
タカシから聞かされてた通り、どうもこの連中は緩すぎる。
ふと昨日のタカシとのやりとりが思い出されて、思わず胃の辺りが痛み出す。
あの後、俺たちがタカシから聞いた状況は思っていたよりも複雑なものだった。
キールに改めて挨拶した後、タカシが差し出した教皇とヨーク侯爵からの書状であいつが本物の福音推進省長官であることはすぐに確認が取れた。
たかが書状だけで信じていいのかよっと思ったのだが、テリースに言わせると貴族家の正式な書状を偽造するのは俺が考えているよりよっぽど難しいことらしい。
正式な書状に使われる羊皮紙やインクはそれぞれ家ごとに特徴が決まっていて管理も厳しく、サインや封印の印章指輪の造形なども含め、必要最低限の貴族間でしか知られていないらしい。
すぐにエミールの所有していた貴族総覧がひっぱりだされ、書状が本物であることが確認された。
「だがお前が福音推進省長官なんだったら、なんで従者のお前が本物のサロスだって誰も気づかないんだ?」
当たり前の質問をした俺に、タカシが悪戯っぽい笑みを浮かべて俺たちを見回して答える。
「福音推進省という立場は非常に特殊で危険なのですよ。彼らの身の安全を保つ為にも、私の部下は全員、普段は別の組織に所属しています。それぞれが福音推進省に所属していることさえ極秘にしているのです。末端に至っては一人の連絡員を除き、他に誰が所属しているかさえ知らされていません」
「……それは、教会内でさえお前が福音推進省長官だと知ってる者がほとんどいないということか?」
「そうですね。全容を把握しているのは私のみですし、長官が誰であるかは教会内でも教皇とその側近数人しか知りません」
すぐにその答えの意味を理解したキールがすごく嫌そうな顔で尋ねれば、タカシは何食わぬ顔で答えた。
「待て、そんな極秘情報を俺たちが知っちまっていいのかよ?」
「いけません。本来、情報が漏れた可能性が疑われた時点で、裁判の必要なく即処刑対象となります」
思わず問い返した俺にとんでもない答をしれっと返したタカシは、だがそこで一旦言葉を切り、満面の笑みを浮かべて先を続ける。
「ただし、今回キーロン陛下に正式に要請された場合に限り、教皇庁と新王政府の話し合いを円滑に進め、今後の協力関係をより深める前提で、この極秘情報を開示せざるを得ない、と教皇と前もって合意しておりました」
あー、それであの確認の一幕だったわけか。
クソ。こいつ確信犯だ。
キールが王の権限でこの秘密の開示を要求した時点で、俺たちは全員自動的にこいつらの話に巻き込まれたってわけだ。
「だが同じここまで来るんだったら、なぜ最初からお前がサロスとして来なかった?」
はめられたとは言わねーが、同じ巻き込まれるなら裏は知っておきたい。
そう思ったのは俺だけじゃなかったらしい。
「もっと言うなら、なんでわざわざ行方不明になどしたんだ?」
俺同様、渋い顔になったキールが俺の問いにかぶせるように尋ねる。
そんな俺たちを静かに見返して、タカシが薄い笑みを浮かべて説明を始めた。
「この度、サロス長官代理としてこちらに赴いたネイサンは、現在教皇の下で働く五人の枢機卿の一人です。彼の出身のギル家は王都のシャングリラ教会を統べる大枢機卿を排出した旧貴族家で、ヨークのジークオン教会でも代々枢機卿に名を連ねてきました。その権威は決して教皇には及びませんが、ヨークの主産業の羊毛業に深く関わり、ヨークにおいては教会内部でさえ政治的に無視できない存在なのです」
そこまで答えたタカシは手の中のカップに視線を落とし、残った茶を弄ぶようにゆっくりと揺らしつつ話を続ける。
「元々王都の枢機卿におもねる一派に属していましたが、それがここ半年ほど、その言動があからさまになりましてね。王都のシャングリラ教会の教論を表立って支持し、獣人その他を非人として貶める言動が目立ち、最近増えている行方不明者の人体売買や奴隷売買にも関与していると噂されています。そしてとうとう今回、福音推進省長官が行方不明と聞いて自分を取り立てるよう、しつこく教皇に迫ってきまして──」
「まて、それはおかしいだろ」
スラスラとどこまでも続けるタカシの言葉を切るように思わず口を挟んだ。その俺の声に、カップを揺らしていたタカシの手がピタリと止まった。
「今教皇がお前を一緒によこしたってことは、お前が行方不明になるのを教皇は最初から知ってたんじゃねえのか? ってことは、お前の行方不明自体、ネイサンをハメるためだったんじゃねえの?」
被せるように尋ねた俺に、それまで伏せていた視線を上げたタカシの口角がニヤリと上がる。
「嵌める、というのは外聞があまり良くありません。行動を促すために状況を用意した、と言っておきましょう」
「ものはいいようだな」
俺が突っ込むより早く、苦笑いを浮かべたキールが呟く。
「案の定、代理として派遣されたネイサンは勝手に福音推進省長官サロスの名を名乗り、予想以上に行動を起こしてくれました」
それが聞こえたのか聞こえなかったのか、先を続けたタカシの顔はどう見てもこの年齢のガキが見せる笑顔には見えなかった。
「ここからは色々と楽しくなりそうです」
コイツ、ガキのくせにスゲー胡散くせー。
確かにその時はそう思ったはずだった。
なのに、その後俺もキールもなんのかんのとこいつに言いくるめられて、気づけばこの話を受けちまっていた。というか受けざるを得なかった。
いくらそれなりに対策はしてきたとは言え、あゆみがこうして同行してる以上、今のうちに少しでもこいつらから事情を聞き出しておきたい。
そんな俺の思惑などお構いなしに、ヨークで一番羊料理が旨い店やら、巷で噂になってる花火師がいる職人街の話など、呑気な話題にあゆみが身を乗り出して花をさかせてる。
……こいつも昨日の話は全部一緒に聞いていたはずなんだけどな。
膝の上の能天気なあゆみの様子を見下ろして、俺は思わずこぼれそうになるため息を飲み込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる