職業が魔王なので勇者の村を追放されたけど、幼馴染が女勇者になったので陰ながら手助けしようと思う

つちねこ

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二十話目 身体強化魔法

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「違うにゃ、主様。もっと身体全体にぶわーっと満遍なく魔力を張り巡らせるにゃ。ぶわーっとにゃ」

 アイミーには人に何かを教えるという点において、壊滅的に欠けているものがあった。おそらく野生の勘に従って成長を遂げてきたアイミーにとって、自分の感覚を人に共有するということは皆無だったのだろう。

「ぶわーっと、って言われてもさ……」

「もう一度、アイミーが身体強化魔法を使ってみるにゃ。ちゃんと見ていてほしいにゃ」

 魔力が稲妻のように身体を震わせながら、アイミーの身体全体に広がっていく。魔力の拡がり方には特徴があって、腕、足、といった筋肉量の多い場所を中心に魔力が纏われていく。

「身体強化というだけあって、魔力による補助により超スピードで筋肉を動かすことが身体強化のポイントなのかもしれない……」

「素早く動く時は、シャシャシャって動かして、力が必要な時はぐぅおおーって溜めるにゃ」

 ちょっと、何を言ってるのかよく分からないんですけど。

 とりあえず、さっき感じたように先ずは身体全体に魔力を纏ってみる。ポイントは筋肉量の多い場所を中心に魔力を展開し、全体に広げていくこと。

「ドレイン!」

 練習なので、適当な木に向かって魔法を放つ。力を吸収し戻ってきたエネルギーを魔力変換することで、稲妻のような魔力へと変換。

 そして、主要な筋肉を覆うように魔力を纏っていく!

「身体強化!」

「す、凄いにゃ。せ、成功にゃ! 主様、実際に動いてみるにゃ」

「う、うん。えっと、素早く動く時はシャシャシャっと……って、わかるかいっ!」

 あっさり纏っていた魔力は霧散してしまい、身体強化魔法は解けてしまった。

「違うにゃ! シャシャシャって動かすにゃ」

 いや、だからそのシャシャシャって何よ。って、アイミーに言ったところで分かってもらえないだろう。ここは僕がぐっと大人になって質問していくしかない。

「アイミー、素早く動く時と力を入れる時、それぞれ僕に見せてくれないかな」

「しょうがないにゃ。獣王バリュオニウスの身体強化魔法をしっかり見るといいにゃ」

 アイミーの身体強化魔法はとてもスムーズに行われていく。身体の内側から稲妻がピシピシっと作用しているような感じ。

「まずは、素早く動いてみせるにゃ」

 見逃さないようにアイミーの動きを観察する。アイミーの右足が薄く光り輝くと一気に左方向へと移動していく。素早くステップを刻むように踏み込みに合わせて加速していく。

「次はパワーにゃ!」

 スピードに乗って高く飛び上がったアイミーは右腕をぐるぐると回しながら力を込めていく。拳を覆うように魔力が纏われ、腕全体も薄く光り輝く。さっきと違う点は魔力を込めている時間だろう。二回転、三回転しながら地面から突き出た大きな岩に打撃を叩き込んだ。

 盛大な爆発音と共に大きな岩は砕け散っていた。砂煙の中からはドヤ顔のアイミーがピースサインをしている。

「こ、これはすごいね……。こんなことが僕にもできるようになるの?」

「出来るにゃ。魔王は身体強化魔法を使えない。だから主様は、身体強化魔法を使えるようになった時点で、大きなアドバンテージを得るはずにゃ」

 アイミーとレムちゃんに師事していれば、本当に魔王すら凌駕する力を手に入れることができるかもしれない。

「早速練習開始にゃ! 身体強化魔法を覚えた暁には、主様は最強への一歩を踏み出すことになるのにゃ」

 その後は何というか感覚的に魔力を纏う訓練みたいな感じで、右足の踏み込みに合わせてスピードアップするものの左足の踏み込みのタイミングが合わなかったりで盛大に草むらに突っ込んでしまったりを繰り返していた。

 でも、これは慣れれば掴めるものだと思う。今は自分のスピードに慣れていないからタイミングも合わせづらかったりするけど、魔力の覆う量、込める力とタイミングを身体に叩き込めば自由自在に動かせるようになるだろう。

 きっと……。


※※※


「レックス、午後の特訓、今日はやめておくか?」

「い、いや、大丈夫。見た目はあれだけど、アイミーに治癒をしてもらっているから怪我は治っているんだ」

「ああー、あのエロい治癒魔法な……」

 さっきまで、満身創痍でのびていた僕を膝枕しながらペロペロと舐めまくっていた姿がレムちゃんにバッチリ見られていたらしい。

「レ、レックスとアイミーは、そ、その、そういう、か、関係なのか?」

「そ、そういう関係って、どんな関係かな!? た、助けてもらった恩人でもあるし、今は四天王で部下? いや、師匠なのかな」

 少なからず好意を持たれているのは間違いないとは思うんだけど、アイミーの場合は猫人族特有のじゃれついている感覚に近いような気がしないでもない。

「い、いや、まあ、いいんだけどよ。あいつも一応獣人族の王だからよ、子供とか作ったら大変なことになるからな」

「つ、作らないしっ!」

「そ、そうか……。とりあえず、あれだな。昨日、糸で繋げたウサギの様子を見に行こうぜ。場所、わかるんだろ?」

「あー、ウサギね。うん、大丈夫、近くにいるよ」

 僕の指先から伸びている糸状のドレインは、昨日からしっかり繋がったままでウサギの元気な様子は糸を通じて情報が入ってきている。
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