【完結】ずぼら淫紋描きと堅物門番〜ひきこもり魔女に二度目の恋はいらない〜

こみあ

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Ⅷ 追記

追記:レイモンドの追憶

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 兄の結婚の知らせを、王城の魔バトが運んできた。


 とうとうあの魔女も年貢を納めるのか。


 それまで記していた日誌の上に通知を投げて、窓の外に視線を向ける。
 王城の中央棟にある局長室彼の部屋からは、王城の端に建つ魔女の塔がよく見えた。

 部屋を変えてもらうか。

 真剣にそう思う程度には、もうその景色は見飽きていた。


 ☆   ☆   ☆


 レイモンドが彼女を初めて見つけたのは、学院に通いだしてすぐのころだった。

 『農民にも関わらず、学院に入学してきた身の程知らずがいる』

 その噂はあっという間に貴族の子弟の間に広まった。
 別段、その学生に興味があったわけではないが、閉ざされた学院の社交会では、そんな話題も慰み程度の役にはたつ。
 そう思い、悪友たちに誘われるまま図書館まで顔を見に行った。

 誰に尋ねる必要もなく、噂の学生はすぐに見分けがついた。

 アズレイアと呼ばれる少女は、見るからに使い古したローブを纏い、窓際の椅子に座って黙々と手にした本を読んでいた。

 まだ入学して数日だろうに。
 今からそんなにガツガツしてどうするつもりなのか。

 無論、学院に勉強を疎かにするような生徒はいない。この学院に入る時点で、努力ができない者など振り落とされている。
 だが、貴族である以上、その努力は人目にふれさせてはならない。
 普段は優雅にお茶会に出席し、人脈を広げ、余裕を見せつけながら、見えない場所で必死に周りを出し抜く努力をする。
 それがここにいる学院生の在り方だった。

 見るに耐えない。
 たとえ学力が高かろうが誰かの推薦があろうが、やはり身分の差はどうしようもない……。

 そう思いつつ、クスクス笑う友人たちとその場をあとにしようとした、その時。

 細く開けられた図書館の高窓から一筋の風が吹き込み、彼女の読んでいた本のページをパラパラとめくりあげた。
 慌てた彼女は本を床に落とし、小さな悪態を吐きながら床にかがみ込む。

 亜麻色の髪がかきあげられ、彼女の顔がこちらにも見えた。

 クスクス笑いが唐突に止んだ。

 社交会で同年代の着飾った女子をエスコートすることに慣れた彼らにも、彼女のまとう静謐な空気は息を呑むほど印象的だった。

 可憐、というのはこういうことを言うのだろうか。
 決して美人ではないが、平民とは思えぬ垢抜けた顔立ちをしている。
 化粧も全くしていないようなのに、薄く赤みのさす頬、引き結ばれた形の良い唇。薄暗い図書館の中でなお輝きを見せる瞳。

 からかい半分に集まっていたその場の悪童どもが全員言葉を失い、席に戻りまた本を読みふける少女の後ろ姿を静かに見守った。


   ☆   ☆   ☆


 それから僕たちは彼女を遠巻きにするようになった。
 例え興味を引かれても、相手は貧乏な平民だ。お互い、関わりあって得することなど何もない。
 けれど彼女を蔑むような目で見る者はほとんどいなくなった。

 そんなある日、兄から突然手紙を受けとった。
 それを目に通したレイモンドの胸中に、怒りと喜びが一瞬で燃え上がった。

 なんと自分勝手な申し出だろう!

 あれだけ父上に気にかけてもらい、常に長子として尊重されてきたくせに、ほとんど家に寄りつかず、なのに今度はあのアズレイアまで。

 その上、その相手も確かめず僕に譲るだと……!

 だったら頂こう。
 あとでそれが、自分の目をかけてきた娘だと知って吠え面をかくがいい!

 僕は兄からの手紙を握りつぶし、入念な計画を練り始めた。


   ☆   ☆   ☆


 初めて彼女に声をかけたのは、同じ図書館の端だった。
 あのときと同様、薄い日差しの中で本を読む彼女にしばらく見惚れてしまっていた。

 やはり、決して美人ではない。
 だが意思の強そうな目も、はっきりと意見を伝えそうな唇も。
 小柄な割にしっかりと筋肉のついた、スラリと長い肢体。

 あれならきっと白の薄いドレスがよく似合うだろう。
 髪も少し整えて──。

 ──整えてどうする。

 結局僕は何がしたいんだったか?

