職業が魔王なので勇者の村を追放されたけど、幼馴染が女勇者になったので陰ながら手助けしようと思う

つちねこ

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九話目 猫人族

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 アイミーと名乗った猫人族の少女が言うには、僕は壊れかけた小舟の上に倒れていて広い川岸で気を失っていたらしい。第一発見者がアイミーではなくモンスターだったらと思うとゾッとする。

 僕を殴ったゴブリンは、その勢いで小舟から落ちてしまったということなのだろう。奇跡的に命が繋がったのだと思うと少し心臓がドキドキする。アイミーに感謝だね。

「ところで、何で僕のことを主様って呼ぶのかな。獣人の人族に対する呼び方か何かなの?」

「猫人族は誰がボスなのかを本能でシュパっと判断するにゃ。それに、発見した時にピカピカ光っていたにゃ。主様、お腹も空いてるみたいだし、アイミーの家まで案内するにゃ」

 会話の途中でお腹の音が鳴ってしまったのを気づかれてしまったようだ。さすがは猫人族、耳がとてもいいらしい。

 何故か発見された時に僕がピカピカ光っていたという。陽の光が当たっていた、とかなのかもしれないけど、アイミーにとって僕が主様というのは決定事項らしい。

 どうにもしっくりこない部分もあるのだけど、絶賛、身寄りのない僕にとっては味方が増えるということは大変ありがたいことだ。どちらにしろ、アイミーに助けを求めなければ、今日休む場所さえ悩まなければならないのだから。

「それじゃあ、お言葉に甘えて家まで案内してもらおうかな」

「了解にゃ」

「主様、怪我は大丈夫にゃ?」

「うん、頭を怪我したぐらいで、あとは大丈夫そうかな」

 手や足も問題なく動いている。ゴブリンに殴られたであろう頭部もアイミーの治癒魔法によりほぼ完治しているようだった。

「というか、アイミーは治癒魔法が使えるんだね」

「獣人には珍しい魔法少女がアイミーにゃ。怪我したら、また舐めてあげるにゃ」

「えっと、舐めないとダメなの」

「当たり前にゃ。魔法が苦手な獣人は特殊な使い方をする傾向があるらしいのにゃ」

 初耳だ。獣人が魔法を苦手としているというのは聞いたことがある。放出系の魔法は、ほとんど使うことが出来ず、使えても身体強化魔法が中心になるらしい。

 そういえば、僕も一応職業を手に入れたからには魔法が使えるようになるのかもしれない。何しろ、僕の職業は魔王なんだ。魔法の使えない魔王なんているわけがない。むしろ得意でなければおかしい。


あらためて、職業を詳しく調べてみよう。僕はそっと心の中で自分の職業を思い浮かべてみた。


 職業:魔王
 スキル:カリスマ性、魔力変換、暗黒魔法適性、魔法攻撃アップ、物理攻撃アップ、魔法防御アップ、物理防御アップ、器用さの極み


 何かいろいろなスキル効果がついていた。さすがは職業魔王なだけはある。勇者になったエリオよりも多いんじゃないだろうか……。よくわからないスキルもあるけど、徐々に調べていけばいいか。カリスマ性とか言われても、ちょっとよくわからないしね。


「アイミー、よかったら僕を獣人の国へ案内してくれないかな?」

「獣人の国かにゃ? うーん、今いる場所がすでに獣人の国にゃ。ここは北部地域にある猫人族の縄張りになるにゃ」

 獣人の国というのは、各部族ごとに縄張りがあって、各部族の長が話し合いで国の方針を決定しているのだという。相性のいい部族もいれば苦手な部族もいるらしい。とりあえず、アイミーが猫人族の長に会わせてくれるらしいのでお願いすることにした。しばらく身を寄せるにしても、ちゃんと挨拶をしとかねばなるまい。


 そうして見えてきたのは、とても大きな集落だった。猫人族だけに縦に高く大きい建物がポコポコと建っている。

「猫人族は、眺めの良い場所と陽の光であたたかくなる場所がお気に入りにゃ。高い建物は権力の象徴といえるにゃ」

 つまり、この一番大きな建物が猫人族の長がいる場所ということなのだろう。

「アイミー様、お戻りでございますか。そちらの人族の方はご客人でございますか?」

「そうにゃ。族長の間に案内するから、幹部を全員集めるにゃ。あと、食事の用意をしておくにゃ。美味しい焼魚がいいにゃ」

「ははっ、かしこまりました」

 アイミーの一言で、猫人族の人たちがあわてて方々に飛び回っていく。ひょっとしてアイミー、そこそこ偉い人なのかもしれない。

「さっ、主様、さっそく族長の間へ案内するにゃ。一応、他の猫人族にも紹介するので、申し訳ないけどそれまで食事は待っててほしいにゃ」

「う、うん。それは全然気にしなくていいよ。アイミーのおかげで怪我も治ってきたし。それに族長様にちゃんと挨拶しないとね」

「主様は族長に何をお願いするつもりにゃ?」

「僕はわけあって人間の国から追い出されてしまったんだ。つまり住む場所も無ければ、その日食べるものにも困ってしまう有り様なんだよ。だから、僕のお願いはこの獣人の国に住まわせてもらえるよう許可を頂きたいんだ」

「主様、辛いことがあったにゃ?」

「そ、そうだね。今はまだ話せないけど、とても悲しいことがあったんだ。いつか、心の整理が出来たらアイミーにもちゃんと話すよ」

「わかったにゃ。アイミーは主様のことを信じてるから何も気にすることは無いにゃ」

 そうして、通された族長の間はとても広く、一面赤い絨毯の敷かれた場所は、いかにもそれっぽい場所だった。

 よくわからなかったのは、アイミーが真ん中の族長が座るであろう豪華な椅子に腰かけたことぐらいだろうか。

「アイミー、さすがにそこに座るのは怒られちゃうんじゃない?」

「問題ないにゃ。あらためて自己紹介するにゃ魔王様。私はアイミー・バリュオニウス。元魔王軍四天王が一人、獣王バリュオニウスにゃ」

「へっ? 獣王バリュオニウス……。っというか、僕のことを魔王って言った? 何でそのことを!?」
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