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第3章 始動
11 殿下
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私たちが戻る頃には治療院の前にはすでに人だかりができていた。
がやがやとうわさ話に花が咲いているようで、私たちに気づく人はいなかった。それでも念のため、皆で裏に周って崩れた壁から中庭を抜けて厨房の扉から中に入る。
またもや時間が惜しいということで、私が何を言う間もなくテリースさんに抱えられ運ばれてしまった。
あ、もうなんかいいや。運んでくれるって言うのに逆らう気力はもうないし。
「隊ち……殿下。二階の片付けは終わりました。外に人も集まり始めています。隊の人間を使って町中からは人を呼びましたがこれ以上集めるのはまだ無理ですね。パン工房と麦の卸をしている店は全てそろいました。なんか全員真っ青な顔でしたが」
「ああ、多分麦が尽きるって話だと思ってんじゃないの?」
黒猫君の指摘にキールさんが悪い笑顔でうなずいた。
「ならばそのまま心配させておいたほうが後が楽だな」
あ、今思ったけど、この二人凄く似てる。悪いことを嬉しそうにする所とか。
「農家の連中はまだ来ないか?」
「一人兵を見に行かせましたがまだ帰ってきていません」
黒猫君がちょっと心配そうに尻尾を垂れている。
その間にもキールさんと皆さんは二階に上がると言う。ならばっと黒猫君と二人で夕食の準備に移ろうとしたところで、ガシッとキールさんに肩を掴まれた。黒猫君は首根っこ。
「君達、逃げられると思うなよ。一緒に来い」
「おい、猫みたいに吊り下げるな!」
黒猫君、さっきと言ってることが違うよ……
それでも逃げられないと悟った黒猫君は、仕方がなさそうにその場にいたピートルさんに簡単な指示を追加した、吊り下げられたまま。
キールさんに吊り下げられた黒猫君と私の顔を見比べて、ピートルさんがため息をついている。
「分かったよ。今日のところは出来る所まで俺が手伝ってやる。だがキングの演説は俺も聞きに出るからな」
「おい、待て。今のキングってのは……」
「キーロン殿下時間がありませんよ」
突っ込もうとするキールさんを今度はテリースさんが急かして二階に引っ張っていく。
今回の私の運び手はアルディさんです。
うう、ピンクの髪が目に染みる。
「お世話おかけします」
「いえいえ、お二人が隊……殿下を説得してくださったとお聞きしました。これで安心してお仕えできます」
「アルディさんはキールさんが皇太子だってご存知だったんですよね?」
あ、アルディさんが視線を反らした。
「いえ僕はと言うか。隊で知らない者はいませんでしたよ」
「え? そうなんですか?!」
「知られてないと思っていたのはた……殿下だけです」
惜しい! もう少しだねアルディさん。
「じゃあ、街の人達も……?」
「知っている人も結構いますよ。知らなくても人気は元々ありましたしね」
私は一気に気が抜ける思いがした。
「なんだ、そうだったんですか。じゃあ、私達が余計なことする必要なかったんじゃないんですか?」
「とんでもない! あの……殿下ときたら全く、いつまでも馬鹿みたいにご自分の出生を気にしてらして」
「キールさんの出生ですか?」
「ええ、いえ全然悪い話ではないんですよ。お母様が傍系の出だってだけで。そうは言っても決して血の薄い家系ではないですし。何だったかアズルナブとかいう……」
うわ。多分それは傍系どころか。
うーん、この世界が必ずしも全て同じとも限らないし、余計なことは口にするまい。
「お二人がいなかったら一体いつまでああやって隠れて手を回し続けていたことか」
「……キールさんって本当に良い人ですよね。この杖も下さったし、服も下さって。危ない出兵の途中で私たちを拾ってくださったし」
「……はい。隊長は……殿下は凄く情に厚いんです。殿下の後に続けば誰も見捨てられない。そう信じられるからこそ皆殿下に付いていくんです」
アルディさんが嬉しそうに、そして誇らしげにそう言って前を行くキールさんを見つめる。
「じゃあ今日黒猫君が無理矢理キールさんを王権の統治者に押し上げちゃったのって、皆さんにとっては別に不都合はなかったんですね。良かったぁ。なんせ黒猫君、一人でどんどん話し進めちゃうから私は口を挟む暇もなかったし」
そこでアルディさんが不思議そうにこちらに目線を戻した。
あ、アルディさんの目、光を通すと濃い赤だった。
「ネロ君は一体どういう方だったんでしょうね。ウチの隊長……じゃなかった、殿下と対等にやり合う人なんて今まで見たことありませんでしたよ」
「うーん、私も別にそんなに良くは知らないんですよね。ただ猫になったのに凄く頭も回るし偉そうですよね」
「え? お二人は同じ所から来られたんですよね」
「はい、でもほとんど初対面でしたし。黒猫君になってからの方が断然長いですよ」
「そうなんですか」
アルディさんはやけに驚いているけど、言われてみればもう運命共同体もいいとこなのに、私本当に黒猫君のことはほとんど何も知らないよなぁ。時間ができたらもっと話を聞いてみよう。
そう思ってはたと気づく。
ん? 私黒猫君に対してはいつになく興味を持ってるよね。普通はそのまま放っとくのに。ま、運命共同体だからかな。