 頭を振って雑念を追い払い、改めて彼女に声をかけた。

「何か御用ですか?」

 一瞬戸惑いを見せつつ、僕を見上げた彼女の瞳に、己の姿が映り込む。
 そこにいるのは、復讐などすっかり忘れたただの男だった。


   ☆   ☆   ☆


 聖夜祭の夜、彼女を抱いた。

 思っていたよりも簡単に。

 騙したのは自分だ。

 なのに隣で寝息をたてる彼女を見ると、ただ強く胸が痛んだ。

 アズレイアはただ可憐なだけじゃなかった。
 賢く、明るく、素直で、知識に貪欲で。
 日を重ねるごとに、気持ちが強く惹かれていって。

 憎い兄の婚約者。
 だから汚して捨ててやろう、そう思っていたのに。

 気づけばただ、僕は彼女に恋をしていた。

『妻も同様』

 本気でそう思い始めていた、あの日、彼女の論文を読んでしまうまでは。


   ☆   ☆   ☆


 それは僕にとって、人生で初めて味わう敗北だった。

 彼女の研究は素晴らし過ぎた。
 たとえ現在どれだけ魔法陣が安易に作られていようとも、あの論文が世に出れば、全ての書物が書き換えられるだろう。

 魔術は有限だ。
 たとえどれほど魔力量が多くても、一度に放出できる量も、限度も決まっている。
 それが確実に効率化出来るとなれば、誰もその価値を無視することはできない。

 比べ、自分の書き上げた論文は、全て既存の魔術に依存している。
 現時点で知られる最難易度の魔術とはいえ、それらを比較、研鑽するものがほとんどだ。
 僕の研究は、魔力量のある我々高位貴族にこそ価値があるが、彼女のように国全体の利益に繋がる物とは次元が違う。

 確かに、総合的に見れば多部門で論文を出した自分のほうが高い評価を受けるだろう。
 だが、アズレイアが今発表しようとしている論文は、近年の魔術史を変えるであろう代物だった。

 レイモンドは己の強みや秀でる部分を正しく認識している。
 だが、彼が優秀だからこそ、アズレイアの突出した才能も理解出来てしまった。

 彼女は賢い。
 だが、それ以上に、しつこい。
 この論文だって理論を支える検証には何年もの時間がかかっただろう。それを彼女は協力者もなくかと言って諦めることもなくやりきったのだ。

 僕は嫉妬した。
 誰よりもその彼女の『諦めない』という才能に。

 たとえ今、僕が学院の主席を取れてもこれからは……?
 彼女はいつか、僕より上へ行くのではないか?

 その考えは、僕を恐怖させた。

 次男の僕の価値なんて、この頭脳の他に何がある。
 父に見捨てられ、貴族社会に見捨てられ、「何者でもない」自分でなんて、生きる価値もない……。

 そして。
 僕は、罪を犯した。

 アズレイアの論文を改ざんし、彼女より先に提出した。

「素晴らしい」

 珍しい父の賞賛が、鉛毒のように僕の心を犯し、苛む。
 それを押し付けるように彼女たちを呪った。

 これでいいんだ。
 これで。
 僕を侮った父も、家を捨てようとする無責任な兄も。
 小賢しく、僕を脅かすアズレイアも。
 みんなみんな、何かを失えばいい……。


   ☆   ☆   ☆


 後日、彼女が講堂で受けた暴行を、僕は悪友たちの笑い話として聞かされた。

 途端、僕の心を占めていた欺瞞の言い訳はあっけなく崩壊し、心のそこから後悔した。

 なぜだ。
 なぜ僕はあんなことをしてしまった?

 彼女に罪はなに一つなかった。
 あったとすれば、それは多すぎる才能だけだ。

 彼女がたった一月で新しい論文を用意したと聞いても、僕は驚かなかった。
 彼女が選んだ新たな内容に自分との関係が含まれていたことに、忌避感よりおかしな優越感さえ感じてしまう。 

 そして彼女が塔に入った。

 その塔が、彼女にとっていかに大きく堅牢な砦かを僕は知っていた……。


 どこで間違えたのか。
 彼女に会ってしまったことか。
 それとも恋をしたことか。
 彼女を騙したことか。
 抱いたことか。

 論文を、盗んでしまったことか。

 いっそあの日論文を出しっぱなしにした、彼女をまた恨んでしまいそうになる。


 結局自分はすべてを裏切った。
 彼女の愛を、兄の情を、父の信頼を、そして自分自身の才能を。


 アズレイアが兄との結婚に踏み切れない。

 数年後、ハリスからもらった連絡に混ざっていたその世間話のお陰で、僕はやっと決心がついた。

 仕返しをしよう。
 昔の自分へ。
 優しすぎる、アズレイアに代わって。

 裏切り者は、裏切り者として、すべてを引き受けよう。

 王弟の家令を唆し、チャールズを唆し、カルロスに救いにいかせる。
 それでももたつくなら直接塔に行って暴露しよう。

 全ては自分の仕業なのだと。
 愛はなかったのだと。
 愛は、兄だけが注ぐものなのだと。

 アズレイアに殴られ、兄にさげすまれ。
 それでもまだ、駄目なのか?

