職業が魔王なので勇者の村を追放されたけど、幼馴染が女勇者になったので陰ながら手助けしようと思う

つちねこ

文字の大きさ
14 / 71

十三話目 特訓開始

しおりを挟む
「主様は何で魔王を倒そうなんて思っているにゃ? 人間は魔王を恐れるもので、倒そうと思うのは珍しいと思うにゃ」

 朝食後に軽くストレッチを終えると、アイミーとの追いかけっこが始まった。森の中で俊敏に駆け回るアイミーを捕まえるのは、今の僕には難しい。それでも起伏の多い地形、木々が多く細かいステップを必要とするこの場所は、確かに訓練にはうってつけだと思う。

 一時間も経っていないと思うけど、すでに僕の足腰はフラフラになってしまって、アイミーもそんな僕を見かねて小休止としたのだろう。

「ぼ、僕が魔王を倒したいと思っている理由は、自分の職業のこともあるんだけど、幼馴染が勇者になってしまったからなんだ。エリオが大変な思いをするなら、僕も陰ながら少しでも力になってあげたいと思ったんだ。あとは、僕を守ってくれた村のみんなのために。出来る限り早く魔王を倒して、平和な村に戻りたいんだ」

「誰かのために強くなるというのはとても素晴らしいことにゃ。やっぱり、主様はお優しいにゃ」

「とはいっても、僕に魔王を倒せるぐらいの強さが備わらないと話にもならないんだけどね」

「うーん。主様のスキルを見る限り、間違いなく強くなると思うにゃ。でも今は、体の動かし方を基礎からじっくり学んだ方が先々の成長に繋がるはずにゃ」

「うん、アイミーの言う通りに頑張るよ」

「午後の魔法の訓練で少しずつレベルを上げていくにゃ。レベルに応じてアイミーの特訓のレベルを体に馴染むように調整していくにゃ」

 何かと勢いで行動するアイミーだけど、意外にも、それなりに成長バランスを考えていくれているようだ。僕としては、早く力をつけたい気持ちが強いのだけど、今は二人を信じてじっくり力を蓄えようと思う。

「よしっ、じゃあそろそろ休憩は終了して特訓を始めようか!」

「了解にゃ」

 元気に特訓を再開したものの、僕の足は既に動きが鈍く、手を抜いているであろうアイミーには全然届かなかった。それでも、僕の体の動きを見ながら、ギリギリで避けようとしているらしく、自然と最短で動けるステップが体に叩きこまれていく。

 休憩後、一時間程度の追いかけっこで僕の足は動かなくなってしまった。ふくらはぎはパンパンで、小刻みに痙攣している。足が笑っているというのは、こういう状況をいうのだろう。


「今日のアイミーの特訓はここまでにゃ。戻って、美味しいお昼ごはんを作らないと、レムちゃんが魔法を教えてくれないにゃ」

 昼ごはんか……。何気に大変かもしれないな。まだ特訓は半分しか終わっていない。

「特訓中にアイミーがビーグ鳥を捕獲しといたにゃ。主様、これで、お昼ごはんを用意するにゃ」

「い、いつの間にビーグ鳥を!?」

「アイミーの手にかかれば、ビーグ鳥ぐらい特訓中でも余裕にゃ」

 食材の用意をしなくて済むのはありがたいのだけど、これはこれで僕としては、もっと頑張らなくてはと思わされてしまう。よし、とりあえずの目標として午前の特訓中に食材の確保も出来るように頑張ろう。


※※※


「レックスの作ったサンドイッチは美味いのう! 俺は、こんなジューシー且つ、スパイシーなサンドイッチを食べたことがないぞ」

「卵と水分たっぷりの野菜があったからね。喜んでもらえてよかったよ」

「ビーグ鳥の巣から卵をとってきたアイミーのおかげにゃ」

「うむ。しかし、夜はさすがにビーグ鳥じゃない食材を食べてみたいな。レックス、何か他に得意な食材はあるか?」

「うーん、ワイルドディアかワイルドボアあたりかな」

「ど、どっちがいいのだ?」

 ディアとは角のある四足のモンスターで馬よりもひと回り小さい俊敏な森に住む魔物だ。ボアも同じく森で見かける牙の鋭いモンスター。どちらも、ギベオンおじさんが弓でよく狩っていた。首の細いディアは特に狩りやすいようで、おこぼれのお肉をよくエリオと共に頂いていた。塩で味付けするだけで極上の旨みが広がる。

「久し振りにワイルドディアを食べてみたいな。柔らかい赤身肉がとっても美味しいんだ」

「ほぅ、なら決まりだな。レックスがそんな顔をするなんて、絶対美味しいに違いない。ワイルドディアが多く生息しているのは、確か泉の近くだったはずだ」

 今晩の食卓はワイルドディアに決定した。泉が近くにあるなら血抜きもすぐ出来るだろう。肉は早く冷やした方がより美味しくなるとギベオンおじさんも話していた。

「それじゃあ、行こうかレムちゃん」

「その前に、レベルを上げておこう。ワイルドディアは、レックスに魔法で討伐してもらう。午前中、暇だったからスライムを集めておいたんだ。この杖を貸してやるから先端でスライムの核を貫くのだ」

 スライム。湿気の多い場所や水場に多く生息するモンスター。僕でも何度か倒したことのあるモンスターだ。大量に発生すると脅威だと言われているけど、単体なら敵ではない。というか、スライムなんかを倒してレベルが上がるのだろうか……。

 レムちゃんに裏庭に連れていかれると、そこには今朝食べたビーグ鳥の残骸が掘られた穴の中に棄てられており、それを貪るようにちょっと大きめのスライムが骨を溶かしながら吸収していた。

「これなら、今の僕でも倒せそうだけどスライム倒してレベルアップするのかな?」

「職業を授かってからまだモンスターを倒してないんだろ? それに、この森に住むスライムだからな……まぁ、気にするな。サクッとやってしまえ、体力はかなり削っておいた。核を正確に突き刺せよ」

「う、うん、わかったよ。……えいっ!」

 スライムの核を貫くと、僕の体は一気にあたたかくなった。多分、これがレベルアップというやつなのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...