そんなことを考えているうちに私たちは二階の部屋に到着した。
がやがやとうわさ話に花が咲いているようで、私たちに気づく人はいなかった。それでも念のため、皆で裏に周って崩れた壁から中庭を抜けて厨房の扉から中に入る。
またもや時間が惜しいということで、私が何を言う間もなくテリースさんに抱えられ運ばれてしまった。
あ、もうなんかいいや。運んでくれるって言うのに逆らう気力はもうないし。
「隊ち……殿下。二階の片付けは終わりました。外に人も集まり始めています。隊の人間を使って町中からは人を呼びましたがこれ以上集めるのはまだ無理ですね。パン工房と麦の卸をしている店は全てそろいました。なんか全員真っ青な顔でしたが」
「ああ、多分麦が尽きるって話だと思ってんじゃないの?」
黒猫君の指摘にキールさんが悪い笑顔でうなずいた。
「ならばそのまま心配させておいたほうが後が楽だな」
あ、今思ったけど、この二人凄く似てる。悪いことを嬉しそうにする所とか。
「農家の連中はまだ来ないか?」
「一人兵を見に行かせましたがまだ帰ってきていません」
黒猫君がちょっと心配そうに尻尾を垂れている。
その間にもキールさんと皆さんは二階に上がると言う。ならばっと黒猫君と二人で夕食の準備に移ろうとしたところで、ガシッとキールさんに肩を掴まれた。黒猫君は首根っこ。
「君達、逃げられると思うなよ。一緒に来い」
「おい、猫みたいに吊り下げるな!」
黒猫君、さっきと言ってることが違うよ……
それでも逃げられないと悟った黒猫君は、仕方がなさそうにその場にいたピートルさんに簡単な指示を追加した、吊り下げられたまま。
キールさんに吊り下げられた黒猫君と私の顔を見比べて、ピートルさんがため息をついている。
「分かったよ。今日のところは出来る所まで俺が手伝ってやる。だがキングの演説は俺も聞きに出るからな」
「おい、待て。今のキングってのは……」
「キーロン殿下時間がありませんよ」
突っ込もうとするキールさんを今度はテリースさんが急かして二階に引っ張っていく。
今回の私の運び手はアルディさんです。
うう、ピンクの髪が目に染みる。
「お世話おかけします」
「いえいえ、お二人が隊……殿下を説得してくださったとお聞きしました。これで安心してお仕えできます」
「アルディさんはキールさんが皇太子だってご存知だったんですよね?」
あ、アルディさんが視線を反らした。
「いえ僕はと言うか。隊で知らない者はいませんでしたよ」
「え? そうなんですか?!」
「知られてないと思っていたのはた……殿下だけです」
惜しい! もう少しだねアルディさん。
「じゃあ、街の人達も……?」
「知っている人も結構いますよ。知らなくても人気は元々ありましたしね」
私は一気に気が抜ける思いがした。
「なんだ、そうだったんですか。じゃあ、私達が余計なことする必要なかったんじゃないんですか?」
「とんでもない! あの……殿下ときたら全く、いつまでも馬鹿みたいにご自分の出生を気にしてらして」
「キールさんの出生ですか?」
「ええ、いえ全然悪い話ではないんですよ。お母様が傍系の出だってだけで。そうは言っても決して血の薄い家系ではないですし。何だったかアズルナブとかいう……」
うわ。多分それは傍系どころか。
うーん、この世界が必ずしも全て同じとも限らないし、余計なことは口にするまい。
「お二人がいなかったら一体いつまでああやって隠れて手を回し続けていたことか」
「……キールさんって本当に良い人ですよね。この杖も下さったし、服も下さって。危ない出兵の途中で私たちを拾ってくださったし」
「……はい。隊長は……殿下は凄く情に厚いんです。殿下の後に続けば誰も見捨てられない。そう信じられるからこそ皆殿下に付いていくんです」
アルディさんが嬉しそうに、そして誇らしげにそう言って前を行くキールさんを見つめる。
「じゃあ今日黒猫君が無理矢理キールさんを王権の統治者に押し上げちゃったのって、皆さんにとっては別に不都合はなかったんですね。良かったぁ。なんせ黒猫君、一人でどんどん話し進めちゃうから私は口を挟む暇もなかったし」
そこでアルディさんが不思議そうにこちらに目線を戻した。
あ、アルディさんの目、光を通すと濃い赤だった。
「ネロ君は一体どういう方だったんでしょうね。ウチの隊長……じゃなかった、殿下と対等にやり合う人なんて今まで見たことありませんでしたよ」
「うーん、私も別にそんなに良くは知らないんですよね。ただ猫になったのに凄く頭も回るし偉そうですよね」
「え? お二人は同じ所から来られたんですよね」
「はい、でもほとんど初対面でしたし。黒猫君になってからの方が断然長いですよ」
「そうなんですか」
アルディさんはやけに驚いているけど、言われてみればもう運命共同体もいいとこなのに、私本当に黒猫君のことはほとんど何も知らないよなぁ。時間ができたらもっと話を聞いてみよう。
そう思ってはたと気づく。
ん? 私黒猫君に対してはいつになく興味を持ってるよね。普通はそのまま放っとくのに。ま、運命共同体だからかな。
そんなことを考えているうちに私たちは二階の部屋に到着した。
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