 悪役も楽じゃない。
 もう迷う必要などなかろうに……。

 リズ嬢にはとある薬と引き換えに、昔話を語ってもらおう。
 魔術師たちには適当な手当か、さもなくば脅しか。

 兄が僕を追い詰めやすいように。
 アズレイアが僕をしっかり切り捨てて、一人兄だけにその想いを向けられるように。

 これで中々、上手な芝居だったと思う。
 なのにアズレイア。
 君はズルい。

 最後の最後になって、僕をその愛しい口から紡がれる、優しい終わりの言葉で殺すなんて。

 もし、まだ、君の中に僕へ向ける気持ちが、ほんの少しでも残っているのなら。
 僕はただ、遠い魔女の塔に願う。

 どんなに恨まれても、どんなに嫌われても、どんなに憎まれても構わない。

 だからどうか、僕を忘れないでいておくれ。


   ☆   ☆   ☆


 兄からの魔ハトに乗ってメッセージが届く。

『たまには親父に顔を見せてやれ』

 それを手の中で燃やす。

「ムリだよ兄さん。僕はまだ、あなた達の幸せを笑って見れない」

 次の部屋は要らないか。
 どうせここに長くはいない。
 きっと次は、栄誉職に移動され、またあの学院に戻るのだろう。
 どうせ形だけの役職だ。今よりはよっぽど暇になる。

 そうしたら……。
 そうだな、ゆっくり国を巡ろうか。
 いつも忙しい君の代わりに。


 ……だけど今は目前のこれだ。

 申請書を手に長過ぎた追憶に終止符を打つ。

 申請書の内容は『素精霊魔術印、魔法陣を補助とする有効魔力譲渡の床例検証』。

 どうやらアズレイアの研究は実践に入るらしい。
 魔術師総会のお偉方を抑え、これを押し通すのが、僕の局長として最後の仕事になるだろう。

 ああ、またなんと厄介でやりがいのある仕事だろうか。

 嘆息と共に再度窓の外の塔を一瞥し、スラスラと書類にサインするレイモンド。

 いいさ。
 喜んで引き受けよう。

 塔に住まう愛しい魔女に、僕ができるのはこれくらいなのだから。



 追記:レイモンドの追憶(完)
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感想 2

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みんなの感想(2件)

142
2023.11.18 142

一気にこちらも読みきっちゃいました‼️短編長編が、二番煎じではなく『全く別の面白さ』あり!やられた〜😆って感じですね✨共通するのは魔女のコミカルにして切実な生活感笑。長編でも主人公のキュートさは変わりなし!しかしなかなかこの恋は一筋縄ではいかない!頑張れヒーロー!長編でしかわからないヒーローの奥深い格好良さと苦悩、さらに感じる愛の深さ、さてさて、この2人、どうなるんかい?!いろいろな愛のカタチあれど、兎にも角にも2人の末永いハッピーを祈ります‼️まあ、まちがいないわな!

2023.11.20 こみあ

142さん、ご感想ありがとうございます♪
あれ?短編読まれたと思ったらあっという間にこちらまで!?
読書のスピードにびっくりです💦
番外編書きかけをすべて出せていないのが申し訳ない。。。
どこかで追加させていただこうと思っていますので、今後もどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

解除
くーたん
2023.02.25 くーたん

完結おめでとうございます!!

あぁぁぁ、面白かったぁヾ(๑⃙⃘´ꇴ`๑⃙⃘)ノ

アズレイアの幼少期、魔法陣と研究への情熱の根幹にある苦難とカルロスとの出会いに心震え、登場人物たちの人となりもそれぞれに思惑が絡む様になるほどと感じ入りました。

レイモンドにはやっぱり腹立つけれどもね!!( *¯ 罒¯*)

アズレイアとカルロスはこのままずっと2人で(求婚して断られながらも)イチャイチャしてって欲しい~~

あっでも結婚できないとカルロスずっとお預けなのかな??

番外編も楽しみにしてまーす(催促❤️)

2023.02.26 こみあ

くーたんさん、ご感想ありがとうございます♪
今回珍しく深いとこまで設定書き込んじゃいました。
この二人が結婚するのはいつなんでしょうねぇw
まあカルロス君に頑張ってもらうしかないw
番外編もどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

解除

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